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研究者の夢

倫理問題の解決に向けた信頼できるAIを実現するために

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2023年2月24日 掲載

幼い頃から算数や科学が大好き

子供の頃から、宇宙の星々に魅了されていました。ダークマターやビッグバン理論など、宇宙に関連する本をよく読んでいました。それ以外に、数学も好きな科目のひとつでした。花びらから星まで、自然界にあるさまざまなパターンを数字で表現できることに神秘を感じていました。

私は特に数学の問題を解くのが好きでした。学校では、数学のスピードゲームが行われ、先生が出したすべての問題を最も早く、正確に解いた学生が賞品をもらえました。2進数を10進数へ変換する問題30から40問を8分以内に解いたことを覚えています。また、National Talent Search Examination(*1)では、解析問題100問を45分程度で解き、最高得点を獲得しました。

大学では、通信と信号処理分野の修士を取得しました。その後、コンピュータビジョン(*2)を研究するために博士課程への進学を選択しました。当時は、コンピュータビジョンが天文学をはじめとするさまざまな分野の課題に対応できることが分かった頃でした。その一例として、ブラックホールの存在を計算写真法(*3)で証明できることなど、コンピュータビジョンそのものの可能性に純粋に魅力を感じ、進路選択をしました。

アルゴリズム開発には、抽象的な概念を機械が処理できるような形式に数値化する必要があるため、この専攻では数学の基礎もしっかり身につけることが必要です。つまり、コンピュータビジョンは、好きな数学と天文学の2つの分野をうまく融合しており、非常に魅力的だと感じました。しかし、正直なところ、学生時代の私は、機械学習が社会に与える影響をあまり理解できていませんでした。

機械学習を用いて人々の健康管理を支援するヘルスケアプロジェクトに取り組む

大学卒業後、未来の技術開発に専念できるような研究職を中心に仕事を探していました。より良い社会を作るために人を中心としたデジタル社会の実現を目指すヒューマンセントリックという富士通の考えは、私の価値観と合致していると思いました。実際、富士通の研究所に入社してみると、最先端技術の研究開発に携われるだけでなく、お客様が何を求めているのかを実感できるようになりました。

入社当時は、機械学習研究に取り組み、「ONE」というヘルスケアプロジェクトに携わることになりました。これはAIを使ったヘルスケアアプリケーションのプロジェクトで、栄養、運動、睡眠などに関する特定の健康目標を達成するために、パーソナライズされた提案を行うものです。このアプリケーションでは、パーソナライズされた提案を行うため、機械学習アルゴリズムを使ってユーザーの嗜好を理解し、モデル化しました。

もう一つは、カウンセラーと相談者との会話を支援するための感情認識に関するプロジェクトでした。ここでは、カウンセラーと相談者の間の会話をテキストデータとして分析するために、機械学習ツールを活用することの実現可能性を調査しました。具体的には、明示的に表現されている感情ではなく、潜在的な感情についても機械学習技術で区別ができるかどうかを調査しました。以上の実例を通して、私は機械学習の利点と制約を理解する貴重な経験をしました。

AI生成アートに関する倫理研究

2017年に、私は説明可能なAIとAI倫理の研究を始めました。AIの公平性、透明性、説明責任、安全性など、さまざまなトピックに焦点を当てています。大まかに言えば、AIシステムの社会的影響についての研究です。

私が行っている研究は、博士課程での研究に繋がる部分もあります。私の博士論文は、ルネッサンス期のアート作品に描かれた人物を特定するための顔認識アルゴリズムの開発に焦点を当てたものです。この研究では、誰が描かれているのか判別が難しいアート作品において、人物の特定に重要な手がかりを得ることができ、美術史に大きく貢献する成果を出すことができました。

現在、私は機械学習の創造的応用とその倫理的影響との関連性の研究をしています。博士課程での研究と同様、美術史にも役立つものです。例えば、最近の研究では、AIが生成するアートにおけるさまざまなタイプのバイアスを体系的に調査しました。歴史的な出来事や人物が、事実とは異なるかたちで描かれることがあり、その結果、文化的価値の保存に悪影響を及ぼすことがあります。

