スマートフォンなどの一般的なカメラを使って手のひら静脈認証の登録処理を可能にする技術を開発

2023年3月3日

English

近年、店舗での決済処理やイベント会場での本人確認など、本人認証の重要性が増加する一方で、本人のなりすましや不正利用被害は非常に深刻な社会問題になっています。加えて各種ID・パスワード管理の煩雑さから、生体認証を活用したパスワードレス化が注目されています。

生体認証は、本人しか持ち得ない生体情報を利用した認証であるため、なりすましの危険が少ないという特徴があります。その中でも手のひら静脈認証は、認証精度が高く、体内情報であるため、偽造されにくいなど優れた特長を持っています。

従来の静脈認証では近赤外光を用いた専用センサが必要でしたが、今回、スマートフォンなどの一般的なカメラで手のひらを撮影した画像から、手のひらの静脈パターンを抽出して専用センサで取得した静脈パターンと照合できる技術を開発しました。本技術により、例えば、利用者がどこの場所からでも自分のスマートフォンで登録手続きして、オフィスや店舗ですぐに生体認証サービスを利用できるようになります。

従来の課題

生体認証サービスを利用するためには、前もって生体情報を登録しておく必要があります。この時、精度よく照合させるため、登録のときと認証のときで入力される生体情報に差を生じさせないように、同じ特性をもつセンサが利用されます。手のひら静脈認証でも、近赤外光を用いた専用センサを使って登録・照合するため、専用センサがある場所に行き、登録手続きをしています。

もし、スマートフォンなどの一般的なカメラで登録することができれば、自宅などで事前に手のひら静脈を登録しておくことで、より手軽に生体認証サービスが利用可能になります。
しかし、一般的なカメラで手のひらを撮影した画像は表面に見える皺などに邪魔されて専用センサのような精度のよい静脈パターンを得ることができず、静脈認証に用いることはできませんでした。

開発した技術

今回、一般的なカメラで手のひらを撮影した画像から手のひらの静脈パターンを抽出して、専用センサで取得した静脈パターンの照合を実現する技術を開発しました。

1.一般的なカメラで撮影した手のひらの画像から静脈パターンを抽出

一般的なカメラで撮影した場合、太陽光や室内照明などの反射強度に応じて濃淡をつけた可視光画像に静脈情報が含まれています。しかし、静脈が体内に存在するため、生体を透過できる近赤外光を用いた専用センサほど鮮明ではありません。
そこで、これまでの手のひら静脈認証の研究で培ってきた知見と、光の波長によって異なる手のひらの反射・浸透の特性を利用して、静脈パターンを強調する波長分解・分析を行い、複数撮影した手のひらの位置をトラッキングしながら画像を加算平均する累積加算処理を行うことで、静脈パターンを鮮明化する技術を開発しました(図1)。
この技術により可視光画像から鮮明な静脈パターンを抽出することが可能になりました。

図1 一般的なカメラで撮影した画像から手のひら静脈パターンを抽出する処理図1 一般的なカメラで撮影した画像から手のひら静脈パターンを抽出する処理

2.一般的なカメラの画像を専用センサで取得した画像に近づける工夫

一般的なカメラと専用センサの画像では、利用する光の特性以外にも差があり、とくにピントが合う距離が異なることで、撮影される画像の範囲に差異があるため、照合精度が低下することがあります。
そこで、スマートフォンの画像を専用センサの撮影画像の範囲に合うように近づける画像補正技術を開発し、精度よく静脈パターンを照合できるようにしました。
また、スマートフォンを片手に持ち、もう一方の手のひらを撮影する場合は、手の位置や傾きなどが安定せず、正確な静脈パターンの撮影が難しいことがあります。そこで、画像認識AI技術で撮影した画像から手のひらの姿勢を推定し、適切な位置・傾きになるように誘導する機能を加えることで、専用センサと同じように安定した位置関係で手のひら静脈パターンを撮影することを可能にしました(図2)。

図2 スマートフォンでの誘導・撮影画面イメージ図2 スマートフォンでの誘導・撮影画面イメージ

一般的なカメラで撮影した手のひらの画像から抽出した静脈パターンと、専用センサで取得した静脈パターンの照合を実現することで、自宅でスマートフォンから手のひら静脈情報を事前登録するという応用が可能です。事前登録が済んでいれば、店舗にある専用センサですぐに生体認証サービスが利用でき、利便性が向上します。手のひら静脈認証サービスの幅が大きく広がることが期待できます。

開発者コメント

コンバージングテクノロジー研究所 開発チームメンバー

  • 浜 壮一
    (Hama Soichi)

  • 松濤 智明
    (Matsunami Tomoaki)

  • 釜野 晃
    (Kamano Akira)

  • Lina Septiana
    (リナ・セプティアナ)

我々のプロジェクトでは、手のひら静脈認証、顔認証、マルチ生体認証など、その人しか持ち得ない生体情報を利用した生体認証技術の研究開発を行っています。今回の技術は、手のひら静脈認証の利用シーンを大きく広げ、より便利で快適な静脈認証サービスを可能にする技術です。これからも生体認証技術の研究開発に取り組み、生活の様々な場面で必要な認証を生体認証で一つにまとめる「手ぶらで便利な世界BRING YOU」の実現に貢献していきます。

今後について

今後、様々な利用シーンを想定した評価、および高精度化や機種依存性調査など実用化に必要な課題解決に向けた技術開発を進め、富士通の統合認証ソフトウェアFUJITSU Security Solution AuthConductorへの製品適用を目指します。

本件に関するお問い合わせ

contact-mobilePalm@cs.jp.fujitsu.com

このページをシェア

  • facebook
  • twitter
  • LinkedIn
  • LINE
  • Weibo

Recommend

 
 

Connect with Fujitsu Research

LinkedIn
Twitter
YouTube
ページの先頭へ