大学時代、私の専攻だった数理工学と、ロボットを組み合わせて何か面白いことをしたいと思って、
学祭での展示に向けた企画リーダーに立候補しました。期間は2カ月。
2年前に同じ学祭で展示されていた3×3のルービックキューブを解くロボットを上回るものを作りたいと思い、
5×5のキューブを解くロボットを、学科同期の友人たちとチームを組んで開発しました。
ロボット作りの経験がある人、数学が好きな人、画像処理プログラムが得意な人…
こうした多くの仲間とともに、寝る間も惜しんで大学の作業部屋に籠っていた時間。
あの時を過ごしたことで、一見全く関係ない領域同士を融合することの魅力に気が付き、
異分野の技術を統合して何か新しいものを作ることを仕事にしたい、と思い始めました。
富士通は、突き抜けた研究ができる会社だと思います。
私の専攻を活かしながら、企業ならではの規模で様々なバックグラウンドを持った方々とのチームで
大きなプロジェクトに臨むことができると直感的に思えたのです。
その直感を信じて入社を決めました。
いろいろな道がある中で富士通を選んだことは、
今振り返っても自分の可能性を広げるうえで極めて良い選択であったと思います。
研究に向かう今、私の根底にあるのは「誰かと同じことはしたくない」という想い。
ネガティブな意味では全くなく、
誰も手を付けていない未開の分野で爪痕を残すことに魅力を感じるのです。
今推進している研究もその想いが芽吹きつつあるものの1つかなと思います。
入社4年目の時、普段からお客様の声を直接聞き、現場をよく知る営業との会話をヒントに
入社1年目の後輩と議論し、将来的には「どんなブロックチェーンに対してでも繋げられるブロックチェーン」のニーズが高くなるだろうという仮説を立てました。
今でこそホットな研究領域ですが、当時はまだブロックチェーンの研究分野自体が始まったばかりで、
このニーズに目をつけている人は居ませんでした。
だからこそチャンスだと思って、私と後輩の2名体制でプロトタイピングに着手しました。
といっても、まだまだ4年目。
プロトタイプの開発が一段落した頃、その中に潜む技術的な欠陥に気づいたのですが、
それを解決するには自分たちの力だけでは困難でした。
そこで、ベテランの先輩方にチームに加入いただき、経験や知恵により解決に導いてもらうことで、
1つの技術として形作ることができました。
その後もチーム内外のアイデアを寄せ集め、改良と工夫を重ねることに必死になっていきました。
目の前のことに夢中になっているうちに、気が付けばプロジェクト自体も大きくなっていき、
3年後には、他社と共同でオープンソース化するプロジェクトにまで発展、
その翌年には大手オープンソースコミュニティHyperledgerでのプロジェクトに採択されるまでに至りました。
着手から4年後のことです。
技術も、専攻も、知識も、経験も、全く異なるバックグラウンドを持つ研究者が、
各々の個性を持ち寄って、大きな困難に立ち向かっていく。
私一人では到底できない、その多様性があったからこそ、辿り着けたプロジェクトだなぁとしみじみと感じます。
ここまで育て上げたプロジェクトの海外展開に向けて、今年(2022年)1月から
アメリカの研究拠点(Fujitsu Research of America, Inc.)に赴任しました。
実はアメリカ赴任は数年前から志望しており、やっとスタートラインに立てたのです。
日本にいた頃もアメリカの技術者とリモートで頻繁にやり取りしていたのですが、
これまでは日本とアメリカという国境を越えて進めるには、日本側から見えていない部分もあり課題も多かったのです。
同じ地で歩幅を合わせながら、直接コミュニケーションを取りながら推進することができる、
今の環境は本当に恵まれているなと感じますね。
アメリカでは、実際に技術を使ってもらって生の声を聞くところから始めたいと思います。
その中から得たフィードバックが、プロジェクトを完成させるうえでの鍵になると思っています。
スタートラインには立ちましたが、まだまだ、挑戦の途上ですね。
毎日新しい課題に直面して大変です、でも楽しいです。
私自身の研究人生として、
「Moonbow(月虹)」くらいワクワクするものを実現したいという目標を掲げています。
Moonbowというのは雨上がりの夜、月の光によって生じる虹のことです。
普通の虹でも見つけたら楽しいんですけど、Moonbowは数々の条件が揃わないと観測できないような
非常に稀な虹なので、見た人はより一層ワクワクするとのことです。
虹色のように異分野の技術の色を重ね合わせ、異なる分野との懸け橋となるような
新しい技術を作りたいというのが大きな夢です。
そうしてできた技術を世界中の人に実際に使ってもらって、「面白い!」と思ってもらいたい。
その「面白い!」が重なり合わさった先にはきっと、「将来の当たり前」があるはずだから。