「AI-Driven Transformation: Morphing Challenges into Opportunities」
Fujitsu ActivateNow Technology Summit Silicon Valley 2024レポート

2024年4月16日

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2024年3月13日、カリフォルニア州サンタクララにてグローバルテクノロジーイベント「Fujitsu ActivateNow Technology Summit」 を開催した。このイベントは、2023年12月にオープン したばかりの米国富士通研究所の 新オフィスでの初開催となり、今年のテーマは"AIによる変革:課題をチャンスに変える "と題し、最先端技術、特に人工知能(AI)とコンピューティングがどのように産業を再構築しているかに焦点を当てた。
本サミットは、2つの基調講演、2つのパネルディスカッション、テクノロジー・ショーケースで構成され、AIとコンピューティングの変革力について深い洞察について意見が交わされるとともに、各界からお招きした参加者同士の活発な会話やアイデアの共有が活発に行われた。

持続可能な未来を切り拓く富士通の技術革新

本サミットは、当社Senior Executive Vice President兼CTOであるVivek Mahajanからの、持続可能且つヒューマンセントリックである未来を育むために尽力し、技術と研究のリーダーへと進化する当社姿勢を強調する講演から幕を開けた。
2023年は記録的な高温に見舞われ、人類は地球温暖化から "地球沸騰 "への転換期を迎えている。この環境危機と、世界の生産性向上に最大4兆4,000億ドルをもたらすとされるAIの急速な進歩が相まった背景もあり、戦略的に注力するべき転換期だとMahajanは述べた。
当社のテクノロジービジョンは、高性能コンピューティング(HPC)、量子コンピューティング、セマンティックグラフや生成AIなどのAIイノベーション、ネットワークの進化など、幅広い技術を融合し新たな価値を提供することを目指している。これらの技術は単に理論的なものではなく、データ分析から社会問題の解決に至るまで、さまざまな用途でAIのイノベーションを積極的に推進しており、Mahajanは、その顕著な例として気象庁に新しいスーパーコンピュータ・システムを納入したことに触れ、悪天候の予測精度を向上させ、当社が防災のために技術を活用するという姿勢を表明した。
また、3Dメニーコアアーキテクチャを採用し、高性能と低消費電力を実現した当社のArmプロセッサ「FUJITSU-MONAKA」にも言及するとともに、量子コンピュータの分野での当社取組、日本初の64量子ビット量子コンピュータのリリースや、様々な分野での実用化を目指した量子シミュレータの開発で著しい進歩を遂げたことも挙げ、当社の持続可能性の目標に沿うものとなったとも述べた。
また、AIと機械学習の領域において、AutoML、生成AI、AIトラストのイノベーションに焦点を当てた包括的なAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」を発表し、複数のAIモデルを組み合わせて複雑な問題を解決する当社独自の生成AI混合技術は、AIイノベーションにおける当社のリーダーシップを裏付けるものとしてMahajanは語った。
最後に、本サミットの位置付けとして、最新の成果を披露するだけでなく、行動を促す意味合いにも触れ、参加者に対し世界中の重要な問題を解決するために技術を取り入れ、技術の進歩に貢献するよう奨励する言葉を添えて講演を終え、当社CTOとして、AI、量子コンピューティング、デジタルトランスフォーメーションの力を活用し、地球と人々にポジティブな影響を与えることで、持続可能な世界の創造をリードする姿勢を見せる講演となった。

