クラウド運用管理
富士通が挑戦している「データドリブン経営」の実践~データの完全性を確保する秘策は?~

昨今の企業は、自社の利益追求だけでなく、持続可能な社会を実現するための課題解決を求められており、サステナビリティを中心に経営を進めることを重視している。それに伴い、財務情報に加えてESG(環境、社会、企業統治)などの非財務情報も公開し、持続可能な成長に向けた取り組みをステークホルダーに分かりやすく示す必要がある。
そのためにも、企業内に蓄積されているデータを収集して分析し、分析結果に基づいて意思決定を下す「データドリブン経営」の体制構築が重要になる。根拠に基づく意思決定のスピードを上げ、経営課題の発見と解決のサイクルを早められることで、顧客との関係構築やビジネス創出の可能性拡大など、さまざまな効果が期待できる。
データドリブン経営実現に向けて富士通にも立ちはだかる高い壁、それを乗り越えるための施策
「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」をパーパス(企業の存在意義)とする富士通は、地球社会の一員として環境、社会、経済の視点から、責任ある事業活動を通じた社会課題解決に真摯(しんし)に取り組み、社会に対してポジティブなインパクトを生み出しながら長期的に成長することを目指している。その実現に向けて、経営トップによる主導の下、サステナビリティに配慮した経営を推進している。
同社はESG情報の開示を目的に、財務情報と非財務情報を統合的に管理し、両者の関連性の分析を深めるためのESG経営プラットフォームを構築。データの可視化、分析、シミュレーションを行い、従業員のエンゲージメント向上や、経営判断と組織マネジメントへの活用を目指した。その理想形に向かって、同社は困難と戦いながら前進している。
ESG経営プラットフォームとデータドリブン経営の推進(出典:富士通資料)
データドリブン経営を進めるための課題の例を挙げると、事業部門ごとに業務プロセスやデータの管理方法が統一されておらず、数多くの社内システムからデータを抽出するための手間が大きかった。部門や部署も細かく分かれて複数の承認プロセスが挟まり、担当者から経営層まで情報が届くのに1カ月以上かかることは珍しくなかった。これでは経営層に届くデータの精度と鮮度は低く、タイムリーな判断は困難だ。各部門の業務プロセスとシステムは個別最適化が進んでしまい、組織間の壁が変革の足かせとなっている側面もあった。
富士通は、販売管理、購買、会計といった業務プロセスのグローバル最適化を目指し、組織再編を実施した。各業務プロセスには、権限と責任を明確に持つDPO(Data & Process Owners)とDPL(Data & Process Leaders)を配置。さらに、CFO(最高財務責任者)、CIO(最高情報責任者)、CDXO(Chief Digital Transformation Officer)、CDPO(Chief Data & Process Officer)、DPOによるステアリングコミッティを設立し、DPO、DPLを強力に支援することで、大規模な制度改革をトップダウンで推進し、変革の迅速化と効果の最大化を図っている。
これらの改善を進めていき、全社戦略から現場オペレーションまで、一気通貫で経営と事業を管理する仕組み・体制を構築し、リアルタイムデータをもとにしたデータドリブン経営を目指している。
富士通が目指した「環境変化に即応した事業変革」の仕組み(出典:富士通資料)
ここで富士通の経営・業務改革プロジェクト「OneERP+」を支えるシステムについて見ていきたい。この構築に当たって同社は、既存のこだわりを捨てて世の中にある良いものを活用する「Fit to Standard」を徹底した。これはパッケージ標準機能や、グローバル標準モデルへ適応することを意味する。SAPをはじめとするグローバル標準モデルを、これまで富士通が培ったノウハウ、テクノロジーを活用して高品質に運用している。
特に富士通がこだわったのがマスタデータ管理だ。マスタデータとはビジネスに関する基礎となる情報で、「商品」「価格」「顧客」などを一意に表す。マスタデータ管理はデータドリブン経営を実現する上での前提となる。同社は従来、部門やシステムごとにマスタデータを管理。追加も簡単にできることから、それぞれのマスタデータが重複してしまい、グローバルで統一した分析をする際の障害になっていた。
