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研究者の夢

人々の暮らしを支える最先端技術を開発したい

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2022年10月25日 掲載

「体験」を「考える力」に変える

小さな頃から理科の実験の授業が好きでした。
ジャガイモのデンプンを取り出す実験などです。
学校の授業というのは大概一人で黙々と学習することが多いですが、
実験のグループワークになると、みんなでワイワイやることが多くて、楽しく過ごす時間でした。
実験では、机上の勉強とは異なり、実際に試験器具や薬品を手に持ち、
じっくりと実験の変化を観察する必要があります。
成分のように、目に見えない現象を見える化できることに魅力を感じていました。

学校以外の時間では、ミニ四駆のような小さな機械の改造にはまった時期もありました。
モーターを分解し、コイルの導線を巻き、試しながらの改良。
改造されたモノがより速く走れることは、達成感につながっていきました。

子供の頃から物事をじっくりと考えて何かを作る、試すということに惹かれてしまう性格は、
大人になっても変わらずにいます。

大学の電気工学科を選択するきっかけ

高校3年生時のある出来事。
当時、私は科学・化学への興味以外に、野球に熱中し、部活動に励んでいました。
毎日、毎瞬、何かに没頭する日々を過ごす中、
ある物理の授業中で、疲れに負け、ぐっすり眠ってしまったのです。
「こんなことしたら、単位も取れず、留年するよ!」
物理の先生が激怒した声、今時間が経っても鮮明に響くぐらい。
完全に目を覚まし、思い切り怒られた状況。
その後もちろん散々説教されたのは言うまでもありません。

しかし、その時の先生がおっしゃった次の言葉が、未来への道がはっきりせず、どこに進学するか、まだ決心できていなかった私の人生を変えたのです。
「新しい電池を作ったら産業革命を起こせる。でも化学だけでなく、物理学も勉強してください」

私は電気については興味があったものの、物理学はさほど得意ではありませんでした。
それにもかかわらず、先生のその言葉に変な対抗心が沸き起こり、「得意でないものを得意な分野に変えて見せる」という負けず嫌いが発動。
物理学を懸命に勉強した結果、電池発明とは少し離れる電気工学科に入学し、メガワット級の貯蓄容量がある電力系電池の研究をするに至ったのです。

電力エネルギー分野専攻を企業研究につなぐ

大学進学後、電気工学分野において、弱電から強電まで、
さまざまな実験を通してリアルな電気の扱い方を体感し学んでいきました。
また、電力ピークカット(*1)とピークシフト(*2)を実現する実験を、
パソコン上でシミュレーションをし、解析を行いました。
例えば、昼に多く電気を使う工場や会社の場合、
夜のあまり電気を使わない時間帯に、蓄電池などに電気を貯めておくことで、
電気料金の削減やCO2排出削減にどれぐらい貢献できるかを計算したなどです。
当初は、電力エネルギー分野での研究者を目指していましたが、
一方で、電力エネルギー分野の知見を持って、情報処理分野にも興味が湧き始めていました。

就活の年、大学の研究科に訪れた、富士通の研究所のリクルーターによる企業説明を聞きました。
富士通の研究所が環境・エネルギー専攻の研究生に向けた募集項目が、
自分がやってきた電力エネルギーデータシミュレーションに関連する点が多く、
また情報通信技術に強いところも魅力に感じ、企業研究の道を選び、入社を決意しました。

入社後に私が取り組んできた研究テーマ

入社から数年は、研究テーマがプロジェクト単位で変わるのに加え、部署と上司が総替わりになり、
柔軟な対応を求められ、苦労しました。
とは言え、研究テーマに関しては、自分の専門が何か明確でなかった入社当時に比べ、
新しいプロジェクトをやり遂げる度に自分の専門性が高まり、
やりたいことが明確になっていた感覚が味わえ、嬉しかったです。

