AIによるリアルタイム津波浸水予測技術を開発

研究成果がNature Communicationsに掲載

2021年6月1日

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近年、自然災害が激甚化する中で、防災・減災分野でのICT活用への期待が高まっています。富士通研究所はこれまで、東北大学災害科学国際研究所、東京大学地震研究所とともに、スーパーコンピュータ(スパコン)やAI等のICTを活用した津波被害軽減に向けた技術検討を進める共同研究を実施してきました。今回、我々は、画像認識をはじめとして近年様々な分野で目覚ましい成果を挙げているAIを活用したリアルタイム津波浸水予測の方法を開発しました。この方法により、一般的なPC等の小規模な計算資源でも高速かつ詳細な津波浸水予測が可能になると期待されます。本技術は、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦教授、東京大学地震研究所の古村孝志教授との共同研究を通して得られたもので、その成果論文が2021年4月15日に学術雑誌Nature Communicationsに掲載されました。

論文の概要

・論文誌名:Nature Communications
・掲載日:2021年4月15日
・タイトル:Early Forecasting of Tsunami Inundation from Tsunami and Geodetic Observation Data with Convolutional Neural Networks
・著者:牧野嶋文泰(富士通)、大石裕介(富士通)、山崎崇史(富士通)、古村孝志(東京大学地震研究所)、今村文彦(東北大学災害科学国際研究所)
・リンク:https://www.nature.com/articles/s41467-021-22348-0

技術の特徴

津波の発生から沿岸部への到達までの間に、詳細な津波浸水の予測を短時間で実現することは、適切で迅速な避難を判断するための重要な情報になります。これまで2011年の東日本大震災をはじめとする過去の災害での教訓を踏まえて、沿岸及び沖合での津波観測の強化と、観測データを活用したリアルタイム津波予測技術の開発が進められてきました。一般に、リアルタイム津波浸水予測においては、地震発生後に短時間で津波波源を推定した上で、津波シミュレーションによって陸上の特定地点の詳細な浸水情報を正確に評価するには、スパコン等の大きな計算資源を必要とする課題がありました。今回開発した新たな津波予測手法では、事前にスパコンなどを活用して多数のシナリオを想定した津波シミュレーションを行い、津波等の模擬観測データと予測地点での津波浸水波形の関係をAIに学習させます。大地震発生時には、リアルタイムに得られる実観測データに基づき、AIが予測点の津波高とその時刻を含む津波浸水波形を即座に予測します(図1)。

図1 AIによるリアルタイム津波浸水予測のながれ図1 AIによるリアルタイム津波浸水予測のながれ

学習済みのAIによる予測は通常のPCでも十分高速に実行可能なため、実際の津波防災においても実用性が高いと言えます。一万通りの津波シナリオを元に学習したAIを用いて、2011年の東日本大震災の際に得られた実際の観測データを入力とした予測検証を行った結果、仙台平野での評価点で大きな津波が襲来する約34分前に、避難の判断に資する精度で津波の浸水予測情報を提供できることが確かめられました。津波シミュレーションによって人工的に生成した様々な津波のデータをあらかじめAIに学習させておくことで、これまで経験のない未知の津波に対しても適切な津波浸水予測が可能になると考えられます。


富士通は、これからも産学連携の研究と技術開発を通して、安全安心な社会の実現に貢献する研究開発を進めていきます。


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