賢く開業するための7つのステップ
~患者から選ばれるために~
掲載日:2025年3月7日
厚生労働省の統計調査「医療施設調査」によると、一般診療所の施設数は年々増加傾向にあります。その中でクリニックの経営も非常に多様化、複雑化してきています。人口減少、都市と地方の格差が社会問題となる中、開業医の先生は以前にも増して、地域特性の把握や専門性の高い診療など、高い経営意識が求められるようになってきています。
そのためにも、新規開業する際は、将来を見据えた計画と意思決定が必要です。ここでは先生方のスムーズな開業のために、必要な準備とポイントを、下記の項目に絞って解説していきます。
1. 開業地選択
開業地の選択は、開業後の患者数にダイレクトに影響しますので、最も重要な意思決定の一つです。事前にしっかりとロケーション調査を行い、先生のコンセプトにあった場所を選択しましょう。
開業地選択のポイントとして、(1)周辺環境 (2)対象患者の年齢層 の2つが挙げられます。周辺環境は、住宅街、商業地域、オフィス街、幹線道路沿いなど様々です。また、その周辺環境ごとに患者層の特徴も変わってきます。下記に例として住宅街、商業地域の特徴を挙げます。
住宅地と商業地域の特徴
- 住宅街:昼間人口が少なく、人口の流動性が少ない地域です。その地域の子供や高齢者が中心で、診療時間帯によっては帰宅途中の会社員なども患者として見込めます。そのため、地域密着をコンセプトにされたい先生に合っています。ただ、特性上診療圏があまり広くとれないこと、居住人口の影響を受けやすいこと、などを注意しなければ いけません。
- 商業地域:商店街やモールなど、地域住民が集まる地域です。訪れる住民の年齢層や生活スタイルを把握し、それに合った特徴を打ち出すことができれば大きなアドバンテージとなります。注意点は、周辺に住宅が少ないため、かかりつけ医になりにくいことです。診療科目によっては、一定の患者さんに定着してもらうことも重要であるため、 その点を考慮した上で選択しましょう。
上記のような特徴を加味し、希望の地域を絞ったら、診療圏分析を行いましょう。診療圏分析とは、開業候補地の周辺(半径0.5~1km程度)において、年代別人口分布や競合となり得るクリニックの存在を考慮し、どれほどの患者数が見込めるかを分析することです。この分析を基に、最終的にご自身が想定している診療ができそうか検討し、開業地を決めます。
2. 事業計画、資金調達
開業後は事業計画を立て、その計画を基にいくら資金が必要か検討します。クリニックの事業計画は、その診療科の平均診療単価×予想患者数で計算した収入(医業収入)、医薬品や検査委託の費用(医業原価)、スタッフの給料や水道光熱費などの経費(販売費・一般管理費)、先生家族の生活費、税金などを考慮して策定します。
収入については、まず診療圏分析から算出した予想患者数を基に、妥当なラインを割り出します。そこをベースとして、先生のスタイルやご希望に合わせた目標値を定めます。支出については、毎月の経費に加え、開業時は医療機器や内装工事などの初期投資が必要です。どれくらいの収入で、どれくらいの支出であれば、先生の求める経営ができるのか、もしくは先生ご自身が生活していけるかをシミュレーションしましょう。
必要資金額の見込みが立ったら、資金調達方法を考えます。自己資金を準備する、外部から紹介を受けた金融機関から借入れる、公的金融機関を利用する、ご自身で金融機関と交渉する、などです。借入をする場合は特に合理的な事業計画の策定が大切ですので、専門家と綿密に打ち合わせを行いましょう。
3. 内装設計、デザイン、建築施工
個人事業主としての新規開業は、テナント開業の場合が比較的多いです。テナントの契約をしたら、内装工事をする必要があります。数千万円単位の出費となるため、予算が気になるところではありますが、今後20年30年と使う可能性がある場所ですので、まずはご自身が理想とする医院のイメージを盛り込んだ設計にします。その後、医療機器の配置や、患者さん、スタッフの動線など実務上の問題をクリアにし、最後に予算と照らし合わせながら交渉を進めていきます。
内装工事については、医院建築やデザインの実績がある業者が望ましいです。特に医療機器の配置や診察室の設計などは、事例が豊富な業者の方が、先生の希望に柔軟に対応してくれます。
また、工期については業者側が管理していますが、先生側の開業希望時期と齟齬がないよう、現場担当者と連絡を取り合い、適宜進捗を確認しましょう。
4. 医療機器、什器備品の選定
診療科目、専門分野によって必要な医療機器の種類や数は異なります。しかし、購入の上で考えるポイントは共通しています。
4-1. ターゲット層の医療ニーズ
開業地を決める段階で、どのような患者層にどのような医療を提供するか、ある程度イメージを立てられたかと思います。その地域や年齢層を考え、必要な医療機器であれば、金額によらず購入する価値はあります。
4-2. 配置場所、配線
実際に購入した場合をイメージし、大きさやケーブルの配線について考慮しておく必要があります。部屋の大きさや動線などの要素も絡むので、内装工事と一緒に計画をしていくのが良いでしょう。
4-3. ターゲット層の医療ニーズ
医療機器の購入形態は、一括支払い、分割払い(ローン)、銀行融資、リースなどがあります。どの形で導入するかは、その医療機器の必要度や先生ごとの資金事情によって変わります。設備投資の際は、最低でもキャッシュが底を尽きないよう、無理のない計画で導入することが必要です。
