私は北海道の田舎に生まれ育ちました。
小学校時代には、父親の転勤により二度転校を経験しましたが、幼い頃から人見知りではなかったため、すぐに新しい友達を作り、たくさんの楽しい思い出を作ることができました。
特に友達とサッカーをする時間を大切にしていました。
虫探しやそり遊びなど、様々なことに挑戦し、周りから好奇心旺盛と言われることがよくありました。
また科学や数学が大好きで、毎日学校に行くことが楽しみでした。
宇宙の原理や生命現象について惹かれ、関連する本をたくさん読みました。
それらの本は私にとって、知識の広がる旅路であり、未知の発見に満ちている宝物でした。
高校に入ってから、将来を見据えて専門性を身に付けることが重要だと感じ始め、得意の科学や数学の知識を身につけ、数理系の専門性を活かせる職業に就きたいと思うようになりました。
そして、東京の大学へ進学することを決意しました。
大学院で、ビッグデータ処理の高速化の研究を進めていた私は、偶然出会ったスーパーコンピュータ「TSUBAME」に魅了されました。
「TSUBAME」は世界でも珍しいGPU搭載の先進的なスーパーコンピュータであり、最先端の研究ができると期待が膨らみました。
最先端のスーパーコンピュータを動かすソフトウェアの最適化が楽しく、ハードウェアを操ることができるソフトウェアの研究は、本当に魅力的だと感じました。
ビッグデータ処理にスーパーコンピュータを活用するという研究を進める過程で、産業においても計算基盤は重要だと痛感しました。
インターネットによってデータ量が急増していた頃で、大量のデータを処理するためには計算能力が不可欠であることが明らかになり、さらにクラウドコンピューティングの研究も進んでいた時期でした。
計算インフラストラクチャーはこれから世界中で農業や工業など様々な産業の発展に貢献することができると確信しました。
スーパーコンピュータ活用のため最適化されたソフトウェアの研究成果を国際学会で発表した結果、海外から驚きの要望が寄せられました。
それは、私が開発したソフトウェアを公開してほしいというものでした。
この経験で私は、自分の研究が社会に役立ち、世界中の人々とつながることができると実感することができました。
そしてこれが刺激となり、計算インフラの分野に関する研究開発に力を注ぎたいと、初めて強く思うようになりました。
当時、富士通はスーパーコンピュータ「京」を開発し、高い計算能力を持ったハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)(*1)システムの提供で話題になりました。
このHPCの研究による未来の技術への期待と、当時話題になっていたAI技術に興味を持ち、富士通に入社しました。
入社して間もない頃、最新のAI技術であるディープラーニング(DL)を強化する高効率フレームワーク・アルゴリズムの研究開発に携わることになりました。
最初は難しいと感じましたが、教科書を参考にソースコードを書き始め、徐々に理解を深めました。
わずか数ヶ月で、データの分析からモデルのトレーニングまで自らの手でソースコードを書くことで知識を身につけることができました。
学んだことをフレームワークに適用することができ、チームメンバーと共有することができました。
入社1年目の自分は新しい分野の知識を得ると同時に、チームに貢献できる実感を味わいました。
それから、次々と新たな挑戦を続けました。
DLメモリ効率化技術の開発によって、メモリ使用量を約半減させることに成功しました。
また、高効率GPUフレームワークの開発で、強化学習アルゴリズムをより高速に動作するように仕上げました。
さらに、大規模DL学習への同期緩和手法の開発にも成功し、自信に繋がっていきました。
これらの研究成果を積み重ねは、国立研究開発法人理化学研究所・国立研究開発法人産業技術総合研究所・富士通による、機械学習処理性能ベンチマークMLPerf HPCで世界一の性能を達成に繋がりました(*2)。
結果が発表された瞬間、チームは歓喜に包まれ、言葉に言い表せない喜びを感じました。
スーパーコンピュータ「富岳」での大規模実証実験は楽なものではありません。
8万台以上の計算ノードを同時に使用した大規模実証実験では、ソフトウェア実装の仕方によっては想定通りの性能が出ない可能性もあります。
そこで私は、並列計算、I/Oなどの性能チューニング、アプリケーションのハイパーパラメータチューニングなど細かい作業に積極的に取り組みました。また、チームの進捗管理や提出内容のレビューなど、プロジェクトを円滑に進めるための役割も担いました。
今振り返ってみると、関係者との調整や協力も、貴重な経験でした。
チームで成果を上げることが大事だと思いました。
一緒に働いている仲間との良好な関係は、重要な時に大きな力を発揮するために不可欠です。
信頼し合い、尊敬し合うことで、最善を尽くす責任感も高まりました。
私は現在、コンピューティング技術による次世代計算基盤の研究を行っています。
その一つは、富士通のHPCとAIを組み合わせることで、高速かつ高効率な材料の探索(*3)を可能にする研究開発です。
CO2のゼロエミッションに貢献するため、アイスランドのベンチャー企業Atmonia社と共同研究(*4)を行い、クリーンエネルギーとして期待されているアンモニアを水と空気と電気のみから低エネルギーで取り出せる新触媒を研究しています。
エネルギー業界以外の分野での利用も検討し、実証実験を拡大することで、持続可能な世界に貢献できると信じています。
世界最先端のコンピューティング技術の研究開発を通じて社会課題の解決を加速することは、私の人生の目標です。
新たな試みをする時、よく大学の教授の言葉を思い出します。
「世界最先端のトップランナーであれ」
これが私の研究開発を支えてきた大切な価値観であり、目標です。
権威ある学会に論文を投稿して発表し、社外の第三者から評価されることが、世の中での立ち位置がわかる重要な指標の一つだと考えます。
私の論文は国内外のメディアにも掲載されたこともありますが、これで満足することなく、ひきつづき世界のトップレベルを目指して研究を続けていきます。
世の中をより良くする次世代のスーパーコンピュータをはじめとする将来の計算インフラに求められる技術を開発することを目指します。
いつもその取り組みの過程や結果で、自分の仕事が感動を与えてくれることを忘れずに。