AI研究の今後の課題と展望

本サミットでは、2つの基調講演が行われ、最初の講演はカーネギーメロン大学インテリジェント・コーディネーション&ロジスティクス研究所を率いているStephen F・Smith教授によるものから始まった。同教授は、AIの進化を包括的に概観し、その発展を形作る重要なマイルストーンと課題について言及した。
同教授は、AIに関する考察の中で、大規模言語モデル(Large Language Models: LLM)の出現と成長について述べ、その急速な発展の背景には、2000年代以降にインターネット上で利用可能になった膨大な量のラベル付きデータと、2010年代の強力なハードウェアの出現があるとした。また、人間レベルのAIの追求が直面する5つの重大な課題を、特に「常識」と「推論」の観点から言及し、LLMは目覚ましい能力を示しているが、依然として操作されやすく、人間の知性に内在する常識的な推論が欠けていることが多いと指摘した。同教授は、これらのモデルを単純にスケールアップするだけでは、これらの限界を克服するには不十分かもしれないと主張をし、このような課題を述べながらも、AIの将来について明るい見通しを示した。さらに、生成 AIがAIの世界において重要な役割を果たす可能性を認めつつも、より広範なAI研究の一面に過ぎないことを主張し、AI技術のより包括的な理解と応用を達成するために、さまざまな研究分野を包含する、AI開発へのバランスの取れたアプローチを追求することの重要性を強調した。
最後に、責任をもってAIを利用することの重要な役割を訴え、研究者、開発者、企業に対し、AIシステムの開発と導入において倫理的な慣行を採用するよう呼びかけるとともに、悪用に対する警戒と潜在的な悪影響を軽減するための対策を実施する必要性に重きを置くべきとし、AI技術が社会をより良くするために使用されることを保証するAIコミュニティの連帯責任を明確にして基調講演を締めくくった。

AI主導の変革推進における生成AIの役割

午後には、"AI主導の変革推進における生成AIの役割"と題した最初のパネルセッションが開かれ、米国富士通研究所におけるAI研究領域責任者である小橋博道をモデレーターとし、MITよりAude Oliva氏、Stack AIよりCEO兼共同創設者のAntoni Rosinol氏2名のパネリストとともに、米国富士通研究所のXavier Boixもパネリストとして登壇し議論を進めた。
対談は、汎用人工知能(Artificial General Intelligence-AGI)の探求に関する討論で幕を開け、パネリストらは、現在の生成AI技術がAGI実現への道を開いているかどうかについて、対照的な見解を示し、様々な見解が共有される中、事実確認ツールの導入や、生成AIに内在するとされるハルシネーションのような問題を軽減するための倫理的ガイドライン確立の重要性について意見が一致した。また、生成 AIがもたらす課題や膨大なコンピューティング・リソースの課題を認めながらも、将来的に安全で倫理的な応用を保証するために、その社会的な意味を探求する必要性を訴えた。
さらに、膨大な量のデータにアクセスできる一方で、データガバナンスやプライバシーへの懸念からデータの取り込みや処理に課題を抱えているというパラドックスも浮き彫りになり、様々なアプリケーションの成功を形作るAI技術の可能性と、人間の行動への影響についても議論をし、意思決定プロセスにおいて制度的知識を取り込むことの重要性と、技術的進歩を推進する上でのコラボレーションとイノベーションの役割を強調した。
最後に、テクノロジーが人間の知性を完全に再現することはないかもしれないが、我々は生成AIの領域で探求と革新を続けなければならないという点で合意をし、創造的なコンテンツ生成と多様なデータセットの分析に焦点を当てることで、私たちは進化するニーズによりよく対応し、AI技術の責任ある開発と展開を確実にすることができるだろうと結論づけた。

テクノロジーの融合が生み出す革新的な社会

2つ目のパネルセッションでは 「テクノロジーの融合が生み出す革新的な社会」 をテーマに掲げ、米国富士通研究所CEOであるIndradeep Ghosh をモデレーター、パネリストには、カリフォルニア大学バークレー校のEric Paulos教授、NASA Ames Research CenterのDirectorであるMichael Hesse氏、当社フェローSVP兼コンバージング研究所長の増本大器による示唆に富む議論が交わされた。
本パネルセッションでは、環境モデリングと持続可能性におけるデジタル・ツインと先端技術の重要な役割について掘り下げた。Michael Hesse氏は、複雑な生態系をシミュレートするためのデジタルツインの革新的な利用や、二酸化炭素排出量のモニタリングへの衛星データの応用を主張した。このアプローチは、環境への影響に対する理解を深めるだけでなく、堆肥化可能なスーパーキャパシタやリサイクル可能な電子機器など、持続可能な素材の進歩に道を開くものでもあり、Eric Paulos教授も熱く語った。また、増本は 当社で進行中のプロジェクト:カーネギーメロン大学との交差点を動的3次元シーンモデルに再構築するプロジェクト、富士通欧州研究所での脱炭素交通プロジェクト、川崎研究所での脱炭素化への取り組みを紹介しFujitsu Uvanceでの実装を計画している旨についても言及した。
社会力学と人間行動の複雑なモデリングを議題として取り上げたパネリストらは、固有の課題を認めつつも、AIを活用したシミュレーションの変革の可能性を認識し、これらの技術は、社会の動向を把握するための有望な手段を提供し、それによって政策立案者が気候変動の緩和や資源管理に関連した情報に基づいた意思決定を行うことを支援するという点にも触れた。議論を通して繰り返されたテーマは、学際的なコラボレーションと、AIおよびデータ駆動型アプローチの統合の最重要性でもあり、さまざまな分野からの洞察をもとに、今日のグローバルな課題に対する総合的かつ効果的な解決策を開発する必要性を強調した。
総括すると、ウェアラブルテクノロジーから環境持続可能性まで、多様な領域におけるデジタル技術の変革の可能性を明らかとなり、社会と環境の改善のためにこれらのテクノロジーを活用するためには、社会におけるステークホルダー同士が連携に向けた努力を重ねることと併せ革新的な思考が必要であることがあらわになるとともに、有意義なイノベーションを推進し、再生可能な社会を育む上で、融合するテクノロジーの力を証明するパネルセッションであった。

