ローカル5Gの先進活用が照らし出す「ものづくりの未来図」
- COLMINA Design Review高速リモートデスクトップと連携し新たな価値創造へ -

産業のデジタル化を加速するインフラとして注目を集める「ローカル5G」。特に製造業においては、工場などの「製造現場のデジタル化」を一気に推し進めるテクノロジーとして期待が高まっている。ローカル5Gは今後どのように活用され、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に寄与していくのか。本稿前半ではローカル5Gが製造業にもたらすインパクトについて筆者がレポート。後半では、富士通株式会社 COLMINA事業本部 PLMソリューション事業部 マネージャーの鈴木智久氏に、ローカル5Gと富士通の独自技術の融合が生み出す付加価値について聞く。

取材者
株式会社アーキテクチャー 代表取締役・コンテンツプロデューサー 北御門潤
2000年株式会社アーキテクチャー入社。以来20年にわたりIT/製造業の導入事例取材やテクノロジーレポートに携わる。ローカル5Gについても発表当初から着目し、自身のブログでも連載するなどアンテナを立てている。

レポート

新たな時代のものづくりの概念「CPS」に必要不可欠なローカル5G

2011年ドイツで、スマート工場を中心としたエコシステム構築を主眼とする「インダストリー4.0」のコンセプトが発表されて以来、テクノロジーを活用した製造現場のイノベーションの必要性が声高に叫ばれてきた。

近年になり、基軸となっているのは「CPS(Cyber-Physical System)」という概念だ。これは産業活動のあらゆるデータをリアルタイムに収集し、デジタル空間に同等の環境を再構築。多角的な分析を行って、その結果を現実空間にフィードバックしていくエコシステムである。製造業においては、特に「スマート工場」の実現こそが、CPSにつながるものと言える。

製造業におけるCPS具現化の「鍵」となるのがローカル5Gの活用だ。特定のエリア内において、超高速・大容量、低遅延、多数同時接続での安定した通信を可能にするローカル5Gは、製造現場のあらゆるデータ収集を圧倒的に効率化・高精度化する。プロセス、設備、部品、さらに人の動線など膨大なデータがデジタル空間に取り込まれ、より高精度な検証と即時フィードバックが可能となる。ローカル5Gは、「製造現場の完全なデジタル化」という“聖域”に踏み込むための強力な切り札となる。

独自の生産方式「FJPS(Fujitsu Production System)」を早期に確立するなど、長年、製造現場の革新に取り組んできた富士通も、現在、顧客のCPSの具現化に向け、各種技術の開発・導入を強力に推進している。

2020年、富士通は国内で初めて商用ローカル5Gの運用を開始。現在も既存の通信キャリア事業を通じて培ったネットワーク技術などを基盤に、ローカル5Gのトータル・ソリューションを提案するなど、ローカル5Gの普及促進を牽引する企業だ。

そして富士通は、ローカル5Gと富士通独自のソリューションの融合による、製造現場における“新たな価値”の創出にも取り組んでいる。そのソリューションが、高速画像転送技術「RVEC®(Remote Virtual Environment Computing)」を搭載した「COLMINA Design Review高速リモートデスクトップ(以下、Design Review 高速リモートデスクトップ)」である。開発担当者を直撃した。

インタビュー

「ローカル5G×RVEC®」が製造現場に生み出すイノベーションとは?

ローカル5Gと「Design Review 高速リモートデスクトップ」の融合は、製造現場にどのようなイノベーションをもたらすのか。「Design Review 高速リモートデスクトップ」の開発・販売を担当する富士通株式会社 COLMINA事業本部 PLMソリューション事業部 マネージャーの鈴木智久氏に話を聞いた。

富士通株式会社
COLMINA事業本部 PLMソリューション事業部
マネージャー 鈴木智久氏

北御門

「ローカル5G×RVEC®」によって製造現場にどのようなイノベーションが起こるのでしょうか? まずRVEC®についてお聞かせください。

鈴木

RVEC®は、富士通で開発した独自の高速画像転送技術です。設計・開発の現場では、CADデータの高画質かつスムーズな描画が必須となっています。リモートから操作する場合でもCADマシンの前で操作しているのと同じように描画できる必要があります。そのために当初自社の業務で使うために開発されたのがRVEC®という技術です。RVEC®を搭載した「Design Review 高速リモートデスクトップ」を用いれば、リモート環境からでも、ストレスのない画面操作が可能になります。

北御門

富士通の開発現場で培われたソフトなのですね!ところでなぜ一般的なリモートデスクトップツールよりも高精細・高フレームレートの画面転送が可能なのでしょうか?

鈴木

RVEC®では、1フレームごとに動画と静止画のエリアを分割して処理することにより、転送データ量を削減しています。さらに転送時にも、富士通独自の画像圧縮技術により、画質を維持したままネットワークの使用帯域を抑制しています。これにより、3次元CADやCAEなどの画面を、一般家庭などの比較的低速なネットワークを経由する端末にも高画質でスムーズに表示することができるのです。

北御門

なるほど。転送エリアの細かな制御と、転送データの圧縮という「合わせ技」で、一般的なリモートデスクトップやオンライン会議の画面共有を凌駕するクオリティを実現しているわけですね。この高画質は、図面データ以外の画像、例えば工場の生産ラインを撮影したカメラ映像でも同様なのでしょうか?

