人工知能(AI)やIoTなどデジタル技術の進化と共に、あらゆる産業でデジタル活用が進んでいます。スポーツ業界も例外ではなく、デジタル活用で競技のパフォーマンスだけでなくファンのエンゲージメントも向上させています。
英国のサッカークラブ「マンチェンスターユナイテッド」の年間売上は6億8900万ユーロ(約900億円)に達しています。同クラブが属するプレミアリーグは世界中にファンを持ち、10億人以上が視聴する人気コンテンツです。
世界最大のスポーツイベントと言われるオリンピックはサッカーを遥かに上回る規模で、TV視聴者数は世界の総人口の約半数にあたる36億人に上ります。2020年に東京で開催されるオリンピック・パラリンピックは、雇用増加数が約30万6千人、直接的な経済効果が約5兆2千億円に達すると試算されています。
このようにスポーツがビッグビジネスになったのは、グローバル化が進んでスポーツイベントのコンテンツとしての価値が非常に高まっているからです。これに加えて、スポーツ業界がデジタルを上手く使いこなした成果でもあります。
スポーツのデジタル活用対象は競技そのものとファンの二つに分けられます。まず、競技でのデジタル活用といえばデータを使ったパフォーマンス向上があります。たとえば野球ではスコアブックに結果を記入して戦力分析をしていますが、収集したデータを戦略的に使う方法として、「セイバーメトリクス」という手法があります。
米大リーグのオークランド・アスレチックスは年間予算が少ない弱小チームにも関わらず、セイバーメトリクスを使ってプレーオフ進出を続ける強豪チームになりました。これは、打率や打点ではなく、アウトにならない出塁率を重視するなど、従来常識と思われていた考えを覆すセオリーを発見して戦った結果です。このことはブラットピットの主演で「マネーボール」という映画になったので、ご覧になった人も多いかもしれません。
スコアブックのように観察して得られるデータを活用するだけでなく、IoTでプレー中の選手のデータを収集する取り組みも広がっています。たとえば、サッカー用のカタパルト社のシステムは、背中にGPSなどの各種センサーが入った小さなデバイスを付けることで、走行距離、加速回数、減速回数、方向転換回数、ヒートマップ、心拍数、運動負荷、ジャンプ回数など、様々な分析ができるようになっています。これにより、ボールを持っている時の動きだけでなく、ボールを受ける前にどんな動きをしていたか、などオフザボールの動作も分析できるようになり、ポジショニングの技術が高度化しています。
また、サッカーでゴール判定システムが審判の補助として導入されましたが、このようなシステムは他の競技にも広がりそうです。体操競技は技が年々高度化し、目視では正確な採点が困難になってきました。そこで、日本体操協会と富士通は体操競技における採点支援の共同開発を行っています。富士通研究所が開発した1秒間に約230万点を計測する3Dレーザーセンサーを使い、関節の位置や曲がり具合を測定して技を特定し、リアルタイムで高精度な採点を実現しています。
一方、ファンに対してもデジタルが積極的に適用されています。たとえば、米国のプロバスケットボールチーム(NBA)では、BtoBデジタルマーケティングでよく導入されている、「マーケティングオートメーション(MA)」ツールを使ってチケットの購買率を高めています。
チケット販売をゴール指標と設定して、メールマガジンの開封状況やWebサイトでアクセスしたコンテンツなど、ファンの様々な行動データを収集・分析し、様々な施策を実施しています。ファンのエンゲージメントを高めるために、専属記者を雇って選手たちの舞台裏のコンテンツを制作しているチームもあります。
チームを越えて競技リーグ全体でデータ活用しているスポーツもあります。バスケットボールのB.LEAGUEは、成長のキーワードとして「デジタルマーケティングの徹底推進」を掲げています。これを実現するために、ファンのデータは各クラブではなくリーグで管理しています。クラブをまたがって横串で分析することで、リーグ全体として成果が挙がる施策を考えることができるようになりました。
競技のために収集されたデータの一部はファンに公開されるようになりました。監督やコーチだけでなく、ファンもデータに基づいて競技を分析できるようになり、競技の楽しみが増えています。また、選手の視線や、特定の選手だけをクローズアップして視聴する仕組みが試行されています。今後、ファンの個別の好みに細かく応じられるようになり、競技パフォーマンス向上との相乗効果で、よりエンゲージメントを高めることができるでしょう。
スポーツ業界は、データ分析やデジタルマーケティングなど、他業界で成果を挙げている手法を適用して、競技パフォーマンスやファンのエンゲージメント向上で成果を挙げています。BtoCマーケティングにおいても顧客とのエンゲージメントは重要なテーマとなっています。スポーツ業界のエンゲージメント手法の中にはヒントになるものがあるでしょう。
(株式会社富士通総研 田中 秀樹)
株式会社富士通総研(FRI)
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