2017年1月4日掲載
2016年度から、いよいよ本格的な運用開始となったマイナンバー制度。その狙いとなっている事務の効率化や住民への行政サービス向上は実現されているのでしょうか。また、今後へ向け課題があるとしたら、どのような点でしょうか。
そこで、市町村をはじめ、行政部門で各種業務システムを企画・開発した豊富な経験がある当社開発担当部長の八木橋と、公共部門のITコンサルタント本保氏に話を聞きました。
本保 氏: 公開されている公営住宅の募集要項を調べてみました。そうすると、大きく分けて二つの選択をされていることがわかりました。
一つ目は、主に市営住宅の申込み用紙に、「マイナンバーを記入することで住民票や所得証明書の添付が不要になります」と記載されており、また、その本人確認の身分証明書としてマイナンバーカードの提示が示されていることがあります。
つまり、申込み用紙に本人がマイナンバーを記入することにより、紙の住民票や所得証明書を窓口で取得することが不要になるということです。
株式会社富士通総研
第一コンサルティング本部
公共事業部
本保 勝義 氏
富士通株式会社
行政ビジネス推進統括部
担当部長
八木橋 亮雄
八木橋: 「本人確認」の場面で運転免許証などの写真付き身分証を持っていない方が、その代わりとしてマイナンバーカードを利用するという例ですね。
金融機関に口座を開設するときなどにも、写真付きの身分証が必要なのですが、マイナンバーカードで証明ができます。特に今後、高齢者が運転免許証を返納するケースなどが多くなると考えられますので、マイナンバーカードのニーズは高まるかもしれません。
本保 氏: 二つ目は、都道府県営住宅の申請書類には、「マイナンバーが記載されていないこと」と明記されている例があるということです。 番号利用法では、公営住宅の業務は「マイナンバーを求めたり、参照ができる部門」(別表第二)とされており、実際にマイナンバーを扱うかは各自治体に委ねられています。そのため、この部門では「マイナンバーを取り扱わない」という判断をしたということです。
また、ある県では、住宅供給公社を指定管理者としており、県営住宅と市営住宅の募集を同時に実施しています。
この募集要綱の説明には、「マイナンバーを記入すること」と書いてあるので、この県の公営住宅部門では「マイナンバーを取り扱う」という判断をしたことを指しており、指定管理者にて県・市の担当職員と同等にマイナンバーの取り扱いが可能であることを示しています。
しかし、このようなケースはまだ少なく、県・市で同じ指定管理者であっても県側では「マイナンバーを取り扱わない」としている場合が多いように思えます。 そうすると、同じ指定管理者であっても県営住宅へ申込みたい住民は、居住している市町村に出向いて住民票(マイナンバーなし)等の証明書を取得するために二箇所の庁舎窓口に赴く必要があります。
【マイナンバーを取り扱わない県営住宅申込み例(住宅所在市で受付しない場合)】
住民にとっては、従来と同じなので、行政サービスのレベルが低下したわけではないのですが、せっかくのマイナンバー制度を活用しきれていないのはもったいない気もします。
住民にとってサービスレベルが向上したという実感は、三枚必要であった証明書が一枚になるというよりも、証明書を0枚にして初めて得られるところがあります。また、枚数に関わらず証明書の添付が必要になれば、県や市の職員の方も発行手続きは依然としてあり、行政側としてもマイナンバー制度のメリットは実感できないのではないでしょうか。
八木橋: 募集業務に関して言えば、公営住宅業務の特性として、事前に入居が可能なのか問合せや相談を受けることも多く、その場で入居可能な住宅に申込むこともあります。
この際に、「先に住民票や所得証明書を入手してきてください」とすると、収入が上限を超えている等で入居資格がないと判明した時点で、無駄な発行手数料を取られたというクレームになることも考えられます。
マイナンバーを使い住民票や住民税への照会ができるようになれば、このようなことはなくなり、双方にメリットがあると思われます。
八木橋: まず医療分野への利用が重要なポイントになると思われます。マイナンバーカードが現在の保険証の代わりに使えるようになれば、皆が持ち歩くようになり、利用場面は格段に広がります。
一般的に、マイナンバーカードを持ち歩くと、紛失したり読み取られたりすることで情報が漏れるイメージが強く、抵抗を持たれる方が多いように思われるのですが、一旦視点を変えて、保険証や運転免許証のことを考えてみましょう。病院に通うときには、「保険証を月一回は提示すること」になっており、小さい子どもがいる家庭では頻繁に保険証を持ち歩いていると言えるでしょう。また、日常的に車を運転するような現役中堅世代は言うに及ばず、本人確認のために運転免許証を持ち歩いている人も多いはずです。
