ペプチドリーム株式会社様

創薬ベンチャーとの協業で新薬の開発プロセスに変革を

近年、まだ治療法が確立されていない疾病への対応や、より副作用の少ない薬の実現に向けて、新薬開発の潮流が低分子合成医薬から中分子医薬にシフトしつつあります。富士通は、中分子創薬の分野で独創的な技術を持つペプチドリームとの共同研究により、候補化合物の探索プロセスを飛躍的に改善。この成果をベースに、新型コロナ感染症治療薬の開発を目的とした新会社をペプチドリーム他と設立。さらに創薬プロセス全体のDXを導くための挑戦にも取り組んでいます。

富士通の先端ICTと、当社が培った知見・ノウハウの融合で、創薬プロセスに革新をもたらし、新型コロナ感染症治療薬をはじめ、社会が必要とする新薬を一刻も早く提供していきたいと考えています。

ペプチドリーム株式会社
取締役副社長
舛屋 圭一

背景

社会が求める新薬開発に向けて、期待が高まる中分子創薬

近年では、健康長寿社会の実現への期待が世界規模で高まる一方で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に象徴される新たな疾病の拡大が深刻化。こうした社会課題を背景に、製薬業界では「アンメット・メディカルニーズ」、すなわち、まだ治療法が確立されていない疾病に対する医療ニーズに対応した新薬の早期開発に注力しています。

中でも注目を集めているのが、従来の主力であった「低分子創薬」と、バイオテクノロジーを駆使した「抗体医薬」の中間に当たる、500~3,000程度の分子量を持つ「中分子(ペプチド)創薬」です。比較的、低コストで開発・製造できる上に、副作用のリスクも少なく、両者のメリットを併せ持つことから、安全かつ有効な新薬開発への期待が高まっています。

ペプチドリームは、この中分子創薬分野において、数兆に及ぶ特殊ペプチドを合成し、高速に評価できる独自技術を有しています。この技術を駆使して、有効な新薬をより早く創出できるよう、開発期間の短縮にも注力していますが、例えば低分子創薬では一般的になりつつあるシミュレーション技術も中分子創薬では適用が困難でした。

その理由は、計算すべき組合せの数が桁違いなこと。例えば、アミノ酸3個で構成される低分子の場合、その配列種類は4,200通りで、一般的なコンピュータでも計算可能ですが、これがアミノ酸15個で構成される中分子だと1,600京通りとなり、とても計算できるレベルではありません。このような課題を解決すべく、富士通がまず同社に提案したのが「デジタルアニーラ」の活用でした。

経緯

次世代のコンピューティング技術で、候補化合物の絞り込みを飛躍的に効率化

デジタルアニーラは、圧倒的な計算能力が期待されながらも、まだ実用面で多くの課題を残す量子コンピュータの特徴を、デジタル回路上で実現したもの。従来のコンピュータでは計算が難しい「組合せ最適化問題」を実用レベルで解ける唯一のコンピュータと評価されています。

富士通とペプチドリームの共同研究は、2019年9月にスタートしました。候補化合物の絞り込みを効率化するため、まずは環状ペプチドの分子配列を、その構成要素であるアミノ酸残基で括り「粗視化」。各アミノ酸残基がどの位置にあれば安定した構造になるかをデジタルアニーラで計算します。絞り込まれた結果を基に、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)を用いた分子動力学計算を行うことで、短期間でより詳細な探索が可能になると考えたのです。(下図参照)

結果として、約12時間という短時間で、実際の実験結果との誤差がわずか0.73オングストローム※という高精度を実現。新薬開発のスピードを飛躍的に高めることに加え、可能性はありながらも時間とコストの面から断念せざるを得なかったようなケースにおいても新薬開発への道が開かれることが期待されます。

※ 1オングストローム=0.1ナノメートル

図:候補化合物の安定構造探索の流れ図:候補化合物の安定構造探索の流れ

効果と今後の展望

新型コロナ治療薬開発を目指す新会社の設立と、創薬DX実現に向けた協業

こうした成果を踏まえ、富士通とペプチドリームは2020年11月、みずほキャピタル、竹中工務店、キシダ化学を加えた5社合弁による新会社「ペプチエイド株式会社」を設立しました。同社は新型コロナウイルス治療薬の早期開発を目的としており、この世界規模の課題解決に、業界を超えて取り組みます。治療薬はワクチンが行き届いた後も必要となるため、デジタルアニーラやHPC技術も適用し、一刻も早い開発を目指します。

同社設立を機に、富士通とペプチドリームはパートナーシップをさらに強化。安定構造の探索だけでなく、AIを用いた活性・物性等の予測や、研究者のナレッジの共有や研究データ活用も含めた、創薬IT基盤の構築に向けて共同で取り組んでいます。

その目的は、中分子創薬分野のリーディングカンパニーであるペプチドリームが持つ専門的な知見・ノウハウと、富士通が持つ様々な先進ICTを融合することで、世界中の製薬会社に求められるデジタル創薬サービスを創出すること。このサービスをグローバルに提供することで、世界中の人々の健康への想いにお応えしていくビジョンを描いています。

ペプチドリーム株式会社

業種医薬品
所在地日本
設立2006年7月
Webhttps://www.peptidream.com/Open a new window

[2021年掲載]

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