セミナーレポート

第14回 情報戦略フォーラム 2022年8月24日開催

教職学協働による香川大学のDX推進


デジタルONEキャンパス実現に向けたデザイン思考でのDX

香川大学

 

新型コロナウィルスの影響により授業のあり方や教職員の働き方など状況や環境が大きく変化するなかで、多くの大学がアフターコロナを見据えたDX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、教育の質向上や業務改善を図っています。2022年8月24日に開催された、第14回情報戦略フォーラムでは、香川大学 創造工学部 教授でCDO(デジタル化統括責任者)の八重樫 理人氏をお招きして、同学が「デジタルONE構想」のもと推進している教職学協働によるDXについて講演いただきました。教職員のみでなく学生も当事者となって推進するチーム作りや、体制構築の取り組み、具体的な成果などをご紹介します。

香川大学のデジタルONE構想

香川大学は香川県高松市を中心に4つのキャンパスを構える国立大学法人です。2018年4月開設された創造工学部では、いままでの工学部のような技術開発でものづくりを行う人材の育成ではなく、「未体験の価値」を生み出せる“次世代型工学系人材”の育成を目指しています。

次世代型工学系人材には、数理基礎力やコミュニケーション力のほかに「デザイン思考力」の素養が必要だと香川大学では定義しました。「香川大学のデザイン思考力はユーザに寄り添い、コンセプトを作り、プロトタイプを作るというところを大切にしており、共感、問題定義、アイデア創出、具体化、検証の思考プロセスからなります。このデザイン思考はDXの推進にも必要となるスキルです」(八重樫氏)。

香川大学のDXは、八重樫氏が中心メンバーであったDX化推進タスクフォースが、長期的な大学DX推進を目的に策定した「香川大学デジタルONE構想」がコンセプトとなっています。

「香川大学では分散したキャンパスが経営上の課題となっており、それをデジタル世界で包含し、一つのキャンパスにしようとしているものがデジタルONE構想です。組織もリアルキャンパスを前提とした体制から、デジタルONEキャンパスの実現に向けた体制へと、再構築していきます」(八重樫氏)

■香川大学デジタルONE構想香川大学デジタルONE構想

デジタルONE構想を実現する手法として、八重樫氏は、「UXグロースハック」と「UXイノベーション」の2段階のステップを提示します。それぞれ、既存の仕組みを磨き上げてより生産性を向上するフェーズと、DXでイノベーションを目指すフェーズとなります。

また、デジタル化、DXを推進するチームとして、八重樫氏がデジタル化統括責任者となるDXラボ(DX推進チーム)を設置。DXラボには教職員に加えて学生も参加し、「教職学協働」で取り組んでいきます。

DXラボが進めるデジタル化、DX施策

DXラボが推進する取り組みのなかで、主軸となるのは「業務UX調査」、「業務改善アイデアソン」、「業務システム内製開発」、「内製開発ハンズオンセミナー」の4つです。

「業務UX調査」では、学生や教職員の体験からジャーニーマップ作成などを通じて業務を調査し、行動とそれに対する感情や意見などから業務に関する課題を抽出します。実際に残業や退勤などに対して多くの意見や課題が出されました。

「業務改善アイデアソン」は、さまざまなアイデア創出法を用いて、課題解決のアイデアを創出するイベントです。アイデアソンでは、様々なアイデアが出されました。たとえば電話中心の業務で、電話の度に業務が中断されてしまう課題に対して、メールやチャットなど電話以外の手段で連絡したくなるアイデアなどが創出されました。

「業務システムの内製開発」については、ノーコードやローコードによる内製開発に取り組んでいます。プロジェクトは2022年7月現在で40を超えており、これまで通勤届申請システムや出退勤記録システム、科研費問い合わせチャットボットなどが内製で開発されています。

内製開発では「仮説検証型アジャイル開発」の手法を採用しています。これはユーザが真に必要だと思う最低限の機能を有するプロダクトやサービスを特定した上で、開発に着手する手法です。また開発に関わる打ち合わせは最大4回、打ち合わせから運用開始までの期間は1カ月、運用は事業部門で行うなど、プロジェクト推進ルールも設けました。「現状を見つめ直して、正しく判断するためにはデザイン思考が重要です。業務を見直すきっかけにもなりますし、効果も大きいと思います」(八重樫氏)。

加えて学内外に向けた「内製開発のハンズオンセミナー」も実施しており、大学等におけるクラウドサービス利用シンポジウムや小豆島中央高校などでハンズオンを開催しました。

DXラボの活動は学内でも高く評価されており、「昨年度は学長表彰をいただきました」と八重樫氏は言います。

またこれら4つの取り組み以外にも、デジタルONE戦略に基づいてさまざまな活動を行う「デジタルONEアンバサダー制度」を設けて、若手の職員を中心にした業務システムの積極的な開発を進めています。簡易決済システムや給与福利システムのRPA(Robotic Process Automation)化など、すでに10以上のシステムで開発が進んでおり、「多くの職員が自らデジタル技術を勉強して、自ら業務改善に取り組むようになっています」(八重樫氏)。

データドリブンによる大学運営を目指す

香川大学では大学のDXを推進するために、DX人材育成、業務効率化、教職学協働推進などの施策に取り組んでおり、すでに成果も出ていますが、データドリブンによる大学運営・大学経営に関してはまだ実施が限定的です。しかしながら、「多くのシステムを開発していくと、さまざまなデータが生成できるようになり、それが有益であることがわかるようになってきます。データを収集して活用する取り組みが強く求められています」と八重樫氏は話します。

■香川大学のDX推進の施策香川大学のDX推進の施策

データに基づいて適切な大学運営を行うためには、学内に点在するデータを統合、分析・活用するための基盤の構築が必要です。「構築の過程で、現場からは今のやり方で問題ないという声が聞かれることもありますが、そこは粘り強く説得して理解してもらう必要があります」と八重樫氏は付け加えます。

最後に、八重樫氏はこのようなDXの取り組みを実現してきた香川大学の推進体制と推進方法を解説しました。

香川大学では、学内のDXを推進する組織を、情報部門である情報メディアセンターに設置しました。「IT技術の積極的な活用ができる利点があり、まさにその効果が出ていると思います」と八重樫氏。DXの推進形態については、フェーズを進めるにしたがい事業部門へ推進主導の比率を上げていく「伴奏型」としており、これは全学的な取り組みに適しているといいます。

そして基幹システムは従来パッケージシステムをベンダがカスタマイズする形で利用してきましたが、現在では業務を改善しながらユーザカスタマイズ(内製開発とデスクトップRPA)も加え、DX推進型としています。

「状況に応じて必要な仕組みを選択してDXを推進していくことが大事です。DXの本質は、単なるデジタル化による業務改善や業務効率化ではなく、大学文化の変革を目指して取り組んでいくものです」(八重樫氏)。

Profile

国立大学法人 香川大学 創造工学部 創造工学科 教授
CDO(Chief Digital Officer/デジタル化統括責任者)
学長特別補佐(DX化推進・学生対流事業)
情報メディアセンター センター長
博士(工学)
八重樫 理人 氏

八重樫 理人 氏

[ 2022年10月 掲載 ]

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