FOM出版35周年記念vol.2 書籍ライター座談会

「やさしく、わかりやすく、つたえる」を体現する本づくりの真髄に迫る

記事公開日:2024年10月31日

 1989年に「FOMマイゼミ出版」として始まったFOM出版は2024年に35周年を迎え、「緑本」との通称で知られる「よくわかるシリーズ」などのヒット作を刊行し続けています。そんなFOM出版の35周年を記念する連載シリーズ。第1弾は出版事業の歴史と編集方針、そして「お客様に支持され続ける理由」に迫りました。

 連載シリーズ第2弾では、FOM出版の書籍ライター3人による座談会の模様をお届けします。

 「やさしく、わかりやすく、つたえる」というコンセプトを大切に貫き、そしてさらに進化させるべく日々奮闘しているFOM出版の制作メンバーは、「何」を大切にしながら、「どのように」書籍を作っているのでしょうか? 制作秘話、想い、苦労、こぼれ話などを語ってもらいました。

品質の決め手は「独自の制作工程」と「妥協なき編集姿勢」

山本:今日はFOM出版の35周年企画として、開発チームに所属する3人の書籍ライターで座談会を行いたいと思います。FOM出版の「開発チーム」とは、一般的な出版社でいう「編集部」とほぼ同じ意味合いだとお考えください。

 まず簡単に自己紹介をさせていただきます。私は長年ライターとして経験を積み、現在は開発リーダーとして、制作全般の管理を担当しています。今日は皆さんにいろいろとお話しを伺っていきますね。

三笠:よろしくお願いします。私は富士通株式会社で十数年間SEを務めた後、2008年にFOM出版に転籍しました。現在はITパスポート試験や基本情報技術者試験の対策本や、PythonやJavaといったプログラミング関連の入門書などを手がけています。

崎村:この座談会を楽しみにしていました! 私は新卒でFOM出版の開発チームに配属され、今年で5年目になります。学生時代にFOM出版の書籍を実際に手に取って感銘を受け、「こんな本を作りたい」と思ったのが入社のきっかけです。現在は主にMicrosoft Office(現Microsoft 365。以下、Office)関連の書籍や「よくわかるシリーズ」の基礎編や応用編、MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)資格対策シリーズを執筆しています。

左から開発リーダーの山本、期待の若手である崎村、ベテランでSE出身の三笠。

山本:私たち3人を含むFOM出版の開発メンバーは、常に30項目以上にわたる独自の工程を経て書籍を制作しています。企画・執筆・チェックなどこの工程に従うことで、FOM出版の書籍の品質が担保されています。

 さて、この工程の中で、お二人が特に重視しているポイントはありますか?

崎村:まずは市場動向をしっかり分析したうえで、どういった書籍を作るか決めていきますが、その際、どのような方に向けた書籍にするのかという「ペルソナ設定*」は詳細に行っています。そして企画が決まり、執筆となったのちも「読み合わせ」と「第三者レビュー」は入念に行うようにしています。

 「読み合わせ」は、執筆した原稿を制作メンバーの複数人で読み合うことで、誤字脱字や操作画面の間違い、あるいはわかりづらい表現などを見つけることができます。「第三者レビュー」は、当該書籍の制作には関与していないメンバーにフラットな目線で原稿を読んでもらい、レビューしてもらう工程です。


*ペルソナ設定:商品やサービスを提供する際、主にどのような顧客に向けたものであるか、その具体的な人物像を設定すること。

山本:崎村さんは開発メンバーの中では若手ですが、先輩が執筆した原稿の「第三者レビュー」で疑問を投げかけたり、修正点を指摘したりするのは、少し遠慮してしまったりしませんか?

崎村:そういった気持ちも無きにしもあらずですが(笑)。キャリアがまだ浅く、元々自分自身が読者だったからこそ、「私が疑問に思ったことは、もしかすると読者も同じように思うかもしれない」という気持ちを大事にしています。引っかかったところは妥協せずに、大先輩であっても必ず確認するようにしています。

 そういった読者の立場に立って考え続ける姿勢が、より伝わりやすい本づくりに繋がると信じています。

三笠:私の場合は最新技術を題材とする書籍を担当することが多くなっているため、まずは技術調査を徹底的に行うようにしています。執筆するのが入門書であっても、関連技術を一通り理解していないと、入門書としてどの部分を切り出すべきかの判断ができません。

 例えば最近作った『よくわかる Pythonデータ分析入門』で言うと、Pythonのデータ解析ライブラリである”Pandas” がどのような動きをするのかを一通り理解する必要がありました。Pandasで何ができるかを洗い出してから、「これを紹介しよう」「これを少しだけ触れておこう」「これは入門書には難しいので紹介はやめよう」という思いを巡らして、実際に形にしています。

自らの経験をもとに、挫折しがちなポイントを押さえた書籍づくり

山本:私たちFOM出版は「やさしく、わかりやすく、つたえる」というブランドメッセージを掲げています。三笠さんは「やさしく、わかりやすく、つたえる」を実現させるため、どのような工夫や努力をされていますか?

