ローカル5Gネットワークの構築でDXを加速。
「FUJITSU Network PW300」とは

5Gは個人の生活のみならず、産業にも大きな変革をもたらす。産業用途のインフラとして特に期待されているのが「ローカル5G」だ。ローカル5Gを活用するには、既存の携帯電話事業者が提供するパブリック5Gとは違い、プライベートワイヤレスネットワークを構築するためのシステムが必要になる。ローカル5G普及に向け、富士通が開発したソリューションが「FUJITSU Network PW300(以下、PW300)」だ。PW300はローカル5Gの活用を検討する企業がスピーディに導入できることを目的に開発されたもので、2021年12月、さらに導入のハードルを下げた「FUJITSU Network PW300」スターターキットの提供も開始した。
そこで今回は、富士通 モバイルシステム事業本部 モバイルソリューション事業部 システム開発 インテグレーション担当 安藤嘉浩マネージャー(以下、安藤M)と、同5G Vertical Service室の村松徹也シニアマネージャー(以下、村松SM)に、製品開発の狙いと特徴、開発の中での工夫などを聞いてみた。

富士通が考える
「PW300」と「ローカル5G」のメリット

まず改めて基本的なところを確認しておこう。ローカル5Gのメリットはどこにあるのか?

ローカル5Gは、現在携帯電話で利用が進んでいる「5G」と同じ通信規格を活用する。だが、携帯電話で使われるものが、広く全ての人が共用で利用するパブリックなものであるのに対し、ローカル5Gは、その名が示すように、「ある地域だけで使える」ようにしたもののことを指す。一般には、企業や学校、自治体など、特定の地域を管理する団体が費用を負担して設置し、そのインフラを占有する形で利用する。

パブリックな5Gは携帯電話事業者が敷設するので、利用する側の費用負担は通信費のみで良いが、エリア展開や通信インフラ利用の自由度には限界がある。一方、プライベートな回線であるローカル5Gは、自らインフラを構築する必要はあるものの、回線自体を占有して使えるため、さまざまな点で自由度が増す。

携帯電話向けのパブリックな5G(キャリア)と、ローカル5G(プライベート)の比較

ローカル5Gは、5Gの技術を使いつつ、携帯電話事業者向けとは違う周波数帯で展開されるものなのだが、その運用は2019年より開始された。特に重要なのは、2020年から「スタンドアロン構成(SA)」での運用が開始されたことだ。SAとは、簡単に言えば「5Gのみで展開するやり方」のこと。携帯電話事業者向けの場合には5Gのインフラ整備を迅速に進める必要があることから、4G(LTE)のインフラを併用する「ノンスタンドアロン構成(NSA)」が主に使われており、SAはまだごく一部だ。

村松SMは「ここにローカル5Gの利点がある」と話す。

村松SM

2020年から、ローカル5GはSAでの活用が可能になりました。結果としてより低コストになり、産業用途利用が進むだろうとの想定がありました。それがPW300開発のポイントでもあります。

また、PW300は、ローカル5Gの導入に必要なものがワンセットになっており、検討から導入まで素早く進められることがポイントとなっている。

SAは構成がシンプルで、コスト面や運用面でもメリットがある

5G・SA・仮想化のトレンドを踏まえて「PW300」を開発

5G、特にSAの導入に関しては、過去の携帯電話インフラからの技術進化・刷新が重要な点だった。その中でも重要なのが「ソフトウェアによる仮想化」だ。

携帯電話インフラ向けの設備は、これまで、多くの部分が「専用機器」「専用設計」で構成されていた。だが5Gになって以降、インフラを構成するために必要な要素をソフトウェア化し、一般的なIA(Intel Architecture)サーバの上に実装する例が増えている。そうすることで、量産効果の高いハードウェアを活用してコスト効率を高めた上で、ソフトウェアについても、オープンソースなどの活用によって、よりメンテナンス性の高い機器の実現が模索されている。

