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研究開発最前線~デジタル時代の信頼「Trust」~


2019年9月号 (Vol. 70, No. 4)

雑誌FUJITSU 2019-9

デジタル化が加速する今日では,企業,個人,ビジネス,システムなどが複雑につながり,扱われるデータが爆発的に増大します。そのため,あらゆる要素の「品質」「真正性」「適格性」などを検証することが難しくなっています。そこで,ICTがそのメカニズムを簡略化することによって,分散化され複雑に関連しあうデジタル時代の信頼「Trust」を実現することが重要となってきます。
本特集号では,デジタル時代において,お客様に「Trust」を提供するためのデジタルテクノロジー,ICTと人の「Trust」を継続的に検証するための最新テクノロジー,「Trust」を実現するために必要な最先端テクノロジーについてご紹介します。

目次 関連情報

目次

巻頭言

研究開発最前線特集に寄せて (508 KB)
富士通株式会社 代表取締役副社長 CTO/CIO 株式会社富士通研究所 代表取締役社長 古田 英範, p.1

総括

デジタル時代の信頼「Trust」 (897 KB)
本田 文雄, 小高 康稔, p.2-6
デジタル革新によって,世界はかつてないスピードで変化し続け,これまでの延長線上にはない新たなパラダイムを迎えている。そこでは,企業,個人,ビジネス,システムなどが複雑につながり,爆発的に増大するデータを扱うことになるため,あらゆる要素の「品質」「真正性」「適格性」などを検証することが難しくなっている。その課題を解決するために,ICTがそのメカニズムを簡略化することによって,分散化され複雑に関連しあうデジタル時代の信頼「Trust」を実現することが重要になってくる。
本稿では,現在の複雑化した世界で,これまで以上に大きな意味を持つようになったデジタル時代の信頼「Trust」を,どのように先端テクノロジーで実現し,社会実装していくのかについて,富士通研究所の考え方を紹介する。

招待論文

デジタル社会の実現と信頼 (746 KB) 関連情報
株式会社富士通総研 経済研究所 主任研究員 吉田 倫子, p.7-13
信頼は国家やコミュニティの規範を維持する役割を担っている。信頼があると,コミュニティにおける規範が保たれ,市民社会が円滑に機能する。また,信頼があると,社会における複雑なメカニズムを縮減することができるため,社会の中でも企業の中でも,あるいは友達同士でも,より円滑に物事を進めることができる。更に,信頼は現在のみならず,将来的な展望においても貢献する。一方で信頼は,時間の経過とともに無限に深まるものではなく,形成もされれば喪失もする。
本稿では,信頼の意味を見た後に若干の先行研究に触れ,ニクラス・ルーマンの理論を手掛かりにしながら,デジタル社会を実現する際における関係性と信頼について考察する。更に,富士通における信頼の変遷について述べる。
AI倫理への取り組み:富士通グループAIコミットメントの制定 (826 KB) 関連情報
中田 恒夫, 荒木 達樹, 土屋 哲, 中尾 悠里, Naseer, Aisha, 荒堀 淳一, 山本 隆彦, p.14-20
人工知能(AI)技術が大きな便益をもたらす一方で,偏ったデータで学習したAIが不公平な判断を下すマイナス面も報告されている。さらなる技術の進歩が深刻な副作用を生まないようにAI倫理が議論され,近年多くの組織,企業からガイドラインが発表された。富士通は,2015年にFUJITSU Human Centric AI Zinraiを発表した時点で「人と協調する,人のためのAI」を主張し,AIの倫理的な側面に注意を払ってきた。これまでの30年以上にわたるAIの研究開発・社会実装における実績を踏まえ,AI倫理への取り組みを具体的でわかりやすい形で表した「富士通グループAIコミットメント」を2019年3月に発表した。欧州有識者会議AI4Peopleと連携し,ここが提唱するAI倫理原則に則った上で,富士通の主要ステークホルダーである,お客様,人,社会,株主,社員に向けたメッセージとした。
本稿は,AI倫理に関する世の中の動向とともに,富士通のAIコミットメントの基本的な考え方について述べる。

