小さい頃から本を読むことが好きでした。
親と毎週図書館へ行くたびに
宇宙や歴史の本をひたすら読んだ記憶があります。
本を通して見える景色、例えば宇宙に誕生する惑星や、
カンブリア紀の化石から生物の姿など、様々なことを想像して、
目に触れるものすべてにワクワクして、
未知のことに対して、好奇心が止まりませんでした。
子供向けの相対性理論の本を手に取った時は、内容こそチンプンカンプンでしたが、
知らないコンセプトに触れるたびに、なんて幸せな時間だろうと感じ、
知りたい気持ちがどんどん強くなっていきました。
今思い出すと、この頃から未知の探求へ漠然とした憧れを持っていたような気がします。
中高校生になっても、新しい知識に対する探究心は変わらず、
特に物理の法則を知ることが嬉しかったです。
その喜びがあったので必然的に、物理を専攻できる大学に進学することにしましたが、
実は、高校時代はとても物理の試験が苦手でした。
特に、方程式の応用や問題を解く手順を自分のものにするまでかなりの時間を要してしまい、
定期テストの点数は、低迷期がとても長かったです。
でもその時期に心折れることなく、物理の試験と対峙し続けていたら突破することでき、
遂には受験勉強の問題も自分で作ってみるほどになりました。
ゲーム感覚で問題を解いて、楽しく遊びながら学ぶことができるような高校生でした。
大学生になり、初めてノートパソコンを持つようになりました。
当時は、ITが流行り始めた時期で、ある日、本屋さんで、
C言語のプログラミングの本を見かけ、「やってみようかな」という単純な思いでスタート。
本の指示通りにパソコンにポチポチとコマンドを入れると、
パソコンが指示通りに動き出すことに大興奮しました。
本業である物理の勉強以外の時間はプログラミングに没頭していて、
簡単なシューティングゲームの試作も作ってみたりしました。
そういった日々を通して、モノづくりが得意ということに気づきましたが、
物理の授業では、パソコンで何かの問題を解くことは、ほとんどありませんでした。
人生の方向性が大きく転換する出来事は、その後の大学院に進学してから起こりました。
コンピュータを使用した計算を行わないと、結果の再現ができない論文に出会い、
人生で初めて、コンピュータシミュレーションで物理の問題を解くことができたのです。
人手で計算するには何年もかかる問題でしたが、技術で大幅な時間の節約ができた瞬間でした。
その成功体験をきっかけに、物理で培った素養を活かし社会の役に立つモノを作りたい、
という思いが芽生えていきました。
富士通に入社後、スーパーコンピュータ 京のアプリケーション開発部門に配属され、
物理とコンピュータの知識を用いて研究開発を行っていました。
入社前は、新人ではもしかしたらやりたいことができないかもと覚悟をしていましたが、
いい意味で裏切られ、想像以上に自分の力を活かすことができる環境でした。
優秀なメンバーに囲まれ、日々真剣に作業に向き合っていた時間だったと思います。
3年目までは磁界シミュレータに関連する
磁石や鉄鋼などの磁性材料の特性をコンピュータ上でシミュレーションし、
実験では分からない挙動を解明することに取り組んでいました。
具体的には、電気自動車のモーターに使用される
鉄鋼部品のエネルギーロスを抑えるための挙動解析に携わっていました。
鉄鋼部品の形や大きさはそれぞれ異なるため、作ってからテストを行うには莫大なコストがかかります。
そのため、コンピュータシミュレーションがコストの節約にも、大きく役に立つと考えられていました。
また、コンピュータシミュレーションではパラメータ調整が大事な局面であり、
物理的に正しい計算をしていても、的外れなパラメータでは、見当違いな結果が出てしまいます。
パラメータ調整は根気のいる作業でしたが、諦めない性格が良い方向に影響しました。
粘り強さが発揮できた上、チームのサポートと共に、良い結果が出たため、
電気学会で学会発表(*1)を行い、優秀発表賞を受賞することができました。
その後も継続して磁界シミュレータの研究に従事していたところ、
磁界シミュレータの製品化(*2)段階に至ったこともあり、
それをきっかけに、研究業務のみならず、現場での拡販業務にも携わることとなりました。
販促イベントへの出展や、直接お客様を訪問し、デモをご覧いただく日々の中で、
現場の生の声や課題を伺い、製品機能を使って解決できるか、検証を繰り返しました。
当時のお客様はメーカーの研究部門や大学関係の方が多く、
開発に関わってきた私の知識や経験を活かすことができる実感がありましたし、
そのようなお客様との日々は、とても充実していて、
研究の一線を越えて、お客様と試行錯誤をしながら開発を進めていく「モノづくり」の楽しさを噛みしめていました。
今振り返ると、自分で立てた目標をひとつ叶えるたび、次に叶えたい目標を描き、
常に新しい挑戦をしてきた、とそんな風に思います。
現在、私は量子コンピュータのアルゴリズムの開発を担当しています。
過去の並列計算処理知識や物理の知識を応用し、
量子コンピュータの完成に貢献したいと強く思っています。
量子コンピュータが完成することによって、
量子化学、金融、暗号などの分野で応用されて、
例えば、量子化学では新物質の探索や化学反応経路の解析が加速されるといわれています。
私は、とにかく、前に進み続けることが大事だと考えています。
考えるのをやめてしまったら、そこで研究は終わるので、
小さなことでもよいので、継続的に問題意識を持つことが大切だと常に思っています。
私自身のモノづくりの旅はまだまだ終わりません。
モノを作って、そして世界中の方々に使ってもらえることが、私の夢です。
私の世代から次の世代へバトンを渡すまで、戦い続けます。