この研究は、問題設定やデータセットのキュレーションに関するものから、アルゴリズム設計や評価に関するものまでAIが生成するアートのバイアスを特定するフレームワークを提案することで、有害な影響を軽減することを目的としています。我々の知る限り、これはAIパイプラインのさまざまな段階における生成アートのバイアスを明らかにする第一歩となると思います。

先行技術文献の欠如を克服するために

AIが生成するアートのバイアスを定量化する手法を開発し、生成アートがいかに過去の重要な芸術様式のニュアンスを捉えられず、私たちの文化や歴史への理解を阻害しているかを実証しています(*4) (*5)。実験的な根拠を用いることで、はじめてAIが生成するアートのバイアスを定量的に評価する指標のひとつになりました。

さらに、AIのサイエンスや開発者への開発阻害を減らすため、アートデータセットの責任ある開発に向けたチェックリストとガイドラインを作成しました。

本研究で直面した大きな課題は、比較可能な先行研究が存在しないことでした。通常、研究は先行研究を参考にし、何が限界なのかを理解した上で、改善策を提案します。生成アートの場合、参考になる先行研究がそれほど多くなく、自分たちの方向性が正しいのか、意味のあるもの、役に立つものになるのかがわからない、かなりチャレンジングな研究です。

そのほか、懸念事項を明らかにするために、該当分野の専門家に相談することも重要です。アートデータセットのチェックリストを作成する際には、法律の専門家、美術史家、応用AI倫理の専門家に相談しました。異なる分野の専門家に相談することは、AI監査において非常に有用だと感じます。

分かりやすいAIによる融資判断

また、金融関連のユースケース(*6)において、AIの倫理的な影響について調査を行っています。研究の焦点は、AIによる融資判断の説明をいかに分かりやすく設計するかということでした。融資の拒否理由についてユーザーに伝え、将来の融資を受けるためにはどのようにすべきかの支援をするなど、さまざまな目的に使用されます。また、金融関連のAI活用事例として、与信判断に使用されるデータセットに存在するバイアスを定量化する方法を提案しました。

金融関連のアプリケーションでは、AI規制が特に重要となってきます。国によって状況や規制の原則が異なるため、将来のAIシステムを設計する際には、規制の違いを考慮することが重要です。もう一つの課題は、プライバシーとデータセキュリティに関連する問題です。新しい進歩を遂げるために考慮しなければならないことは、まだたくさんあります。

グローバル社会や組織のための新しいアプリケーション

私の研究ビジョンは、倫理的で持続可能な、社会全体にとって有益な技術を開発し続けることです。また、個人として、より良い人間になるために努力し、新たに視野を広げ、新しいことを学びたいと思っています。

将来的には、気候モデルなどのチャレンジングな分野でAIの可能性と影響を研究し、取り組めるようになりたいと考えています。例えば、気候変動が食糧システムに与える影響を理解するための研究を行いたいと考えています。世界的な気候変動の危機の中で、どのようなものを開発する場合でも、心をこめることが重要だと思います。私は、より持続可能な世界に貢献するために、価値ある研究を目指し続けたいです。

ラーミャ・スリニバサン
Ramya Srinivasan
AI倫理研究センター
大学院 コンピュータビジョン博士課程修了
2015年入社
私のパーパス
「価値ある開発を目指すこと」
私は、講話を聞いたり、古代サンスクリット語の詩を朗読したりするのが好きです。そのほか、料理をしたり、新しいレシピを試したりするのも好きです。

編集後記

編集担当:コミュニケーション戦略統括部 白 湘一

AIの適用が拡大し、社会のあらゆる側面に関わるようになるにつれ、AIにおける倫理問題はますます大きな課題となってきている。ラーミャは、富士通の一員として、AIシステムが人や社会に与える倫理的影響を評価するための新しい手法の開発に注力している。また、彼女は、チームの研究仲間への研究指導も行っている。「粘り強さと努力は成功への重要なキーである」というのが、彼女の信条である。彼女の今後の活躍を期待している。

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