お客様に「Trust」を提供する技術

データ駆動型社会を加速する個人データ流通基盤の信頼性向上技術 (862 KB) 関連情報
山岡 裕司, 小倉 孝夫, 小栗 秀暢, 伊藤,孝一, p.21-27
世界中でデータ活用に期待が高まる中,日本政府は特に個人の関与の下で個人データ流通・活用を進める事業である情報銀行を推進しており,情報銀行の信頼性を確保するため,民間に認定制度を定めるよう促している。民間はそれを受けて,情報銀行事業を審査・認定する事業を開始した。こうした世の中の動向を鑑みて富士通研究所は,データ漏えいのリスクを定量化することでマネジメント可能にするプライバシーリスク評価技術,および分散した個人データに対する本人同意を集約管理可能な同意管理技術を開発した。これらの技術によって,個人データを安全に流通させることが可能となり,プライバシーに配慮したデータ駆動型社会の実現に寄与するものと考える。
本稿では,プライバシーリスク評価技術および同意管理技術について,技術の概要,適用事例,および評価結果を述べる。
ブロックチェーンの信頼性を向上する脅威分析手法およびスマートコントラクト検証 (795 KB)
小櫻 文彦, 藤本 真吾, 野村 佳秀, 山下 一寛, p.28-34
ブロックチェーンは,ビットコインの基盤技術として考案された技術である。非中央集権で信頼性を担保できるため,仮想通貨以外にも不動産やヘルスケアといった様々な分野への応用が期待されている。しかし,システム全体を構成する要素間の境界部分や,サブシステムとして導入されることの多いスマートコントラクトに問題があると,ブロックチェーンで管理している仮想通貨が盗まれるなど,ビジネス上重大な損失に直結する恐れがある。そのため,アプリケーションを含めてシステム全体として信頼性の向上が課題になっている。今回,富士通研究所は,ブロックチェーンシステムの構築・運用の際に問題点をチェックする脅威分析手法,およびスマートコントラクト内の脅威を静的解析技術によって網羅的に検出するスマートコントラクト検証技術を開発した。これによって,ブロックチェーン開発者は,より安全性の高いブロックチェーンを使ったシステムを迅速に開発できるようになる。
本稿では,開発した脅威分析手法およびスマートコントラクト検証技術について述べる。
つながる世界での人の信頼性を保証するスコアリング技術 (854 KB)
寺田 剛陽, 青木 隆浩, 山田 茂史, 村上 雅彦, p.35-40
近年,ネットワークやICTの進歩に伴い,ビジネスやライフスタイルに大きな変革が起きている。従来は,個人では困難であった資金調達や情報発信が,アフィリエイトやクラウドファンディング,Webサイト,ソーシャルメディアなどを活用することで容易になった。また,シェアリングエコノミーの台頭によって,低コストで様々なサービスを利用できるようになった。しかし,その広がりが大きくなるにつれて,インターネット上で取引やコミュニケーションを行う人々の間で起きるトラブルもまた顕在化してきている。この問題に対して富士通研究所は,ICT被害経験の多い人に見られる心理や行動の特徴を基にユーザーのICTリスクを数値化するICTリスク判定技術と,その技術の対象をICTリスク以外にも拡張し,様々なリスクをスコア化する信頼性スコアリング技術を開発した。本技術によって,初めて取引をする相手であっても,延滞や不十分なサービス提供など様々なリスクをスコア化することができる。このようにして得られたスコアは,トラブル予防策の検討・実施に役立てることができる。
本稿では,ICTリスク判定技術と信頼性スコアリング技術,およびその適用例について述べる。
ナレッジグラフで実現する「トラストで説明可能なAI」と社会実装 (1.14 MB )
富士 秀, 中澤 克仁, 吉田 宏章, p.41-47
人工知能(AI)の性能が向上する一方,実用場面で専門家がAIを利用する際には,AIの答えをそのまま提示するだけでは十分な判断材料が得られず,結果として十分な信頼性が得られないという問題がある。そのため近年では,AIの説明可能性に関する研究開発がグローバルな規模で行われるようになっている。この問題に対して富士通研究所では,専門知識を体系的に表現することができるナレッジグラフを活用して理由や根拠を付与する,「トラストで説明可能なAI」を世界に先駆けて実現した。これによって,利用者に十分な判断材料を提供し,AIの信頼性を向上させることができる。
本稿ではまず,トラストで説明可能なAIのベースとなっているナレッジグラフについて概観する。次に,金融,化学の各分野における取り組みについて紹介する。

