事例にみるスマートファクトリー最前線
~導入成功のポイントは、IoT化した工場の見せる化~

製造現場の機器・設備をIoT化し、統合的に最適化することで生産性を高める先進的な工場「スマートファクトリー」。現在進行しつつある第4次産業革命のカギとして注目を集めています。自社工場のスマートファクトリー化にチャレンジし、成功した2社の事例を紹介します。

「見える化」を進化させた「見せる化」の取り組み

脱炭素社会の実現に向け長期ビジョン「Challenge ZERO 2055」を掲げる大和ハウス工業。徹底した省エネ対策と再生可能エネルギー活用により、会社創立100周年に当たる2055年に、事業活動での排出ガス(CO2)を2015年度比70%削減することを目指しています。同社工場部門の取り組みの軸は(1)材料・工法の改善、(2)生産設備の省エネ、(3)自然エネルギーの利用、(4)情報の活用、(5)人・組織の強化—の5つ。このうち「情報の活用」を主として取り組んだ省エネ・モデル工場である九州工場(福岡県鞍手町)での取り組みを、同社生産購買本部生産部安全・施設・環境管理グループ主任技術者、船田陽一氏が紹介しました。

住宅の屋根や壁、床、鉄骨製品の部材などを生産する九州工場では2005年から本格的に省エネ活動を開始。材料や工法の改善を行い2008年度には、排出ガス量を2005年度比で46%削減していました。船田氏は「この頃、やり尽くした感が出始めて、同様のアプローチではこれ以上の改善が見込めないという雰囲気になりました。そこで工場内に電力センサー等を多数設置して、得られたデータを活用する『見える化』の取り組みを開始しました。省エネプロジェクトチームを結成し、情報を共有することで生産設備の無駄が多数発見され、さらなる省エネを進められました」と、情報の活用が省エネ活動停滞の壁を打破したことを強調しました。

これは、「見える化」から得られた情報をプロジェクトメンバーで共有したことが改善に結びついたと考え、更なる効果を出すには情報共有範囲をもっと拡大する必要があると判断しました。また、自然災害や労務環境データや設備トラブルなどの情報も共有したいという工場のニーズにも対応する必要がありました。同社はこれらの課題解決のため、富士通の「Intelligent Dashboard」を取り入れ「D's FEMS(工場用エネルギー管理システム)」を開発。工場の事務所内に設置した70型の大型モニターに、リアルタイムデータを常時表示することで積極的な「見せる化」ができるようになりました。D’s FEMSはエネルギーだけでなく、防災、労務環境、生産データも監視対象としているので、工場の組織全体で改善活動に活用されています。

大和ハウス工業株式会社
生産購買本部 生産部
安全・施設・環境管理グループ
主任技術者 船田 陽一氏

[図] D’s FEMSの概要

[図] D’s FEMSトップ画面

データは共有範囲が広いほど大きな効果につながる

エネルギーデータの活用事例ですが、導入前は、見える化で電力量計を設置したものの、PC閲覧のため環境担当者だけしか活用していませんでした。導入後は、常設大型タッチモニターで多数のデータを表示することで、工場長や責任者や現場のライン長まで閲覧するようになり、さらに、省エネヒントツールを使う事でデータ分析の知識がなくても、問題点を発見出来るようになったことが大きな成果につながりました。
たとえば、省エネヒントツールの表示が「集塵機No.2は、類似の集塵機No.1と比較し、No.2の電力量が多いので、インバーターの設定値の見直しを検討すること」とでた時に、集塵機No2を分析の通り、インバーター設定値を見直したことで、59%削減ができました。
また、最大電力量(デマンド値)を1週間及び当日の値を予測することが可能となり、予測データを、朝礼等で工場全体に周知することで、あらかじめ機器を停止させるなどの対応を行うようになりました。その結果、デマンドオーバーを抑制しています。

防災対応では、天気予報や現場の感覚で気候状況を判断していましたが、近年の局所的な気候変動の対応が難しくなっていました。導入後は、設置した雨量計や風速計や温湿度計から得られたリアルタイムのデータから適宜アラームを出すようにしました。防災データを工場全体で共有することで、風速アラーム時には、シートシャッターの破損防止対応を実施、熱中症警報時には、警報発生ラインに対しピンポイントでの対策を打つことが可能になりました。また、気づきにくかった無人設備での異常発生も確実に検知できるようになり、発見遅れによるリスクを低減しています。更に故障データ等を層別し計画的な保全も進めています。

システム導入の成果を数字で見ると、節電・省エネの2017年度実績として、デマンド値の売上高原単位が2013年度に比べ21%削減、CO2排出量の売上高原単位が同年度に比べ19%削減を達成。省エネ投資回収年数は3.8年となっています。防災面では、2017年度の設備アラームの発生時間が2013年度に比べ92%減り、2013年度から2017年度までの間、監視対象設備の被害発生と従業員の熱中症発生はありません。

船田氏はスマートファクトリー化を振り返り、「計測データは、工場全体で共有し、積極活用することが重要で、データの共有範囲が広ければ広いほど得られる効果は大きくなります。停滞していた省エネ活動がD's FEMSの導入によって活性化し、更に、リスク低減の成果も生まれています。また、先進的な取り組みとして社会の注目を集め、工場への見学者が増えたことで、事業展開の支援につながっています」と語りました。

