ソートリーダー対談

生体認証で創る"つながる世界"

ワークプレイス編

岸本 章弘 氏
ワークスケープ・ラボ代表

オフィス家具メーカーのコクヨで、オフィスインテリア等のデザイン、先進オフィス動向調査、次世代ワークプレイスのコンセプトやプロトタイプの開発を経験後、オフィス研究情報誌『ECIFFO』編集長。 2007年に独立し、ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動を推進。 千葉工業大学非常勤講師、京都工芸繊維大学大学院非常勤講師等。 著書に『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(2011、弘文堂)、 『POST-OFFICE ― ワークスペース改造計画』(共著、2006、TOTO出版)など。

中山 五輪男
富士通 理事 首席エバンジェリスト

1964年5月 長野県伊那市生まれ。法政大学工学部電気工学科卒業。複数の外資系ITベンダーさらにはソフトバンク社を経て、現在は富士通の理事および首席エバンジェリストとして幅広く活動中。DX、AI、クラウド、IoT、スマートデバイス、ロボット等を得意分野とし年間200回以上の全国各地での講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。様々な書籍の執筆活動や複数のTV番組出演での訴求など、エバンジェリストとしての活動をしつつ、国内30以上の大学での特別講師も務めている。

富士通は、真のHybrid Workの実現や、Lifeのさらなる充実などを目指し、新たな働き方のコンセプト「Work Life Shift 2.0」を発表しました。その「Work Life Shift 2.0」の取り組みを支えるテクノロジーの一つが「生体認証」です。社会をより安心安全かつ便利に変えることができるこの技術で私たちは「つながる世界」を創ることを目指しています。
※「つながる世界」とは…一度生体登録を行うだけで、様々なサービスを自分の身一つ(生体認証)でシームレスに利用できる世界のこと。詳しくはこちら。

富士通が実現を目指す「つながる世界」がもたらす少し先の未来についてもっと様々な方に知っていただきたい ―。
このような思いのもと、各界を代表するソートリーダーをお招きし、現在の課題や未来の姿について富士通の中山五輪男エバンジェリストと語っていただく本企画。第二回のゲストは、人々の働き方とワークスペースの未来を考え、多くの企業のオフィス・コンセプトの設計やデザインを手掛けられているワークスケープ・ラボ代表の岸本章弘氏。変わりつつあるワークプレイスのあり方や生体認証の可能性について伺いました。

 

変化するワークプレイス

中山

岸本さんはオフィスデザインのコンサルタントとして、数多くの企業のワークプレイス変革に携わられていると伺っています。企業のオフィスのあり方は、いまどのように変化しているのでしょうか。

岸本

ここ数年で際立っているのは、環境変化に適応できるワークプレイスを求める企業が増えていることです。ビジネス環境が目まぐるしく変化し、仕事や働き方の将来を見通しづらくなっていることから、想定外の変化にすばやく対応できるようなワークプレイスが求められています。

アイデアとお金さえあれば、ビジネス空間はすぐに作ることができます。しかし、人やカルチャーはすぐには変われません。変化に適応できる職場を作るということは、そこで働く人の意識や行動も変えることが求められます。いわゆるチェンジ・マネジメントまでを視野に入れたような案件が増えていますね。

中山

なるほど。環境の変化というと、やはり新型コロナウイルスのパンデミックの影響が非常に大きいと思いますが、コロナ禍の前と後で、ワークプレイスのあり方に何か変化は見られますか。

岸本

まずコロナ禍以前のお話を少しさせていただくと、昔は総務部から組織図をもらってきて、所属従業員の人数に合わせて机を配置するようなオフィスレイアウトが主流でした。しかし、PCさえあればデスクワークができる環境が整ってきたこともあり、次第に「必要に応じてオフィス内の適した場所で働く」という考え方が広がりました。「フリーアドレス」や「ノンテリトリアル」と言われるものですね。オフィスのレイアウトも、1人1台のデスクの配置というより、「1人で集中するエリア」、「グループで作業するエリア」といったコンセプトで、機能を配置するデザインへのシフトが始まっていました。

そこに、コロナパンデミックが発生しました。テレワークが急速に普及する中で、さらに一歩進んだABW(アクティビティ・ベースト・ワーキング)というコンセプトの導入が一気に進んでいます。ABWは、オフィス内だけでなくオフィス外、例えば自宅やカフェなども含め、働くことが可能な場所すべてをワークプレイスとしてとらえ、必要や状況に応じて場所を選択するという考え方が特徴的です。

中山

岸本さんが提唱されていた「エラスティック・ワークスペース」と重なりますね。

岸本

はい。エラスティック・ワークスペースは、2005年ごろに提唱した未来のオフィスについてのコンセプトです。センター(オフィス)、クラブ(プロジェクトメンバーが必要に応じ集まる場)、カフェ(不特定多数の人が仕事をする場)、ホーム(個人専用の場所)に加え、移動中の交通機関やホテルのロビーなどまでをシームレスにつなぎ、働く人の都合や状況に合わせてどこでも仕事ができる環境にする、という考え方です。働く人はより柔軟に、自分らしく自然体で働くことができ、さらに企業側もワークプレイスをすべて自前で用意する必要がなく弾力的にオフィス戦略を変えていける、というメリットがあります。技術的にはかなり前から実現可能だったのですが、日本ではなかなか進みませんでした。それが、コロナ禍で一気に加速しています。

 

オフィスはエクスペリエンス共有の場へ

中山

富士通は2020年7月にパーパスを策定し、その実現に向けた最適な働き方を追求する「Work Life Shift(ワーク・ライフ・シフト)」を推進してきました。これをさらに進化させたコンセプトとして、2021年10月に発表したのが「Work Life Shift 2.0(WLS 2.0)」です。

