研究者の夢 Researcher's Dream

最先端ネットワーク技術の研究者が伝える、経験と成長についての重要なこと

菊月 達也Kikuzuki Tatsuya人工知能研究所

Article|2024-05-22

材料物理から通信分野への挑戦

大学では材料物理を専攻し、半日かけて物理や化学の実験をすることもありました。実験では、仮説を立てて検証を重ねたり、現象を考察し数式で表したりすることがとても楽しく感じました。例えば、ボールの軌道予測です。高校物理では紙上で計算していたことを、実際に計算通りに動くことを観察したり、計算と異なる場合にはその理由を考えたり、紙上の計算とは異なる楽しさがありました。

材料物理を選択した理由は、物理学として興味があったということと、材料の革新が世の中に大きな変化をもたらすと信じていたからです。例えば、超電導が実現すれば、世界のエネルギー問題は大きく変わり、サハラ砂漠のような場所でも発電が可能になるなど様々な可能性があると考えていました。

その考えは変わっていませんが、インターネットの普及を体感し、通信の革新が世の中を大きく変える可能性があると考えるようになりました。そのため、就職活動では材料物理の延長線上にある分野ではなく、通信分野での研究開発を希望し富士通へ入社しました。通信分野ではシミュレーションで解決できる問題が多く、結果が出るまでの仮説立案や検証を繰り返すプロセスが、パズルを解くのが好きな私にとって非常に面白いと感じました。

高信頼と省電力を実現する交戦訓練システムの開発に携わる

入社後は、交戦訓練システムの開発に携わりました。もともと医療やヘルスケア向けに開発されていた高信頼かつ省エネルギーの無線プロトコルを、敵との戦闘を想定した訓練システムへ適用することを目指しました。これまで研究所内だけで議論をしていた環境から、事業部や顧客と直接話し合う環境へと初めて飛び込んだ、私にとって印象深いプロジェクトでした。

訓練は数時間で終わるものではなく、数日間続くこともあります。そのため充電用の機器を持ち運ぶことは現実的ではなく、充電せず長時間使えることが必要です。また、訓練用の銃が発砲された場合、どちらがより早く撃たれたかを数十ミリ秒レベルで即座に判定し、実戦であれば命に関わる一瞬の出来事を正確にシステムに反映させなければなりません。無線通信を利用しつつ、省電力や遅延時間など非常に厳しい要求を満たす必要があり、具体的な要望や要件を詳細にヒアリングしました。

顧客や事業部と共同で取り組んだ技術設計がもたらす喜び

我々は、それらの要求を満たすため、必死に開発しました。省電力の課題に関しては、別のチームが開発し、遅延時間については私たちのチームが担当しました。遅延時間については、受信設計を工夫しました。無線プロトコルでは時間を区切るスロットが存在します。このスロット内で送信されたパケットは受信可能ですが、スロットの外で送信されたパケットは受信できないという設計になっています。単純な受信設計だと、受信していない時間に誰かが撃たれた場合、その間、例えば1秒や2秒の間は検知が不可能となってしまいます。そこで、我々は受信遅延を解消するために、非常に細かいスロットに分割し、送信されたパケットは、いずれかのスロットが受信できるようスロットを再設計しました。これにより、従来の1/10の遅延時間を実現しました。また、完成度としては研究レベルの技術だったため、特殊ケースを考慮した設計を取り入れるなど、実用レベルまで引き上げる開発手法を学びながら完成させました。

初めての挑戦だったとはいえ、単に学ぶだけでは不十分で、学びながら同時にアウトプットを出すことが求められ、とても大変でしたが、顧客や事業部と協力し、納得のいく基本設計を完成させた瞬間の感動は格別でした。これらの経験から、ネットワークの通信技術を通じて世の中を変えるという、就職活動時に描いていた自分の姿に近づいていると感じました。多くの困難がありましたが、目指していた姿に一歩ずつ近づいている喜びが、それらを乗り越える力となりました。

サッカーの経験から、挫折から立ち直る力を身につけた

趣味はサッカーです。幼い頃、父親や仲の良かった友人の影響で始め、今も続けています。特に忘れられないことは、高校三年生の最後のサッカー大会です。サッカー部員が受験勉強のために次々と辞めていき、今までのメンバーなら勝てそうな相手に負ける、という悔しい思いを経験しました。その悔しさが心に残り、さらにサッカーを上達させるために大学でもサッカー部に入りました。現在は、富士通のサッカー部員として活動し、週に一度は富士通の体育館で練習し、市の大会などを目指しています。サッカー以外では、家族と過ごす時間や、ゴルフや麻雀、ゲームなどで友人と時間を過ごすことが多いです。これらの時間は、心身の健康や、コミュニケーションの一環としても、非常に大切です。

前列左から二番目(菊月達也)。富士通のサッカー部員と、土日はサッカー・平日はフットサルを練習するときもある。

AIを活かしたネットワーク高度化に向けて

現在、AIを活用してネットワークを高度化するための研究開発に携わっています。ネットワーク障害は長年に渡り重要な課題であり、私も設計技術、観測技術、分析技術を通じてその解決に取り組んできました。無線をはじめとするネットワークの利用は高度化や多様化が進み、構成や要件もどんどん複雑化しています。私が目指すのは、どれだけネットワークが高度化や多様化しても、自動で障害対応可能なネットワークが実現されるような世界です。AI技術の進化を考えると、この夢が実現できる可能性を強く感じています。大規模言語モデルなどのAI技術は急速に進化しており、研究者として追いつくのは容易なことではありませんが、常に新しい技術に触れること自体が楽しく感じます。新しい技術に関わり、技術を活用して価値を提供することで社会に貢献していくことが私にとっての幸せです。

関係者からのメッセージ

菊月さんは「空気を読まずじっくり考える人」、つまり物事を先入観なく捉え深く考えられる人だと思います。これにサッカー仕込みのリーダーシップが加わって、攻守ともにバランスよくチームを引っ張る頼もしい存在になっています。(人工知能研究所 横尾 郁)

どんな難問にも必ず回答を導き出す心強さ。アイデアがぎっしり詰まったプレゼン資料は初見でとてもわかるものではないけれど、にじみ出る情熱にはいつもワクワクさせられます。夢に描いたネットワークがどのように実現されるか楽しみです。(研究変革室 二宮 照尚)

菊月 達也
Kikuzuki Tatsuya
人工知能研究所
大学院 新領域創成科学研究科卒
2010年入社
私のパーパス
家族に誇れる人生を送るため、生き生きとした世界をテクノロジーで創造する
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本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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