川崎地質株式会社 様

道路下の空洞探査データの解析にAIを導入。解析結果に客観性を持たせ、作業時間も半分に短縮

川崎地質は、自治体や国からの依頼を受けて道路の下に発生する空洞を、地下3~5メートルまで探査できる独自技術で調査している。従来は、探査で生成される膨大なデータを人手で解析していたが、将来を見据えて、富士通が提供するAI「Zinrai(ジンライ)ディープラーニング」を採用。AIにより解析結果に客観性を持たせるとともに、解析時間を従来の半分以下に短縮した。

課題
効果
課題人の目で判断しているデータ解析に客観性を持たせたい
効果異常反応を見逃さずAIによるブレのない解析を実現
課題画像解析にかかる膨大な時間とコストを削減したい
効果AIを導入することで総解析時間を2分の1に削減

導入の背景

計測機器の性能向上により
データの解析コストも増大

川崎地質株式会社は、地質調査のパイオニアとして地面の下を探査する技術を提供している。同社は世界でも最先端の路面下空洞探査技術を持っており、道路の下の空洞を調査する事業も手がけている。

道路の下に空洞ができると最悪の場合は陥没する。その最たるものが2016年11月にJR博多駅近くで起きた大陥没事故だ。空洞ができる原因は様々で、国土交通省の発表によると、大半は下水道管の老朽化に起因するものであるが、道路陥没は国内で年間3300箇所発生している。(平成27年度)。日本の道路は綺麗に保たれているので気がつきにくいが、意外と身近なリスクと言える。同社は、道路の管理者である国や自治体などから依頼を受け、道路の下の陥没を検査しているのだ。「従来は深さ1.5mまで調べていましたが、下水道管の劣化で空洞ができはじめるのはもっと深いところです。そこで我々は、自社の技術やノウハウを結集し、深いところまで反応を検知できる「チャープレーダ」を開発しました。効率を損なわず従来より深い、深さ3mから5mまで調べられるようになっています」と同社代表取締役社長の坂上敏彦氏。

2倍以上の深さまで計測できるようになったため、生成されるデータも莫大なものになる。路面下空洞探査は100kmという単位で発注されることが多いが、そのデータはA3用紙にプリントした画像で1,000~2,000枚にもなる。空洞の判定は、大量にプリントアウトしたレーダ波形の中から人の目で空洞等の「異常反応」を見つけ、更に「空洞の特定」をしてくのだが、5~6人がかりで1ヶ月くらいかかってしまうのだ。このチェックに大きなコストと時間がかかる。またチェック漏れをいかに防ぐか。坂上氏はここを改善したい、と以前から考えていた。

  • 異常反応:
    空洞や埋設物などを示す特有のレーダの反射画像
川崎地質株式会社
代表取締役 社長
坂上 敏彦 氏
川崎地質株式会社
首都圏事業本部 保全部長
探査グループ 探査開発室長
山田 茂治 氏

経緯

見逃しは許されない解析
いかに精度も効率もあげるか

膨大なデータから空洞を見分けるのには経験が必要不可欠である。初心者だと明確に反応が出てきていない空洞を見逃すこともある。それをベテランがクロスチェックすることで、見逃し防止を図っている。見逃してしまうと道路の安全性に関わるので、解析は同社が最も力を入れる部分だ。

現在、同社にはベテランが何人もいるので、人力でも問題なく業務を遂行できている。しかし、坂上氏は「人材という面でも、今後もずっとこのやり方では難しくなります。そこで、AIに目をつけました。AIの知識を持っている技術者もおり、空洞を見つけることはできそうだ、という目星はついていました。ただ、アプリケーションとして市販されているようなものではないため、導入までは至っていませんでした」と語る。

