セミナーレポート

第13回情報戦略フォーラム 2021年8月25日開催

関西大学DX推進構想について

~関西大学グローバルスマートキャンパス構想を中心に

セミナーレポート 関西大学DX推進構想について ~関西大学グローバルスマートキャンパス構想を中心に : 富士通

新型コロナウィルスの影響が続く中、多くの大学でこれまでの経験を活かし、さらに効果的な授業運営や教務を中心とした業務改革等を検討しています。そのような中、関西大学ではウィズコロナ、アフターコロナを見据えたDX(デジタル・トランスフォーメーション)推進計画のもと、先進的にデジタル技術を活用した新たな教育手法の創出に取り組んでいます。2021年8月25日に開催された、第13回情報戦略フォーラム「大学における戦略的DX」(主催:富士通Japan株式会社)では、関西大学副学長の藤田 髙夫氏をお招きし、同学における大学DXへの取り組みとして、「グローバルスマートキャンパス構想」についてご講演頂きました。ネクストノーマルに向けた本取り組みは、大学の皆様の改革推進のヒントとなるはずです。

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大学紹介とDX推進構想(KU-DX)の概要

関西大学は大阪府に5つのキャンパスを構え(吹田市、高槻市、堺市、大阪市北区)、13学部13研究科、2専門職大学院をあわせて、約3万人が学ぶ大規模総合大学です。

コロナ禍以前にも関西大学ではさまざまな改革に取り組んできました。LMS(Learning Management System:授業支援システム)の更新や、COIL科目(Collaborative Online International Learning:海外大学と連携したオンライン協働学習)の導入、BYOD(Bring Your Own Device)の推進、Wi-Fi環境の整備、教学IRプロジェクトなどです。中でもコロナ禍による海外との往来消滅によって注目を集めるCOILについては、IIGE(Institute for Innovative Global Education)という機構を設けて運営を担っており、藤田氏はその責任者でもあります。

「2020年度の春学期から全面オンライン、一部対面授業、原則対面授業など授業の形態が変わる中、教員も学生も遠隔授業の有効性を認識するようになり、遠隔授業のグランドデザインが必要になってきました。遠隔授業の方向性と環境整備が、DXを推進していく上での大きなバックボーンとなっています」(藤田氏)。

そこで生まれたのが「関西大学DX推進構想(以下、KU-DX)」です。KU-DXの理念は、(1)困難を克服する「考動力」、新たな価値を創造し、多様性を生み出す「革新力」を育む教育の実践、(2)インクルーシブな教育の推進、学修成果の可視化と学修者本位の教育の実現、(3)学生の学びと成長を入学から卒業まで総合的に把握し、学生個人や教員がそれを学びに具現化していくシステムの構築、(4)デジタル技術を活用した新たな教育手法やコンテンツを創出し、オンライン授業と対面授業を組み合わせた「ポストコロナ」時代の教育のあり方を社会に提案する、の4つから構成されています。藤田氏は「とくにこの中のポストコロナ時代の教育のあり方、つまり“ネクストノーマル”を提案していくことがとても重要です」と強調します。

KU-DXを推進していくために関西大学が取り組んでいることが主に4つあります。まず「学生の学習機会の制限・制約 バリアを軽減・除去」です。次に「学修成果の可視化」。これには統合DBの構築も含まれます。そして「DX推進に対応したインフラ、環境整備」、最後に「学内業務の効率化」となります。これらの取り組みは、文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択されています。

グローバルスマートキャンパス構想

グローバルスマートキャンパス構想は、ネクストノーマルのための遠隔授業デザインです。「コロナ禍により遠隔授業というニューノーマルが日常化しました。私たちは、来るポストコロナの時代に備え、ネクストノーマルのための遠隔授業の在り方を真剣に考えなければなりません。コロナ禍で緊急対応だった遠隔授業の経験を生かして、ワンランクアップしたやりかたを構築して、それを定着させていかなくてはなりません」と藤田氏。藤田氏はこのグローバルスマートキャンパス構想の推進責任者であり、国際部長として教育の国際化を推進する責務を担っています。

グローバルキャンパス構想

グローバルスマートキャンパス構想は、「ボーダーレス」「インタラクティブ」「インクルーシブ」な学びをキーワードとして掲げています。これを実現することで、多くの人々が充実し、満足する教育の機会が得られる状態、それがネクストノーマルの基本となります。

ボーダーレス

生涯学習化(Life Long Learning) やサテライトキャンパス、バーチャルキャンパスといった従来とは異なるさまざまな形態のキャンパスで、教育享受機会をボーダーレスに提供することを意味します。藤田氏は「これにより、物理的距離を超えて、他キャンパスや海外大学科目を受講できるなど教育機会が飛躍的に広がります。伝統的なキャンパスでの学びだけでなく、新しい学びにつながっていきます」と解説します。

そのための第一歩として、関西大学では「Global Smart Classroom(以下、GSC)」を導入。大阪府下に散らばるキャンパスをバーチャル空間でつなげることで、物理的な距離が学生間を隔てることなく、どのキャンパスにいても共に学ぶことができます。対面×オンラインでの参加を可能とし、すべての参加者に一体感と同質かつ公平な参加機会を提供します。海外ではすでにGSCと同様の機能を持つ教室を採り入れている大学もあり、そうした大学と科目を相互提供・共同履修することも可能になります。