三笠:例えば、ITパスポート試験などの試験対策本では、当然ですが「試験問題を解けるようにすること」が最も重要な目的となります。そのため、まずは公開されている問題を徹底的に分析し、出題傾向を押さえることに注力します。

 公開問題(過去問題)の解説では、正答の解説はもちろんですが、実力をつけられるようにするため、間違いの選択肢についてもしっかり解説します。さらに、問題文に記載されている難しい用語があれば、取り上げて解説もします。基本的に、問題文を読んだ読者の立場で、疑問が残らないよう工夫することに努めています。

 対策本の用語解説では、単なる用語解説に終始するのではなく、試験の傾向に合わせて、その周辺分野の知識もしっかり入れ込むことを大切にしています。

 そしてプログラミング関連の書籍を作るときには、独学で進めて行くのが非常に難しいジャンルですので、自分の学生時代・SE初心者だった頃の苦労した経験を思い出しながら、挫折せずに最後まで続けられる学習本にすることを心がけています。

山本:現在では「プログラミングの達人」とも言える三笠さんですが、SE時代には挫折や苦しみもあったのですね?

三笠:はい。自分の学生時代・・・SE初心者だった頃はプログラム言語といえばC言語で、そのC言語を身につけるのに、実はかなり苦労しました。プログラミングでは、コードの中に1行でもわからない部分があると、自分が何をしているのかわからなくなってしまうことがよくあります。10行中の9行をわかっていたとしても、たった1行わからないだけでプログラム全体の動きがわからず、お手上げになるのです。

 しかし、当時私が何冊か購入したC言語の学習本は、コード1行1行の解説はなく、10行全体についての概略的な解説しか載っていないものが多かったです。独学では難しく、詳しい人に聞いたりしながらやっと理解できた記憶があります。また、初心者が作るプログラムは必ずエラーが起きて止まってしまうのですが、エラー内容は英語でわかりづらく、自己解決するのにかなり苦労しました。何とか解決できてもまた新たなエラーが発生するという繰り返しで、途中で学習を投げ出してしまうという状況でした。

 そんな自身の経験をもとに、FOM出版のプログラミング学習本では1行ごとのコードすべてに解説を入れることで「自分が今、何をしているかが確実にわかる」という作りにしています。また、「よく起こるエラー」を書籍の随所で紹介し、そのエラーの意味や対処方法を記載することで、対処できるようにしています。このように、プログラミング関連の本は、1人で最後まで挫折せずに学習が続けられ、学習者が達成感を得られるようにすることを意識して作っています。

学習者の心に寄り添って「やさしく」伝え、35年間蓄積した編集スキルで「わかりやすく」伝える

山本:ちなみにFOM出版の「やさしく、わかりやすく、つたえる」というブランドメッセージは、「やさしく」という言葉と「わかりやすく」という言葉が、ある意味重複しているようにも読めるかもしれません。「やさしく」と「わかりやすく」の違いを、お二人はどう解釈していますか?

崎村:あくまで私個人の解釈ですが、「やさしく」というのは、主には初心者であり、ICTの技術や知識の習得について不安も抱えている読者の方に「やさしく寄り添う」という、心や姿勢に紐づくもの。そして「わかりやすく」は、FOM出版が35年間の歴史のなかで培った独自の編集技術を惜しみなく投じることで、文字どおり「徹底的にわかりやすく伝える」ということだと解釈しています。

三笠:私も崎村さんの解釈と同じです。やさしく寄り添い、そしてわかりやすく解説することで、「これから何かを学ぼうという人を絶対に挫折させない」という、私たちの決意が端的に集約されたブランドメッセージだと思っています。

山本:確かにそうですね。しかし考えてみると私たちFOM出版は、一部の書籍を除き、出版するほとんどの書籍を開発メンバー自らが原稿執筆から校正、校閲まですべて自分たちで行っているという、少し変わった出版事業者なのかもしれません。

三笠:ある意味、「唯一無二」な出版事業者なのかもしれないですね(笑)。本づくりが好きで、ICTに関することが好きで、そして「物事を正確に、わかりやすく伝えること」が大好きな私たちだからこそ生み出せているのがFOM出版の書籍であり、そんな私たち自身が書籍を一から十まで作っているという点が、お客様からご評価いただけている一番の源であると思いますから。

開発メンバー自身がお客様の生の声を集め、日々「よりわかりやすい書籍」を

山本:私たちFOM出版の開発チームは、FOM出版の書籍を採用いただいている企業や大学、パソコンスクールなどへ営業担当と同行し、お客様の声を直接お聞きするということも大切にしています。三笠さんは営業同行の経験も多いと思いますが、印象的だったことはありますか?

