ローカル5GとAIセンシングを活用した高精度位置測位ソリューションの共創

— 映像解析によって緻密な機器制御や動線分析を実現 —

富士通は今後10年を見据え、リアルとデジタルを融合したイノベーションによって、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を実現することを最重要テーマとしている。その一環として顧客や社会の課題解決のため、ローカル5Gをはじめとする富士通の技術と知見に加え、パートナー企業の先端技術を活用しながらソリューションを共創する「ローカル5Gパートナーシッププログラム」を展開。今回、AIセンシング技術を持つアキュイティーと富士通が開発した「映像による高精度位置測位ソリューション」について、開発のキーパーソンたちが、ソリューションの革新性と将来展望を語り合った。

対談参加者

  • アキュイティー株式会社
    代表取締役 CEO 兼 CTO
    佐藤 眞平氏
  • アキュイティー株式会社
    Development Dept. Technology
    Strategy Div. / Team Leader
    和田 悟氏
  • 富士通株式会社
    5G Vertical Service事業部
    シニアディレクター
    上野 知行
  • 富士通株式会社
    5G Vertical Service事業部
    石井 大祐

画像処理や機械学習による計測技術のスペシャリスト・アキュイティー社との共創

— アキュイティーが「ローカル5Gパートナーシッププログラム」に参加したきっかけを教えてください。

佐藤

富士通さんに我々の技術の取り組みについて興味を持っていただき、来社いただいたのがきっかけです。当社は、フィジカル情報・デジタル情報を融合していくなかで、末端となるセンサーと、センサーから入ってくる情報を処理するアプリケーションレイヤーに注力をしている会社です。AI活用も含め、情報を正しく変換・処理する技術は非常に得意です。富士通さんの持つ大きなプラットフォーム上で我々の技術を展開することで社会貢献ができると思い、2019年頃にパートナーシッププログラムに参加しました。

上野

富士通でも当時、ローカル5Gで何ができるか悩んでいました。そこで映像やセンシングの分野のトップ企業であるアキュイティーさんと高精細映像の活用について議論を積み重ねていきました。すごく良いタイミングで出会えたと考えています。今回、アキュイティーさんと革新的なソリューション共創ができ、とても嬉しく思います。

佐藤

少子高齢化で人が本当に向き合うべき仕事や、安心・安全の現場を作ることが求められているなか、高精細の映像をローカル5Gで伝送できるというアイデアがうまく噛み合いました。製造や物流の現場などで、映像を取得する機器の設置がより容易になっていくはずであると上野さんたちと議論するなかで、まず少ない工数で社会的に価値があることを実装しようと、高精度の位置測位を着想し、2020年の12月頃からプロジェクトを動かし始めました。

和田

私はある程度議論が進んでいたなかで、佐藤から「1週間でプログラムを作れないか」と言われ、試作するところからプロジェクトに参加しました。ちょっと動揺しましたね(笑)。最初のプログラムを作ってから、プロジェクトの目的を理解し、追いついていったところから始まりました。

石井

これまで人にしかできなかった仕事をロボットやAIが代わりに行えるようになれば、働き方改革につながります。5Gネットワークにつながったカメラを使った高精度な位置情報の取得は非常に有効な技術になると直感しました。さらに位置だけではなく、動線や対象物の判定など、多様な情報を取り出して活用できる仕組みづくりは、あらゆる産業にとって意義があるという想いで、このプロジェクトを進めてきました。

アキュイティー株式会社
代表取締役 CEO 兼 CTO
佐藤 眞平氏

四半世紀にわたり画像処理に携わってきた。1998年頃、最初に勤務した会社が画像処理を専門に行っていたことから、画像からさまざまなデータが取れることに衝撃を受け、画像処理の世界にのめり込む。2015年にアキュイティー株式会社を起業。

アキュイティー株式会社
Development Dept. Technology Strategy Div. / Team Leader
和田 悟氏

電気系のエンジニアとしてキャリアをスタート。途中からソフトウェアエンジニアとしての仕事に携わることが増える。アキュイティーに出会い、画像処理や三次元計測などを経験。今回のプロジェクトでは初期段階での検証や仕様調整を担当した。

頭上のカメラからの映像をリアルタイムにとらえ、ミリ単位の精度で測定

— 今回共創した「映像による高精度位置測位ソリューション」はどのようなものですか?