「Trust」を持続させるための技術

知識発見によって信頼をつなぐWide Learning技術 (908 KB) 関連情報
大堀 耕太郎, 浅井 達哉, 岩下 洋哲, 後藤 啓介, 重住 淳一, 高木 拓也, 中尾 悠里, 穴井 宏和, p.48-54
近年,AI(人工知能)のブラックボックス問題が生じ,AIの公平性,説明責任および透明性(Fairness,Accountability and Transparency)の議論が活発化しており,企業や学術機関が様々な説明可能なAIを開発している。富士通研究所では,ブラックボックス問題への対応のみならず,知識発見を実現する新たな説明性を有するWide Learning技術を開発した。Wide Learningは,ディスカバリーサイエンス(発見科学)の主要技術である「列挙」により,人が理解できる形式で記述されたナレッジチャンクと呼ばれる知識を網羅的に数え上げる。この知識を用いて判断することで起こり得る可能性の見逃しを大幅に減らし,高精度の予測・分類を実現する。見逃しのない知識を継続的に発見していくことができれば,サービスシステムの信頼(Trust)を強化し,更に知識転用によりサービスシステム間で信頼をつなげることが期待できる。
本稿では,Wide Learningが生まれた歴史・経緯を説明した上で,Wide Learningが有する技術的特徴を説明する。また,社内におけるWide Learningを用いた知識発見の実証実験について報告し,今後の展望について述べる。
業種業界を越えたデータ流通の信頼性を向上させるChain Data Lineage (925 KB) 関連情報
松原 正純, 宮前 剛, 伊藤 章, 鎌倉 健, p.55-62
昨今,企業の内外には様々なデータがあふれている。最近では,自社が持ちえない価値あるデータを企業間で流通して活用することによって,これまでになかった革新的なデジタルビジネスをCo-creation(共創)しようとする動きが広がってきている。しかし,このような世界を実現するためには,企業間でやり取りするデータが信頼できることが大前提となる。具体的には,データがどこからやってきて,どのように加工されてきたのか,個人データを含む場合には,本人が当該データ提供について同意済みであるか,といったことが確認できなければならない。富士通研究所では,このような課題を解決し,データを安心して扱えるようにするためのデータ流通・利活用技術に関する研究開発を推進している。
本稿では,まず,データ流通におけるデータの信頼性の課題について述べる。更に,富士通研究所が開発した,業種業界を越えてやり取りされるデータの信頼性を向上させる技術Chain Data Lineageを,活用事例とともに紹介する。
キャッシュレス社会を支える生体認証融合技術 (910 KB) 関連情報
安部 登樹, 名田 元, 松濤 智明, 内田 秀継, p.63-70
キャッシュレス社会を実現・推進するために,IDカードやスマートフォンなどモノを持たずに個人の生体情報のみで決済を行う手ぶら決済が注目されている。実店舗での決済やイベント会場への入退場管理など100万人規模の利用が想定される場合では,大量の個人データの中から一人を検索する必要があるが,大規模なデータからの検索を生体認証のみで高速に実現することは困難であった。そのため,IDやPIN(Personal Identification Number)など追加の情報を入力する必要があり,利用者の利便性が損なわれていた。そこで,富士通研究所では,手のひら静脈認証と顔認証を融合させた生体認証融合技術を開発した。本技術では,端末利用中に取得できる顔画像を用いて,あらかじめ照合対象者を絞り込むことで,生体情報以外の情報を入力することなく,システム利用者数規模の拡大を実現できる。
本稿では,手ぶら決済の現状と課題,および開発した生体認証融合技術について述べる。