量子コンピューティング宇宙論

午後の基調講演は、カリフォルニア大学バークレー校の教授であり、ノーベル物理学賞受賞者であるGeorge Smoot教授にお話頂いた。宇宙に関する深い洞察と天体物理学における高度なコンピューティングの役割がテーマを掲げ、銀河の分布からダークマター(暗黒物質)とダークエネルギーの謎めいた性質について、宇宙の複雑さを高性能コンピューティング(HPC)と量子力学の視点から堀り下げた。
同教授は、宇宙物理学の最も複雑な問題に取り組む上で、大規模なデータセットと洗練されたコンピューターシステムが極めて重要であることを強調し、これらのツールによって、科学者が銀河や星の形成をシミュレートし、我々の宇宙を形作ったプロセスへの窓を提供できるようになったことを論じ、特にシミュレーションが生み出す膨大なデータを扱う際に、研究者が複雑な問題の解を見つけることを可能にする近似アルゴリズムの使用についても言及した。
講演では、銀河の分布、宇宙マイクロ波背景、ダークマター、ダークエネルギーの研究内容に焦点が当てられ、宇宙の最適なモデルを特定するために、観測とシミュレーションを比較する際の多次元解析の難しさにも触れるとともに、量子力学が人間のテレポーテーションのような概念に与える影響について、理論物理学に立脚しつつも、スタートレックのような大衆文化との類似性を示しながら、興味深く論を進めた。

さらに、宇宙の理論モデル、特に宇宙の構成と進化を理解するためのフレームワークを提供するラムダ・コールド・ダーク・マター(LCDM)モデルについても触れ、同教授は、銀河の形成や宇宙の大規模な構造を描いた詳細なコンピューターシミュレーションを示し、理論モデルを検証するために、これらのシミュレーションを観測データと整合させることの重要性を語った。
また、より喫緊の問題の1つとして、観測された矮小銀河の数と無衝突数値宇宙シミュレーションによる予測との間の不一致を強調する 「矮小銀河問題」 にも触れ、ダークマターや銀河の形成についての理解に疑問を投げかけるものとなった。
同教授はさらに、重力レンズの概念と、ダークマターハローから銀河形成を研究する上でのその重要性を紹介した。この現象は、巨大な物体の重力場が周囲の空間をゆがめ、背景となる物体からの光を偏向・拡大させるというもので、宇宙における暗黒物質の分布について貴重な洞察を与えてくれる。
全体を通して、同教授の講演は理論的なコンセプトと、宇宙物理学における高性能コンピューティング(HPC)と量子力学の実用的な応用を融合させ、現代の天体物理学研究の複雑さを浮き彫りにしたことに加え、宇宙の謎を解明するために不可欠な手段であることも強調して幕を閉じた。