鈴木

もちろんです。ライブ中継のような動画データであっても「Design Review 高速リモートデスクトップ」を用いれば、4Kの高画質で転送することが可能になります。

図1. 帯域を抑えながら高精細・高フレームレートの画像転送が可能な「Design Review 高速リモートデスクトップ」

北御門

国内の導入実績を伺えますか?

鈴木

現在、「Design Review 高速リモートデスクトップ」は製造業を中心に約2,000以上のライセンスの導入実績があります。現在ではメディア業界から問合せをいただいたり、建設機械や農業機械などの無人遠隔制御で用いる低遅延画像伝送技術としても期待されています。

北御門

RVEC®は、ものづくりだけに特化した技術ではないということですね!RVEC®という技術とローカル5Gの組み合わせによって、具体的にどのようなイノベーションが起こるでしょうか?

鈴木

例えば、製造業における部門間連携にイノベーションが起こると考えています。RVEC®は製造現場と設計や購買、品質保証などの他部門との高度な遠隔コミュニケーションを実現します。設計デザインレビューでは製品の加工状態や組付け状況など、細部を見て議論したり判断したりする必要があり、“状況を目視するため”、現場に出向かないといけないのが現状です。ローカル5Gを経由して製造現場のあらゆるデータ収集が容易になり、さらに「Design Review 高速リモートデスクトップ」を用いれば、遠隔地からでも十分な品質のデザインレビューが実施できます。また、委託先など、外部とのコミュニケーションも大きく変わります。例えば、部品サプライヤとも「Design Review 高速リモートデスクトップ」を使うことでスムーズな情報共有ができます。

図2. ローカル5GとRVEC®が具現化する新たなコミュニケーション

北御門

なるほど!ローカル5Gのメリットが、「Design Review 高速リモートデスクトップ」との組み合わせで工場以外の場所でも享受できるようになり、その結果部門間コミュニケーションに革新をもたらすのですね。ところで少し質問が立ち返りますが、そもそもローカル5Gが必要とされる理由は何でしょう?意地悪な聞き方をすれば、工場内に定点カメラを多数設置したりすればよいのでは?

鈴木

良い質問ですね。多数の定点カメラを設置する場合、その設置工数やコスト、ネットワーク設計の手間は膨大です。さらにもしラインが組み替えになれば、カメラの位置変更が必要になります。そのたびに定点カメラを設置し直すのはあまりに不合理です。ローカル5Gなら、設備投資を最適化してまず少数のカメラを用意し、必要に応じて場所を変えて撮影することができます。それが可能になるのも一般的なWi-Fiよりもはるかに強固なセキュリティを有しているローカル5Gだからこそです。

北御門

「ネットワークインフラの自由度」と「高いセキュリティ」を併せ持つローカル5Gだからこそ臨機応変な現場対応が可能になるのですね。加えて高解像度・大容量の映像を扱えることもアドバンテージですね。

鈴木

もちろんです。例えば、生産ラインで基板上に実装されるチップの大きさは1ミリ角以下のものもあります。そうした極小サイズの部品のチェックでも、ローカル5GとRVEC®の組み合わせなら狭い空間でもスマートフォンのカメラを近づけて、間近で確認できます。遠隔地からの指示をリアルタイムに受けながら、いろいろな角度から検証することも容易です。

北御門

5G対応のスマートフォンがそのままカメラとして使えるのは面白いですね! ほかに、ローカル5GとRVEC®の融合が生み出す付加価値は考えられますか?

鈴木

製造業における「働き方」のパラダイムシフトを引き起こす可能性も秘めています。近年、社会全体でリモートワークの広がりが見られますが、“現場”を持つ製造業は、他業種に比べて、リモートワークに対応しづらい。しかし、製造現場の状況をリアルタイムに共有し、離れた場所からでも製造現場の管理や保守などが可能になれば、製造業でもリモートワークを広げることができます。多様な働き方は、家庭の事情などで離職を考える人材をつなぎ止めたり、優秀な人材を確保したりするうえでも有効です。ローカル5GとRVEC®の融合は、製造業を新たな時代に対応させる推進力にもなり得ると期待しています。

「ローカル5G×RVEC®」が製造業に与えるインパクトを熱く語る鈴木氏

インタビューを終えて

ローカル5Gと独自技術の融合で描く「ものづくりの未来図」

いわゆるスマート工場への転換は日本の製造業にとって焦眉のテーマだ。超高齢化社会や労働人口不足という社会背景の中、国内のみならず国際的な競争力を維持するためには、製造プロセス全般における意思決定の迅速化・高精度化と、CPSの概念によって“どこからでも製造現場のあらゆる状況が把握できる”環境構築が不可欠と言える。

ローカル5Gは、そのアップデートの原動力となるテクノロジーだ。製造現場とその外部が強力に結びつくことにより、従来は不可能だった迅速な意思決定や検証が可能になる。このことが製品を使用する最終顧客にとっての、持続的な付加価値創造につながっていく。

そしてRVEC®など他の技術と結びつくことで、ローカル5Gは、製造現場におけるリモートワークの実現など、さらなるポテンシャルをも発揮する。ものづくりの未来図が、今まさに描き出されようとしているのを感じた。

(北御門)

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