お客様とともに創る
VRデザイン

掲載日 2018年12月19日



デザイナーが目指したのは、
「リアル」を変える「バーチャル」な体験

当社のVR(バーチャル・リアリティ:仮想現実)のあゆみ

デザインセンターにおけるデジタルデザインへの本格的な取り組みは2010年にスタートしました。当初は3DCADデータ有効活用の一環として3DCG制作を行い、社内デザインレビューに用いていましたが、関係者から実物撮影と遜色のない高品質な表現と、自由度の高さや時間コストが認められ、2012年より製品カタログやWEB上でのCG使用が開始されました。

デジタルデザインの有効性をさらに広げる手段として私たちが着目したのがVR技術でした。初めに取り組んだのは、大型製品(サーバやATM、POS)を対象としたユーザビリティ評価のためのバーチャルモックアップ制作です。当時はHMD(ヘッドマウントディスプレイ)も出始めたばかりで、コンテンツ制作やハードウェア設定の最適解が得られていなかったため、試行錯誤を重ねつつ、評価に使えるレベルの体験を実現しました。

結果として、お客様にリアルな使い勝手を体感していただきながら製品の説明を行うことが可能となり、VRデモにより得られる効果、ビジネス優位性を富士通社内にも浸透させていくことができました。

求められるのはビジネスの現場を変えるバーチャル体験

2016年はゲームやアトラクションなど多くのエンターテインメント系のVR/ARが世の中に登場し、「VR元年」と言われました。翌2017年は「VRビジネス元年」として、VR/ARの一般ビジネスへの活用が脚光を浴びました。

富士通でもVRのビジネス活用への関心が高まり、さまざまな業種のお客様に向けたVRデモ制作の相談が営業部門から私たちデザイン部門に持ち込まれるようになりました。

一方で、これらの多くの対応を進めて行く中で分かったのは、「VRを使った新しい製品・ソリューション」という提案型のアプローチでは、お客様からVRの価値や効果を認めていただけず、課題解決や事業創造につながる実効性の高い手段とは見なされにくいということです。

デザイナーだからこそ提供できる価値

デザイナー自らがお客様の現場を知り、目的や悩みを明らかにし、ありたい姿を描き、解決方法を一緒に考える。このような一貫した共同プロセスからなる提案活動は、既存のVR開発企業やエンジニア、コンサル系企業では実現しにくい、私たち独自の価値と考えています。

また最終アウトプットであるVRコンテンツの提案から制作においては、体験ストーリーやシーンをビジュアルに落とし込むことにより、関係者間で目標イメージを共有し進められるようにしています。さらに細かな配慮や知見に裏打ちされたUI(ユーザーインターフェース)開発や、空間、物体の表現を微細にコントロールできるのもデザイナーならではの強みと言えます。VRやARは立体をプログラムに変換するデータ処理の世界のように捉えられがちですが、そこにデザイナーの創造性や表現力が発揮されてこそ、リアルで操作しやすく、人の感覚に訴えるバーチャル体験が実現するのです。

ビジネスで広がるVRの活用例

①高所作業体験VR

某通信会社様からのご依頼で、鉄塔での高所作業を擬似的に体験できる教育コンテンツとして開発しました。お客様の課題は「教育効果の向上」です。高所作業の実際の現場は狭く、高いところにあるため、大勢で行くことができず、これまでの訓練は動画を見て学ぶだけでした。そこでより教育効果を高めるため、仮想空間内に3Dで現場を再現し、VRで作業訓練を行うソリューションを提案し、採用いただきました。

VRの作業訓練では、没入型HMDを装着し、仮想空間内で事故要因になり得るいくつかのタスクをゲーム感覚でクリアしていきます。付帯したデバイスで検知したプレイヤーの手足の動きをVR空間内に表示することでリアルな没入感を演出し、より体感的に安全な作業手順を学ぶことができます。

高所作業の体験イメージ

②農作業手順教育VR

ベテランが退職していく中での技術継承の問題を解決するために開発されたコンテンツです。農場で熟練者が作業している様子を180°の実写映像で見ることができます。既存の動画資料では伝えづらい熟練作業者のテクニックを臨場感のある映像で追体験し、技術を習得しやすくする効果を生み出しました。人間の頭部に響く音響効果を再現できるバイノーラル録音を導入し、映像だけでなくリアルな音場も体験できます。

農作業手順教育の体験イメージ

③美術館・博物館向けVR

将来に向けた提案デモとして、美術館・博物館の収蔵品をデジタル化しました。3Dディスプレイから仮想的に展示品をつかんだり、自在に拡大・縮小したり、回したりしながら閲覧を楽しめます。またHMDと異なり軽量な専用メガネを装着するだけなので、VRにありがちなデバイス自体の重さ、コードが絡まるといった煩わしさが軽減できます。

美術館や博物館で実際の収蔵品を手に取ってまじまじと観察することは様々な点からたいへん困難です。しかしこのコンテンツを活用すれば、精巧に3D化したモデルを好きな角度で観察することができます。この特徴を活かして、研究や教育といった分野で活用できると考えています。

美術館・博物館収蔵品の閲覧イメージ

様々なスキルが合わさるということ

2010年当初は1人で始めたデジタルデザインでしたが、7年を経て気が付くと、メンバーが7人に増えていました。3Dモデリング、コーディング、グラフィックデザイン、UIデザイン、プロダクトデザイン等、元々は異なる専門分野のプロフェッショナルから構成され、それぞれの得意ジャンルを個々に活かせるユニークなチームになっています。また様々な人材やスキルが合わさることで今までにないシナジーが生まれ、多様な視点や価値観から新しいユーザー体験を考え、プロトタイプで実際に体感できるようにするなど、誰もやったことのない新しいことをどんどん試せるクリエイティブな環境になってきたと思います。

当社のデジタルデザインチームは、これからも『デザイナーならではの視点と多様なスキルによる新しいバーチャル体験をお届けする』ことを目標に日々進化し続けてまいります。

サービス&プラットフォーム・デザイングループ板野 一郎
 山岡 鉄也
 佐伯 眞人
 指田 亮介
 鳥山 洋平太
 松井 実
株式会社 富士通アドバンスドエンジニアリング高木 千晶

(注)部署名・肩書は取材当時のものになります。

(左から)松井、板野、佐伯、山岡、鳥山、高木、指田
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