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研究者の夢

好奇心ドリブンの研究で紡ぐ未来の研究者への蓄積

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2022年5月30日 掲載

「好き」=「才能」

学校が終われば虫や魚を捕まえて遊んで、自然と触れ合うことが好きな子供でした。
でも高校生になると、「好き」のベクトルが化学に向きました。
化学の授業での実験が楽しくて仕方なくて。
ベタですけれど、薬品を混ぜて化学反応が起こる実験が、すごく好きだったんです。
そんな風に化学の魅力に引き込まれた高校時代があったので、
「化学が好き」というその部分だけはブレることなく進路を決めました。
僕、「好き」は、才能だと信じているんですよね、
そこを活かして社会に貢献したいなという想いをずっと持っています。

顕微鏡で観察し続けた大学院時代

「好き」なものも、根底は変わらないけれど、形を変えながら方向性が絞り込まれていき、
大学院に進む時には化学の要素も含まれる表面科学を選びました。
表面科学を選んだ理由は、材料の表面にある原子の配列を見ることができる顕微鏡(*1)に惹かれて
面白そうだなと思ったのがきっかけですね。
大学院時代は、本当に、ただひたすらこの顕微鏡を使って、
シリコンカーバイドの熱処理によってグラフェン(*2)がどのように形成するかということを研究していました。
ほかには、金属元素を半導体などの固体表面上に堆積すると、再構成して勝手に安定構造を見つけ出すんですが、そういうことをして新しい構造を作り出すとかをしていましたね。

研究のミッション

富士通は電機メーカーでありながら、目先のビジネスだけでなく、
材料の基礎研究から真摯に取り組んでいたという点が決め手で入社しました。

配属初期は、酸化物半導体を研究テーマとして取り組んでいましたが、すぐ、ナノカーボン材料に関する
国家プロジェクトへの参加を打診されて、産業技術総合研究所に出向しました。
やりたいと思ったことをやりたい時にできる環境に身を置いて、
周りの研究者と研究に語り合うのもとてもよい経験になったなと今でも思います。

出向から5年後に富士通に戻ってきましたが、
俯瞰で富士通の材料研究を捉えられるようにもなり、本当によかったですね。

場所は変われど、入社から、僕のミッションは変わっていなくて、
新材料としてグラフェンなどの二次元物質を使い、新しいデバイスを作ることなんです。

基本的にはいい特性が出るところまで、合成のやり方を変えて、より高品質のグラフェンを作る。
物質が本来持っている特性を100%発揮できるような新しい構造をひたすらに考える。
もし新しい構造が見つかれば、それに合うデバイスプロセスも変えて、
評価検証をし、結果が出なければなぜうまくいかないのか、を追及する。
そんな風に、すべてのパズルが嵌まるまで、そのサイクルを繰り返していくんです。

偶然研究者になる人なんていない

僕、科学って人智を超えたところに面白いものがあると思ってるので、
先が見えなくても面白いと思っちゃうんです。
でももちろん、どうしてもうまくいかない壁に直面して、試行錯誤して頭を抱えたりもして。

そんな時、遊びの要素を研究に入れてみるんです。
好奇心の赴くままにこれまでとは違うアプローチで実験を行うと、
想像もできなかった別のものが生まれたり、新しい現象が起こったりするんですよ。
それがブレークスルーに繋がることがある。本当に面白いんですよね。

僕たち研究者って、過去にほかの研究者が論文などで報告していること以外はみんな手探りなんです。
どうなるかわからないからこそ、やり甲斐があるんです。
誰もやってみたことがないことをやってみて、世界で初めて自分がその目撃者になる。
人類で初めて自分が目撃できるというのは、研究者だからこそできる経験だなと、
それが本当に魅力だなと、常々思っています。

今は、二次元材料を積層させて新しい物性を発現させる、
グラフェンの特徴を最大限生かすためのアプローチ法を考えています。
趣味の温泉に浸かっている時も、晩酌をしている時も、普段から頭の片隅には研究があります、
好きなので自然とそういう思考になっちゃうんですよ。

でも基本研究者になる人っていうのは、そういう人多いと思います。
みんな研究が好きだから。僕、偶然研究者になる人はいないと思っているんですよね、
好きでたまらないがゆえに研究者を目指してきた人ばかりだから。

過去、僕、そして未来

将来は、ネイチャーやサイエンス等、最高峰の論文に載せられるような成果を残すのが夢です。
僕の研究領域で、例えば定年までの期間で考えても、
すぐに世の中に還元できるようなものを生み出すというのが難しいというのは重々承知していて。
でも、振り返った時に、社会を少しでもいい方向に変えることに貢献できたなと思いたいですね。

過去の研究者が、僕たちに残してくれたように、僕の発見が、未来の研究者の一つの蓄積となるような、
人類みんなで科学を発展させていきたいというのは、昔から揺るぐことなく根底にある想いです。

  • (*1)
    走査型トンネル顕微鏡
  • (*2)
    炭素原子がハチの巣のような六角形に結びついている原子1個分の厚さのシート
林 賢二郎
Hayashi Kenjiro
デバイス&マテリアル研究センター
大学院 総合理工学府卒
2009年入社
私のパーパス
「好奇心ドリブンの研究から社会を変革するイノベーションを生み出す」
旅行が好きですね。コロナ前は、学会で海外へ行くことも一つの楽しみでした。
国内の旅行は昔から好きで、特に温泉地を巡ってその地のお酒を飲むことが好きです。

編集後記

編集担当:コミュニケーション戦略統括部 倉知 祥子

研究の話になると、途端に声に色が灯る人だった。彼の第一印象だ。
言葉の端々から「好き」が溢れている。
彼は、「好き」=才能と表現したが、その才能を自身で信じ、貫くことができるかが分かれ道だと私は思う。
「好きこそ物の上手なれ」とはいうものの、その過程にある努力、苦悩は計り知れない。
ただ、現在の世界に溢れる「当たり前」は、過去の研究者の努力の蓄積であり、
未来の「当たり前」は彼の「好き」の蓄積が創り出すのだと思うと、世界が違って見える。
私たちは、この視点を心に留めて彩り豊かな未来を見据えていきたい。

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