2010年10月公開
2008年4月以降内部統制報告書の開示が義務付けられましたが、IFRS対応のために作成するIFRS会計方針書や会計処理マニュアルなどは内部統制評価の対象となり、また、いわゆる三点セットなどの内部統制評価のために作成した文書もIFRSに準拠するように更新が必要となるなど、IFRS対応と内部統制評価報告制度とは無関係ではありません。
IFRSが内部統制にあたえる影響は、上記のように内部統制関連文書の作成や更新といった事務レベルのものにとどまりません。中には対応を誤ると内部統制報告書でも重要な欠陥の原因となりかねないものも含まれます。
内部統制の評価を行うにあたって、まず内部統制の評価の範囲を決定する必要がありますが、IFRSの導入により内部統制の評価の範囲に影響が生じる可能性があります。
具体的には、連結範囲の見直しにより連結の対象外であった子会社が連結対象となった場合に、全社的な内部統制の評価範囲に影響があったり(全社的な内部統制の評価は原則全ての事業拠点が対象となる)、重要な事業拠点の選定に影響があったりすることが想定されます。
その他、勘定科目体系や業務プロセスの変更に伴い、評価対象となる業務プロセスに影響が生じることも想定されます。
これらのように内部統制の評価の範囲に影響があった場合には、内部統制評価の対象でなかった企業や業務プロセスが新たに評価対象となることとなり、内部統制評価のための新たな文書の作成等の対応が必要となります。
IFRS連結財務諸表を作成するためには、個別財務諸表のIFRS財務諸表への組替業務やIFRSに準拠した連結決算手続など、決算・財務報告プロセスに従来は存在しなかった業務が新たに必要となります。
IFRS対応によって新たに生じる業務は、担当者に日本基準とIFRS双方の知識を要求し、また多くの業務は公正価値の見積りなど複雑な処理や判断を要求してきます。そのため、IFRS対応プロジェクトの中で、IFRS会計方針書やIFRS会計処理マニュアルの作成、会計システムやスプレッドシートの変更や新規開発、親会社・子会社の経理担当者を含めた教育研修などを実施していくこととなります。
同時に、内部統制という観点からは、実際に会計処理を行うだけでなく、処理の過程や結果をチェックできることも必要となります。例えば、経理担当者はIFRSの知識があるが、内部監査担当者はIFRSのことが分からないというようなことは許されません。
IFRS対応プロジェクトを通じて、ノウハウや人材などを含めたIFRS対応に必要な資源を備えていくことになりますが、IFRS財務諸表を作成するという業務だけでなく、財務諸表の作成プロセスをチェックするという内部統制業務のためにもこれらの資源は必要となります。ノウハウにしても、人材にしても必要な資源を備えるには一定の時間が必要となります。IFRS財務諸表の開示を行うとき、すなわちIFRS財務諸表の決算・財務報告プロセスが内部統制評価の対象となるときに、何とかIFRS財務諸表を作成できる体制は築いたものの、内部統制を担える人材もノウハウも不足しているということに気がついても手遅れです。
IFRS対応プロジェクトの中で、内部統制制度への対応を実施項目の一つとすることはいうまでもありませんが、時間を掛けて内部統制制度のために必要な人員を備えることもしっかりと計画しておく必要があります。
公認会計士 森川智之氏
監査法人トーマツに勤務後、独立。 IPO支援、管理会計、ファイナンス等のコンサルティング業務から税務業務などを幅広く行う。
公認会計士、森川アンドパートナーズ会計事務所代表、有限会社フォレストリバー代表取締役。