総括

閉会挨拶では、当社技術戦略本部長である岡田英人が、「AI主導の変革: 課題をチャンスに変える」というテーマを改めて振り返りながら、この日に行われた深い議論と洞察を振り返った。岡田は本サミットが、昨今の流行を超えたAI技術に関する有意義な洞察を共有できたことへの成功を述べるとともに、人類に恩恵をもたらす持続可能な社会のために技術を活用するという当社の決意を改めて表明した。
また、午前中のセッションを振り返り、Mahajanが持続可能性に向けた当社の技術戦略、特に7,000のAIユースケースや、AIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi」、「混合生成AI技術」、「AI Computing Broker」、量子シミュレーター、量子コンピュータなどのイノベーションの進展にも改めて述べた。また、Smith教授の基調講演にも触れ、AIの進歩に対する期待を和らげるとともに、人工知能の実現には長い道のりがあることを想起させ、AIシステムに関連するリスクを最小限に抑える必要性を強調した。続いて、最初のパネルディスカッションでの、ワークフローの自動化、コンテンツ生成、ナレッジマネジメントにおける生成AIの変革の可能性に焦点を当て、持続可能性、安全性、倫理性にも言及された点、また2つ目のパネルディスカッションでは、NASAのデジタル・ツイン・プロジェクト、当社のソーシャル・デジタル・ツイン、行動変容イニシアチブを例に、再生可能な社会を実現するためのヒューマン・モデリングと組み合わせたデジタル技術の探求が注目された点についても述べた。宇宙論における高性能コンピューティングに関するSmoot教授の基調講演に関しては、シミュレーションが宇宙の理解にどのように貢献するかを改めて触れた。最後に参加者ならびにイベントスタッフへ感謝の意を伝えるとともにテクノロジーによる変革への決意を表明して本セッションの幕が下ろされた。

未来を形作るテクノロジーのインパクト

本サミットでは、当社が進めている最新の取組・技術を紹介するテクノロジー・ショーケースも併せて開催された。それぞれが持続可能な未来のためにテクノロジーを活用するという当社のコミットメントを示すものであり、コンピューティング、AI、データ&セキュリティ、コンバージングテクノロジーなどの主要な分野にわたり12の展示を通して参加者と概念実証(PoC)の可能性を探索する時間となった。
その中でも、"AI Innovation Components"では、生成AIを活用し、顧客要件を満たすために必要なAIモデルを自動生成する技術であり、生成されたAIモデルと既存モデルと組み合わせることで、多様な顧客要望に迅速に対応するAIイノベーションコンポーネントの自動生成を実現する展示、また、Palantir Technologiesと「Auto ML : Kozuchi 」との協業では、企業や医療機関全体の意思決定、効率、コスト削減を強化する新しいAIプラットフォームを紹介し、「量子コンピューティング」 では、超伝導量子コンピュータのモックアップを展示し、理化学研究所とのハイブリッド量子プラットフォームの共同研究を紹介した。
これらのショーケースは、当社の技術力を示すだけでなく、テクノロジーを通じてより持続可能な未来に向けて前進するという当社の決意とともに、今後も業界に特化したソリューションを開発し、テクノロジーによる変革を続けていく姿勢を見せる場となった(詳細については、Fujitsu Research Portalをご覧ください)。

また、本イベントのフィナーレでは、当社デザインセンターの宇田哲也が "Digital Leads the Future of Japanese Sake "と題した特別講演を行った。宇田は、デジタル・イノベーションを通じて伝統的な日本酒業界を活性化させる新しいアプローチを紹介し、日本酒業界が直面する課題として、人気や生産量の低下、地方の酒蔵が直面する流通の問題などを取り上げながら、音楽の音の振動を利用して発酵プロセスに影響を与え、ユニークな風味の日本酒を生み出すという先駆的なデザインコンセプトを紹介し、このアプローチは、D2C(Direct-to-Consumer)モデルを通じて消費者を生産プロセスに巻き込むだけでなく、暗号通貨、モバイルアプリ、NFT、ライブストリーミングなどの最新技術を統合し、消費者を共同生産者に変身させると述べた。本セッションは、テクノロジーと伝統を融合させ、生産者と消費者の新たなつながりを育み、日本酒業界に革新的な道を切り拓くという当社のビジョンをご覧頂く時間となった。
本プレゼンテーション後、参加者は日本酒の飲み比べ、ほかの参加者・当社メンバーとのネットワーキング、テクノロジー・ショーケースでの議論や会話を楽しみ、イベントは明るい雰囲気で幕を閉じた。

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