「仮想工場」を最適化して結果を「実工場」にフィードバック

続いて、富士通テレコムネットワークスのスマートファクトリー化です。最新テクノロジーが実装された最先端の通信機器から20年物のレガシー装置まで幅広く製造しており、通信機器特有のアナログ特性の調整作業などの特殊な作業が多いことや、製品ごとの組み立て工数の差が大きいことに加えて、時期によって作る製品の種類・量が変わる『変種変量生産』を特徴としています。同社生産技術統括部AI技術推進室長 舞田正朋氏は、この「変種変量生産」をスマートファクトリー化で効率化する仕組みづくりを次のように紹介しました。

「当社では工場での生産性を上げるために、変化に柔軟に対応できる『スマートものづくり』を押し進めています。製品、作業者、設備に関わる様々なデータを吸い上げて蓄積・活用し、過去、現在、未来にわたってデータを可視化。さらにAIなどを活用してサイバー空間の『仮想工場』で最適化した結果を『実工場』にフィードバックして生産性を向上させる『CPS(サイバー・フィジカル・システム)』を構築しています」。

CPSの主な機能は(1)現場からリアルタイムのデータを収集して現場、マネージャー、経営視点で見える化し、新たな気づきを得て現場を改善・ブラッシュアップする『可視化の機能』、(2)可視化データを使ってAI・数学的手法で現場運用の最適化を行い、現場へタイムリーにフィードバックする『最適化の機能』です。重要なのは仮想工場と実工場をシンクロさせ両者一体で改善に取り組むという姿勢です。

具体的には、MES、ERP、PLMなどのシステムで扱うデータだけでなく、作業者、設備や各種センサーから得られるデータなども併せて一元的に集約して可視化しています。作業者データとは作業動線や作業中の手の動きなどの大容量データで、大容量・低遅延に加え、切れることなくデータ収集可能な特殊な無線を介してリアルタイムに収集しています。可視化にあたっては、縦軸に手間の短縮や品質向上といった「目的」、横軸に「工程」を配するマトリクスを作り、目的を持った可視化コンテンツをリストアップした上で、コンテンツ開発を段階的に進めてきました。重要な点は、現場、マネージャー、経営視点で多角的に各種データを可視化することです。これにより、視点毎の多様な気づきを得ることができ、迅速にかつ適切なアクションを起こせるようになりました。

富士通テレコムネットワークス株式会社
生産技術統括部 AI技術推進室
室長 舞田 正朋氏

[図] 富士通テレコムネットワークスが考えるCPS機能

良質な現場でなければ良質なデータは得られない

製造工程での最適化では、製造ラインが実際に稼働する数カ月前から段階的に実施するライン構築、人員調整、作業割り当てなどの生産準備において、AIや数学的手法を使い生産性の最大化を目指す「事前最適化」を行います。これに対して、事前に最適化した理想の運用と実際の運用に生じるギャップを埋める最適化が「リアルタイム最適化」です。この2つの最適化をCPSが担っています。この最適化を進めるにあたり、縦軸に最適化の時期、横軸に工程を置く「最適化マトリックス」を作り、各工程でどのような最適化をするのかを明確にした上で最適化を進めてきました。重要なことは「今日の最適化は明日の最適化とは限らない」ということ。状況変化への機敏な対応が必要となるので、現状だけではなく将来予測される状況も可視化して、常に最適環境を維持するようにしています。

同社のラインでは、変種変量生産における生産性をあげるために、組立工数が大きく異なる製品の「混流1個流し」を実施しています。混流ラインでは、工数差を埋めるために「2個の工数の小さな製品を1個ととらえる」「1個の工数の大きな製品を2個ととらえる」「工数が多い製品が連続して流れないようにする」などの工夫が必要となります。事前最適化によって流す順序を適宜組み替える仕組みを導入し、生産性を最大化しています。しかし設備をセッティングするタイミングや作業時間のばらつきなどで計画通りにいきません。そこで、ラインから収集した様々な情報から問題の発生を予測し、予め対応する担当者を現場に待機させるなどの対応で現場を制御しています。

舞田氏は「仮想工場と実工場の融合の取り組みを通じて、良質な現場でなければ良質なデータは得られず、まず実工場の態勢がしっかりしていることが重要だと実感しました。可視化によって社内の多くの人がデータを見られるようになり、現場以外の部門から知見やアドバイスをもらえるようになりました。それが新たな価値を生み出す源泉となっています。現在はものづくり領域に限定した形でCPSを活用していますが、いずれは開発、サプライヤー、お客様、フィールドにまで活用領域を広げて、さらなる生産性向上、新たな価値創造に取り組んでいきたい。また、CPSをより広げていく上で、他のシステムと連携しやすくセキュリティも確保されている富士通のものづくりデジタルプレイス『COLMINA』も活用していきたい」と今後の展開を語りました。

大和ハウス工業と富士通テレコムネットワークスは、スマートファクトリー化を成功させ、素晴らしい成果を得ています。それぞれアプローチは異なるものの、収集し見える化したデータを、現場の担当者から経営陣まで多角的に使えるように社内全体に見せる化している点が共通しています。これがスマートファクトリーで成果を得るための、重要なポイントなのではないでしょうか。IoT化で現場だけではなく、全社的に分析をして改善していくデータ活用が、製造業の最前線なのです。

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