鹿児島堀口製茶有限会社 様鹿児島で進む「スマート農業」への取り組み

「ローカル5G」で農業の課題を解決
見えた可能性と、その先の未来図とは

高齢化の進行、人口減少などによる人材不足や後継者難は、日本の農業が抱える大きな課題である。増え続ける耕作放棄地をはじめ、山積する問題をどうすれば解決できるのか――。そこで今、日本各地で進むのが、デジタル技術を活用したスマート農業の実証だ。その1つ「鹿児島お茶ローカル5Gプロジェクト」では、次世代通信「5G」とAI技術がもたらす可能性を追求している。プロジェクトの当事者に、取り組みの概要と現在までの成果を聞いた。

人手不足によって危機的状況に直面する日本の農業

少子高齢化が進む日本では、減り続ける労働人口への対応が重要課題になっている。中でも高い危機意識を持っているのが、農業関係者だといえるだろう。農林水産省の調べによれば、2004年時点で60.2歳だった就農者の平均年齢は、2019年には65.2歳へ上昇(注1)。就農者不在によって生まれる耕作放棄地も、1995年の24.4万haから、2017年には38.6万haへと増加しているのだ(注2)。

この状況について、鹿児島県大隅半島で茶農場、製茶工場、販売店を営む鹿児島堀口製茶の堀口 大輔氏は、当事者として次のように語る。「このままいけば今から10年後には、農業の人口は半分になるという話もあります。幸い当社は、法人化して比較的大規模に事業を営んでいるため、すぐ人手が足りなくなる状況にはありません。しかし、今から何らかの対策を打たなければ、製茶自体の存続が危ぶまれます」。

課題解決のカギを握るのが、農業のスマート化だ。先進のデジタル技術を活用し、人手が必要な工程やプロセスを置き換える。

「高齢者が増えるとデジタル化は難しいという話を聞くこともあります。ただ実際は、高齢者の皆さんもスマートフォンを使いこなしています。タイミングときっかけを間違えなければ、年齢に関係なくデジタル化に対応できると私は感じます」(堀口氏)

そこで同社が参画したのが、2020年8月にスタートした「鹿児島お茶ローカル5Gプロジェクト」である。ローカル5Gを駆使することで、製茶の生産性向上と省人化・軽労化を目指す。総務省の「ローカル5G実証」と、農林水産省の「スマート農業実証」が省庁の枠を越えて連携した、先進的な取り組みである。

「実は、この1年前には、ほ場で使用している摘採機などのAIを活用した無人走行のための実証実験に参画したことがあります。今回はさらに進んだローカル5Gということで、ぜひ参加したいと考え応募しました。私たちの世代が積極的にデジタル化に取り組み、さらに次世代につなぐ。このことが、日本の農業活性化をけん引する上で不可欠だと感じています」と堀口氏は語る。

鹿児島堀口製茶有限会社
代表取締役副社長
堀口 大輔氏

農機の遠隔制御とドローンでローカル5Gを活用

実証実験は、大きく2つのテーマで行われた(図)。1つはローカル5Gを活用した農機の遠隔制御だ。

この2つのテーマでローカル5Gの実証実験を実施。スマート農業の可能性を追求および実現に向けた取り組みが展開されている(総務省の資料を基に日経クロステックにて引用作成)

これについて、ロボット農機を共同開発したメンバーの一員である日本計器鹿児島製作所の山﨑 淳一氏は次のように説明する。「機器の自動運転には、国土交通省などが定めたいくつかの段階があります。細かい要件は省いて、分かりやすく言えば、『人が近くにいて監視する』のがレベル2。一方、今回堀口製茶様と実証するのは『人が遠隔地から監視する』レベル3相当の自動運転です」。

このレベル3相当の自動運転で、農機の安全な制動・制御を実現するには、「高速・大容量・低遅延」といった特性を持つ5G通信が欠かせない。そこで同社は、5Gに関する高度な技術とノウハウを持つ富士通と共に、総務省が令和2年度に行った「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」に応募することを決めたという。

株式会社 日本計器鹿児島製作所
技術部部長
山﨑 淳一氏

もう1つのテーマは、ドローンを使ったリモートセンシングである。広大な茶畑を上空から撮影し、その画像を解析する。これにより、病害虫の有無や収穫適期を迎えているか否かを人が現地に行かなくても把握できるようになる。

「実は、これまでもドローンによる撮影と解析は行ってきました。しかし、ドローンが撮影する画像は、茶畑1ha当たり約4GBあります。そのため、従来はすぐに送信することができず、帰還後にデータを回収して解析にかけていました」。そう話すのは、ドローン実験を担当したアグリセンシングの吉田 正巳氏だ。これでは結果が出るまでに時間がかかる。そのため、この通信にも5Gを適用し、データを即時に解析にかけられる仕組みを目指したという。

プロジェクトは2020年8月にスタート。ローカル5G基地局、アンテナの設置、そこまでの伝送路敷設など、試験環境の整備は富士通が中心となって進めた。その後、茶畑におけるドローンデータの収集を開始。並行してロボット農機に搭載されたカメラからの画像伝送テストなどを実施した。「冬になり、茶畑が休眠期に入った段階で、レベル3相当の自動運転の実験にも着手しました」と堀口氏は話す。

