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研究者の夢

AIイノベーションで世界をより良くする

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2022年9月27日 掲載

日本との繋がり

イギリスで修士課程を修了した直後の2010年、私は初めて日本を訪れました。
その時の記憶は、鮮明に焼き付いています。
時間通りに発車する新幹線。道路沿いの自動販売機。
ゲームやアニメの中だけの存在だと思っていたものが目の前に広がっていました。
また、伝統的な建物、美しい自然、人々の親しみやすさにも心を打たれました。
一方、言葉の壁や文化の違いに毎日緊張していたのを昨日のことのように覚えています。

私は子供の頃、絵を描いたり、物を作ったりするのが好きでした。
「なぜ数学が好きなのか」という作文を書くほど、問題を解くことも好きでした。
また、友人たちの間でゲームやアニメが流行っていた時期には、
特に日本製のゲームに夢中になっていました。
今思えば、これが日本に興味を持つきっかけになったのかもしれません。

学ぶ。作る。繋がる

成長するにつれ、私の興味や原動力はすべてコンピュータプログラミングに向きました。

14歳のときに、プログラミング言語であるBASICを学ぶ機会があり、
コーディングに時間を費やすと費やした分だけ、テストでの良い点に繋がることも多くありました。
そんな時間を過ごすうち、それまでの数学と同じように、
コンピュータプログラミングは、私のもう一つの強みになりました。
対峙する問題は同じでも、解は複数あってその自由な在り方に魅了されたのです。
学んだことを礎に、自由な世界でものを創ることができるということを、
私はコンピュータプログラミングに出会って知りました。

ロンドンの高校を卒業して、大学でコンピュータサイエンス専攻に進学すると、AIに興味を持ちました。
そして、AIの研究をさらに深めたくなり、修士課程に進みました。
修士課程の研究が、大学時代に実施した課題とは全く異なることに驚かされました。
大学で解いた課題では、問題があらかじめ決められていて、その答えを見つけることが求められていました。
しかし、研究では、答えを出すだけでなく、質問を設定することもできるのです。
研究というのは、型にはまらず柔軟な環境を提供してくれるので、
自分の創造性を存分に発揮することができ、とても楽しいものでした。

テクノロジーキャリアへの道

冒頭で話した「初めての日本」。なぜ一人で日本を訪れたのか。
大学ではメインの専攻は好きなコンピュータサイエンスでしたが、
キャリアを積む前に何か違うことを経験したいという思いや日本のゲームも好きだったこともあり、
副専攻に日本語を選択し勉強していました。

そうしたことから大学卒業後、日本で8か月間英語を教えるというワーキングホリデーに応募しました。
日本に滞在していた時、休日には日光の神社を巡り、富士山にも登ったりもして、
貴重な体験をたくさんすることができ、本当に新鮮な日々でした。
この経験がきっかけで、将来は日本とどんな形であれ繋がっていたい、
欲を言えば、自分のキャリアの一環として繋がっていたい、と思うようになりました。

イギリスへ帰国後、博士課程に進み、研究に向き合うと同時に、教育スキルも磨きました。
なぜなら、日本での8か月を経て、教えることが本当に楽しいと思うようになっていたからです。
正直、テクノロジーの道か、英語を教える道か、どちらに専念するか迷っていました。
そのくらい、どちらも私にとっては大切なものだったのです。

そこで、「技術」と「日本」の両方の条件を満たせるような仕事はないかと、
広い視野で探してみて出会って入社を決めたのが、富士通でした。
この決断をして本当によかったと今でも思います。

これまでの研究。そして、得た成果

私の現在のプロジェクトは、ニューラルネットワーク(*1) の
説明可能なAI(Explainable AI:XAI)とも言える
「Neuro-Symbolic Integration(NSI)」に関わるものです。
私は、画像認識、特に自動運転車やMRIやCTスキャンなどの医療画像の分類といった
人命にかかわるタスクに最もよく使われる「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」の動作を説明する
フレームワークをどのように開発すればよいかを模索しています。