「WLS 2.0」では、真のHybrid Workの実現やLifeの更なる充実などを目指し、様々な施策に取り組んでおり、中でもワークプレイスに大きく関わるのが「オフィスをエクスペリエンス・プレイスへ変えていこう」という取り組みです。当社のパーパスにもイノベーションという言葉が出てきますが、オフィスを単なるワークプレイスからエクスペリエンス・プレイスに変えていくことで、よりイノベーションを創出しやすい場を目指しています。具体的には、執務フロアの中心で様々な研修やワークショップを開催することで、オフィスを「多様な従業員が集い・働き・学び・交わる場」に転換する取り組みや、当社保有のサテライトオフィス「F3rd(エフサード)」の一部社外開放、そして社内外の新しいテクノロジーをいち早く導入する試みなどがあります。

岸本

なるほど。テレワークが普及し、個人の業務が自宅や外出先でも可能になれば、オフィスは人が集まってエクスペリエンスを共有するための場所に変わります。「経験」についてはこれまでもデザインの分野では言及されてきましたが、ワークという観点ではあまり触れられてきませんでした。この部分への着目は、きわめて重要なことだと思います。

中山

本日お越しいただいているこちらのオフィスでは、その施策の一つとして、「手のひら静脈認証」を全面的に導入しています。入退室から複合機の認証、ワンタイムロッカーの施錠、食堂の精算など、様々な場所で生体認証を活用しています。岸本さんにも、本日の対談前にいくつか体感していただきましたが、いかがでしたか?

岸本

人々が望んできた未来像に近づいていると思いました。以前は、未来のITを語る際にユビキタスという単語が使われたものです。それがスマートな形で実現されている。富士通ならではの先進性を感じます。

手のひら静脈認証の例。手をかざすだけで瞬時に本人認証でき、あらゆる場所へのアクセスを容易にする
(左)手のひら静脈認証により、社員証をかざすことなくセキュリティゲートを通過できる
(右)食堂の決済も手のひら静脈認証に対応

実は、手のひら静脈認証は、私も日ごろから銀行のATMなどで利用しており、なじみのある認証方法でした。非接触で認証できますし、指紋や虹彩などと違って静脈は身体の内側にありますから、写真や動画から複製したり盗んだりすることができません。安心して利用できる認証方法だと思います。

中山

確かに、セキュリティと利便性を両立できる点が手のひら静脈認証の良さですね。物理的なカードだと紛失や貸し借りの可能性がありますが、生体情報はなりすましが難しく、リスクが非常に低いことも高度なセキュリティの実現に役立ちます。

他にも、富士通では顔認証と手のひら認証を組み合わせたマルチ生体認証技術も開発しており、大規模なユーザーが想定されるシーンでの迅速な認証を可能にしています。

岸本

スポーツ観戦やコンサート会場など、大きなイベントで認証がスムーズに行われるようになれば、多くの人に喜ばれるでしょう。

 

「つながる世界」がワークとライフをさらに便利に

中山

岸本さんは、今後、ワークを取り巻く環境がどのように変化していくと思われますか?

岸本

コロナ禍以前の日本では、テレワークがなかなか普及しませんでした。その理由として多くの企業が挙げていたことは「自社にはテレワーク向きの仕事がない」です。しかし、コロナ禍になったら意外とすぐに実現できた。問題はテレワーク向きの仕事がないことではなく、マネジメントや管理体制にあったわけです。

テレワーク向きの仕事の中心は定型的な情報処理系の仕事であり、日本企業にはまだ多く残されています。しかしそうした仕事も、今後はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)によって自動化されていくでしょう。テレワークが実現した矢先に、テレワーク向きの仕事は減っていく。代わりに、プロジェクト・ドリブンで人が集まり、イノベーションを起こすようなエクスペリエンス型の仕事をするという形がメインになっていくのだと思います。

中山

なるほど。エクスペリエンス・プレイスの重要性も増していきそうですね。

岸本

もう1つの変化としては、「ワークとライフが融合していく」ことがあります。集中力を維持する方法として、仕事を25分行い、5分休憩をする「ポモドーロ・テクニック」というものがありますが、在宅テレワークなら、その5分間に仕事以外のこと、例えば家事などを行うことは人間として自然なことだと思います。そんな風にワークとライフが混在していったときに、行動がどうなっていくのか、空間はどうあるべきなのかということは、考えていく必要があります。もちろん、行動や空間の間を取り持つ「認証」といった分野でも、ワークとライフの融合は重要になっていくでしょう。

中山

その通りですね。富士通は、身の回りの様々なサービスを生体認証でシームレスに、セキュアに利用できる「つながる世界」を目指しています。オフィスだけでなく、街中でのお買い物や各種施設への入退、行政手続きから移動まで、一度登録すればあらゆるサービスへのアクセスが手をかざすだけで可能になるというコンセプトです。

生体認証技術が生み出す「つながる世界」。1つの認証であらゆるサービスをシームレスに利用できる

岸本

世界はきっとそうなっていくでしょうね。つながることで人々の生活は便利になります。セキュリティとプライバシーを両立し、本人が望むようにデザインできる「つながる世界」をぜひ実現していただきたいと思います。

中山

本日は、長年にわたって働き方やオフィスのコンセプトを研究されてきた知見をもとに、示唆に富んだお話をお聞きすることができました。富士通は今後もワークとライフをさらに豊かにするべく、取り組んでまいります。ありがとうございました。

今回のゲスト
ワークスケープ・ラボ 様
ウェブサイト
 
代表者
岸本 章弘氏
事業内容
  • コンサルティング&デザイン
  • 調査研究
  • 企画編集
2022年2月掲載
本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです
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