研究者の夢 Researcher's Dream

ミクロな世界をシミュレートする計算科学に惹かれ、コンピューティング×AI技術の可能性を追求

吉本 勇太Yoshimoto Yutaコンピューティング研究所

Article|2025-06-19

ミクロな世界をシミュレートできる計算科学に魅了されて

子どもの頃から数学や理科が得意で、特にドリルの問題を論理的に考え、最終的な答えに辿り着くプロセスが好きでした。あやとりや折り紙でもよく遊びました。折り紙の本を見ながら、平らな紙がどのような立体になるのかを想像して、本に書かれているものを順番に作り楽しんでいました。このような論理的思考は、大学での専攻やその後のキャリアを考える上で役立ちました。

大学では、原子レベルのシミュレーション技術の開発に取り組み、ミクロな世界をシミュレートできる計算科学に惹きつけられました。物質の性質や引き起こされる現象は、原子や分子の動きで決まります。一つ一つの原子や分子の動きは単純な物理法則に従っていますが、それらが無数に集まると、粘り気のある液体や硬い固体といった、私たちが実際に目にする様々な性質が現れます。ミクロな世界の単純な法則から、マクロな世界の複雑な現象が生まれることに、大きな魅力を感じました。

富士通に入社する前は、大学で計算科学の研究と学生の教育を行っていました。しかし、研究成果を社会に役立てるには、論文発表だけではなく、応用を考え製品化まで繋げる必要があると強く感じていました。そこで、AIや材料科学、計算科学の専門家と一緒に仕事をすることで自分のスキルセットを広げ、研究成果を社会実装に繋げることを目標に入社しました。

材料開発を飛躍的に加速させる

現在、AIを活用した原子シミュレーション技術の開発に取り組んでいます。この技術は、従来数ヶ月かかっていた材料特性の解析を数日から数週間のレベルに短縮でき、化学・素材メーカーの材料開発を加速します。AIを活用することで、第一原理計算(原子間の相互作用を高精度に計算する手法)に匹敵する精度を保ちつつ、計算コストを大幅に削減し、より大規模で長時間のシミュレーションが可能になります。

しかし、AIを活用したシミュレーションは、従来のシミュレーションに比べて計算の安定性や物理的妥当性を確保するのが難しく、開発をはじめた頃は、一つの課題を解決しても、すぐに別の課題が現れるという状態でした。例えば、計算の途中で原子間の相互作用が異常になり、計算が停止してしまうなど、様々なことが起こりました。そのような課題を一つ一つ解決していき、最終的に目標としていた規模や精度のシミュレーションが実現できたときは、嬉しくてなかなか寝付けなかったのを覚えています。今後、開発した技術を搭載したソフトウェアを商用化し、材料開発の加速に貢献したいと思います。材料開発に携わる方々に我々のソフトウェアを活用していただき、広く使ってもらえるようになれば嬉しいです。

長時間、安定して、大規模なシミュレーションを実行できるAIモデルへのニーズにも対応

我々の開発技術は、物理法則に基づき原子の運動を計算し、得られた大量のデータを統計的に解析することで、様々な物性値(例:密度、熱伝導率、拡散係数など)を導き出します。AIモデルを用いて特定の物性値を直接予測するアプローチもありますが、それは特定の用途に限定されます。物理法則を組み込まずにAIだけで予測すると、汎用性が低くなってしまいます。こういった課題に対し、我々は物理法則に基づいてAIモデルを構築しているため、得られた原子情報から様々な物理量を計算できます。特定の物理量に特化した手法とは異なり、幅広い物性値の計算に対応できる点が強みです。長時間、安定して大規模なシミュレーションを実行できるAIモデルへのニーズにも対応し、材料開発以外の応用も期待されています。

いつも応援してくれる両親への感謝

私は、いつも支えてくれる両親にとても感謝しています。昔から、私がやってみたいと言ったことは何でもやらせてくれました。そして、いつも応援してくれました。何かをやりなさいと言われたことはほとんどなく、私の自主性に任せてくれました。自分で考え、自分で行動するという主体性を養えたのは、両親のおかげだと思います。今、私自身も家庭を持ち、子どもの自主性を尊重し、たくさんの挑戦を応援できるような家庭を築きたいと思っています。

休日は、家族と出かけてリフレッシュすることが多いです。息子は水族館や動物園が大好きで、よく一緒に訪れ、楽しい時間を過ごしています。また、同僚と飲みに行ったりもします。仕事で課題にぶつかった時は、同僚に相談したり、一晩寝かせて翌朝考えを整理することで、良い解決策が見つかることが多いです。周りにはゴルフをする人が多く、いつか自分も挑戦してみたいと思っています。

息子とイチゴ狩り体験!

革新的な技術を追求し、社会へのインパクトを目指す

新たな課題に直面しても、諦めずに丁寧に原因を分析し、粘り強く試行錯誤を重ねてきました。これは、「一つのことを納得するまで徹底的に深めていく」という私の信念に基づくものです。課題解決においては、まず論文等を精査し、綿密な調査を行います。その結果を踏まえ、計画を立案・実行します。想定通りに進まない場合は、原因を分析し、問題点を特定した上で改善策を検討・実行します。このように分析と改善を地道に繰り返し、最適な解決策を見出すことに研究者としてやりがいを感じています。

現在、AIを活用した原子シミュレーションに取り組んでいますが、量子コンピューティングにも関心があります。社会にインパクトのある新たな価値を創造するためには、多様な技術の融合が不可欠だと考えています。今後は、専門性を広げ、AI、計算科学、量子コンピューティングを融合させた革新的な技術開発にも取り組んでいきたいと思っています。

関係者からのメッセージ

吉本さんは、大学からキャリア入社された材料シミュレーションのエキスパートです。富士通の強みであるコンピューティング技術と人工知能を駆使し、入社以来、革新的な材料シミュレーション技術の開発で目覚ましい成果を上げています。専門性はもちろん、誠実で積極的なお人柄から社内外問わず厚い信頼を得ており、社外パートナーとの協調的な成果も数多く創出しています。現在、チームは開発技術の実用化フェーズにありますが、その高い専門性と人柄の良さで、革新的な技術を社会実装し、お客様からの信頼をさらに深めていくと確信しています。アカデミアでの知見を活かし、今後の活躍が非常に楽しみです。(コンピューティング研究所 坂井靖文シニアリサーチマネージャー)

吉本 勇太
Yoshimoto Yuta
コンピューティング研究所
大学院 工学系研究科修了
2023年入社
私のパーパス
最先端のComputing × AI技術を追求し、持続可能な社会の実現に資する技術を創出する

本稿中に記載の肩書きや数値、固有名詞等は取材当時のものです

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