セミナーレポート

私立大学キャンパスシステム研究会 図書館分科会「大学図書館におけるDX」 2021年7月20日開催

大学図書館の次世代型サービス実現に向けた
青山学院大学との共同研究
~AIを活用した学びの支援

大学図書館の次世代型サービス実現に向けた青山学院大学との共同研究 ~AIを活用した学びの支援

多くの大学においてDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されるなかで、大学図書館もデジタルによる変革が求められています。青山学院大学と富士通Japanは、「AIを活用した学びの支援」について共同研究を行っています。2021年7月に開催された、私立大学キャンパスシステム研究会図書館分科会「大学図書館におけるDX」での、青山学院大学教育人間科学部教授の野末俊比古氏による講演から、大学図書館におけるDXの定義、大学図書館をとりまく状況の変化、富士通Japanとの共同研究の成果 などについて紹介します。

青山学院大学と富士通Japanが
共同研究プロジェクトを推進

青山学院大学革新技術と社会共創研究所(旧シンギュラリティ研究所)と富士通Japan(旧富士通マーケティング)は、AIを用いて図書館サービスの最適化を実現し、近未来の図書館において想定される課題の分析、AIを活用した支援のありかたなどを検討する「AIを活用した学びの支援」について共同研究を行っています※1。共同研究は、青山学院大学の同研究所が進めている「近未来の図書館と新しい学び」研究プロジェクトの一環として進められています。同プロジェクトは、本格的なAI時代を見据え、教育・学修支援に向けて大きく変貌を遂げている大学図書館について、本来的な意味でのラーニングコモンズ、すなわち協働的・創発的な学び合いを促進するプラットフォームととらえ、実証的なアプローチを重視しながら、新しいモデルの開発を目指すものです。

共同研究では、2019年12月12日から2020年3月31日の間、第一次共同研究として中核となる要素技術についての検討を行いました。以降の第二次共同研究においては、具体的なモデル構築やプロトタイプ作成、実証実験などを通して、新しい学びを支える図書館について次世代型サービスのモデルを提示するとともに、富士通Japanではその成果を全国の図書館に広くサービス提供することを目指しています。
※1 https://www.fujitsu.com/jp/group/fjm/resources/news/press-releases/2019/191212.html

これからの大学図書館に求められるDXの定義

私立大学キャンパスシステム研究会(以下、CS研)は2021年7月20日、「大学図書館におけるDX」をテーマに2021年度第1回図書館分科会をオンラインで開催しました。青山学院大学教育人間科学部教授であり、図書館長、アカデミックライティングセンター長、革新技術と社会共創研究所副所長(前シンギュラリティ研究所共同所長)でもある野末氏による講演のほか、分科会の後半にはパネルディスカッション形式での意見交換会も実施しました。分科会には、大学関係者90余名、関連の企業含めると150名超が参加し、大学図書館のDXに対する関心が非常に高いことを伺わせました。

野末氏の講演は「大学図書館におけるDX—“AI時代”に向けてできること—」と題し、DXにより大学図書館はどう変わるべきなのかについて、学生の学びを支援する観点から見解を述べました。野末氏はまず、DXの定義について、7月13日に実施されたCS研の勉強会で富士通総研が提示した大学のDXに関する定義「大学がデータとデジタル技術を活用して、学生や社会のニーズを基に、教育や研究、大学モデルを変革するとともに、教育そのものや、組織、プロセス、大学文化・風土を変革し、優位性を確保すること」を紹介し、次の3点がポイントになると解説します。

「1つ目は『データとデジタル技術の活用』です。DXは基本的には個々の技術の組み合わせによって実現するものです。ビッグデータやIoT、AIなど、次々と登場する動きも含めて、どのように活用していくかを考えていくことになります。2つ目は、『学生・社会のニーズ』と『教育モデルの変革』です。これからの大学は、いわゆるアクティブラーニングに代表される“新しい学び”を提供する必要があります。図書館にも教育的な機能が期待されることになります。3つ目が『組織・プロセス・文化・風土の変革』です。学生のニーズに合わせたサービスを提供していくにあたり、DXによって個別最適化だけではなく全体最適化を意識することが求められていきます」(野末氏)。

大学、大学図書館、大学生の変化

大学におけるDXの定義をもとに、野末氏が次にテーマとしたのが「大学(教育)、大学図書館、大学生はどう変化したか、どう変化するか」です。今や大学全入時代とも言われ、とくに私立大学の競争は激化しています。大学図書館も単に資料や情報を提供するだけではなく、それを使ってどう学んでいくかを視野に入れ、学びそのものを支援する役割に大きくシフトしています。「大学図書館は、単なる“図書の館”ではありません。情報のインプットだけでなくアウトプットまでを含め、学びを直接に支援する役割へと変革していくことが必要です。これがDXのめざすところと理解すればよいと思います」(野末氏)。

