障がい者スポーツ指導におけるローカル5Gの活用
- 遠隔指導の実現で広がる「共生社会」の新たな可能性 -

日本における障がい者は約936万人。年々増加傾向にある一方で、障がい者の社会参加率は低迷している。また、障がい者スポーツの指導者は日本全国で25,000人ほど(注1)しかおらず、指導者不足が課題となっており、新型コロナウイルス感染症の影響で対面での指導も難しい状況にある。東京2020パラリンピック競技大会において、ドイツとベラルーシ代表の車いすフェンシングチーム合宿をホストした福岡県田川市は、「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」にコンソーシアム企業(注2)として参画し、共生社会を見据えた障がい者スポーツにおけるリモートコーチングの実現に関する実証実験に取り組む。

(注1)参考:https://www.jsad.or.jp/leader/leader_qualified_reference.html新しいウィンドウで表示
(注2)コンソーシアム企業:(株)電通九州、富士通Japan(株)、富士通(株)、(株)電通国際情報サービス、(株)NEWTRAL、田川市、(一社)D-beyond

炭坑節のふるさと・田川市が挑む「共生社会」の実現

福岡県のほぼ中央に位置する田川市は、かつて筑豊地方を代表する炭鉱の街として栄え、民謡「炭坑節」の発祥の地としても知られている。また、田川市石炭・歴史博物館が所蔵する、炭鉱労働者の記録「山本作兵衛コレクション」は、2011年5月に日本で初めてユネスコ「世界の記憶」に認定されたことも記憶に新しい。主なエネルギーが石炭から石油に転換していった1960年代には多くの炭鉱が閉山し、その後は工業団地として再生していった。1992年には福祉・医療人材の育成を目指した福岡県立大学が設立され、福祉に力を入れた自治体運営がなされている。

2015年に福岡県田川市長となった二場公人氏は、市のビジョンに「障がいの有無や国籍などに関わらず誰もが生き生きと生活できる共生社会の実現」を掲げ、その政策のひとつとして東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の事前キャンプの誘致を進めていった。この活動の中で、ドイツやベラルーシの車いすフェンシングチームなど、障がい者スポーツの団体と交流を深め、さまざまな取り組みを行ってきた。

スポーツ競技の練習施設となる田川市総合体育館は昭和60年代に建てられたものだ。以前はトイレも和式で、車いすでのアクセスが困難であるなど、バリアフリー化が十分でなかったが、2017年に大改修を実施。あわせて、不足していた選手の宿泊施設も、企業と協賛しバリアフリー仕様のトレーラーハウスを用意するなど、まずはインフラ面の整備が行われた。

バリアフリー化された田川市総合体育館とトレーラーハウス

さらに『田川市パラスポーツ体験イベント』を開催し、車いすラグビーやVRフェンシング、ボッチャ体験、そして車いすフェンシング日本代表選手による公開練習なども行ってきた。二場市長は、共生社会の実現に向け、市民への理解を深める活動が重要だと話す。

「インフラ整備も必要ですが、何より『心のバリアフリー』が重要だと考えています。東京2020パラリンピック競技大会の事前キャンプ誘致について市民の皆様へ啓発を行い、また街歩きなどをしながら、市内にどのような障壁があるのかも検証しました。その一環として、お子様や地域の方々に車いすに乗る経験をしてもらった結果、障がいのある方の悩みに共感できたという声も聞きました。東京2020パラリンピック競技大会のキャンプ誘致も成功し、市民の方々に障がい者スポーツを応援しようという機運が高まっていると感じています。そしてここからが、田川市の共生社会実現に向けたチャレンジの始まりだと考えています」

福岡県田川市
田川市長
二場 公人 氏

障がい者スポーツ発展を阻む指導者不足の課題解決にローカル5Gを

田川市が東京2020パラリンピック競技大会の事前キャンプ誘致を進める中で感じたのは、日本において障がい者スポーツの指導者と練習場所が少ないという問題だ。東京2020パラリンピック競技大会の事前キャンプ誘致を担当した、福岡県田川市 総務部理事 兼 市長公室長(政策推進調整官)を務める平川裕之氏は次のように話す。

「東京2020パラリンピック競技大会に出場したある選手の方から、『地元に指導者がいなかったため、東京へ行った』というお話を聞きました。また、東京2020パラリンピック競技大会の2年前、ドイツとベラルーシの車いすフェンシングチームの合宿を行ったのですが、このチームの指導者が世界的にも有名な方だったため、日本全国各地から選手の皆さんが来られました。そうした体験から、力量を持った指導者の重要性・必要性を痛感したのです」

そこで田川市では障がい者スポーツの裾野を広げるべく、総務省が募集した「令和3年度 課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に「共生社会を見据えた障がい者スポーツにおけるリモートコーチングの実現」というテーマで応募。テクノロジーを活用してさまざまな社会課題の解決に取り組む富士通と富士通Japanは、田川市の取り組みに共感し、コンソーシアムのメンバーとなって参画した。

