手のひら静脈認証とは 開発者インタビュー

普段は見えない手のひらの静脈、それをどのように個人認証に利用しているのでしょうか。仕組みや精度は? それによるメリットとは? そんな素朴な問いに答えていただきました。製品レベルの技術開発や応用技術研究を推し進めている開発者に、インタビューしました。

バイオメトリクス認証のデファクト・スタンダードを目指す

従来方式の短所を克服 非接触型静脈認証のメリットとは?

手のひら静脈の近赤外画像
非接触型静脈認証装置

  • 質問:
    最初に、いま脚光を浴びているバイオメトリクスについて教えてください。
  • 回答:
    基本的な仕組みについてですが、原理はこうです。まずその人の生体的特徴を、照合データとしてあらかじめ登録しておきます。照合時、新たに採取した特徴データと登録データとを比較し、その類似度を計測・判定して同一人かどうかを判断します。生体認証方式としては、指紋、虹彩、網膜(の毛細血管)、顔、手形、血管、筆跡、音声などの種類があります。
  • 質問:
    そのたくさんの方式の中で、なぜ手のひらの静脈なのでしょうか?
  • 回答:
    現時点で最も普及しているのは指紋認証です。しかし、何かの理由で指紋そのものを喪失してしまった場合、本人確認ができません。また指先は汚れや外傷、湿度による変化など環境による影響を受けやすく、指紋を登録するということに心理的に抵抗感を覚える人もいます。他の方式もそれぞれ短所があり、例えば顔認証の場合は比較的抵抗感は少ないのですが、老化による経年変化や体調によっても、本人が拒否されてしまう確率が高くなります。
    こうした問題点の多くは、それが身体の外側にあることに起因します。これに対して静脈認証は身体の内側にある特徴を利用します。一卵性双生児でも不同で終生不変、経年変化もないといわれています。とくに手のひらは、指先より血管本数が多く、体毛や色素による影響もほとんどありません。つまり環境に左右されることなく、常に一定の精度を得ることができるのです。
  • 質問:
    なるほど、改ざんの心配もなく、常に高精度で本人確認ができるということですね。他にどういう特徴がありますか?
  • 回答:
    最大の特徴は、非接触を可能にしたという点です。静脈認証は外からの干渉に対し強堅で、指紋のように盗まれたり、整形手術による改ざんなどもほぼ不可能です。ただし、運用面を考えた場合、さらに使い易くなくてはなりません。
    大勢の人が同じセンサー面に触れることに抵抗を感じる人も少なくありません。実際、衛生的にも問題があるでしょう。そのため接触型は、不特定多数の人が集まる場所や医療機関ではあまり好まれないのです。
    そこで昨年、非接触型手のひら静脈認証を実現しました。この方式は、装置のセンサー面に手をかざすだけですから、自然な動きで抵抗感もありません。これによって、より広範囲なシステムに適用することが可能になりました。

独自の認証アルゴリズム開発で非接触型を実現

ヘモグロビンの吸光スペクトル
銀行のATMの使用例
ICカード

  • 質問:
    どうやって手の静脈を認識できるのか、仕組みについて教えてください。
  • 回答:
    血液の赤い色の元になっている色素蛋白ヘモグロビンには、酸化ヘモグロビン(酸素化ヘモグロビンともいう)と還元ヘモグロビンの2種類があります。身体の隅々へ酸素を運ぶのが酸化ヘモグロビン、酸素を運び終えて、静脈を流れているのが還元ヘモグロビンです。
    赤外線が可視光より皮膚を透過し易いことは良く知られていますが、還元ヘモグロビンは、ある波長の近赤外線(波長・760nm。可視光よりやや長い波長の電磁波を近赤外線という)を当てると、光を吸収する性質があります。つまり、光の散乱・反射がないため、その部分だけ黒く映るわけです。
    この性質を利用して、まず近赤外線を照射して画像を撮影します。撮影した画像から手の輪郭や黒く映った静脈部分を点列画像のパターン・データとして記録します。次に認証時には、改めて撮影しパターン化した画像データと登録データとを照合し、ソフトウェア的に解析することによって本人かどうかを判定する仕組みです。
    ソフトウェア的には、画像解析だけでなく特徴点抽出など静脈細部の違いなどを数値化し、比較・判定するための非常に高度な認証アルゴリズムを使用しています。
  • 質問:
    "手をかざすだけ"ということですが、実際にはどう使うのですか?
  • 回答:
    まず、あらかじめその人の静脈パターンを登録します。
    センサー面に3回手をかざす簡単な操作で登録できます。片手だけでなく、両手登録してもかまいません。
    登録した静脈パターンのデータは、システム内に保管するか、またはICカードに記録してその人自身が保管・携帯することができます。銀行の ATMの場合は後者の方式です。
    次に本人確認ですが、ICカードであれば、最初にカードを装置に挿入し、あとは1回だけセンサー面に手をかざす。たったこれだけで本人確認は完了です。銀行の場合は、ここに暗証番号を組み合わせて使用しています。
  • 質問:
    百聞は一見にしかず、試してみると本当に簡単ですね。手がふらついた場合、認識に影響はないのでしょうか?
  • 回答:
    確かに、手をかざす度に位置や向きが変わってしまったり、指の間から背景が映り込んでしまうことがあります。そこで背景が映り込んでも、そこから手の位置や輪郭を正確に検出し、安定して認識・計測できるようにするための認証アルゴリズムを独自に開発しています。
    これによって、手を裏返したり極端に傾けた場合は別として、多少の傾きや位置のずれ、また1割程度の傷や汚れがあっても高精度の認証が可能です。

技術開発の積み重ねで、よりやさしいICTが生まれる

オフィスの入室使用例

  • 質問:
    試した感触ではストレスはまったくありませんが、まだ改良の余地があるのですか?
  • 回答:
    現時点における課題は、認識スピードと小型化についてです。現在の製品は、認証用デバイス(装置)は、これに画像解析と認証処理を行うためPC 1台を接続すれば使用できます。小型化するため、まず処理エンジンを1チップ化し、センサー装置も改良する必要があります。最終的には、携帯電話でも使えるようにしたい。また1秒といわず、一瞬手をかざしただけで同精度での認証ができるよう、処理スピードを向上させたいと考えています。
  • 質問:
    確かに小さくなるとより便利ですね。最後ですが、活用分野と今後の方向性などについて一言お願いします。
  • 回答:
    銀行はいち早く導入が開始され、一般のお客さまも複数の銀行で ATMや新規口座の窓口などで実際に使っていただけるようになっています。
    次のターゲットとしては、オフィスビルやコンピュータ機器のセキュリティ、そして住宅などの防犯用です。活用できる範囲は他にもたくさんありますが、比較的早い導入が期待できると予想しています。
    我々としては、小型化などの技術開発も重要ですが、そうした異なる事例を通じて実際のお客さまの声を聴取し、それを技術開発にフィードバックする。また子供からお年寄りまで、確実に精度が得られるかなど、引き続き緻密な調査を行っていかなくてはなりません。
    そうした積み重ねから、環境や人にとってよりやさしいICTが生まれると考えています。

よくあるご質問(FAQ)

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