東日本大震災を契機に、大規模な災害が発生した際にも事業活動を継続することの重要性がより一層クローズアップされています。一昔前であれば天災による事業活動の停止は免責事項とも言えましたが、近年のBCP(事業継続計画)に対する意識の高まりとともに不測の事態にいかに備えるかということが企業には求められています。BCPに積極的に取り組むことは、お客様や取引先からの信用が増すという効果も期待できます。
ICTシステムは事業活動を行ううえで重要な役割を担っており、災害時の早期復旧を実現する手段として遠隔地にバックアップシステム(災対環境)を構築することがあげられます。物理的に離れた場所に構築することで、両系統が同時に被害を受ける可能性を極力少なくします。その一方で、災対環境という性質からシステムの稼働率が高いとはいえません。災対環境といえどもシステムの信頼性を求めることになりますが、稼働率の高くないシステムにどれくらい投資するのかという点は判断の分かれるところだと思います。
投資負担を抑える手段として、例えば開発環境と災対環境のプラットフォームを共通化するといったことが考えられます。平時は開発環境として利用し、災害時には災対環境に切り替えるといった使い方です。しかし、このやり方では使い勝手や迅速な切り替えといった面で課題が残ります。
これを解決するのが「KVM」仮想化による災対環境の構築です。
【課題】
災対環境を本稼働システムと同等の構成で構築するとなると、投資面からの負担が大きくなります。一方で災害時は平常時と同等の性能は求めずに業務の継続性を重視するということであれば、「KVM」による仮想化でハードウェアリソースを有効活用することにより、物理サーバ台数を減らして投資コストを抑制するという選択肢が出てきます。
KVMならば複数の環境を同時に立ち上げることができ、環境の起動と停止がスムーズに行えます。例えば、平時は複数の開発環境を立ち上げておき、災害時は災対環境を素早く立ち上げるといった運用が可能となります。
仮想環境に集約することで、業務負荷や利用シーンに応じた柔軟なリソース配分も可能となります。開発環境それぞれの負荷に応じて必要なリソースを配分するといった使い方です。これによりハードウェアリソースを無駄なく有効に活用できます。災害発生時は業務の継続性を優先して稼働していた開発環境を停止し、災対環境を立ち上げてすべてのリソースを災対環境に振り向けるといった運用ができるのも仮想環境だからこそといえます。
システムを運用するからには、システムを停めない、万が一システムが停止しても迅速に復旧させるということが重要です。一方で、災対環境にどこまで高い信頼性を求めるのかという点については、対象となるシステムの重要度や投資面などの要因に左右されるため一概に決めることはできません。そのため、ここでは仮想環境における信頼性確保の方法としてどのようなものが考えられるかをあげていきます。求める信頼性のレベルに応じて必要な対策を選択します。
ここでは仮想環境に集約することにより、プラットフォーム(ハードウェアおよびOS部分)のコスト面でどのような効果が期待できるのかを紹介していきます。一例として、災対環境(4台)と開発環境(2台)を物理サーバ(PRIMEQUEST×6台)で構築するケースと、両者を集約して仮想サーバ(PRIMEQUEST×2台)で構築するケースを、5年利用時の総コストで比較してみます。
仮想サーバはサーバ集約することにより必要とされる能力増強を考慮してCPU・メモリ搭載量を物理サーバの2倍としています。これによりサーバ単体の価格は仮想サーバが上回ります。一方でサーバ台数が6台から2台に削減されることによりトータルでみた初期導入コスト(ハードウェア価格)は物理サーバで構成する場合の方が高くなります。ハードウェアのサポート費用についても同様の理由から仮想サーバが安くなります。
次にOSサポート費用ですが、こちらは同等の結果となっています。これは仮想サーバのOSサポート商品を4ゲストOSまで利用可能なサポート商品としているためであり、サーバ台数減によるOSサポート本数の減少分と4ゲストサポート商品への単価アップと相殺されたためです。なお、仮想サーバで構成するケースは8ゲストOS(4ゲストサポート商品×2)まで立ち上げることができるため、環境の追加に余裕があることは付け加えておきます。
この様にサーバ集約によるサーバ台数の削減は、初期導入コストだけでなくサポート費用の削減効果も見込むことができます。
【5年利用時のプラットフォームの導入コスト、サポート費用比較(例)】
最後に
重要なのは業務をいかに継続させるか、そのためにいかに投資負担を軽減して災害時に備えるかです。KVMによる仮想化はそれを解決するひとつの答えになると考えます。