セミナーレポート

私立大学キャンパスシステム研究会「キャンパス×DX」勉強会 2021年7月13日開催

ポストコロナ時代の大学DXを
いかに推進していくべきか

ポストコロナ時代の大学DXを<br>いかに推進していくべきか

私立大学キャンパスシステム研究会(以下、CS研)では、2021年度活動テーマに『キャンパス×デジタルトランスフォーメーション~持続可能な大学を考える~』を掲げ、研究や情報交換を行っています。2021年7月13日には「DXの理解を深める ~DX基本編~」と題し、ウェビナー形式の勉強会を開催しました。冒頭に富士通総研よりDXの基礎知識と国内外の事例紹介、そのうえで、文部科学省の服部様(高等教育局専門教育課企画官)から「ポストコロナにおける高等教育DX」と題し、高等教育のDX、担うべき人材育成について、文部科学省の政策を交えながらお話しいただきました。会の後半では意見交換会を行い、大学におけるDXの知識を深めました。

大学DXはじめの一歩 ~DXの表と裏

株式会社富士通総研 行政情報化グループ長の橋本 尚志氏は、大学がDXを推進するにあたり取り組むべき基本的な第一歩として、大学DXの定義から実際にDXを進めていくにはどうするべきかを紹介しました。

「まず経済産業省による企業DXの定義を大学に当てはめて、大学DXを定義します。それは、大学が社会環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、学生や社会のニーズを基に、教育や研究、大学モデルを変革するとともに、教育そのものや、組織、プロセス、大学文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること、となります」(橋本氏)

そのうえで大学DXには3つの段階、「デジタイゼーション」→「デジタライゼーション」→「デジタルトランスフォーメーション」があると示しました。

大学におけるDXの3つの段階

つまり、単なるデジタル化は正確な意味ではDXとまでは呼べず、組織横断、大学全体でのデジタル化、教育・研究や大学モデルの変革が大学DXには求められるのです。

こうした基本的な情報を押さえたうえで、では大学が実際にDXを推進するにはどうすれば良いでしょう。橋本氏は、「DX推進のための大学改革」、「大学DX実現のためのIT基盤改革」が必要だと提言します。

「大学DXを推進するためには、大学・教育・研究のビジョンの変革や大学トップのコミットメント、大学DXの仕組み作りなどを行ったうえで、ビジョン実現の基盤としてのITシステムを構築し、DXガバナンス・体制を構築し、回していくことが必要です」(橋本氏)

最後に橋本氏は「大学DX推進のために、たらい回しするのではなく、対話することから始めましょう。当事者として“JOIN”していただき、ぜひそこに富士通も“JOIN”させてください」と語り、紹介を締めました。

大学等におけるDX事例のご紹介

次に、株式会社富士通総研 行政情報化グループの佐伯 恵理氏が、「必ずしもDXまでは至っていない例もありますが」と前置きしつつ、国内外の大学等におけるDX事例を紹介しました。

・遠隔授業、オンライン学習など学生による学びのDX(NC State University、Minerva Schools、The University of Padua)
学びのDXとして、学習技術の統合とサポートを促進した遠隔授業事例、全学ゼミのプログラムでアクティブラーニングを提供するオンライン学習の実践事例、先生方を対象として教育の改善、近代化を目的としたeラーニングシステムの活用事例を紹介しました。

・オンラインポータルなど学生向けサービスのDX(The University of Southampton、神田外語大学、東海国立大学機構、千葉大学アカデミック・リンク・センター)
履修/学習履歴データや成績データと連動して自分の学修状況を可視化できる学生向けサービス提供事例や、デジタルユニバーシティ構想の実現を目指したデジタル教育コンテンツの統合事例、オンライン学習支援ポータルの実装事例等を紹介しました。

・各種電子化や組織改革などの事務手続きのDX(立命館大学、流通経済大学、成蹊大学、慶應義塾大学)
業務手続きの電子化や統合データベース導入、ブロックチェーン技術を利用したデジタル証明書の活用事例を紹介しました。大学の事務作業においてはデジタル化がなかなか進まない現状もありますが、それは従来からの慣習が理由となるケースが多く、慣習に寄り添いながらもいかに抜本的にシステム化して業務を効率化するかが大切です。

・その他のDX事例(Global Skills Initiative、The University of Bologna、The University of Liege)
コロナ禍による失業者支援となるスキルの再開発、再教育であるリスキリング事例や、オープンデータ・ポータルやオープンアクセスリポジトリの実装事例等を紹介。リスキリングについてはGlobal Skills Initiativeだけでなく、富士通をはじめ多くの企業でも取り組んでいます。

リスキリングとは

最後にDX時代におけるIT戦略として、「ITはプロセスとテクノロジーを通じて組織全体を統合するため、その重要度がますます増しています。そのため経営層はよりITに関する知識が必要となり、IT担当者はコアビジネスを深く理解することが求められます。つまり大学DXには組織全体の構造の変化が不可欠で、そうしたことを踏まえてIT戦略を立てる必要があります」と佐伯氏は事例紹介を締めくくりました。

