2010年11月公開
IFRS対応プロジェクトは長期間にわたるだけでなく、経理だけでなく販売、人事、情報システム等の広い範囲を含むものとなります。また、IFRSが強制適用されれば、IFRSに対応できませんでしたということでは許されません。
IFRS対応プロジェクトの長期、広範囲、クリティカルという性質を考えると、効率的に目標を達成するために注意しなければならないポイントはおさえておかなければなりません。
IFRS対応は基本的には経理・財務部署が中心となって進めていくことになると思われますが、対応すべきタスクの中には経理・財務部門だけでなく営業部門、人事部門、情報システム部門など組織全体の協力が無ければスムーズに進まないものもあります。プロジェクトの中で部門間の利害の調整、取引先との交渉などが必要となることもありますが、経営者層の理解や関与が不十分である場合にはこれらの調整が難しいものとなるおそれがあり、最悪の場合はIFRS対応プロジェクトの遂行に重大な問題をもたらすことになりかねません。
IFRS対応プロジェクトを進めるに当たっては、経営者にはIFRSに関しての理解と関心が求められ、可能な限りプロジェクトに関する重要事項を決定するステアリング・コミッティーなどに経営トップ層が参加することが求められます。
IFRS対応プロジェクトを進めるに当たっては、しっかりとしたプロジェクト・マネジメントの体制を構築し、プロジェクトの進行をマネジメントする必要があります。
従って、プロジェクトを立ち上げるに当たっては、PMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)を設置し、プロジェクト・マネジメントの担当者や役割が明らかとなっていることが必要です。
IFRS対応プロジェクトの初めに、IFRSが自社の企業グループに与える影響を概括的に把握するための調査がイニシャルアセスメントです。
イニシャルアセスメントを実施せずに、詳細なGAAP差異分析、影響度調査等を実施することも可能ではありますが、詳細な調査を行っている途中や後に重大な影響に気が付いた場合、プロジェクト計画の修正や手戻りなどが発生する可能性があります。
時間のかかる詳細分析に先立ってイニシャルアセスメントを実施することによって、プロジェクト計画に影響を与える重要事項を予め把握することが効率的にIFRS対応プロジェクトを進めるためのポイントとなります。
IFRS対応を進めていくにあたっての大きな課題の一つがグループへの展開です。
親会社で作成したIFRS会計方針書やIFRS会計マニュアルを子会社などに適用するためには、親会社と子会社との間のコミュニケーションが円滑であることが必要不可欠です。
しかし、通常の業務で関連する親会社と子会社との間のコミュニケーションに問題ない場合でも、子会社側にIFRSに関しての知識が十分になければIFRS対応のための円滑なコミュニケーションを実現することは難しいものとなります。
グループ展開のプロセスを通じて子会社側にIFRSの理解や知識を深めてもらうというアプローチもありえますが、OJTや試行などを並行して行うこととなるため、時間をかけながらグループ展開を行う必要が出てきます。効率的にIFRS対応プロジェクトを進めるためには、IFRS会計方針書やIFRS会計マニュアルのグループ展開などに先立って、親会社だけでなく子会社側でもIFRSに関しての知識が備えられるように教育を行っておくことが必要です。
本コラムの執筆時点ではIFRSの強制適用は正式には決定されていません。また、2011年にIFRSの大きな改訂も予定されているため強制適用されるであろうIFRSの詳細も確定していません。
このような状況のため、IFRS対応に関しては様子見であったり、当面対応の予定はしていないという企業も少なからずあるようです。
しかし、現在の国際的な流れから考えれば、いずれ何らかの形で日本もIFRSを受入れなくてはならないことは確実だと思われます。また、IFRS強制適用が決まり、強制適用の時期が迫ってきた場合には、ほぼ全ての上場企業がいっせいにIFRS対応を行うこととなるため、対応が遅れた会社は優れたアドバイザーなど外部協力の確保も難しくなるなどの困難に直面することも予想されます。
今すぐに大掛かりなIFRS対応プロジェクトを立ち上げないにしても、情報収集・グループ内の啓蒙や教育・イニシャルアセスメントの実施など、早めにIFRSと関わっていきながら、対応を進めていくべきタイミングを逃さないということが、IFRSの強制適用の直前に困ったということにならないための大切なポイントであります。
公認会計士 森川智之氏
監査法人トーマツに勤務後、独立。 IPO支援、管理会計、ファイナンス等のコンサルティング業務から税務業務などを幅広く行う。
公認会計士、森川アンドパートナーズ会計事務所代表、有限会社フォレストリバー代表取締役。