東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 澁田研究室様

分子動力学の計算はもちろん、創造的発想の推進力としてスーパーコンピュータを活用

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 澁田研究室は、マテリアルモデリングや分子動力学を専門分野とし、コンピュータの支援による材料の設計・開発をめざしています。物質の構造や変化を原子や分子のレベルで把握し、シミュレーションを行うため、膨大な量のデータを処理する必要があります。それに加えて近年ではAIやデータ駆動型手法を取り込む方法も進み、高性能コンピュータをいかに使いこなすかが研究に大きく影響します。
こうした中で澁田研究室が導入したのが富士通のPRIMEHPC FX700です。研究室を率いる澁田靖氏は、「富岳」と同じCPU(A64FX)を搭載したこの高性能マシンを研究に使うことはもちろん、学生が自由に使える環境を作り、人材育成や研究のシーズ探索に役立てたいと考えています。

導入システム概要

ハードウェア FUJITSU Supercomputer PRIMEHPC FX700
HPCミドルウェア FUJITSU Software Compiler Package
VT-HPCパッケージ新しいウィンドウで表示

課題と導入のポイント

課題
導入のポイント
課題材料科学研究では分子動力学シミュレーションやデータ駆動型手法の活用によって計算が大規模化
導入のポイントスーパーコンピュータを研究室で持つことにより、手元で、莫大な計算量を高速で処理できる
課題マテリアルとデジタルの両方を理解する人材が求められている。また科学研究には既知の問題の解決だけでなく、未知の問題の発見が重要
導入のポイントPRIMEHPC FX700を学生が自由に使える環境を作り、マテリアルの分野にデジタルを活用できる人材を育成。また研究シーズの模索にも役立てたい

膨大な計算を必要とする分子シミュレーションなどでスーパーコンピュータは大きな役割を果たしてくれます。それと並んで私が大切にしているのは、教育面の役割です。マテリアル分野の学生にスーパーコンピュータを自由に使ってもらうことで、材料科学とデジタルの両方に強い人材を育てたいですね。PRIMEHPC FX700から入り富岳へと発展できるような研究が学生主体でできるようになれば嬉しいです。一方で、単に既存のシミュレーションを大規模化するだけでなく、新しいスーパーコンピュータの使い方を模索しながら、学生の創造的な発想を促し、研究のシーズ発見につなげる狙いもあります。特に、シミュレーションとマテリアルデータを活用した新しい研究へと展開したいと考えています。これは新しい使い方ですが、さまざまな大学や研究分野で有効だと思います。

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻
准教授 澁田 靖 氏

背景

シミュレーションやデータ駆動に必須のコンピュータ

科学技術は長い間、実験と理論という二大手法によって発展してきました。そこにシミュレーションという第三の手法が加わり、近年は第四の手法と言われるデータ駆動型手法が使われ始めています。この流れは材料科学も例外ではありません。

「分子動力学(Molecular Dynamics=MD)では、物質の原子レベルの動きをシミュレーションし、一つひとつの原子の動きを観察し、構造や性質を解明していきます。原子1個は10億分の1m〜100億分の1mくらいですから、それが集まった目に見えるサイズでどうなるかをとらえようとすれば、すさまじい数になります」と澁田氏。

マテリアル工学科では金属、セラミックス、半導体材料、高分子材料などあらゆる材料を対象としていますが、澁田氏は金属材料や半導体材料を中心に研究しています。

「金属材料の分野では、例えば凝固や組織形成を長年の経験知を基に制御してきましたが、実際に何が起こっているのかは原子レベルで見ないとわかりません。精緻にシミュレーションしようとするほど、扱う原子や分子の数は増え、100億個の原子で計算する大規模分子動力学シミュレーションも行なっています。数から言えば世界トップクラスでしょう。しかし今後はこれを超える計算を効率的に実行できるようにしたいと考えました」(澁田氏)。

出典:MSMSE 27 (2019) 054002 超大規模分子動力学シミュレーション(100億原子)