ポストコロナにおける高等教育DX

富士通総研の2人に続き、文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官の服部 正氏より、「ポストコロナにおける高等教育DX」と題した講演がありました。服部氏は2020年7月から、データサイエンス・AI教育、インターンシップ、大学教育のDXを担当しています。講演は大きく分けて、「高等教育におけるDXをどのように進めるか」と「DXを牽引する人材をどう育てるのか」の2つを柱に文部科学省の政策を交えながら話がありました。

高等教育におけるDXをどのように進めるか

服部氏はまず、遠隔授業を実施する機関数の比較を示しました。コロナ禍発生前の2017年度には実施機関は28.1%でしたが、2020年5月の調査では96.8%にまで増えています。ほぼすべての大学がICTを活用した遠隔授業を実施しており、このことから「ICTは学びを止めないという価値をもたらした」と服部氏は解説します。

すでにICTを活用した遠隔授業のさまざまなメリット・デメリットを教員・学生とも認知しており、コロナ禍以前の状況にはもう戻らないことを考えると、まさに今が高等教育のDXを加速する、高等教育を高度化するチャンスと服部氏は強調します。

「高等教育のDXを考えるうえで大切なのは、まず理想像を設定することです。理想像をしっかり設定したうえで、ギャップを分析して、それを解決する技術を導入し、投資・実行していく必要があります」(服部氏)

推進していくうえで重要なのがコミュニケーションです。学内だけでなく、企業や投資家などのサポートを得て初めて、高等教育にデジタルを使って新しい価値が生まれていきます。

DXがもたらす価値はさまざま。服部氏は、事例なども頭に入れながら、どこに投資するかを議論することが大切であるとし、「デジタルを活用して、大学がもっともっと面白いサービスを提供して、学生に楽しんでもらう、また教えることを教員に楽しんでもらうことが必要になってくると思います」と提言しました。

文科省が展開する高等教育のDX施策

文部科学省では現在、高等教育のDXを推進するさまざまな施策を実行しています。

デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)は、大学・高等専門学校においてデジタル技術を積極的に取り入れ、「学修者本位の教育の実現」「学びの質の向上」に資するための取り組みにおける環境を整備することを目的としています。すでに多くの大学からの多様な提案を採択しており、服部氏によれば「現状分析や目標・課題の設定に優れた提案が多く採択されています」とのことです。

スキームDは、大学の教育、とくに授業に焦点をあて、デジタル技術を上手に活用した特色ある優れた教育取り組みのアイデアを、大学教員や民間のデジタル技術者が協働して、教育現場で実践、試行錯誤、普及・実装していく取り組みです。第1回では104件もの応募があり、10件の発表、そのうち数件が次の段階に進んでいます。

DXを牽引する人材をどう育てるのか

データが価値を創造する時代。これからの子供・若者が生きるために必要なスキルは、「読み・書き・そろばん」に加えて、意思決定に必要な道具として「データ」を身につけることです。服部氏は、「生きるスキルを身につけて社会に出て欲しい。データサイエンスは一部のエリートの話などではなく、基礎的な素養である」と強調します。

そのうえで服部氏は国のデジタル人材育成に関する取り組みをいくつか紹介しました。「AI戦略2019の教育改革」で具体的な取り組みの目標を数字で示したうえで、「数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム」「数理・データサイエンス教育への私学助成」「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定」など、さまざまな施策が動いています。また入試についても2025年度から「情報(情報Ⅰ)」が追加されます。

数理・データサイエンス・AI教育を強化しなければいけないという社会的空気ができつつある今、次に必要となるのはデータサイエンスやコンピュータサイエンスを教える人材の育成です。さらに学生目線に立てば、「就職の役に立たない学位に優秀な学生は来ません。分野の発展を考えるならば学生の就職・活躍に解を与えることのできる人材育成が必要です、皆さんと議論して発展させることができればと思います」と服部氏は講演を締めました。

「キャンパス×DX」の理解を深めるディスカッション

勉強会の最後には、講演で登場した文部科学省の服部氏、富士通総研の橋本氏に加え、大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部 学部長 教授 井上 明氏、清泉女子大学 情報環境センター センター長 可児 光眞氏も参加し、ディスカッション形式での意見交換会が実施されました。

事前アンケートや講演中のチャット質問などに回答、ディスカッションする形で進みました。さまざまな議題の中で井上氏は遠隔授業の単位の問題を服部氏とディスカッション。服部氏からの「国の方でも一部議論があります。まずは現行の枠組みの中で実状を積み上げていきながら、必要に応じて」という回答に対し、井上氏は「まずは遠隔講義で修得できる単位数上限を使い切るほどの、様々な授業の実践や多様なメディアの活用が必要ですね。遠隔授業の質を上げ、効果を見極めることが大事だと感じました」と語りました。

可児氏は、徐々に対面授業に戻りつつある状況を指摘し、「対面・遠隔両方を担う先生は大変です。業務の可視化なども含めてさらなる支援はあるのでしょうか」と服部氏に問いました。服部氏は、「文部科学省ではアフターコロナを見据えて投資をしています。この次どうするか、新しい課題をとらえ、今後の対応を考えていきます」と語りました。

[ 2021年10月 掲載 ]

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