複雑化する社会と膨大化する計算量に対応するために

コンピュータはその誕生から70年あまりの間、半導体の微細化・高集積化とともに性能が向上するという「ムーアの法則」に従って発展を続けてきました。ところが今、ムーアの法則による性能向上はいよいよ限界に達し、コンピュータ領域においてイノベーションを起こすには新しいアーキテクチャ、あるいは新しいパラダイムが必要とされています。

一方でデジタル時代の到来により実現したスマート社会では、複雑化が進むビジネス課題を解決するために、コンピュータの使い方、ワークロードが明確に変わりつつあります。かつてのワークロードは事務処理計算や取引履歴を記録するトランザクション処理が主流でしたが、現在のワークロードはAI・機械学習やビッグデータのように計算処理の多いデータ分析が急増し、その流れはさらに加速を続けています。

同時にこれまでデータセンターに集中していたコンピュータは、モバイルデバイスやエッジデバイスへと広く分散しています。社会のありとあらゆる場所でコンピューティングニーズが広がる中、それに対応していくには、より高速に処理できるコンピュータが欠かせません。

このような社会的な要請に応える新たなコンピューティング技術の研究開発を担当しているのが、ICTシステム研究所です。長年にわたって富士通が培ってきたハイパフォーマンスコンピューティング、スーパーコンピュータの技術をベースに、小規模から大規模へスケールする並列処理の汎用型コンピューティング技術、特定の領域を対象に高速処理を実現する特化型コンピューティング技術の研究開発に取り組んでいます。

専門家でなくても扱える高度なコンピューティングを目指す

ICTシステム研究所ではこれまでに、理化学研究所計算科学研究センターの最新スーパーコンピュータ「富岳」、産業技術総合研究所の大規模AIクラウド計算システム「ABCI;AI Bridging Cloud Infrastructure」などのスーパーコンピューティング、その技術を応用した東京証券取引所の株式売買システム「arrowhead」など様々な新技術の開発に携わってきました。富士通独自の高品質な技術だけでなく他社の最先端技術も活用しながら、最新のワークロードに対応できる性能を最大限に引き出す大規模並列コンピューティング環境を実現しています。

現在は、プロセッサとデータ間のボトルネックを解消して高性能化を図る「メモリセントリックコンピューティング」、複雑・多様な社会の意思決定を可能にする「最適化コンピューティング」、AIの進化に不可欠な超並列高性能計算を誰もが容易に利用可能にする「ヘテロスケーラーコンピューティング」を中心に研究開発を進めています。

メモリセントリックコンピューティングの分野では、巨大なメモリ上に散在するデータを処理する必要があり、大規模なシミュレーション性能の阻害要因となる「フォンノイマンボトルネック」と呼ばれるプロセッサとメモリ間の性能限界を解消するために、従来とはまったく異なるアーキテクチャやソフトウェアの研究開発に取り組んでいます。

最適化コンピューティングの分野では、大規模な組合せ問題を専門家による調整なしに解くことのできる最適化技術、リアルタイムの状況変化に追随できるストリーミング最適化技術の研究開発に取り組んでいます。ヘテロスケーラーコンピューティングの分野では、計算環境を隠蔽してコンピューティング性能を最大限に引き出す基盤技術の研究開発に取り組んでいます。

具体的な研究成果の例としては、量子現象に着想を得たアニーリング方式(組合せ最適化問題に特化したアルゴリズム)をシリコン半導体のデジタル回路技術で実現した「デジタルアニーラ」、計算の厳密性を自動的に制御してAI/機械学習処理の演算精度と高速化を両立させる「Content-Aware Computing」などの技術を世界で初めて開発、発表しています。

このほかにも量子コンピューティング研究センターにおいて、量子コンピューティングのすべての技術レイヤーにおいてグローバルの研究機関と共同研究を進めるなど、量子コンピュータの実現に向けた中長期的な研究への取り組みも行っています。これらの研究開発は、日本国内の拠点に限らず、北米・欧州・中国などの国外の研究開発拠点や世界トップレベルの研究機関と一体となって、量子デバイスといったハードウェアからソフトウェア、アルゴリズムまですべての領域を網羅した研究を進めているところも富士通の大きな特長です。

創薬、物流、設計など様々な領域のイノベーションへ

ICTシステム研究所は、これらのコンピューティング技術の研究開発を推進することによって、デジタル時代の社会変革に貢献していくことを目指しています。

例えば自動車・鉄道・航空機業界の設計プロセスでは、大規模流体・騒音シミュレーションの高精細分析処理が難しく、現状では人手による試作・実験が不可欠となっています。また製薬業界の中分子創薬プロセスでは、分子動力学シミュレーションによる構造探索を行うために数か月以上の時間を費やしています。これらはいずれもフォンノイマンボトルネックが原因となっているため、コンピューティングアーキテクチャを根本から見直して人手が残る領域をコンピュータへと置き換えることができれば、新たなイノベーションを起こすことも可能になります。

また、デジタルアニーラのような組合せ最適化技術を適用すれば、サプライチェーンをリアルタイムに最適化して不要なプロセスにかかるコストを最小化したり、調達から製造・出荷までを全体最適化して個別仕様に応じた生産計画を実現したりといった製造・物流業界のイノベーションが期待できます。さらに、先述した創薬分野でもデジタルアニーラへの期待は大きく、2021年には新型コロナウィルス感染症治療薬の開発期間の短縮に活用されています。

さらに特化型コンピュータの処理能力を自動的に引き出すヘテロスケーラーコンピューティング技術を導入すれば、コンピューティングの専門家でないアプリケーション開発者であっても汎用型・特化型コンピュータをフルに活用できるようになり、イノベーションの加速につながると考えています。

富士通の ICTシステム研究所には、こうした社会変革を実現するトップレベルのコンピューティング技術の研究開発に取り組み、多くの成果と実績を上げてきたという強みがあります。これらのコンピューティング技術を持っているからこそ、他には真似のできない優れたサービスを提供できると自負しています。これからも続々と登場する富士通の最先端コンピューティング技術にぜひご期待ください。

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