三笠:営業同行では、「なぜご採用いただけたのか?」ということはしっかりヒアリングしています。FOM出版の書籍は、学校の先生が授業の教科書として使ってくださるケースも多いですが、ある先生が「FOM出版の書籍は『小手先だけの用語解説』にはなっていないから」とおっしゃっていたのが印象的でした。

 ITパスポート試験などのシラバス(出題範囲の詳細が記された知識・技能の細目)に沿った作りになっていて体系的に整理されている。学習に必要な知識が盛り込まれている。教科書として使うならこれしかない」と言っていただけて、嬉しかったですし、本当に励みになります。

山本:それは、嬉しいですね。

三笠:とはいえFOM出版の書籍にも「足りない部分」はあるはずですので、そこについてもしっかりヒアリングさせていただき、改版時には反映させるようにしています。

 ある大学の先生は、4Kや8Kなどの画面解像度に関して、FOM出版の書籍に独自の図版を加えて講義されていました。それを見せていただいたところ、確かにわかりやすい図版でした。ご了承いただいた上で、さっそく次の改版時に入れ込ませていただいたところ、その先生にも大変喜んでいただけました。

 そのように、お客様の声を直接お聞きし、何がどう足りないかを理解した上でより良い本にしていくことを大切にしています。

山本:私もMOS試験の対策本を制作した際、試験範囲を重点的に学習するパートと、模擬試験をやってみるパートの2本立ての作りにしたことで、「この本で学習していただければ必ず合格するはず!」と自負していました。しかしパソコンスクールのインストラクターにアンケートを取ると、「学習者は模擬試験で間違えた箇所について、学習のパートに戻って学びなおしているが、その際、どこに戻って再学習すればいいのかがわかりにくい」とのご指摘を受けました。

 そこで次の版からは「模擬試験結果のふりかえり」ができるように、読者が学習のパートと模擬試験のパートを行ったり来たりしながら学べる設計に変更しました。そのような形でお客様のリアルな声を真摯にお聞きし、それを可能な限り取り入れる。こういった「学習者にとって本当の意味で役立つ書籍にする」という開発姿勢が、私たちFOM出版の特徴だと思っています。

資格試験に合格した後も手元に置かれる「お気に入りの一冊」でありたい

山本:では最後に「今後」について教えてください。今現在も「やさしく、わかりやすく、つたえる」ことを心がけているとは思いますが、今後さらにどんな進化を遂げることで、読者や社会に貢献していきたいと考えていますか?

崎村:FOM出版の強みである「読者に寄り添ったやさしい誌面づくり、学習者が最後までつまずかない書籍構成」は、これからも変わらず大切にしていきたいと思っています。そのうえで、お読みいただいた方が「この本で学習して良かった。次は応用編に進んでみよう」と思えるような、その方が人生の次のステップへ進むきっかけになる書籍を作っていきたいと思っています。また個人的には、まったく新しいジャンルの企画にもチャレンジしていきたいですね。

座談会に参加したFOM出版の書籍ライターたちが、これまで担当してきた書籍たち。
どれも想いと時間をかけた思い出深い書籍ばかりである。

三笠:試験対策本の場合、その試験に確実に合格できるための内容にすることはもちろんです。そこにとどまらず、試験合格後も手元に置いておき、困ったときに開いていただけるような「お気に入りの一冊」として長く使っていただける書籍を作ることを、引き続き目指したいと考えています。

 一例ですが、データベースの設計で正規化の項目があります。「正規化はこのように行います」という教科書的な内容はもちろんメインにしますが、実務のなかでは「正規化を崩してでも性能を出さなければならない」という局面も発生します。FOM出版の書籍はそういった内容についても随所に入れ込んでいますので、「現場で役立つ本」になっていると思いますし、今後も「お気に入りの一冊」にしていただけることを目指していきます。

山本:確かにFOM出版の書籍は「試験に合格したから用済み」としてしまうにはもったいない内容になっていますので、三笠が言うとおり、長く使っていただけたら本当に嬉しく思います。また今後はICT業界に属する人だけでなく、金融や製造業など、他業界の方々にとっても親しみやすく読みやすい書籍となるよう創意工夫を凝らしていきたいと考えています。

 生成AIなどの新しい分野にもチャレンジしていき、今後さらなる進化を続けていくFOM出版に、引き続きご期待ください。


プロフィール

 ナレッジエクスペリエンスサービス事業本部
出版サービス事業部 開発リーダー
山本 寛子

 入社後、一貫して書籍ライター業務に従事し、年間3~4冊のパソコン書籍、ICT関連書籍などの開発と執筆を担当。
 現在は株式会社富士通ラーニングメディア 出版サービス事業部開発リーダーとして、全体的な刊行企画や制作管理を担当。


 ナレッジエクスペリエンスサービス事業本部
出版サービス事業部 ライター
三笠 敬一郎

 富士通株式会社に入社後、現場のフィールドSEをサポートする共通技術サポートSE業務に十数年間従事したのち、現在は株式会社富士通ラーニングメディア 出版サービス事業部ライターとして、情報処理技術者試験の対策書籍、プログラミングの入門書籍などの開発と執筆を担当。


 ナレッジエクスペリエンスサービス事業本部
出版サービス事業部 ライター
崎村 奈央

 入社のきっかけは、学生時代にFOM出版の書籍を読む機会があり、そのきめ細かさとわかりやすさに感銘を受けたこと。
 現在は株式会社富士通ラーニングメディア 出版サービス事業部ライターとして、「よくわかるシリーズ」の基礎編や応用編、MOSの資格シリーズなどの開発と執筆を担当。


※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。