最初は、下水道氾濫の予測検知を行う技術開発の仕事に携わりました(*3)。
ゲリラ豪雨発生時の内水氾濫の兆候をリアルタイムに検知することによって、
浸水被害対策に役に立っている開発でした。
自分の強みであったシミュレーションの知見を生かし、データマイニングの技術も磨くことができ、
できることが増えていった手ごたえを得られました。
次のプロジェクトでは、質量分析計の測定データ解析の自動化に向けたAI活用において他社と共同研究を始めました(*4)。
複雑な成分サンプルの測定データ解析には手動調整で大変でしたが、
ピークピッキングを自動化することによって、作業に要する工数と時間の削減が
期待される技術であり、研究開発の参加にやりがいを感じました。

こうして、私は人工知能技術の開発も学びはじめ、日々の研究実践に向かっていきました。

大きな転機が起こったのは2019年のこと。
海外赴任が決まったのです。場所は英国にある欧州富士通研究所(*5)。
私は大学在学の時、学会発表のため、海外へ何度も行ったことがありました。
海外の生活様式と社会習慣は日本と異なり、仕事や生活においてもはっきりした方が多いという印象で
チャレンジ要素が多いとは思いますが、自分も物事に対してはっきり意見を言う性格なので、
海外勤務について、かなり前向きでした。

この機に英語という言語に対するコンプレックスを解消したく、グローバルのトップの研究者も一緒に働けることにもワクワクを感じていました。
英国勤務の間、異常検出する画像検査AI技術の開発(*6)に携わり、
ディープラーニングに詳しい研究員から新しい技術を学べ、非常に良い経験になりました。
また、海外では研究開発から実証実験の循環スピードが非常に速いのです。
研究開発の実証実験の結果が分かり次第、次の仮説に進められることが、研究の大きなモチベーションでした。

ワクワクすることを突き詰めること

英国勤務を終えた現在、私は米国富士通研究所(*7)でソーシャルデジタルツイン(*8)の開発を担当しています。
現実世界のデータを、デジタル世界上でリアルタイムに再現、分析、予測することで可視化。
交通規制、車両、人の移動状況などの実態を把握することで、
CO2排出、交通渋滞、経済効率などの複雑な都市問題の解決に向けた
実証実験に適用したいと考えています。
ソーシャルデジタルツインの適用は、人々の暮らしを改善するでしょう。

私は研究者として、好奇心を持って貪欲に前進することが重要だと思っています。
試作から失敗を繰り返す研究過程の中で、少しずつ目標に近づけた時の喜びが、
自分を支えている大事なモチベーションです。
世界トップのカンファレンスで、超一流として最先端技術開発成果を出し続けられることはもちろん、
イグノーベル賞のような、人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究受賞は、私の目標の一つです。
自分が生涯で貢献したい研究を突き詰めて、自身の開発したモノが世界に革命を与えること。
そのために、ワクワクの研究開発に終止符を打つことなく、前に進みます。

樋田 祐輔
Hida Yusuke
コンバージングテクノロジー研究所
大学院 環境・エネルギー研究科卒
2014年入社
私のパーパス
「ワクワクする好奇心に素直に」
趣味は料理を作ること。献立を立てることが得意で、主菜メニューからお菓子作りまでチャレンジしてきました。最近では小麦粉から作るうどんの手打ちにはまっています。また、休日はブロックチェーンゲームを作ることが多いです。

編集後記

編集担当:コミュニケーション戦略統括部 白 湘一

彼が英国の赴任後、暫く経って新型コロナウイルスが蔓延し始めた。
特にヨーロッパではロックダウン政策を実施し、1年間もロックダウン経験をしたという。
大変だった1年だろうと聞いたら、
「いいえ。自分のやりたい研究についてじっくり考える時間をいただいた。
リモートワークのおかげで、童心に返り、研究に没頭できる楽しさを毎日感じたようだった」
彼の答えには迷いがなかった。研究が大好きな気持ちが、言葉に潜んでいた。

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