福岡県田川市
総務部理事 兼 市長公室長(政策推進調整官)
平川 裕之 氏

このプロジェクトは、車いすフェンシング、車いすバスケットボール、車いすラグビーなど、屋内で行う障がい者スポーツのスキル向上と、コーチング技術の高度化・多様化を目指し、田川市総合体育館にローカル5G環境を構築し、以下のような実証実験を展開する。

ローカル5Gを活用して障がい者スポーツにおけるリモートコーチングを実証

リモートコーチングシステム

体育館に4台の高精細カメラを設置し、練習風景をさまざまな角度から撮影して、高精細映像データをリアルタイムで遠隔地のコーチへ伝送しながら指導を行う。カメラはコーチがリモート環境から操作可能で、競技者のプレーをあらゆる角度から追跡することができる。

幻肢痛VR遠隔セラピーシステムを活用したリモートコーチング

選手と指導者がVRヘッドセットを装着し、センサーが読み取った身体の状態や動きをバーチャル空間内で再現し、遠隔地からのコーチングを行う。

姿勢推定システムを用いたプレー分析

立っている、しゃがんでいる、何かを操作しているなど、人の姿勢を推定するシステムを使って、プレー中の選手の姿勢を分析し、リモートコーチングに活用する。

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今回の取り組みの狙いについて二場市長は「この実証実験がうまくいけば、多くの障がい者スポーツの関係者にローカル5Gによるリモートコーチングの可能性を知っていただけると思います。障がいのある方々が田川市に来ていただくことにもつながりますし、健常者の皆様にも『田川市って面白いね』と感じていただき、交流人口や関係人口が増え、結果として市全体を活気づけていけると思います」と期待を語る。

テクノロジーの側面から社会課題の解決を支援

実証実験は2021年の12月から実施予定となっており、田川市総合体育館を使って障がい者スポーツにいかにリモートコーチングを活用できるかの観点で検証を行っていく。実証のポイントについて平川氏は次のように語った。

「車いすフェンシングだけでなく、車いすラグビーやバスケットボールなど、いろいろな競技で実証していくことが重要だと思っています。以前、車いすラグビーの練習を見学した際に、監督やコーチが競技者の視点に立って、いろいろな角度から指導されているのを目の当たりにしました。激しくぶつかり合ってもよい競技ですが、時には大怪我にもつながる場合がありますので、安全面について厳しく指導されていました。そのような指導では、何がどう危険かをしっかりと選手に説明して伝える必要があります。ローカル5Gを活用したリモートコーチングが現実的に役立つものになってほしいと願っています」

技術面では、体育館などの中規模スポーツ施設における電波伝搬モデルの精緻化を目指す。本件を担当する富士通株式会社 5G Vertical Service室 エグゼクティブディレクターの森大樹は、大容量・高精細の映像データを扱えるローカル5Gを用いた今回の実証は、将来の展開も含めて非常に期待しているプロジェクトだと熱を込める。

「5Gを使ってあらゆる人がスポーツに参加できる社会を創ることや、障がい者スポーツの指導者不足という社会課題をテクノロジーで補うことは、富士通にとっても非常に取り組みがいのあるテーマです。コロナ禍を経て、今後もリモートでのコミュニケーションは続いていくと思います。競技者と指導者、あるいは競技者同士が遠隔でも豊かなコミュニケーションをとれるように、テクノロジーの面から支援していきたい。そして実証だけで終わらせずに、田川市様でリモートコーチングを実用化した暁には、スポーツに限らず他の分野にも展開し、日本全国、そして世界へ広めていきたいと考えています」

富士通株式会社
5G Vertical Service室
エグゼクティブディレクター
森 大樹

田川市での実用化を足掛かりに「共生社会」の和を広げていく

実証実験によって確かな成果が得られたなら、田川市をモデルケースとしながら、他の自治体へと活用が広がる可能性が高まる。二場市長は、共生社会の実現において、ローカル5Gのようなテクノロジーが有効だと話す。

「田川市では、障がい者、高齢者、外国人など、いろいろな方々が共生できる街づくりを目指しています。そのために、市民の皆様が多様性を受け入れられるような啓発も積極的に行っています。そして、共生社会の発展においてローカル5Gのようなテクノロジーが貢献する部分は大きいと思います。日本での5G関連のイノベーションは、先進的な国に比べると若干普及が遅れていると言われていますが、今回のリモートコーチングの実現をきっかけにローカル5Gの活用が日本全国に広まっていけば、さらに次の挑戦の扉が開かれていくでしょう。まずは田川市で、この取り組みをしっかり形にしたいですね」

富士通は、田川市のビジョンの実現をテクノロジー面から支援し、そこで得られた知見をさらなる社会貢献に生かし、誰一人取り残さない持続可能な社会の実現を目指していく。

  • 右から、福岡県田川市 平川 裕之 氏、二場 公人 市長、富士通株式会社 森

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