「Trust」を実現するための最先端技術

デジタル・トラストを支えるデータ中心アーキテクチャーDataffinic Computing (718 KB) 関連情報
田村 雅寿, 吉田 英司, 山田 幸二, p.71-76
近年,様々な現場で発生する大量データを蓄積して利活用することで,ビジネスの革新やイノベーションの創出を行う動きが本格化してきている。従来のデータベースで扱う構造化データに加えて,映像データをはじめとする非構造化データの利用が進んでいるが,非構造化データを効率的に利活用するためには,データ処理性能,コスト性能比,およびデータ管理の各要件が必要となる。富士通研究所では,大量データの利活用を支えるデータ中心アーキテクチャーとして,分散ストレージを用いて大量データの高速処理を実現するDataffinic Computingの研究開発を進めている。
本稿では,Dataffinic Computingの要素技術であるデータ近傍処理,大容量メモリ技術,高速シンクライアント技術を概説する。更に適用事例として,映像監視システムへの取り組みを紹介する。
SoE時代のサービスの信頼を支えるクラウドネットワーク運用管理技術 (1.03 MB )
小口 直樹, 朝永 博, 上野 仁, 青木 泰彦, p.77-85
企業と顧客とのつながりを作り,維持し,信頼関係を醸成するためのICTシステムであるSoE(Systems of Engagement)は,組織内の基幹業務を支えるICTシステムであるSoR(Systems of Record)並みの可用性に加え,ビジネスの変化に対応する柔軟性,迅速性が求められる。SoEが提供するサービスがより多くの利用者に使われるためには,利用者の安心感につながるセキュリティや十全性をシステムが満たしていることが不可欠である。しかし,サービス開発者がシステム全体の構成や要件を把握することは一般的に難しく,サービスを改良するたびにそのサービスに応じたセキュリティや性能を考慮して,システムを再設計するのは困難であった。そこで富士通研究所では,このようなサービス開発者でもマルチクラウド環境下で安心なサービスを迅速かつ柔軟に提供できるように,SoEの構築や安定運用を支援する仕組みを開発している。
本稿では,システム全体を把握していないサービス開発者でもセキュアなシステムを構築できるように支援するNaC(Network as Code)技術とネットワークベリフィケーション技術を紹介する。また,SoEシステムにおける障害や性能劣化を早期に認識し,十全性を提供可能とするトラフィック予測技術とアノマリ検知技術を紹介する。
Cyber-Physical システムを実現する無線ネットワーク高信頼化運用技術 (1.30 MB ) 関連情報
藤田 裕志, 新井 宏明, 横尾 郁, 菊月 達也, 濱湊 真, 二宮 照尚, p.86-94
デジタル革新に伴い,企業,個人,ビジネス,システムなどがデータを介して有機的につながることが期待されている。これらを実現するためには,人やモノが存在するフィジカル(現実)空間と処理を行うサイバー(仮想)空間を安定して接続するCPS(Cyber-Physical System)の実現が鍵となる。特に人,モノ,ロボット,車など,動きがあるものをサイバー空間につなぐためには,無線技術の活用が必要である。無線技術は日々進化・多様化し,利便性が向上している。 一方,実現したいアプリケーションに合わせて十分な性能を引き出すためには,無線の専門知識が求められる。富士通研究所では,高度な専門知識を持っていない無線ネットワーク管理者であっても,容易に無線ネットワークの設計・構築・運用が可能な技術の開発を行ってきた。
本稿では,無線ネットワークの設計・構築・運用などの各フェーズを誰もが容易に実行可能にする,自動設計技術,干渉対策技術,および運用自律化への取り組みについて述べる。
Deep Tensorの推定結果を説明する推定因子特定技術 (847 KB) 関連情報
松尾 達, 大木 雄介, 丸橋 弘治, p.95-102
人工知能(AI)の推定結果に対して,推定の理由や根拠を説明することが求められている。特に,医療や金融などの説明責任が伴う分野でAIが受け入れられるためには,推定の理由や根拠を示して十分な信頼を得る必要がある。しかし,Deep Learningなどの高精度な推定を行うAIの多くは,推定の理由や根拠を説明することが困難である。富士通研究所が開発した,人やモノのつながりを表現するグラフデータを高精度に解析可能なAIであるDeep Tensorにおいても,推定理由の説明は重要な課題である。そこで富士通研究所では,この課題を解決する技術として推定因子特定技術を開発した。これは,Deep Tensorが生成したコアテンソルと呼ばれる特徴量を使用し,推定結果に寄与したグラフデータの要素を提示することによって説明を行うものである。
本稿では,推定因子特定技術について述べるとともに,医療および金融分野への適用事例を紹介する。
AI技術の活用と研究開発を加速するプラットフォーム (929 KB)
小林 健一, 黒松 信行, 小橋 博道, 上田 晴康, p.103-109
近年,AI(人工知能)技術の適用先が様々な分野へと広がっている。その一方で,現実のビジネス課題に応じたAI技術を適切に選択し社会実装することの難しさも明らかになってきている。また,信頼性の高いAIソリューションの提供に当たっては,セキュリティなどの新たな問題も生じる。このため,ビジネス課題に即した豊富な業務知識を持つ企業と,AI技術を創出する企業とが協力して解決を探りあうCo-creation(共創)が鍵となる。富士通研究所では,AI技術を創出する場とビジネスの場を密接に結びつけ,素早いAIソリューション提供を促すプラットフォームであるAIEcosystemを開発した。これは,AI技術や過去の事例を実際に動作する形でナレッジとして蓄積し,それらの導入や配備の手間をかけず直ちに試行できるという特徴を持つ。
本稿では,AIEcosystemの技術概要について紹介するとともに,AIEcosystemの有用性について述べる。
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