博士号を取得した当初は、「人工頭脳」を作るという問題に関心がありました。
NSIは、従来は相反するものと考えられていた
ニューラルネットワークとシンボリックAIの2つのモデルの長所を組み合わせたもので、
この課題に対する論理的アプローチに思えたためです。
キャリアを重ねるにつれ、より生活に根付いたAI技術の適用を通して
現代社会の問題解決に繋げていきたいと思い、
このテーマに取り組むことを自分自身の指針として定めることができました。

現在、私はこの分野で富士通の研究をリードし、
NSI研究のロンドン大学シティ校の外部協力者を含む複数のチームと連携して活動を進めています。
コアとなるIP(Intellectual Property)は私自身が設計し、その上に他のメンバーが構築し、共同で論文を発表して(*2)
その有効性を世界に証明してきました。
学術的な成果だけでなく、AIが安全かつ効率的に社会に貢献するための重要な要素として、
このテーマで多くの成果を上げることができたことは、私自身も非常に満足しています。

多方面の知識を蓄積し、その応用の可能性を自由に探求する

私のパーパスは、「多方面の知識を蓄積し、その応用の可能性を自由に探求すること」です。
知識を積み木だと仮定すると、多くの知識を得ることで、より多くのものを作ることができます。
私にとって、目的をもって研究をすることが重要です。
どの領域でも幅広く適用できるAIのような技術は、正確で安全なソリューションを開発し、
お客様に提供するために、対象となる応用分野を熟知していることが不可欠になります。
特に、NSIの研究では、様々な分野での応用を検討しています。例えば、放射線医学。
私自身、本研究を推進する中で、スキャン画像に表れる特徴量から、
お客様が何を求めているかを把握するなど多くのことを学んでいます。
ターゲット分野にもよりますが、お客様に研究アイデアを確認いただく機会があると、
私自身、研究の方向性を見失うことなく、
正しい方向に向かっているかという点を確認しながら研究を進めることができます。

XAIは、AIのイノベーションに欠かせないものです。
XAIは、ワクワクするような発見を見つけ、
それを人間が理解できる形式に変換する手段を提供します。
AI倫理やAIに関する説明責任だけでなく、
様々な応用が可能で、そのひとつが「知識」の発見です。
私自身は、この技術をどのように応用して新しい「知識」を発見し、
科学全体のための「構成要素」をより多く生み出すことができるかという点について、
さらに探求していきたいと思っています。
私の仕事は、AIやNSIの知識を応用し、
未来に向けたユニークなアイデアを生み出すことができると信じています。
これまで積み重ねてきた経験と知識を通じて、有意義な貢献をし続けたいと思っています。

ジョセフ・タウンセンド
Joseph Townsend
AI倫理研究センター
大学院 コンピュータサイエンス博士課程修了
2014年入社
私のパーパス
「多方面の知識を蓄積し、その応用の可能性を自由に探求すること」
趣味:ランニング、テレビゲーム、日本語の勉強。
私はクリスチャンで、ロンドンにある日本人教会に通うのが楽しみです。

編集後記

編集担当:コミュニケーション戦略統括部 白 湘一

これまでの経験をもとに、知識取得に関する心得を示してくれた今回のインタビュー。
AIの新しい可能性を追求する彼の情熱は、その信念と活動の両方にはっきりと表れている。
また、様々な分野を学び、専門家に伺い、技術が解決できる具体的な問題を洞察することに、
大きな熱量を持っていること。
イギリスと日本。国境を越えたオンラインでのインタビューであったが、彼の話を聞いていると、
貪欲に知識を求め、創造性を発揮する人だと想像に難くなかった。
彼は幼いころ、警察官や、獣医になりたいと考えていたそう。
就いた職種が違えど「人の役に立ちたい」という思いが最初から変わらなかったという言葉には
説得力があり、彼のキャリアへの取り組みに、感銘を受けた。

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