上野

今回の高精度位置測位ソリューションは、部屋の天井に設置した5G対応のカメラによって高精細映像を撮影し、その映像をAIで解析して人やモノを認識、リアルタイムに位置を特定するものです。FUJITSUコラボレーションラボでは、人が机上に置いたARマーカーを動かすと、その位置がミリ単位で測定されるという高精度な位置測位を体感いただけます。

石井

もう一つが、マーカーをつけない人やモノの認識です。映像を解析することで無人搬送フォークリフト(AGF)や人の動きをリアルタイムに取得し、解析できます。AGF自体にカメラやセンサーを搭載しなくても、天井に設置したカメラで位置を高精度に測定して制御することが可能で、工場や倉庫内などで正確な自動搬送ができるようになります。他にも、死角を人が歩いていてAGFと遭遇しそうになった場合、自動停止して危険を回避するといったことも可能です。

富士通株式会社
5G Vertical Service事業部 シニアディレクター
上野 知行

長くモバイル通信やネットワークのシステム開発に関わる。5G Vertical Service事業部では「ローカル5Gパートナーシッププログラム」の立ち上げに携わる。5G/ローカル5Gを活用したVertical Serviceの企画・開発・実証を推進し、社会課題を解決するイノベーション創出に挑んでいる。

富士通株式会社
5G Vertical Service事業部
石井 大祐
博士(国際情報通信学)

大学教員として映像解析の研究に携わる。富士通に入社後、映像認識や映像AI技術のスペシャリストとして、先進的な技術を誰もが便利に使えるものにしていくという想いのもと、研究開発・事業化を推進。

頭上の高精細・超広角カメラで撮影した映像を解析し、机上のマーカーの位置を測定。ミリ単位の精度で位置を特定できる。マーカーを動かすと座標の数値がリアルタイムで変わる。

自動制御のフォークリフトは、人が接近すると停止して、人との接触を回避する。高精度な位置情報を活用し、狭いエリアでも正確に荷物を置くことができる。

— このソリューションでローカル5Gが担う技術的役割はどのようなものですか?

石井

高い精度を得るためには安定した処理が必要です。高精細映像を瞬時にエッジコンピュータに送り、そこで処理した結果をフォークリフトなどの機器にリアルタイムに送り返す必要があります。このため、より低遅延で高精細な映像を伝送できるローカル5Gの技術が非常に重要になります。

和田

複数の高精細カメラを同時に連携させられる帯域の広さもローカル5Gの特徴ですね。

佐藤

視覚的に捉えられる情報をそのまま処理できることで、ソリューションとしての可能性が大きく広がります。この測位技術は、製造業の現場での活用はもちろん、当初の目的以上にマーケットを広げられるでしょう。

— 共創するなかで苦労された点や工夫したポイントをお聞かせください。

佐藤

やりたいことのイメージがあって、それを一足飛びに実現できたわけではありませんが、比較的スムーズに開発を進められました。石井さんが常にリードをしながら問題提起をし、実装側で検討するといった進め方をしてきました。富士通さんとの日頃のコミュニケーションを非常に密にしながら、小さな成功を積み重ねてきました。なかでも苦労したのは、フォークリフトの認識・制御です。実装をする上でとても重要な、いわゆる要となる部分ですので、お互いに齟齬がないよう慎重に進めました。

和田

広角レンズで位置測定をしているのですが、当初は思った通りの精度が出ませんでした。調べてみると、レンズの構造上、普通のやり方では難しいとわかり、デバイスとアプリケーションのチューニングを繰り返して精度を出せるようになりました。ここが一番苦労した点ですね。