GSCのイメージ

さらに、配信専用教員ブース「Global Smart Classroom Teaching Cubic Space」を設置し、教員授業配信用個別ブースを設置することで、各教員・各授業で高次な授業を配信できます。各種ツールの利用により、教員と生徒に一体感のある授業が可能です。

「こうした環境が整えば、リテラシーの高い一部の教員だけでなく、より多くの教員がオンデマンドでもリアルでも、より高次な授業配信に挑んでくれると期待しています。本学では、このような国際的協働学習の環境構築を以前から望んでおり、GSCは最適解の一つです。何よりも国内外の学生が共に学ぶことを当たり前(ノーマル)となることを本取り組みは目指しています」(藤田氏)。

インタラクティブ

藤田氏は「双方向なディスカッションを必須とした能動的・実践的な活動を遠隔授業でも可能にすることで、現場と遠隔参加をする者(教員・学生)が自在に交じり合う、ハイフレックスな授業形態を実現します。つまり、アクティブラーニングのその先、インタラクティブな学びを目指すことです」と話します。

関西大学では既存のコミュニケーションツールをベースとした、インタラクティブな遠隔授業支援ツールを採用しています。出席を取る、小テストを行う、グループ発表を行うなど多様な機能を搭載しており、例えばオンライン投票の機能を利用すれば、その場で結果をリアルタイムに表示して議論するといった活動を直感的に行うこともできます。

インタラクティブを推進することで、遠隔授業に対する不満を解消することも大切です。他の学生と会ったり、話したりすることができないことは学生にとって大きなストレスです。そこで関西大学では、交流スペースアプリを活用し、バーチャル空間でインタラクティブを実現しています。このアプリは自分のアバターが向いた方向だけ、あるいは自分の近くにだけに声を届けるといった機能が搭載されており、リアル感のあるコミュニケーションを実現できます。

「こうしたインタラクティブな対応はコロナ禍対応だけを念頭に置いたものではありません。ネクストノーマル、ポストコロナの高等教育の国際化を推し進めるためにも必要なことです」と藤田氏は付け加えます。関西大学では、大学機関の域を越えて国内外の講師と学生が相互参加する多方向・多国間オンライン教育プロジェクト「Multilateral COIL/VE Project」を推進しています。これは文部科学省の「大学の国際化促進フォーラム」のプロジェクトに採択され、500を超える世界の大学が参加する国際コンソーシアムで、その学生とともに学ぶことができるようなモジュールを提供する予定です。

インクルーシブ

インクルーシブは、あらゆる人が孤立したり、排除されたりしないよう援護し、構成員として取り込み、支え合うことを意味します。すなわち、学生への情報の提示のしかたや学生の取り組み方に柔軟性を持たせつつ、適切な配慮や支援をすることで、障害のある学生や母語が外国語の学生も含めたすべての学生に対して、高い達成の期待度を維持すること、すべての学生が学びのエキスパートとなることを目指しています。

関西大学では、CAST(米国の教育機関)が提唱するUDL(Universal Design for Learning)をもとに、学びのユニバーサルデザインを構想しています。ハード面、ソフト面でさまざまな支援を実施し、すべての人々の教育と学習を最適化します。

「例えば、顔出しができない、したくない学生に対しては、アバターを介したバーチャル参加による学びプロジェクトを導入し対応していきます」と藤田氏。

学びのユニバーサルデザインに基づき、AI翻訳ツールを利用できる環境作りも行っています。すでにデモンストレーションで実際に利用しており、その精度について確認しています。藤田氏は「精度もますます向上していくこの分野と大学教育は上手く付き合って、オープンマインドで試みていくことが、現在のような流動性の高い、変化の早い時代では必要な視点と考えております」と話します。

ネクストノーマルへの展望と課題

コロナ禍では、対面授業とさまざまなタイプの遠隔(オンライン)授業の混在・組み合わせが存在します。関西大学では、ハイフレックス型、つまり、教員と対面する学生とオンラインで参加する学生の両方が参加するタイプを想定しています。さまざまな授業の混在は混乱にならないようコントロールしていく必要があります。科目配置や授業形態とカリキュラムマップとの整合性については慎重に考えなくてはなりません。

「この1年、関係者は高等教育の“場”の意味を否応なしに考えざるを得ませんでした。なぜこの授業を対面でやらなければならないのか、場のあり方を提示する必要があります。その上で授業デザインを考えなければいけない時代になっています」(藤田氏)。

ネクストノーマルのための遠隔授業デザインにおいては意識改革が課題となります。遠隔授業についてはさまざまなデバイスがほぼ備わっています。グローバルスマートキャンパスの構想もデバイス自体は驚くような新規のものはありませんが、それを提供する教員の意識がどこまでついて行けているのか、これが大きな課題になります。「つまり、授業を提供する側の意識改革がどこまで進むか、これはDXに限らず大学教育が常に抱えてきた問題ですが、大学DXについても同じです。誰かが旗を振るだけでは進まないことは明らかで、これを克服した大学がおそらくはネクストノーマルのフロントランナーになっていくと思います」と藤田氏は語り、講演を締めくくりました。

Profile

関西大学副学長
藤田 髙夫 氏
京都大学文学部史学科東洋史学専攻卒
京都大学大学院文学研究科博士後期課程退学
関西大学文学部総合人文学科アジア文化専修教授
2020年10月より副学長・国際部長

藤田 髙夫 氏

[ 2021年10月 掲載 ]

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