研究者の夢 Researcher's Dream

働く時間を最高の体験にする

福井 琢Fukui Taku人工知能研究所

Article|2024-08-27

入社後即!研究所出向

私は富士通九州ネットワークテクノロジーズ株式会社に入社したのち、富士通の研究所に出向しました。そこで待っていたのは、人がどこを見ているかを推定する視線検出技術(*1)の開発でした。この技術は、顧客からも車の運転手の脇見運転や居眠りの検知、小売店での行動分析に使いたいという要望をいただいていました。しかし、開発の初期段階では、全く精度が出ず、非常に苦労しました。映像から瞳孔を検出することで、人が見ている方向を推定しようとしていたのですが、瞳孔は明るいところでは小さくなったり、眼鏡をかけているとレンズに光が反射して見えにくくなったりするなど、検出に多くの課題がありました。我々はまず顔を固定する器具を購入し、カメラと顔の位置関係を一定に保ちながら、一つ一つ精度が出ない原因を切り分けていきました。その結果、最終的には高精度を達成することができました。成果を様々な展示会で紹介し、顧客から良い反応やフィードバックをいただいたときはとても嬉しかったです。

研究の道に進む決意

出向が終わった後は、元の会社に戻り、日々プログラム開発の仕事をしていました。さまざまなプロジェクトを経験しましたが、その一つとして衛星画像の差分検出プログラム開発があります。山奥では、不法投棄や森林の違法伐採が行われ、自治体の関係者によるパトロールに非常に時間がかかっていました。過去の画像と現在の画像を比較することで、現地に行かずとも変化を確認でき、迅速に対策を講じることができます。私は画像の差分検出プログラム開発に取り組みました。このような主にプログラミングを行う開発業務もやりがいを感じます。しかし、未知の技術を開発することで生まれるワクワク感を感じたいのだと気が付きました。10年以上のエンジニアとしての経験を経て、研究に関わりたいという強い確信を持つようになりました。そして、私は研究所への異動を決意しました。

生成AIのハルシネーションをなくす

今、私は人工知能研究所で生成AIのハルシネーション検出や抑制について研究しています。生成AIは爆発的な進化を遂げていますが、普及を妨げる大きな壁の1つがハルシネーション(事実や確立された知識に基づかないもっともらしい誤りの回答を出力する現象)です。ハルシネーションが発生するから業務では生成AIを安心して使えない、という声を多く聞きます。例えば、生成AIに自転車に乗っている人の画像を入力し、「この人は道路交通法に違反していますか?」と尋ねたとします。AIが「違反していません」と回答しても、画像を見ると、自転車が走行してはいけない歩道を走っていたりすることがあります。このとき、生成AIがどこを見て間違った判断をしたのかを解析する必要があります。もし生成AIが自転車に乗っている人に着目していなかった場合、それはハルシネーションの可能性が高いと考えられます。私が取り組んでいるのは、生成AIがどのようにしてその回答を導いたのかを詳しく解析し、判断した根拠の検出や誤った回答をすることを抑制するための対策を講じることです。ハルシネーションの検出や抑制する技術を確立し、業務でも安心して使えるようにしていきたいです。

結果を生み出す過程に価値を置く

数年前、仕事がうまくいかず、辛い思いをしていた時に、「あなたは絶対!運がいい」という本に出会いました。内容を一言でいうと、「運は自分で掴めるもので、夢を叶えるには仕組みとコツがある」というプラス思考を教えてくれる本でした。心の持ち方ひとつで自分を変えることはできます。悪いことを考えると悪いことが起きてしまう。良いことに意識を向けることで、あらゆることが徐々に良い方向に変わります。ものの見方を変えていくだけで、明るい気持ちで過ごせることができるようになりました。この本のおかげで助けられた場面がいくつもありました。困難に直面したときに出会った本で、人生が大きく変わることもあります。

我々は豊かな社会を作るために働いていますが、その働く時間自体が豊かであるとは必ずしも言えません。多くの人々が苦労や苦悩を抱え、時には精神的な問題に直面しています。我々は結果やアウトプットの価値に焦点を当てがちですが、その結果を生み出す過程にも目を向ける必要があると考えています。たとえ同じ結果でも、その過程が楽しかったり、安心感があったりすることは大切です。良い結果を生み出すためだけでなく、働く時間を最高の体験にするためにも、関係者がどのような感情を持って業務を行ったかという観点は重要なことだと考えます。

散歩や旅行でリフレッシュ

テレワークになって運動量が減ったため、毎朝少し早めに起きて散歩するようにしました。私の住んでいる周りには田んぼがあり、四季の移り変わりを感じながら歩くことが気晴らしになり、一日のスタートにちょうど良いです。また、週末には家族と出かけたり、旅行に行ったりしています。今年のゴールデンウィークには、妻と子どもと一緒に四国に行き、ゆっくり過ごすことができました。旅行が終わるとすぐに、次の計画を立て始めるくらい、旅行が楽しみです。自分にとっての価値(健康、家族、社会貢献)を大切にしながら、研究開発に取り組んで行きたいと考えています。

編集後記

彼は、文中で触れた研究に加えて、ナレッジグラフと大規模言語モデル(LLMs)の融合に関する研究開発(*2)にも携わっている。生成AIの課題の一つは、回答の精度が低い場合があることだ。しかし、ナレッジグラフを活用したLLMsは、業務知識の関係性をよりよく理解できるため、回答の正確性が向上する。法務、金融や医療分野などにおいても、LLMsの適用が進むことが期待されている。人々は大量の文章を読み解いたり、情報を整理したりすることから解放され、より充実した生活が実現されることだろう。(技術戦略本部 白 湘一)

福井 琢
Fukui Taku
人工知能研究所
大学院 自然科学研究科卒
2010年入社
私のパーパス
働く時間を最高の体験にする

本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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