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On the World Stage

ACM KDD 2020カンファレンスで、「心の健康のためのAI」を切り開く

富士通研究所は、スタンフォード大学とアールト大学の2大学と提携して第1回AIデザイン国際ワークショップを開催。AIを用いたメンタルヘルスの問題解決を前進させています。

2020年10月12日

はじめに:メンタルヘルスはグローバル規模の問題

現在、世界はメンタルヘルスの観点から持続可能性の危機に瀕しており、早急な対応が求められています。4人に1人が精神疾患と診断され、精神疾患の経験がある人の割合は5人に3人以上と推定されています。世界保健機関(WHO)によれば、うつ病性障害はすでに世界の疾病負荷の第4位の原因となっており、2020年には第2位になると予測されています。この状況を受け、富士通研究所は、8月24日に開催されたACM KDD 2020カンファレンスにおいて初となる、メンタルヘルスケアに向けたAI設計をテーマとした国際ワークショップを立ち上げました。

KDDは、計算機協会(ACM:Association of Computing Machinery)の知識発見とデータマイニングに関する特別分科会(Special Interest Group on Knowledge Discovery and Data Mining)が開催する年次のカンファレンスです。世界的に高い知名度を持つACM KDDで初のワークショップが開催されたことは、世界規模で課題となるメンタルヘルス問題への対処にコンピューティングの革新が果たす役割が大きくなっていることの表れです。イベントのホスト役は、ワークショップの創始者であるAjay Chander博士(米国富士通研究所バイスプレジデント)が務めました。

富士通の目的は、世界をさらに持続可能なものにする重要な手段としてイノベーションを活用することです。その持続可能性の基本的な柱として据えているのが健康とウェルビーイングです。現在は、コンピュータを用いてヘルスケアを拡張させる取り組みの黎明期にあり、メンタルヘルス問題に対処できる新たな解決策の確立は優先的な課題です。富士通研究所は、スタンフォード大学およびアールト大学と緊密に連携しながら、示唆に富むワークショッププログラムを設計しました。

富士通は、困難な問題を解決するためにはパートナーシップが必要だと考えています。スタンフォード大学とアールト大学と連携して研究論文を募集したところ、大きな反響がありました。詳細なピアレビューのプロセスの後、技術プログラム委員会は5つの論文をプレゼンテーションのために選びました。また3名の招待講演者を迎え、テクノロジーとウェルビーイングが交わる部分や将来的な展望に関してそれぞれの立場から共有してもらいました。

心の健康とAI

現在、世界はメンタルヘルスの観点から持続可能性の危機に瀕しており、早急な対応が求められています。4人に1人が精神疾患と診断され、精神疾患の経験がある人の比率は5人に3人以上と推定されています。世界保健機関(WHO)によれば、うつ病性障害はすでに世界の疾病負荷の第4位の原因となっており、2020年には第2位になると予測されています。

精神疾患の発生率が過度に高い年齢層(14歳までで50%、24歳までで75%)は、人生の中で最もテクノロジーに接している年齢層です。この危機に対処する解決策として、テクノロジーが重要な役割を果たせるまたとないチャンスです。

現在では新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、優れたメンタルヘルスサービスの必要性が増しています。同時に、システムをデジタルで活用することでそのニーズに応える機会も高まっています。政府、医療機関、テクノロジー企業は、深刻化するメンタルヘルスの危機に世界規模で対応し始めています。

テクノロジーを用いてテキストやビデオチャネルを通じて、アクティブリスナーやカウンセラーと簡単につながれるようになりつつあります。メンタルヘルスのためのセルフケアおよび他者からケアを、テクノロジーがサポートする黎明期にあると言えるでしょう。

現在のメンタルヘルスの危機的状況は、人工知能(AI)や機械学習(ML)を用いたシステムの研究、設計、実装に大きなチャンスをもたらしており、メンタルヘルスに関する大規模な改善が期待されます。メンタルヘルスを促進するには、意識、評価、仲介、維持といった側面が必要ですが、テクノロジーはこれらすべての側面を強化できます。

メンタルヘルスの分野には特有の課題が存在します。まず、メンタルヘルスのシナリオの中には、その状況に対して何が正しいのか、専門家の間で高いレベルで合意ができていないものもいくつかあります。また、望ましい変化が起こった間の人間の表現を捕らえることから、データセットが小さかったりノイズが多くなったりする可能性があります。どのような状況下でも1つの最善策があるわけではなく、しばしば有効な対策は複数存在することもあります。さらに文化やそこに内在するダイナミズムによって、問題はより複雑です。