石井

より柔軟に使えるシステムにしていくために、クラウドとの連携やソフトウェアアーキテクチャーの変更など、いろいろと課題を乗り越えてきました。エピソードとして一番焦ったのはラボの床材の問題で、フォークリフトを動かして生じる静電気によって一部の基盤が壊れてしまったことです。除電のための改良をしていただき2021年の10月頃にはフォークリフトを今の精度で動かせるようになり、ほっとしましたね。

センシングによって、検知だけでなく未来予想をも可能にするソリューションを

— 高精度位置測位ソリューションは、どのような産業分野で有効利用できると考えますか。

佐藤

まずは、製造業や物流業の現場での利用です。日々いろいろなものや人が動く現場の情報を取得して整理する。情報を資産化するとともに、安心・安全も担保するような仕組みを創出できると考えています。ローカル5Gによって、面倒な配線工事が必要なくなりますので、現場のレイアウト変更や増設、撤去も容易にできます。コスト削減や時間短縮にも大きく寄与するでしょう。また、物流倉庫などで、あまり動いていないモノ、停留・滞留しているモノも認識できますので、エリアごとの稼働率を分析して、保管計画の見直しや倉庫レイアウトの効率化も図れるのではと期待しています。

和田

人やモノの検知はもちろんですが、検知した情報を連続的につないで見られるのもメリットです。人やモノがどう動いたかを可視化したり、後からじっくり分析したりできるのは利用をおすすめしたいポイントです。最適な動線を見出せる材料にもなります。物流倉庫の自動化なども、さらに効率の良いものに進化させられると思います。

石井

位置測位ソリューションと合わせ、ローカル5G技術を活用することで柔軟性というベネフィットを得ることができます。製造・物流などさまざまな現場の変化に素早く追従できるようになり、生産性・安全性の向上、そしてコストの最適化など、お客様の現場における持続的な価値向上につながると考えています。

上野

複数のカメラを使うことで経路の先にある死角を捉えることができます。さらに考えを発展させると、何秒か先の状況を「予測」していると考えられます。リアルタイムの次には「先が読める」ことが今後の価値につながると確信していますので、そのような方向でも発展させていきたいですね。

— アキュイティーと富士通、両社の共創に関する将来展望をお聞かせください。

石井

まずは、今回の「映像による高精度位置測位ソリューション」をもっと使いやすく進化させていきたいですね。現在の仕組みは、ある程度映像を扱う知見や経験をもとに導入時の判断をしている部分がありますが、そういったハードルを排除し、誰が使っても精度を出せるようレベルアップしていきたいです。そして、現場の複数の課題を同時に解決できるよう、連携機能や対応領域を広げていきたいと思っています。

和田

富士通さんによるソリューションの拡販も期待していますが、開発者の視点としては、今後も技術交流を希望します。石井さんの知見など、これまでいろいろな場面で支援をいただいていますので、これから先もお互いに技術を高め合っていきたいと考えています。

佐藤

私が社会人になって初めて感じた画像処理の衝撃から、今まさに社会課題の解決に役立つ一歩を踏み出せています。これは、富士通さんとのコラボレーションによって得た機会がもたらしてくれたものだと思っています。これまで主にニーズが顕在化している製造や物流の現場に向き合ってきましたが、今後は他の領域でもセンシングの価値を発揮できると思っています。富士通さんと共創することで、よりスケールの大きなイノベーションを実現していきたいです。

上野

アキュイティーさんの先進的なセンシング技術は、富士通がテーマとして掲げる「リアルとデジタルの融合」の実現に繋がる具体的な技術として非常に期待しています。そしてそれが、経営や社会にとって不可欠な「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を実現する力の一つになると思っています。高度なセンシング技術によって現状認識から未来予測までできるようになれば、働く環境や人々の生活もより良いものに変わっていくでしょう。今回の取り組みや、パートナーシッププログラムに興味を持たれた皆様は、お気軽にお問い合わせいただければと思います。

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