医療機器と関連するカルテについてですが、新規開業される先生方は電子カルテを選択されるケースが多くなっています。ペーパーレス、レセコンとの連携による負担軽減など様々なメリットがある電子カルテですが、商品の選定にあたっては、特に「導入のしやすさ」と「サポート体制(導入後の安心)」が大きなポイントです。機能が複雑すぎて逆に時間をとられてしまっては本末転倒です。分かりやすく、直感的な操作が可能なものを選ぶと便利でしょう。
さらに、最近ではクラウド型の電子カルテも増えています。初期費用を抑えられ、バージョンアップや診療報酬改定にもほぼ自動で対応してくれるなど、システム管理工数も削減できるということで、特に注目されています。
国としても医療DXを掲げ、最近ではオンライン資格確認システム(マイナンバー保険証)の原則義務化をはじめとした、医療機関の経営におけるデジタル変革が求められています。電子カルテのみならず、予約システム、オンライン診療、キャッシュレス決済、患者向けのスマホサービスなど、以前ではごく一部の医療機関しか導入していなかったものが、一般のクリニックレベルでも普及してきています。加速度的に進むデジタルの波に乗り遅れないよう、開業の段階で一度検討してみてはいかがでしょうか。
5. スタッフ採用
クリニック経営において、スタッフは非常に重要なポイントです。看護師は常勤で雇うか、パート数人で回すか、受付事務にはどのようなスキルを求めるかなど、悩みは尽きません。近年は最低賃金も過去に類を見ないような上昇率となっており、労務問題に頭を抱える先生方も多いです。開業前にしっかりと計画を立て、それに沿った採用活動を行い、開業後良好な職場環境を作っていきましょう。
スケジュールとしては、まず開業の半年~3か月前頃までに、賃金や雇用条件などを決めます。先述した事業計画における人件費の概算額や、先生が希望する診療に応じた必要人員数を考慮します。
その後3か月前~2か月前頃で、募集媒体や採用までの流れについて決め、本格的に募集をかけていきます。募集媒体については、定番のハローワークをはじめ、求人サイト、求人誌、人材紹介会社など様々です。それぞれ「若手や未経験者の応募が多い」「女性登録者が多い」などの特徴があり、料金体系もまちまちです。ご自身の欲しい人材が見つかるような募集媒体を選びましょう。
実際に募集をかけるときは、予め履歴書の郵送場所や面接場所、応募者との連絡方法について決めておきます。また、いざ採用して勤務が始まってから、聞いていた働き方と違う、とトラブルになることもしばしばです。面接時や雇用契約締結時に、雇用条件をしっかりと説明して理解しておいてもらいましょう。
6. 広告、宣伝
患者さんに来院してもらうためには、まず開業したクリニックを認知してもらわなければいけません。駅看板、パンフレット、バスのアナウンス広告などが主な方法です。開業直前に行う内覧会も、認知という面では非常に有効となるでしょう。
ただ、医療機関の広告は規制が多く、厚生労働省が公表している「医療広告ガイドライン」という指針に則る必要があります。NG例としては、“地域No.1”(比較広告)、“必ず成功する手術”(虚偽広告)、“理想的な環境”(客観的事実を証明できない)などです。
ホームページ作成も現在ではスタンダードになってきました。最近はインターネットで検索してクリニックを探す患者さんが多くなっています。診療時間や診療内容、院内の雰囲気などが掲載されたホームページを作成することで、患者さんもイメージがしやすくなり、安心して来院してもらえるでしょう。
7. 申請、届出
クリニックを開設する際は、医療法に基づき、開設後10日以内に所在地の都道府県知事に開設届を提出する必要があります。また、保険医療機関の指定申請、保険医の登録、公費負担医療(生活保護法等)をはじめとした各種指定申請についても、管轄の地方厚生(支)局に提出が必要です。これらは先生が希望する診療を行うために必須となりますので、何を申請するか予めすり合わせをしておきましょう。
医療関係の手続き以外にも、税務署、労働局、医師会など必要な手続きは多数あります。
開業コンサルタントや専門家に依頼しながら、余裕をもって進めていきましょう。
8. まとめ
クリニック開業後は、事前に立てていた事業計画をベースに運営していきます。
開業当初はなかなかイメージ通りに患者数が伸びないことも多く、不安や焦りが生じることも少なくありません。そんな時こそ、しっかりと事業計画と実績値を見比べ、どこに原因があるか分析することが大切です。
認知が不十分なのであれば広告の方法を変えてみる、待合室でロスが発生しているのであれば予約システムや自動精算機の導入を検討してみる、スタッフの勤務態度に問題があるのであれば教育方法や評価制度を見直してみるなど、臨機応変に対策をしていきましょう。
開業準備の大まかな流れをご紹介しました。限られた予算内で上記すべてを完璧に満たすことは難しく、ある程度優先順位をつけながら進めていくことになります。
先生が目指しているものは何か、譲れないポイントはどこかを明確にし、必要に応じて専門家の協力を得ながら、準備を進めていきましょう。
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