さらに最近ではAIやデータサイエンスの応用も盛んになっています。シミュレーションの効率的な可視化や物性値抽出などの後処理や、データ同化などがその例で、「後処理で100億個の原子の座標を導くと20テラバイト(テラは一兆)という計算量になります。またデータ同化はシミュレーションに実測データを反映させて精度を高める方法で、同時に100以上ものシミュレーションを並行して行うため、これも計算量が膨大になります」(澁田氏)。従って研究には高性能のコンピュータが欠かせません。

ポイント

「京」での経験で芽生えた「富岳」・PRIMEHPC FX700への関心

澁田氏がPRIMEHPC FX700導入を決めた動機は大きく二つあります。
一つは、スーパーコンピュータを研究に活用したいと考えたことです。澁田氏が本格的にスーパーコンピュータに触れたのは2014年。ポスト「京」プロジェクト(注1)への参加がきっかけでした。プロジェクトでは重点課題の一つ、「次世代の産業を支える新機能デバイス・高性能材料の創成」において、金属材料の大規模計算手法の開発に携わりました。「半導体材料と違って金属材料は不純物や欠陥が多く,多結晶を形成するため周期構造を取りにくく、非常に多くの計算が必要になります。そこで、「京」などのスーパーコンピュータを使う機会を得、その威力を知りました。」(澁田氏)。

プロジェクト以降も、研究における計算は大規模化していきました。澁田研究室では、シミュレーションに加えてデータ駆動型手法を活用する研究が増えたことも、この傾向を強めました。

そうした中で澁田氏は、「京」の後継機である「富岳」にも注目しましたが、「富岳」に採用されたテクノロジーを適用したPRIMEHPC FX700の発売を知ってこちらの購入を考えました。「『富岳』を利用するにはいろいろな条件があり、申請などが必要ですが、研究室でPRIMEHPC FX700を持っていれば、使いたいときに使えます。それが魅力でした」(澁田氏)。

そこで、システムインテグレーターのビジュアルテクノロジーが、PRIMEHPC FX700を扱っていると聞き、相談しました。「私は計算機科学の専門ではないので詳細な部分まではわかりません。1ユーザーとしてPRIMEHPC FX700を利用できるようにお願いしました」(澁田氏)。ビジュアルテクノロジーではPRIMEHPC FX700と周辺機器の納入、OSやコンパイラのインストール、ネットワーク整備、ラッキングなどを行いました。

標準ラックに納まるサイズで導入しやすいことも利点

  • 注1
    文部科学省が主導し、理化学研究所 計算科学研究機構が開発主体となったプロジェクト。「京」の後継機と、それによって取り組む九つの社会的・科学的課題のためのアプリケーションの開発をめざした。重点課題には、ポスト「京」の高い計算性能だからこそ可能になる大規模で高精度なシミュレーションを必要とする研究が選ばれた。

手元で動かせるPRIMEHPC FX700は学生にとっても大きな魅力

導入のもう一つの動機は教育面です。澁田氏は、学生と意見を交わす中で「学生がスーパーコンピュータを自由に使えることが大切」、「スーパーコンピュータは研究室のアピールポイントになり得る」と考えました。PRIMEHPC FX700はスーパーコンピュータでありながら、一般サーバと変わらないコンパクトサイズ、空冷であるなど、扱いやすいため、一研究室での利用にも適しています。

「コンピュータに強く、スーパーコンピュータに興味のある学生は数多くいます。しかし情報系や計算機科学の専攻でなければ、どうしたら学べるのかわからないのが実情。でも研究室自前のスーパーコンピュータがあれば触れることができます。それに、申請が必要な外部のスーパーコンピュータでは気軽に試すことができませんが、この研究室では学生がPRIMEHPC FX700で自由に“遊べる”ようにしています。それによって理解を深めながら使えるようになっていきます」(澁田氏)。

