ソートリーダー対談

生体認証で創る"つながる世界"

未来のお買い物編

石澤 正芳 氏
株式会社Mellow 代表取締役

2000年代初頭、フードトラック事業者の「個の強さ」に感銘を受け、現在のプラットフォームビジネスの原型となる事業を立ち上げ、統括する。15年以上にわたりフードトラックの営業活動支援や、屋内外のフードエリアの企画・運営に携わるなかで移動販売ビジネスのDXに着目し、2016年に株式会社Mellowを創業。2018年より現職。2021年7月にはモビリティによる災害支援などを目的とするフードトラック事業者団体「一般社団法人フードトラック駆けつけ隊」を設立。社会にとってより良い持続可能な賑わい創出、ローカルコミュニティの再構築、街インフラの整備など、様々なステークホルダー視点を取り入れながら移動型店舗のプラットフォームを創造している。

中山 五輪男
富士通 理事 首席エバンジェリスト

1964年5月 長野県伊那市生まれ。法政大学工学部電気工学科卒業。複数の外資系ITベンダーさらにはソフトバンク社を経て、現在は富士通の理事および首席エバンジェリストとして幅広く活動中。DX、AI、クラウド、IoT、スマートデバイス、ロボット等を得意分野とし年間200回以上の全国各地での講演活動を通じてビジネスユーザーへの訴求活動を実践している。様々な書籍の執筆活動や複数のTV番組出演での訴求など、エバンジェリストとしての活動をしつつ、国内30以上の大学での特別講師も務めている。

現在、人々の価値観が多様化し、新しい消費の形への関心が高まっています。富士通は、多様な消費体験を実現するため、Consumer Experienceの取り組みを通じて様々なテクノロジーを活用しサービスを提供しています。そんな中、注目されているテクノロジーの一つが、「生体認証」です。富士通は、顧客体験をはじめ、ヘルスケアや社会そのものを、“生体認証”の活用により、よりセキュアで、便利なものに変えていきたいと考え、生体認証で「つながる世界」を創ることを目指しています。
※「つながる世界」とは…一度生体登録を行うだけで、様々なサービスを自分の身一つ(生体認証)でシームレスに利用できる世界のこと。詳しくはこちら。

富士通が実現を目指す「つながる世界」がもたらす少し先の未来についてもっと様々な方に知っていただきたい ―。
このような思いのもと、各界を代表するソートリーダーをお招きし、現在の課題や未来の姿について富士通の中山五輪男エバンジェリストと語っていただく本企画。記念すべき第一回のゲストは、フードトラック(キッチンカー )などをはじめとする、店舗型モビリティのプラットフォームを日本最大規模で展開する株式会社Mellow代表取締役である石澤正芳氏。ニューノーマル時代に脚光を浴びるモビリティビジネスや生体認証の可能性について熱く語っていただきました。

 

フードトラックで「場所の価値」を変える

中山

Mellowには「モビリティで場所の価値を変えたい」というコンセプトがあるとお聞きしました。

石澤

はい。モビリティの機動力を生かして「必要なサービスを」「必要な時に」「必要な場所へ」届けたいとの思いが根底にあります。このコンセプトに基づき、モビリティビジネスのプラットフォーム「SHOP STOP」を展開しています。

SHOP STOPは、空きスペースを有効活用したいオーナーとフードトラック事業者とをつなぐマッチングサービスとしてスタートしました。現在、東京・関西・九州などを中心に約500カ所の出店スペースがあり、フードトラックを中心に約1200台登録いただいています。SHOP STOPの活用により、たとえばオフィス街の空きスペースであれば、ランチ難民の解消や賑わいの創出に加え、スペースオーナーが収益を得ることもできます。

こだわりの一品料理を振る舞う個性豊かなフードトラック

中山

時代に即したプラットフォームを通じて、街の活性化に取り組まれていて素晴らしいですね。富士通もテクノロジーを通じて新たな価値を創造するDX企業へと生まれ変わろうとしているところなので、Mellowのコンセプトに共感を覚えます。

その新たな価値創造の取り組みの一つが、新たな顧客体験の実現です。先ほど、富士通オフィス内のレジレスコンビニで手のひら静脈認証と顔認証を組み合わせたマルチ生体認証での購入体験をしていただきましたが、いかがでしたか。