PW300も、まさにそうしたトレンドを踏まえて開発されている。開発を担当した安藤Mは次のように説明する。

安藤M

PW300は、5Gコア・CU(Centralized Unit)・DU(Distributed Unit)・EMS(Element Management Systems)で構成されています。このうち、5GコアとEMSは、オープンソースを活用し、IAサーバを使っています。
CUとDUについては、富士通が他の携帯電話基地局向けに使っている専用ハードウェアを使ったもののノウハウを活用しました。これは大変な作業なのですが、元々の設計思想として、専用ハードウェアをうまく汎用のハードウェアとソフトウェアで実現する、という点もあり、配置を工夫しました。
CUはIA+ソフトウェアにしました。主に無線通信の上位プロトコルを扱う部分なのですが、上位レイヤーなので、速度的にはそこまでシビアでもない。ですから、仮想化して動かすことも可能でした。
DUは無線通信の下位レイヤーを担当します。マイクロ秒(100万分の1秒)単位での処理が必要になるので、汎用機そのままでは処理ができません。そのためここは、FPGA(独自設計が容易な集積回路)を使い、専用ハードウェアを作りました。
とはいえ、すべてが専用ハードウェアで構成されているわけではなく、汎用のARM系とFPGAの組み合わせで、汎用のLinuxも利用しています。現在は専用ハードウェアとして独立していますが、将来的にはここも汎用設計で作ることを想定しています。

すなわち、現状必須な部分を専用ハードウェアで作るものの、汎用ハードウェアであるIAサーバの上にソフトウェア実装する部分を増やしていくことで、コスト効率を高めていったのがPW300なのである。

PW300は5Gコア・CU・DUが汎用のIAサーバになっている

仮想化を活かして「スターターキット」を開発

このことは、PW300に関する次の施策にも有効に働いている。2021年12月、富士通は「FUJITSU Network PW300」スターターキットの提供を開始した。スターターキットは、PW300をベースに主要機能を1台のIAサーバに集約することで、プラットフォーム価格を約3分の1(標準価格比)にした商品である。
村松SMも、このことによって「導入のハードルがさらに下がる」と話す。

村松SM

まだまだ導入段階ですから、「導入コストが課題」とおっしゃられることがあります。そこで、その課題を解決するために企画開発したのがスターターキットです。
5Gには様々な利点がありますが、現状は「高速・大容量」に注目して導入される例が多くなっています。具体的に言えば、カメラ映像を伝送し、AIで画像分析を行うような使い方です。人に端末を持たせて広い範囲で移動してもらうような使い方ではないので、端末数が多いことより、スループットが高いことの方が優先度は高くなっています。

コストを下げられた理由はシンプルだ。従来、PW300ではIAサーバを、5Gコア・CU・EMSでそれぞれ1台ずつ、計3台使っていた。スターターキットの場合には、これを1台にまとめる。結果としてハードウェアのコストが下がるわけだ。スループットはDUに依存する部分が大きいため、この構成でも変化しない。

IAサーバの数を減らせた理由は、PW300開発の段階から「仮想化」を進めていたことにある。仮想化とは、ソフトウェアを「仮想のハードウェア」の上で動かすこと。実際のハードウェアの台数と、ソフトで処理する仮想ハードウェアの台数は一致している必要がないので、性能は抑えてハードの台数を減らすことも、性能を重視して必要な分ハードの台数を増やすこともできる。

安藤M

PW300はもともと、「導入後により性能が必要になったときのために、ハードウェアを増やせる構成にしよう」と、スケールアップの方を重視して開発していました。そのため、「スケールアップができるならスケールダウンもできるだろう」という考え方から、スターターキットが生まれています。内部での機能改良を何度か行い、「ソフトでやるのだから仮想化できる」部分を徐々に増やしていき、現在に至ります。

スターターキットは、IAサーバの台数を減らして初期コストを抑えている

まず「高速・大容量」での導入を推進

今後、ローカル5Gの導入はどうなると考えているのだろうか? 最後にお二人に、その点を聞いてみた。

村松SM

やはり、まずは5Gの高速・大容量を生かした部分から活用が進むと考えています。いきなり工場全体・地域全体への導入、という形をすぐに進めるのは難しいでしょう。まずは部分的に導入し、そこで成果を確認した上で、徐々に活用規模を大きくしていくことになるでしょう。特にスターターキットにより、より導入の費用対効果を出しやすくなったと考えています。スターターキットはもちろん、標準構成のPW300も、導入後のスケールアップに対応しています。
富士通でも導入事例・実績が増えてきていますので、それらの先行事例をお客様にご紹介しながら、導入を推進していければ、と考えています。

安藤M

まずは高速・大容量を生かしたニーズから、というのは間違いありません。しかし今後は、低遅延などの要素が求められるニーズの拡大も想定できますので、性能面でそうした部分にも対応できるものをご提供していきたいです。

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