テクノロジーを活用した製造業におけるSXの推進
- 製造業向けFUJITSUコラボレーションラボイベントレポート -

富士通は2022年11月11日、富士通新川崎テクノロジースクエア内の「FUJITSUコラボレーションラボ」にて、「テクノロジーを活用した製造業におけるSXの推進」をテーマとしたイベントを開催した。SXとは、富士通が今後10年を見据え向き合うべき最重要テーマである「サステナビリティ・トランスフォーメーション」のことであり、データやデジタルテクノロジーを活用して自社のSX実現に取り組むとともに、お客様のSX実現の支援にも取り組んでいる。今回のイベントでは、製造業のお客様を招待し、新しいソリューションのデモンストレーション体験や、ソリューション活用アイデアなどの意見交換が行われた。

リアルとデジタルの融合領域を強化するため、
ラボのオープン化やPoC支援を展開

イベントの冒頭では富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 永井 一嘉が登壇し、FUJITSUコラボレーションラボの紹介ならびにローカル5G パートナーシッププログラムについて説明した。

永井は「製造現場をはじめ、さまざまな現場のデジタル・トランスフォーメーションには、リアルな空間の人やモノのセンシングデータの活用が必要です。我々は、5Gが持つ高速大容量のネットワークを活用しながら、各種デジタルサービスやAI、Computingなどのテクノロジー、業種ナレッジを組み合わせた『Vertical Service』が必要であると考えており、パートナー企業様とともに新たなソリューション共創に取り組んでいます」と語った。

  • 富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 永井 一嘉 富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部
    5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 永井 一嘉

Vertical Serviceを提供するには、富士通単独では難しい部分もあるため、多くのパートナー企業とPoC(概念実証)などを行いながら共創活動を続けている。2020年10月から正式に活動を開始したローカル5G パートナーシッププログラムは、現在30社を超えるパートナーが加入しており、2022年10月末までに170件のソリューション共創やPoC検証を実施してきた。

永井は、FUJITSUコラボレーションラボの施設説明の際、ローカル5GとWiFi6の比較検証についても紹介。一例としてローカル5GとWiFi6を活用した高精細(4K)映像伝送について説明した。比較検証の紹介動画では、ローカル5Gは帯域変動が少なく伝送された映像が乱れないのに対し、WiFi6は帯域変動が大きく伝送速度が低下した際に映像が乱れることが確認された。

この結果から、AIでリアルタイムに高精細映像を処理するといった用途にはローカル5Gの方が向いていると考えられる。しかしながら、目的や用途に応じて各種テクノロジーを組み合わせて活用することが重要であるため、今後も共創活動を続けながら、それぞれのお客様にとって最適なソリューションを提案していく考えだとした。

  • 新たな機能である「準同期」は上りで400Mbpsを超える速度が出せる。 新たな機能である「準同期」は上りで400Mbpsを超える速度が出せる。

また、現在取り組んでいる「現場と遠隔地を融合した新しいコミュニケーション体験」の創出についても紹介した。これはxR(クロスリアリティ)を活用するものだ。

「現場業務へのxR技術の活用や検討が始まっており、一部では導入が進んでいますが、xR技術で何ができるのか、どう活用すれば良いのかイメージが沸かない、というお客様もいらっしゃるかと思います。FUJITSUコラボレーションラボでは、xR技術を活用したデモンストレーションを体験していただきながら、アイデアワークショップを開催し、プロトタイピングを行いながら、新しいソリューションや価値を創り上げていくことも可能です」(永井)

FUJITSUコラボレーションラボでは、SXを支えるソリューション提供を加速していくにあたり、PoC支援サービスも提供している。施設内のさまざまな設備を活用して5G/ローカル5Gソリューションのコンセプトや提供価値をスピーディーに検証、具現化することが可能だ。

今後もパートナー企業との共創活動をベースにしつつ、映像×AI、xR、ロボティクスなどを活用してリアルとデジタルの融合領域の強化を図りながら、社会課題解決やSX実現に向けてFUJITSUコラボレーションラボのオープン化を進めていく。

人とモノ、材料などの位置情報は
映像センシングで取得しAI分析で効率化

続いて、富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野 知行が登壇し、製造業に特化したソリューションの解説を行った。

製造業のバリューチェーンにおいて、富士通としてはスマートファクトリー、設計・製造における品質向上、市場における保守・保全業務、物流などの領域で価値を創造していくことを目指している。上野は「今まで、製造現場の設備などはIoT機器などによって稼働データを取得していました。今後はそれに加えて、製造をしている作業者や、モノ・材料などの動きがある対象についてローカル5G経由で高精細な映像を取り込み、そこからさまざまなデータ分析を行うことを目指しています」と、これまで取得が難しかった現場データを収集・活用していくことを説明した。

  • 富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部 5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野 知行 富士通株式会社 ネットワーク&セキュリティサービス事業本部
    5G Vertical Service事業部 シニアディレクター 上野 知行

また、映像データのAI分析活用例をいくつか紹介。ミリ単位で人やモノの位置を測位することが可能になると、製造や物流現場で動作するフォークリフトや港湾、空港などで利用されるトラックを安全に自動制御できるようになる。さらに、現場での人の導線や滞在時間を分析し、業務効率化や生産性向上に役立てることもできる。倉庫であれば、収納状況をデータ化したり、製造仕掛品の滞留監視をしたりするなどの用途も考えられる。