石澤

本当に驚きました。手をかざすだけで商品が購入でき、認証も一瞬でしたから。大きな可能性を感じますね。

中山

ありがとうございます。私たちはこの生体認証を用いた新たな体験をショッピングだけでなく、様々な分野にも広げていき、生体認証で「つながる世界」を創っていきたいと考えています。
実はその第一歩として、現在、富士通では、セキュリティゲートの開扉、執務エリアへの入退室、ロッカーや複合機の利用、カフェテリアの決済など、あらゆるシーンで手のひら静脈認証を利用できる“手のひらでつながるオフィス”の社内実践を行っています。今後はオフィスのような閉じられた世界だけではなく、パーソナルデータ、デジタル通貨など様々なデータを安心安全につないでいくことが目標です。

“手のひらでつながるオフィス”の社内実践の様子(オフィス内のカフェテリアにて撮影)

生体認証で創る”つながる世界”のイメージ

 

ニューノーマルの課題と生体認証

中山

コロナ禍の影響はどうでしょう? 富士通でも全社的に在宅勤務を加速させ、オンラインでの業務が日常化するなど、ドラスティックに変わりました。

石澤

厳しい経営状況の中で、新しい事業形態の一つとしてフードトラック事業に新規参入される飲食店様が増えたと思います。それから感染症リスクを踏まえて、「お金を触りたくない」人が急増しました。これは事業者様、お客様の両者にとって課題だと感じています。

中山

確かに現在、キャッシュレスをはじめとした非接触での決済ニーズが高まりつつありますよね。フードトラックにおけるキャッシュレス決済の導入率は?

石澤

ようやく半分ほどです。SHOP STOPでもお客様が利用できるアプリを用意しており、アプリ内に決済機能を実装してキャッシュレス推進に努めています。導入コストやオペレーションの観点から難しい面もありますが、衛生面での課題を克服し、容易に食数管理や売上管理ができるというメリットは大きいと考えています。

中山

そうですよね。それらのメリットに加えて、キャッシュレスには防犯効果もあります。現金をやり取りせずにデジタル上で管理しますから、売上が合わなくなる心配もありません。

石澤

実は売上の透明性を確保するために、スペースオーナーからフードトラック事業者に対してレジを入れてほしいと依頼されるケースも多いのですが、配置するスタッフやスペースの関係上難しいこともあります。

中山

なるほど、先ほどご体験いただいたレジレス決済はスペースが狭く人手が割けない場所での店舗運営とも相性が良いため、そうしたニーズには応えられそうです。また、お客様から見ても、マルチ生体認証を用いたレジレス決済なら、財布やスマホを持ち歩いたり、レジ並びを待ったりすることなく、非接触でセキュアにお買い物をしていただけるメリットがあります。

石澤

確かにレジレスコンビニを実際に体験して、便利さを実感する機会は非常に重要だと思いました。こんなふうに、何も持たずに身体ひとつでサービスが利用できる便利なソリューションが世の中にどんどん広がれば身につけなければならない持ち物も減って、手ぶらでの生活が当たり前になるかもしれませんね。

 

中山

コンビニ以外でも富士通の手のひら静脈認証の活用が進んでいます。大垣共立銀行様では通帳やキャッシュカードの代わりとして手のひら静脈認証で入出金できる仕組みを整備されています。導入のきっかけは2011年の東日本大震災の際に、キャッシュカードを失い、多くの人が預金を引き出せなかったことを知ったためです。今では60万人を超えるお客様に利用いただいており、なくてはならない存在になっています。

石澤

我々も災害時の支援には意欲的です。フードトラックであれば、被災地に移動して困っている方々に温かい食事を届けられるからです。2019年9月にはMellowが旗振りとなって「フードトラック駆けつけ隊」を発足させ、同年に千葉県の房総地域を襲った台風災害や、コロナ禍での医療従事者への支援を行ったりしています。その時にモビリティの機動力の高さを改めて実感しました。支援の声も、登録事業者から自然発生的に出てきたものです。

中山

Mellowや事業者様の想いが感じられる熱いエピソードですね。富士通は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」をパーパス(存在意義)として定めています。お話を伺って、お互いの理念がよく似ていると感じました。

「フードトラック駆けつけ隊」支援の様子。食材・設備・料理人が一体化したフードトラックで温かく健康的な食事を提供

 

10年後の購買体験はどうなっているのか?

