FOM出版35周年記念vol.1
35周年を迎えたFOM出版が、支持され続ける秘密。
~講習会の現場経験を重ねた『教えるプロ』が作る本の魅力~
記事公開日:2024年9月3日
出版業界は今、メディアと嗜好の多様化に伴う読者人口の減少により、「出版不況」とも言われる苦境に立たされています。そんななか、1989年に「FOMマイゼミ出版」として始まったFOM出版は2024年に創業35周年を迎え、「緑本」との通称で知られる「よくわかるシリーズ」などのヒット作を刊行し続けています。
「やさしく、わかりやすく、つたえる」をコンセプトとするFOM出版の歴史と編集方針、そして「読者や書店、大学やパソコンスクールといったお客様に支持され続ける理由」について、ナレッジエクスペリエンスサービス事業本部長の古橋と、同事業本部で出版事業の責任者を務める池添および竹本に聞きました。
講習会向けにインストラクターが作っていた教材が、いつしか書店でも大好評に
──出版事業を1989年に開始した経緯や今日までの歴史を、まずは教えてください。
竹本:出版事業の前身は、全国各地の富士通ショールームなどで行っていた「富士通マイゼミナール(以下、マイゼミ)」というお客様向けの講習会です。当初は時代的にパソコンではなくワープロの使い方を一般のお客様に教えていましたが、そこで使用する教材は、マイゼミのインストラクター全員で作っていました。当初はマイゼミの中だけで使用していた教材でしたが、その内容が好評をいただいたことをきっかけに、書店へも流通させるようになったというのがFOM出版の始まりです。
1995年のWindows 95のリリースをきっかけに、インターネットも急速に普及し始めました。パソコンの講習会も増え、初心者に向けたIT系の教材を作り始めました。今では、初心者向けはもちろんですが、MOS(マイクロソフト オフィス スペシャリスト)やITパスポートなどのIT系資格取得のための教材や学校の情報リテラシーの授業で使っていただくための教材なども制作しています。
──1989年から1995年頃というと、パソコンが世の中に浸透していく前段階あるいは黎明期でした。デジタルツールを取り巻く世相も、現在とは大きく違っていましたか?
池添:そうですね。まだまだ「パソコンよりもワープロ」という時代でした。1989年は富士通のパソコン「FM TOWNS(エフエムタウンズ)」が発売された年で、パソコンブーム到来の兆しは見え始めていたものの、マイゼミにおいても、まだまだワープロに関する講習会のニーズの方が高いというのが実情でした。
しかし1995年にWindows95がリリースされたことで、時代の風向きは完全に変わりました。Windows95の発売当日は午前0時に、Windows95を求めて人々が秋葉原に大挙したというニュースを覚えている方も多いと思います。マイゼミでも、パソコンの講習会の新聞広告を出すと、すぐさまお問い合わせの電話が殺到し、満席になってしまうというのが当時の状況でした。
出版の専門家ではなく「教えるプロが作った本」だからこそのわかりやすさ
──そういった世相に合わせてFOM出版は初心者向けの「IT基礎シリーズ」やMicrosoft Office(現Microsoft 365。以下、Office)を中心とした「よくわかるシリーズ」などを次々と刊行し、その中には累計部数100万部を超えた書籍もあると聞いています。FOM出版が作る本が読者から支持される理由はどこにあるとお考えですか?
竹本:「もともと出版を専門としていた人間がパソコンやICTの本を作り始めたのではなく、パソコンやICTを教えるプロが、受講者のために教材を作り始めた」という我々の原点が、今なお読者の皆さまにご支持いただけている最大の理由だと考えています。
私自身もマイゼミでインストラクターをしていましたが、実際に教えていると、「こう書いてあると、もっとわかりやすくなるな」と、しばしば感じたものです。そういった現場の肌感覚と知見に基づいてインストラクター自身が内容と構成を考えてきたことが、FOM出版が作る書籍のわかりやすさに繋がっているのだと自負しています。
──現在もインストラクターの皆さまが書籍を作っているのでしょうか?
竹本:必ずしもそうではありません。しかし35年の歴史と経験のなかで培った「物事を解説するにあたっての注意点」や「説明図版の入れ方」などのさまざまなノウハウを受け継ぎ、編集者全員がインストラクター経験者だった時代と同じように、今も「実践的なわかりやすさや伝わりやすさ」を大切にした本づくりを続けています。また「あえてフルカラー印刷にしていない書籍が多い」というのも、FOM出版の特徴かもしれません。
──フルカラーのほうがわかりやすく、なおかつ伝わりやすいようにも思いますが?