この方針は学生にも好評で、大学院生の一人、渡邉碧為氏は「手元に機械がありますからトライアルアンドエラーを何度でも経験できます。ソフトウェアにしても運用にしても、実際に動かして初めてわかることはたくさんあります」と語ります。

東京大学情報基盤センターや名古屋大学情報基盤センターには同系機のPRIMEHPC FX1000があり、関連の勉強会やセミナーが開催されているので、学生はこうした場でも学んでいます。

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻
院生 渡邉 碧為

効果と将来の展望

ニーズだけでなくシーズのために活用

澁田研究室ではLAMMPS(オープンソースの分子動力学計算アプリケーション)などの既存ソフトウェアと研究者自らが書いたものを半々くらいの割合で用いています。これらをPRIMEHPC FX700の性能を発揮させて使うのはこれからですが、教育面での効果は確実に出ています。

「PRIMEHPC FX700を導入して3か月で学んだことは非常に多いですね。スーパーコンピュータのもつ性能を引き出す難しさや楽しさを実感しました。なぜうまくいかなかったのか、とその理由を考えること自体が学びになり、計算資源の上手な使い方を導くことにつながっています」(渡邉氏)。

澁田氏はPRIMEHPC FX700を自由に使えることは、研究のニーズを満たすだけでなく、シーズにつながると考えています。「スーパーコンピュータは多くの場合、明確な目的があってそれに必要な計算をするために使われてきました。しかし、何に育つかわからないけれど新しいタネを生むために使うことも大切です。PRIMEHPC FX700を導入したとき、この考え方を実現するチャンスだと思いました」(澁田氏)。

このように、PRIMEHPC FX700が自由で創造的な発想の起爆剤の役割を果たすなら、大学や分野を越えてさらに普及することは確かでしょう。

東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 澁田研究室 様

所在地 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学本郷キャンパス工学部4号館内
概要 計算機性能の向上によって数値解析手法で扱える時空間スケールが大幅に広がる中で、これを材料科学に応用し、分子動力学などの計算手法による材料生成プロセスの解析を行なっているほか、データサイエンス手法と材料科学手法の融合にも取り組んでいる。
ウェブサイト http://www.mse.t.u-tokyo.ac.jp新しいウィンドウで表示

担当者メッセージ

~PRIMEHPC FX700販売パートナー ビジュアルテクノロジー株式会社~

澁田先生とは、先生が大学に研究室を持った頃からのおつきあいです。今回のPRIMEHPC FX700導入は、これまで先生が経験のないアーキテクチャーの機械を入れた点でチャレンジングだったと思います。また学生へのアピールや教育的効果も新しい視点です。当社はHPC(High Performance Computing)をより多くの方々に利用していただくことを理念にしているだけに、この挑戦に貢献できたことをうれしく感じています。

~富士通株式会社~

ビジュアルテクノロジー様との協業により、澁田研究室へPRIMEHPC FX700をご導入頂く事ができました。分子動力学シミュレーションや材料の設計・開発にご活用頂くとともに、学生のシーズ探索にご活用していただけるよう、今後もビジュアルテクノロジー様と連携・ご支援させて頂きたいと思います。

今後も、社会に信頼をもたらし、お客様の事業成長・事業安定に貢献できるよう、製品やサービスを提供していきたいと考えております。

前列左から、東京大学 大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 澁田研究室 澁田 靖 准教授、
院生 渡邉 碧為 氏、後列左から、富士通株式会社 星田 悠、
ビジュアルテクノロジー株式会社 山口 大介 氏

ビジュアルテクノロジー株式会社 様

所在地 東京都台東区柳橋二丁目1番10号 第二東商センター1号館 3F(受付)
設立 2009年(平成21年) 2月
概要
  1. HPC・AI/DL・映像分野向け計算機システムの開発・製造・販売・レンタル
  2. 上記に関わるエンジニアリングサービス
ウェブサイト https://www.v-t.co.jp/新しいウィンドウで表示

[2021年8月掲載]

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