ポイント

AIの効果を最大化できる
異常反応の検知に導入した

AIを短時間で導入するのは自分たちだけでは難しいと考えていたところ、当時すでに一緒に仕事をしていた富士通交通・道路データサービスから「Zinraiディープラーニング」の提案を受ける。相談するうちに、1ヶ月もしないで導入できることがわかった。導入の決め手になったのはこのスピード感だ。川崎地質は、富士通側にAIの活用範囲を人間が最終判断を行う前の段階、つまり空洞の可能性のあると思われる異常反応の抽出に絞ることを提案。富士通とコミュニケーションを密に取りながら、効率的にディープラーニングを加速させたのだ。

坂上氏は「以前から富士通交通・道路データサービスさんとは仕事をしており、我々の業務を良く分かってくれていました。スピーディなAI導入も、精度の高い教師データの判定手順も、すべて我々の業務を深く理解してくれたからこそだと感じています。技術的なコミュニケーションも大変スムーズに行えましたね。」と言う。

効果と今後の展望

異常反応の抽出にかかる時間が10分の1
技術者による総解析時間も2分の1になった

導入の最大のミッションとしたのは「異常反応の見落としをなくすこと。異常反応をすべて網羅することというのが大前提です」(坂上氏)

その条件で、AIの開発がスタート。膨大な教師データを作成し、一気に「Zinraiディープラーニング」に読み込ませ、1ヶ月もしない間に形になったという。そこから新しい教師データを提供したり、チューニングを進め、1次判別の時間は10分の1にまで短縮。そこでほぼ100%に近い精度で異常反応を検知し、その後の人の目による再チェック作業を含め、最終的に空洞の有無を判断するまでの作業時間は半分になっている。

「正直、社内の技術者は半信半疑だったのですが、今では『AIがこれほどできるとは思っていなかった』と感動しています」と語るのは、同社の保全部長である山田茂治氏。しかし、坂上氏は同時にこうも言う「これで人がいらなくなるわけではなく、やはり将来も専門の技術者が必要です。AIと技術者の育成は両輪だと思っています」。大事なのはAIをいかに使いこなすかなのだ。

「Zinraiディープラーニング」の導入により、データに客観性を持たせることができた。異常反応の検知からさらに、空洞反応がより高い確度でわかるようになれば、近い将来には解析時間も5分の1くらいに短くできるでしょう」と山田氏。もちろん、効率化も実現。解析の作業時間が半分以下になりコストを削減でき、「より多数の業務を受注できるという効果も派生しています」(山田氏)という。

このめざましい成果を出せたのは、富士通のサポートのおかげだと坂上氏と山田氏は口を揃える。「我々と同じ目線になって語りかけてくれるんです。提出データで足りない時は、こんなデータはありませんか、と聞いてくれます。我々の技術を理解していただき、親切丁寧に提案してくれるのでスムーズに進めることができました」と山田氏は語る。

同社はさらに次の構想も進めているところだ。現在は、同社の専用車両が現場に出向いて計測しているが、自治体が日々行っているパトロール車両にセンサーを搭載すれば、手軽に解析できるようになる。日々、継続的にチェックできれば危ない空洞をいち早く見つけることができる。

坂上氏は「空洞を見つけるだけでなく、地質調査のプロフェッショナルとして、空洞ができた原因まで踏み込んで調査します。原因がわかれば空洞の発生を防ぐことができますから。そこが我々のプライドです」と語る。これまで培ってきた技術と「Zinraiディープラーニング」を使って、今後も人々が安心して暮らせる社会作りに貢献してくれるだろう。

川崎地質株式会社 様

本社 東京都港区三田 2-11-15 三田川崎ビル
代表者 代表取締役社長 坂上 敏彦
ホームページ http://www.kge.co.jp/新しいウィンドウで表示
概要 1943年に地質調査のパイオニアとして創業。物理探査技術、現場計測技術をベースに、調査・解析・報告・コンサルティングをワンパッケージで提供している。より高度に多様に広がり続ける時代の要請に応え、対応領域を次々と拡大し、陸域から海域まで地盤に関する多種多様な問題に幅広く対応している。

[2017年10月掲載]

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