この課題を踏まえて、業務システムの標準化を進めると同時にマスタデータをグローバルで標準化。情報の切り口を統一し、品質を保つために承認プロセスを導入したという。統一作業に当たっては、過去に数多あるマスタデータをすべて参考にするのではなく、1年分の「生きていることが分かっているデータ」に基づいた。
マスタデータを複数のシステムに配布する仕組みは、非同期・並列に実行するように処理の関係性の管理・制御をしている。これにより連携先の複数のシステムに対して、他のシステムの影響を受けずにタイムリーにマスタデータを同期でき、エラーが発生した場合にも影響を局所化できた。
未来に向かうDXのために、データの完全性を支える仕組みとは
データ利活用を支えるデータ連携と制御のポイントについて、富士通のエンジニアに聞いてみた。最適な経営判断には、鮮度の高いビジネスデータを的確に処理する能力が不可欠だ。しかし判断に影響を及ぼす要素は多様化し、ビジネスを取り巻くデータと、それを収集、統合、連携するためのシステムもますます複雑化している。単に「データ利活用の仕組み」と言っても、その裏側はデータレイクをはじめ、ETL(データの抽出、変換、ロード)ツール、DWH(データウェアハウス)、データマート、ビジネスインテリジェンスツールなど複数の技術を連携させて成り立っている。それらの処理の順序やタイミングの制御も大事だ。前段階の処理が確実に完了してから次の処理を順次実行しないと、最終的なデータが意図しないものになる。
データ利活用を支える、さまざまな技術の組み合わせ(出典:富士通資料)
「在庫管理システムで日次処理を実行したあと、データを抽出する」という業務があるとしよう。もし日次処理がいつもより時間がかかっているのに気付かないままデータ抽出を実行すると、抽出結果は不完全なものになり、分析精度に悪影響を及ぼしかねない。
データの抽出や収集などの処理はシステムごとに適切なタイミングが異なるため、どのようなタイミングで処理を実行すべきかを考慮して制御する必要もある。在庫管理システムで実行する日次処理の中には、営業終了後すぐに締め処理するものもあれば、営業日の深夜に処理を実行するものもあるだろう。処理が正常に終了したかどうかだけではなく、処理するデータの量に応じて変化する実行時間を適切に制御することもポイントだ。
まとめると下記3点が、データドリブン経営においてデータの完全性を左右するポイントといえる。
- 複数の処理の制御
関連する処理が確実に行われていないと最終的なデータが意図しないものになってしまう。複数のシステムにまたがる処理の順序制御とデータの整合性を確保することが大事。 - 処理実行のタイミング
システムごとにデータの抽出や収集などの処理の適切な実行タイミングが異なっている。企業やシステムの事情に合わせて、あらゆるタイミングに柔軟に対応できることが大事。 - 実行状況の把握
データ量に応じて処理の時間は変わってくる。予定通り処理が開始されたか/予定通り処理が完了できたかの予実管理が大事。
まとめ
富士通は、DXを支える総合的なオファリングを提供しつつ、データドリブン経営の実践経験や知見をユーザー企業に伝えている。DX時代におけるビジネスの成長には、企業が培ったデータと長年運用した基幹システムを活用し、新しいサービスおよび新しいデータと融合させていくことが不可欠だ。システムが複雑化する中、どのようにシステムを連携させ、データをつなげるのかを考えなければならない。これらの解決策やノウハウを、同社はオンラインセミナーやWebサイトで積極的に情報発信している。技術と組織の両面からビジネスを改善し、ユーザー企業のDXを強力に加速するヒントが学べるはずだ。
2024年12月27日掲載記事より転載
本記事はITmediaビジネスオンラインより許諾を得て掲載しています
記事URL:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2412/19/news003.html
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