データとセキュリティは不可分の時代に

データは、社会やビジネスに新たな価値をもたらす重要な資源だと考えられています。ただし一口にデータと言っても、漏えいしては困る機密データや個人データ、公開することを前提にしたオープンデータなど様々な種類が存在しています。それぞれのデータの所在や利用者、特性を考慮したうえで、目的をもって正しいデータを収集・抽出できなければ、有用なデータを活用することはできません。

例えば、社会への実装が進む人工知能(AI)は膨大なデータを学習した結果に基づいて判断しますが、学習に用いるデータに不正や偏りがあれば、思いもよらない行動をとることもあり得ます。そこで求められるのが、データの改ざんを防いで正しいデータを保護するセキュリティです。

従来のセキュリティは、社内に存在するデータを境界で防御する方法が一般的でした。これでは外部のクラウド環境にあるデータを守りきれません。また、外部からメール等で送られてきた請求書などの業務データやオープンデータなどが信頼できるものかどうかは判別するのが困難です。このようなデータの課題を解決するには、データを中心にセキュリティをとらえなおし、組織をまたがるトラストな(信頼できる)世界を構築する必要があります。

このような課題解決に取り組むために、富士通が2021年度に立ち上げたのがデータ&セキュリティ研究所です。ブロックチェーンやデータ関連技術と、情報セキュリティ技術に取り組んでいた複数の研究組織を統合する形で発足しました。

4つの領域でデジタルトラストを支える

データ&セキュリティ研究所では「業界をまたがるトラストなデータや価値の流通を加速し、サイバーフィジカルの新たな脅威に備えた安全な社会を実現するために、データとセキュリティの両面からデジタルトラストを構築する先端研究およびルール形成に取り組む」という方針を掲げています。そのために「ブロックチェーンエコノミー」「分散TaaS(Trust as a Service)」「Trusted Web」「AIサイバーセキュリティ」の4つのプロジェクトを中心に研究開発に取り組んでいます。

ブロックチェーンエコノミープロジェクトでは、異なるブロックチェーンが安全・確実につながる世界の実現を目指すオープンソースプロジェクト「Hyperledger Cactus(カクタス)」を世界的にリードしています。透明性・安全性を保証しながら複数のブロックチェーンを相互に接続する富士通独自のセキュリティ技術「コネクションチェーン」を中心に、他社のブロックチェーンの統合を容易にする基盤技術の開発をOSSコミュニティと共同で進めているほか、ブロックチェーンを環境問題やトレーサビリティなど社会課題に応用した技術の研究開発にも取り組んでいます。

分散TaaSプロジェクトでは、組織間でやりとりするデータの真正性を保証するデジタルトラスト仲介技術、およびデータに対して自動的にデジタル署名を付与し真正性を透過的に保証するTaaS(Trust as a Service)技術の開発を進めています。この分野は技術に加えて仲間づくりも必要となります。TaaSについてはデジタルトラスト協議会により国内のルール形成活動を技術的にリードしています。またTrusted Webプロジェクトでは、日本発の次世代Web技術コンセプト「Trusted Web」を進めるTrusted Web推進協議会や、信頼あるデータ社会の実現を進めるデータ社会推進協議会の活動に積極的に関与しています。

さらにAIサイバーセキュリティプロジェクトでは、偽造攻撃データを用いてAIモデルをだまし意図的に判定を誤らせるなど、今後社会問題になると予想される新しいサイバー攻撃への耐性を強化する技術を開発し、AIシステムの安全性・トラスト向上を目指す取り組みに注力しています。

このようにデータ&セキュリティ研究所は、社会的責務としてのデジタルトラストの研究に取り組み、富士通がトラスト領域において業界を牽引する立場になることを目標に活動を続けています。

データのトラストが産業構造の変革を促進する

日本は世界の中でもいち早く人口減少が始まり、シェア・コモンズが必要な脱成長社会を迎えようとしています。業務のアンバンドリング(分解)と組織を超えたリバンドリング(分業)による「リソースを消費しない超効率化社会」の到来により、2030年にはサイバー空間で業務が完結し、国や組織の枠を超えた新しい産業やコミュニティがデジタルファーストで形成されることが予想されます。

コロナ禍がもたらした社会環境の激変により、企業が存続するためには産業構造のデジタルトランスフォーメーション(DX)が求められています。それを実現するカギとして注目されているのが、業界横断的なリバンドリングの促進です。これからは、各企業のDXに加えて、異なる企業間を最適に再構築することによる社会全体のDXが進むと考えています。

しかしそのためには、初めて取引をする相手とも、例えば与信・契約・会計など複雑な手続きを、信頼性を担保しながら迅速に契約を実行しなければなりません。リモートによる業務が主体となるニューノーマル時代における根源的な課題と言えるでしょう。そこで企業間の情報交換をトラストに実現する新しい取引基盤を開発してこの潮流を加速し、ひいてはパンデミック・環境変動・価値の多様化に対応した新たな産業構造を創出するのです。これこそまさに富士通が描く社会変革の姿であり、データ&セキュリティ研究所が研究開発に取り組むTaaSやTrusted Webは、それを実現するための重要な要素技術なのです。

サステナブルな社会では、
無形の価値がデータとして流通する

さらにその先には、国や業種をまたがるトークンエコノミー(仮想経済圏)が進み、お金以外の潜在的な社会価値が多様化した経済圏が登場することになるでしょう。例えば、環境を破壊しないゼロ・エミッションの実現にはこうした無形の価値を共通に扱う取り組みが必須であり、各業界の努力だけでは実現できません。

一方で消費者は、環境に配慮したサステナブルな商品を選ぶ傾向を強めています。こうした価値観の変化に対応するには、これまで見えなかったために追跡が困難であった環境負荷などの情報を、サプライチェーンとともに流通させる仕組みが必要になります。データ&セキュリティ研究所では、これまでリードしてきたブロックチェーン連携技術を発展させてこうした課題解決に取り組んでいます。

富士通のデータ&セキュリティ研究所は、無形の価値がデータとして流通するような将来の社会変革像を目指し、人間中心で透明性・説明責任が担保されたトラストを実現する研究を進め、今後も安心して誰もがつながる社会に貢献していきます。

データ&セキュリティ領域でデジタルトラストを構築する先端研究およびルール形成を目指す

ページの先頭へ