  • ARマーカーの位置を映像から瞬時に解析し、ミリ単位で位置の特定が可能。 ARマーカーの位置を映像から瞬時に解析し、ミリ単位で位置の特定が可能。

xRについては、ゲームやソーシャルメディアなどエンターテイメント領域での話題が先行しているが、富士通はビジネスを見据えた研究・開発を続けており、製造分野ではデジタルツインの拡張に役立てられると考えている。

「製造現場ではIoT機器や映像センシングでデータを取得しながら、AR(仮想現実)によってデジタルツインにメタバース情報を重ね、リモートユーザーとのリアルタイムコミュニケーションを実現できます。リモートユーザーは仮想空間上で現場の稼働状況をとらえ、現場のメンバーと対話したり、現場のロボットを遠隔操作したりするような使い方も考えられます」(上野)

製造設備と人・モノの位置関係を知ることで
原価コストを低減し品質向上へ

今回のイベントで参加者は、「5Gと映像を活用した高精度位置測位ソリューション」と「xRを活用した新しい空間の提供」の2種類のデモンストレーションを体験した。

5Gと映像を活用した高精度位置測位ソリューションは、天井に配置した5G通信対応の高精細・広角カメラによって、ARマーカーをつけた人やモノの位置をミリ単位で測位できるものだ。カメラが撮影した映像データはローカル5G通信で遅延なくエッジサーバに収集されて、AIによって分析され位置情報が出力される。分析結果は、外部システム向けにクラウドを通じて連携させることも可能だ。

製造現場でこのソリューションを活用することで、AGV(無人搬送車)の自動運転が実現できる。天井に設置したカメラ映像を分析して制御を行えるので、AGV本体にセンサーがなくても死角から人が近づいたことを検知し、AGVを自動停止させることも可能だ。AGV自体に特別なカスタマイズが不要なので、機器のコストを抑えられるメリットもある。

  • 左のモニターに映っているのが天井に設置したカメラがとらえた映像。この映像を解析しAGVを制御する。 左のモニターに映っているのが天井に設置したカメラがとらえた映像。この映像を解析しAGVを制御する。

  • ふいに死角から人が現れた場合にも、映像からその状況を予測して安全に停止させることが可能。 ふいに死角から人が現れた場合にも、映像からその状況を予測して安全に停止させることが可能。

また、製造ラインや倉庫では、運搬の自動化、製造ラインのレイアウト変更に伴うコストの低減、物品の正確な配置把握や配置の効率化などが可能になる。さらに、危険・無理/無駄を回避する「働く人にやさしい現場」を実現することによって、結果的に製造品質の向上も期待できる。

  • 5Gと映像を活用した高精度位置測位ソリューションのユースケース例。 5Gと映像を活用した高精度位置測位ソリューションのユースケース例。

生産管理系アプリケーションと連携させて、人の導線や配置・滞留を可視化し、製造現場の生産性向上につなげることも可能だ。

  • 上位アプリケーションと連携して現場を可視化した例。無理のない配置計画などが可能。 上位アプリケーションと連携して現場を可視化した例。無理のない配置計画などが可能。

距離を超えて同じ空間を共有できる
新しいコミュニケーションのかたちを提供

デジタルツインの拡張を体験できるもうひとつのデモンストレーション「xRを活用した新しい空間の提供」では、ラボ内に設置した疑似店舗と同じものがバーチャル空間にも再現され、現地にいる人とスマートフォンアプリからアクセスする人が同じ空間を共有する体験ができた。スマートフォンだけでなく、VRヘッドセットを装着して同じ空間を体験できるデモンストレーションも展開された。

  • バーチャル空間でのコミュニケーションをスマートフォンのアプリで実現。音声による会話もできる。 バーチャル空間でのコミュニケーションをスマートフォンのアプリで実現。音声による会話もできる。

  • 製造現場でのデジタルツイン拡張に応用すれば、現場と遠隔地で共同作業が行える。 製造現場でのデジタルツイン拡張に応用すれば、現場と遠隔地で共同作業が行える。

現場の声から新たなソリューション共創へ

デモンストレーション体験のあとには、質疑応答に加え、参加者とのディスカッションが展開された。

ある参加者からは、「実際の現場で、位置確認においてミリ単位の精度を求められることがある。たとえば、病院内のいろいろな部屋にある機器の見える化などに高精度位置測位ソリューションを活用できるのではないかと思った。人やモノの位置を検知する場合、スマートフォンなどのデバイスが必要な場合が多いが、ARマーカーとカメラで検知できるのは良い」との声があがった。

  • デモンストレーション後には参加者との質疑応答・ディスカッションが行われた。 デモンストレーション後には参加者との質疑応答・ディスカッションが行われた。

別の参加者からは、「今後、労働人口が減少していくという社会課題に対応しなければならない。AGVやAGF(無人搬送フォークリフト)の導入を検討しているので、高精度位置測位ソリューションを活用したデモンストレーションは参考になった。また、海外にも工場を持っているが、メタバースを活用して日本と海外で同じ空間を共有することができるかもしれない。労働力の国境越えが実現できれば、2030年問題を解決するひとつのヒントになるのではないかと思った」との声も出た。

富士通では今後も、現場におけるリアルな声をソリューション共創に反映しながら、データとデジタルテクノロジーを活用して現場の課題解決に取り組み、SXの実現を目指していく。


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