中山

少し視点を変えて、未来の話をしていきたいと思います。例えば10年後、石澤さんはどんな購買体験を提供したいですか。

石澤

今日の話はフードトラックがメインでしたが、Mellowが目指しているのは「ショップ・モビリティ」という概念です。食に限らず、小型スーパー、花屋、自転車修理など業種にとらわれないサービスを車に乗せて展開していきたいと考えています。

中山

自宅の近くに店が来てくれるイメージですね。

石澤

そうです。ECサービスや宅配サービスはモノや食事が自宅まで届きますが、近くにショップ・モビリティがあれば少しの距離であっても“出かける楽しさ”が生まれます。ラストワンマイルの外出でも気分は変わりますから。高齢者の買い物難民やコンテンツ流通の少ないローカルエリアなど、サービスを受けにくい人たちのもとに積極的にサービスを届けていくつもりです。

中山

中国の深セン市では、自動運転の無人タクシーがすでに100台以上稼働しています。いずれ日本もそうなることを考えると、自動運転車両がサービスを運んでくる時代が来ることも夢ではないですね。

石澤

それはワクワクしますよね。我々も未来のショップ・モビリティの可能性を追求しているところです。人口減少、高齢化、人手不足が加速する日本では、ショップ・モビリティの世界観が20年後、30年後には当たり前になってくると思います。ショップ・モビリティの車が停まる場所が街中に整備され、デジタルで連携しながら展開するようになるのではないでしょうか。そこで生体認証の仕組みがあれば、スムーズに利用できますよね。

中山

まさしくその通りですね。街中に展開される様々なショップ・モビリティのお店で、手のひらをかざすだけであらゆるサービスを受けられる―。未来の購買体験と生体認証の組み合わせは非常に相性が良さそうです。

石澤

お話していて、生体認証には決済手段以外の可能性があることも見えてきました。Mellowでは移動販売の店を「可動産」と捉え、あらかじめショップ形態の車を用意して貸し出し、サブスクリプションビジネスのように活用する構想を練っており、実際フードトラックでは開業者へのリース事業も展開しています。もし車のカギのやり取りが生体認証で代替できれば、鍵をなくす心配もありませんし、オペレーションの手間が激減しますから、日替わりでオーナーが変わることも現実的になります。何より事業者の参入障壁が下がり、ショップ・モビリティ市場が盛り上がるに違いありません。

中山

そうした活用シーンこそ実現したい未来そのものです。物理的な鍵やID/パスワードから解放される利便性と、なりすましリスクの低減というセキュリティ面を両立できるのが、生体認証のメリットです。手ぶらショッピングをはじめ、行政手続きや医療サービスなどを、自分の身一つでシームレスに受けられるようになる――富士通ではこのような世界の実現に向けて尽力していきます。

 

ショップ・モビリティはコミュニティづくりにもつながる

中山

最後に、今後の展望について教えていただけますか。

石澤

Mellowでは「会いたいお店がやってくる」を企業ビジョンとして掲げています。

最近の事例では、高齢化が進む郊外の団地の広場にフードトラックを出店しました。年齢層の高い方々に利用していただけるのか不安でしたが、皆さん足を運んでくれました。実際に来店いただいたお客様は「この広場にこんなに人が集まったのは何年ぶりかしら」と話していて、新たなコミュニティづくりに貢献できたと考えています。こうした輪を全国規模で展開するのが次のステップです。

その先には、先ほど話したようにフードトラックに限らず、ショップ・モビリティでさまざまなサービスを届ける計画があります。新しいテクノロジーも活用しながらショップ・モビリティビジネスで日本を盛り上げていきたいですね。

中山

お話を伺っていると地域の人々が笑顔で集まる明るい未来を想像でき、非常に楽しみです。富士通には全国的なネットワークがありますから、もしお手伝いできることがあれば、ぜひお声がけくださいね。

我々は今後も安心・安全かつ便利な新しい購買体験の実現に向け、リテールのお客様のかけがえのないDXパートナーとして、一緒にビジネスのあり方を考え、社会課題解決に向けて取り組んでまいります。本日はありがとうございました。

今回のゲスト
株式会社Mellow 様
ウェブサイト
 
代表者
石澤正芳、森口拓也
事業内容
  • モビリティを活用した空地活用事業
  • 店舗型モビリティの開業支援およびコンサルティング事業
  • フードトラック直営事業(mobifac)
2021年11月掲載
本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです
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