図書館利用者である大学生の変化も大きな要素です。「メイン層であるデジタルネイティブ世代は、いつでもどこでも人や情報とつながることができる環境で生活しています。“つながり”を前提とした思考・行動などのパターンを持っています。例えば、ネットで検索する場合には、“結果はその場で(ウェブサイトやPDFなどのかたちで)すぐ読める”、“システム側が自分に合わせて必要なものを上位に表示してくれる”などという感覚を持っています。図書館も、そうした環境を想定しながらサービスを計画していくことも必要になるでしょう。とりわけ、学び手としての学生は、学修のプロセスにいる存在として捉えて、プロセスの各段階に適した情報探索・収集などの新たな仕組みが求められています」と野末氏は指摘し、次のように提案します。

「必要なものを本人が自覚しているとは限りません。いわゆる潜在ニーズですね。そこで、例えば、“これが必要ですね”といった、学修者の状況に応じたリコメンド的な機能も有効だと思っています。この考えが次にお話しする富士通Japanとの共同研究にも繋がっています」(野末氏)。

富士通Japanとの共同研究
「AIを活用した学びの支援」

次に野末氏は、青山学院大学と富士通Japanの共同研究「AIを活用した学びの支援」について紹介しました。共同研究には両者のほか、Ridgelinezからもメンバーが加わり、新しい学びの実現に向けて、近未来の図書館に向けた課題を分析し、AIを含むICTを活用した次世代型サービスを提案することを趣旨として進められています。

研究開始時においては、“集合知”を活用したレファレンスサービスや学習履歴など利用者のデータを用いた文献案内など、さまざまな課題について検討を行いました。2020年から主として取り組んできたのが、AIを用いた対話的な文献探索です。具体的には「最初に利用者を学修者と定義します。AIに目録(文献)データを学習させて、検索用ロジックを組み立てました。利用者は対話的に文献を探索します。学生や成人に実際にシステムを使ってもらう実験も重ねました。インタビューも行って、ロジックなどの調整を進めていきました」と野末氏は説明します。

現時点での成果として、いくつかの示唆を得ました。まずは、“AIだからこそ見つかるものがある”ということです。「既存の検索では見つからない、意外性の高い文献をAIが提示することがあり、探索者が想定していなかった潜在的なニーズに対応できる可能性があります」(野末氏)。

逆に“AIにも苦手なものがある”ということもわかりました。意外性はあっても探索者の関心度が低いものが提示されることもあり、「AIにも得手不得手があり、さらに検証する必要があります。AIが苦手な部分は図書館が持つ既存のノウハウ、例えば十進分類などと組み合わせることで上手くいくのではないかという可能性も想定しています」と野末氏。さらに、文献表示数のチューニングも大切であることなども見えてきました。

既存のキーワードマッチングによる検索や閲覧・購入履歴に基づくリコメンドなどとは異なる特長があることは、実験などを通して得られた発見です。共同研究では、得られた成果をもとに下図のような仮説を立てています。横軸は受動的に情報を得るか、能動的に探すか、縦軸は顕在化しているニーズか、潜在的なニーズかを示しています。AIによる文献探索は、能動的に文献を探す人に対して潜在的なニーズを満たす用途に向いているのではないかという仮説です。「あくまで暫定的な仮説です。図の右上部分を満たすツールは今まであまりなかったと思われます。この部分におけるニーズにさらに対応できるように研究を進めていきます。図書館が持つ既存データとの組み合わせなどを検討しています」(野末氏)。

AIを用いた対話的な文献探索の位置づけ(暫定仮説)

今後も共同研究は続いていきます。システムの精緻化を行い、AIによる文献探索の結果がニーズに対応しているかを実証しながら、文献利用の目的などを考慮したモデルの構築を進めていきます。

講演の最後に野末氏は、AI、ICT、DXと大学図書館について、次のように語りました。「AIも含め、DXに関わるICTについては、まず知っておくこと、そして使ってみて、伝え合うことが大事です。ICTを活用した大学図書館ひいては大学の全体最適化が求められています。教育についていえば、これまで培ってきた図書館のノウハウも活用・融合して、学習成果の効率的・効果的な達成が目指されることになります」(野末氏)。

大学図書館の明るい未来に向けてDXを推進

野末氏の講演に続き、パネルディスカッション形式で意見交換が実施されました。分科会の幹事から所属している大学図書館のDXについて推進状況などが報告されるとともに、事前に実施された分科会参加者へのアンケート結果も紹介されました。ディスカッションでの話題としては、個人情報とプライバシーに関するものや、小規模な大学図書館におけるDXへの取り組み、データ整理に果たすAIの位置づけなどが挙がり、意見が交わされました。

最後にまとめとして野末氏は、「大学図書館にとってDXはまさにこれからのテーマで、すでに多くの大学でも取り組みを始めていることがわかりました。大学を超えて情報を共有していけば、大学図書館には明るい未来があると感じています。DXで大学教育を変えていく貢献をアピールすることにも繋がります。そのためには成果をしっかりと評価できる仕組みや基準なども必要です。成果を評価して、アピールしていく取り組みをこれから皆さんと一緒に進めていければと思います」と語りました。

Profile

青山学院大学 教育人間科学部教授
図書館長・アカデミックライティングセンター長 ・ 革新技術と社会共創研究所副所長
野末 俊比古 氏

藤田 髙夫 氏

[ 2021年10月 掲載 ]

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