しかし、これがマイナンバーカードになると、「記載されている番号が漏れると大変なことになる」という思い込みが強く、転じて「持ち歩くのが危険なもの」になっているように思えます。冷静に考えると、運転免許証や保険証にも住所、氏名、生年月日という個人情報が読み取れるように記載されているのは同じですよね。
本保 氏: 意識的に、多少危なくても日常的に運転するとか通院で必要になるという必然性や、ポイントカードのようにメリットが感じられれば、積極的に持ち歩くようになるということですね。この「慣れ」こそが、マイナンバー活用を拡大させる鍵になると考えられます。
八木橋: だた、それでもどうしても危なくて持ちたくないという人はいます。それならば、スマートフォンの「おサイフケータイ」®(注)のように、マイナンバーカードの情報が直接的に見えないような仕組みを提供するのが良いのではないでしょうか。それなら本物のカードはしまっておけば良く、スマートフォン内の情報は、スマートフォン自体のセキュリティで保護されることになります。
また、マイナンバーカードの利用は、保険証以外にも、図書館や公共施設の利用カードや、税の還付をポイントでマイナンバーに還付して、地域通貨として商店街で使えるように連携していくなど、ますます使い勝手がよくなる見込みです。
本保 氏: 日常的に持ち歩くということで言えば、医療面でもニーズがあると思われます。急病で倒れたときの住所がわかるという他に、例えばアレルギーを持っていることや病歴がマイナンバーカードと紐づいて取得できれば適切な治療を行うために役立ちます。
防災面では罹災証明の発行等に必要な行政手続きが簡略化できる可能性があります。また、大規模災害で避難所への避難者にどのようなアレルギーを持った人が何人いるかが容易に集計できるため、アレルゲンフリーの配給食を効率よく届けることが可能となり食品廃棄を減らすことにも役立ちます。
八木橋: マイナンバーカードを取得するには、市町村の窓口に何度も行くなど面倒なイメージがあるかと思いますが、マイナンバーカードの一回目の申請は、誰でも無料です。
申請する手段は、街角にある証明写真機からもできます。申請可能な証明写真機には、マイナちゃんのマークが貼ってありますから今度注意してみてください。
また、ネットからの申請もできるようになっており、写真はスマートフォンで撮ったもので可です。今後、スマートフォンで申請したマイナンバーカードを同じスマートフォンに取り込める機能があれば、もっと申請者が増えるかもしれません。
本保 氏: 最近は、公営住宅でも一階部分を要介護者や高齢者向けと決めて、手すりや車いす用のスロープをつけたりする傾向にありますが、その一方で、長年居住している方が要介護者や高齢になり、住み慣れた部屋に手すりを設置したりバリアフリーにしたりするため介護制度や補助金制度を利用する場合が多くなっています。
しかし、要介護者や高齢者には、何度も市町村の窓口に足を運んで申請処理を行うことへの負担が大きいため、将来的にはマイナンバーカードを活用して社会福祉法人や近隣にある行政機関からでも窓口と同等の申請処理を行えるようにすることが求められると考えます。
八木橋: マイナポータルが整備されると、場所を問わずに行政からのお知らせを見たり、申請処理ができたりするワンストップサービスが拡充されることも追い風になりますよね。
本保 氏: マイナポータルでは、まずは子育て等の福祉関係をターゲットとしているため、公営住宅まで業務が拡大されるには、まだ時間がかかると思われます。また、要介護者や高齢者が一人でシステムを操作できなければ利便性の向上にならないため、公営住宅内に併設されている社会福祉法人や医療機関の職員が申請の補助を行うような体制の構築も重要だと思います。
八木橋: 公営住宅内には、比較的元気な高齢者も多くいます。地域内限定のサポート要員として保育所や学童保育で雇用され、対価を地域内通貨としてマイナンバーカードで受け取り、地域の商店の支払いに使用できるようにするといったことで、高齢者の生きがい作りや地域内の経済活性化を同時に行うというのはどうでしょうか。
(注)「おサイフケータイ」®: NTTドコモの商標登録です。
対談者情報:
株式会社 富士通総研 第一コンサルティング本部 公共事業部 本保 勝義 氏
富士通株式会社 行政ビジネス推進統括部 担当部長 八木橋 亮雄
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