【ロボット農機(摘採機)によるレベル3相当の自動運転の実証】

1台のカメラで撮影した周囲の画像を、低遅延なローカル5Gで伝送。その画像を基に、遠隔地にいる人が監視する

通信の高速化で見えてきた、農業の新しい姿

気になるのは効果だ。農機の遠隔制御とドローン、どちらの実証実験でも不可欠になる通信は、ローカル5Gによってどれだけ高速化されたのか。

これは画像の伝送で考えるのが分かりやすいだろう。4Gでは1秒当たり1枚のVGA画像(約30万画素)しか伝送できなかった。一方、ローカル5Gでは、フルハイビジョン画像(約200万画素)を1秒当たり30枚伝送可能。農機の遠隔制御の遅延に置き換えると、4Gの1/5程度の遅延に抑えることができたという。

「遠隔監視でも問題なくロボット農機の安全運航が可能なことが確認できました。もちろん、まだ実証実験の段階ですが、自動化されたロボット農機・摘採機が導入されると、農業のあり方は大きく変わると確信しました」と堀口氏は言う。レベル2でも一定の省力化効果はあるが、少なくとも人が現地で立ち会う必要がある。レベル3相当なら、遠隔地の監視室にいる1人が、複数の茶畑の自動運転農機を操ることもできるようになる可能性がある。

「堀口製茶には、共に茶業に取り組んでくださる約50の系列農家さんがいます。仮に遠隔制御できるロボット農機を導入できれば、機器のシェアも容易になるでしょう。茶畑への移動を含め、より効率的なやり方を模索すれば、1農家ですべての機器を購入・管理する必要もなくなるかもしれません。今回の実験で、その選択肢があり得ることを明確に意識できるようになりました」(堀口氏)

またドローンの活用についても、大きな可能性がみえてきた。

茶葉の摘採期(収穫に適した時期)は、長くて3日、短くて1日だという。従来の、ドローン帰還後にデータ解析にかける手法では、そもそも結果が出るまで4日程度かかっていたため、摘採期の判断には活用できなかった。ところが5G環境では、リアルタイムなデータの取得から解析完了までを、わずか3時間で行える。「タイムリーに情報を入手できるので、これなら摘採計画を立てる際にも役立てられると感じました」と堀口氏。従来はテクノロジーが適用できなかった領域に、5Gが光を当てたかたちといえるだろう。

【茶畑の上を飛ぶドローン】

上空から撮影した茶畑の画像をリアルタイムにローカル5Gで伝送する。これにより、従来方式との比較で、解析結果を得るまでの時間を大幅に短縮できた

5GとAI、富士通の強みを生かして
取り組みを進めていく

さらに、同プロジェクトが次のステップとして見据えるのが、AIの活用である。手始めに、ドローンで撮影した画像をAIで分析することで、摘採時期の予測に役立てる構想だ。「これがうまくいけば、約300haある広大な茶畑での摘採スケジュールを、一層省力化・効率化できるはずです」と吉田氏は期待を込める。

またAI活用はロボット農機にも新たな可能性をもたらす。運航の安全性を高めるには、搭載するカメラの台数を増やすのが効果的だが、そうなると人の目で画像を確認しきれなくなる。これをAIで支援するのだ。「富士通は、ローカル5Gに加え、AIの領域でも高い技術力と知見を持っています。ここでもぜひ、共に取り組みを進めていければと思います」と山崎氏は述べる。

多くの成果と共に第1フェーズを終え、次なるステップへ進もうとしている鹿児島お茶ローカル5Gプロジェクト。そこからは、これから日本が目指すべきスマート農業の在り方が透けて見えてくる。富士通と各社の取り組みに、引き続き注目したい。

合同会社アグリセンシング
代表社員
吉田 正巳氏

Editor's Note:富士通に聞く「鹿児島お茶ローカル5Gプロジェクト」

「今回、農機の遠隔制御とドローン撮影データの高速伝送について、技術的な裏付けが取れたことは当社にとっても大きな成果です。まず関係者の皆様にお礼を申し上げます」。本プロジェクトに関わった富士通メンバーはそう語る。次のミッションは実用化だが、さらにその先では、より広い視野を持って技術の普及に尽力していくつもりだという。

複数の茶畑/異なる作物の畑をまたぐローカル5G環境の構築や、利用コスト最適化に向けた取り組みはその一案だ。さらに農業だけでなく、商業、工業などの業界も巻き込みながら、5Gの大きな“うねり”をつくっていく。確かに、このような活動を構想できるのも、5GやAIに関する技術的な強みと、全国規模の拠点・体制を有する富士通ならではといえるだろう。

「今回ともにプロジェクトを進めた皆様や、自治体、地場の事業者様と引き続き連携しながら、デジタル技術で日本の産業に貢献していければと思います」

  • (注)
    本記事は2021年9月に「日経xTECH Special」に掲載された内容を転載したものです。
    記載の情報は記事作成時点の情報のため、その後予告なしに変更されることがあります。あらかじめご了承ください。

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