竹本:もちろん書籍の内容によっては、我々もフルカラー印刷を選択します。多くの書籍を2色刷りにしている大きな理由は、操作方法を習得しようと書籍を読み進めているお客様が、できるだけ間違えないで操作を覚えられるようにという思いからです。初心者の方は、画面を見たり書籍を見たりしながら学習していくので「注目してほしい箇所だけを目立たせることが重要」と考えています。そのほかにも、つまずきやすい内容の場合は1つの画面に1つの操作、細かく見えにくい部分は画面を拡大、といったルールもあり、視線をうまく誘導できる効果的な紙面となるよう意識しています。
それもこれもすべてはマイゼミ時代に、実際のお客様と直に触れ合うことで培った「多くの人がつまずきやすいポイントを把握し、そこをやさしく的確にサポートする」という考え方がベースになっています。
──そのあたりが、「出版不況」と言われる現在においてもFOM出版の書籍が支持され続けている理由なのですね。
池添:それに加えて、我々の出版物は「教育事業者の方々に支えられている」という理由も大きいと思います。もちろん書店にも数多く販売いただいていますが、多くの大学や専門学校、あるいはパソコンスクールなどにも使っていただいています。
竹本:学校の場合、授業でデータの集計や分析が必要だったり、レポートの作成やプレゼンテーション形式での発表を行ったりすることも多く、「1年生のうちにOfficeをしっかり学ばせたい」と考えていらっしゃるケースが多いです。最近では、学生のスマートフォンに関するトラブルも多く、情報モラルやセキュリティなどの教材も合わせて使っていただくケースも増えています。
「研修のプロ」FLMとのシナジーで、今後は「組織開発」に関する書籍にも注力
──そしてFOM出版は2021年、富士通ラーニングメディア(FLM)へ統合されました。統合の意義と、今後の狙いを教えてください。
古橋:FOM出版が得意とするOffice・MOS関連書籍などは、引き続き事業の中核として育てていきたい。加えて今後は、研修サービスが強みであるFLMが提供しているコースの内容や、組織開発に関わる富士通の取り組みなどについても積極的に書籍化し、ラインナップを強化していきます。
またFLMとFOM出版では主となるお客様も若干異なりますので、これからはFLMの研修サービスをご利用いただいているお客様に、研修とFOM出版の書籍を組み合わせるといった、新たなご提案ができるようになります。
そして現在は、集合研修・書籍・eラーニング・動画など、学び方が非常に多様化しています。今後、書籍はもちろんですが、さまざまな学びのスタイルに、より柔軟に対応していきます。
竹本:これまでのFOM出版は、主に個人をスキルアップさせる「人材育成」のための書籍を作ってきました。しかし今後は、富士通社内で行っている「組織開発」に関わる取り組みなどを書籍化することにも力を入れ、それを世に広めることで、より社会に貢献できるようになりたいと考えています。その一環として2023年4月には、富士通グループの企業文化を変えるためのコミュニティ活動を紹介した『社内SNSを活用して企業文化を変える やわらかデザイン』を、また2024年2月には富士通のキャリアオーナーシップ推進の取り組みを紹介する『進化するキャリアオーナーシップ』を刊行しました。
──35周年を迎えた今、今後に向けてFOM出版が目指しているところを教えてください。
竹本:お客様が確実にスキルアップできる教材のご提供を、引き続き目指していきます。例えばシンプルなExcelの解説本であっても、ただExcelの使い方を教えるだけではなく、あらゆる企業にDXが求められている今の世の中に合わせて、解説を工夫したり、それにふさわしい演習を取り入れたりして、より実践的で役立つ内容をご提供していきたいと考えています。
池添:そして昨今はDXだけでなく「キャリアオーナーシップ」や「人的資本経営」などのキーワードが注目を浴び、各企業も人材育成に予算を使い始めています。つまり、「出版業界」は一般的にシュリンクしていると言われていますが、「教育」というフィールドであれば、まだまだ伸びしろは十分にあるのです。今後はそういった新しいニーズにお応えできるような書籍も増やして、企業内の教育・研修分野にも寄与していきたいと考えています。
古橋:Officeを中心とする書籍「よくわかるシリーズ」はFOM出版の主力商品であり、引き続き刊行を続けていきます。やはり紙の書籍でしっかり体系的に学びたいというニーズは不変ですから。その一方で昨今は、インターネット検索やChatGPTのように、「聞けばすぐに知りたいことがわかる」というのが普通になっています。時間と手間がかからない、即効性が高い学びのニーズも受け止め、デジタルの世界にもより踏み込んでいく所存です。
プロフィール
富士通株式会社教育事業部を経て、分社化により株式会社富士通ラーニングメディアに。
長きにわたり研修講師と営業を経験したのち、ナレッジエクスペリエンスサービス事業本部に。
本部長としてさまざまなサービスを統括しながら、出版サービス事業部長も兼務。
富士通オフィス機器株式会社入社。
富士通ショールームの運営や講習会講師を務めたのち、本社でシステム導入支援に関する企画営業等を担当。
2019年に出版事業部所属となり、現在は株式会社富士通ラーニングメディア 出版サービス事業部シニアマネージャーとして、出版事業全体を統括している。
富士通オフィス機器株式会社入社後、ショールームやセミナーの講師を担当。
その後出版事業部門に配属となり、商品企画から執筆、顧客サポートなどを担当。
現在は株式会社富士通ラーニングメディア 出版サービス事業部マネージャーとして、企画制作や年間のリリース計画、プロモーションなどをマネジメントしている。
※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。