訓練を受けた医療従事者はたくさんおり、テクノロジーを活用して規模を拡大し、効果を高めたいと考えています。他にも、学校、職場、宗教など、地域社会を中心としたエコシステムはメンタルヘルスに重要な役割を果たしています。このような存在は、テクノロジーから恩恵を受けることができるでしょうし、テクノロジーによってその存在価値は高めることにもなります。

この分野での発展とつながりを促進させるために、ワークショップでは、産業界、学術界、政府の専門家が一堂に会し、問題や解決策、対策の道筋を解明しようと図っています。

イベント:オンラインワークショップで議論を深める

感染予防対策として、ワークショップはオンラインで行われました。論文のプレゼンテーションは事前に録画し、論文著者と招待講演者の会話にフォーカスしたライブ形式のワークショップになりました。ライブワークショップには北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアから125名が参加し、イベント後もコンテンツに多くのアクセスがありました。参加者には、世界をリードする大学、著名なヘルスケアプロバイダーやスタートアップのほか、ウェルビーイング向けのテクノロジー活用に関心の高い大企業などが含まれています。

ワークショップの議題は、研究と実践の両方の視点を反映した構成となりました。プログラムはウェルビーイングのためのAIの一般分野の紹介からスタートし、この分野にAIの可能性がどの程度存在するのかを説明するとともに、富士通研究所が行ったいくつかの先駆的な研究を紹介しました。導入部分を担当したのはAjay Chanderです。Chanderがそのまま招待講演者や研究者との会話のホスト役も務めました。

最初に登壇した招待講演者は、スコットランド政府のデジタルとメンタルヘルスの国家的リーダーであるChris Wright氏です。Wright氏は国家レベルの規模でのデジタルケアシステムの設計・導入を行った経験を紹介しました。そこではAIを用いたパーソナライズされたケアの実現が期待されています。様々なメンタルヘルスケア従事者のエコシステムを結びつけるシステムアーキテクチャを敷くことで、テクノロジーがカバーできる範囲と影響力をより増大させ、かつ継続的に改善できるようになるといいます。

ワークショップでの研究者との会話(下図緑色のハイライト部分)では、中核となる研究成果を説明するだけでなく、研究課題選択の際の論文著者の動機や将来解決すべき重要な問題について、その見解も語られました。これによって論文著者と視聴者、そして論文著者の間の対話を深めることができました。

このパートで取りあげられた研究トピックでは、自然言語処理(NLP)を用いたうつ病と孤独感の検出や、いくつかの精神状態の行動特性に着想を得た機械学習システムの構築など多岐にわたりました。また、AIによって拡張されたメンタルヘルスシステムに向けた新しい目標にも焦点が当てられました。

最後に、富士通のEVP兼人事部門のグローバルヘッドの平松弘樹が登壇し、AIと企業のウェルビーイングに対する思いと期待を述べ、同分野の今後のさらなる期待を示唆しつつプログラムを締めくくりました。

平松は、仕事の性質が進化し続ける中で組織における人間の能力を高めるためには、AIを思慮深く倫理的に設計する必要があるとコメントしました。ほとんどの組織に言えることですが、マネジメントは、従業員のケアに対して何らかの責任を負うことを内包しています。そのため、AIを用いたケアに対する個人およびマネジメント能力を強化することは、企業のウェルビーイングに良い影響を与えるベクトルになるでしょう。

最後に:メンタルヘルスの問題解決にAIの存在を示した

ここまで大規模にメンタルヘルスとウェルビーイングが失われていることは、世界的にみても大きなコスト損失を招く問題であることは明らかです。しかし同じくメンタルヘルスを大規模に改善していくことは解決可能な課題であり、解決の一部としてコンピューティング技術が必須であることも明白になっています。

メンタルヘルスのためのAIテクノロジーの研究・設計をするにあたって、私たちはあることに注意を払う必要があります。それは、メンタルヘルスの課題として直面している体験やコンテクストが非常に多様であるということ、またそれをどのようにデータで表現していけばよいのかということです。

メンタルヘルスの問題解決の歩みを進めるためには、様々なケアを提供する専門家、AI研究者、政府や政策の専門家、個人、機関の間のパートナーシップが重要になります。今回のワークショップが貢献した重要な観点の1つとして、メンタルヘルスの問題を示し、問題対処のためにAIが有望な策となることを見せ、コミュニティを刺激できたことが挙げられます。

持続可能性に向けた問題解決の重要性が高まっており、それは富士通でも中心的な使命の1つでもあります。私たちはさまざまな面でリーダーとして地域社会に貢献することを求められています。富士通はワークショップを通じてリーダーシップを発揮し、持続可能性の基本的な柱である 「心の健康とウェルビーイング」 に好影響を与えるイノベーションに向けた新しい道を切り開くことができたことを光栄に思っています。

詳細については、弊社の研究チームgood-kdd@us.fujitsu.comまでお問い合わせください。

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