お客様インタビュー
自動車業界100年に一度の大転換期、エンジニアはキャリアをどう描く?
~すべての社員が主体的に考え、生き生き働くためのキャリアデザインプログラム~
マツダ株式会社 R&D戦略企画本部 開発管理部
(左から)部長 竹本崇様、R&D人材開発グループ シニアエキスパート 吉見直也様、スペシャリスト 臼井あおい様、マネージャー 荒井康平様
記事公開日:2024年8月9日
自動車業界は今、「100年に一度の大転換期」にあるとされています。生き残りをかけた競争を勝ち抜くための命運は、各社の研究開発部門が握っていると言っても過言ではありません。
マツダ株式会社において研究開発領域(R&D部門)の人材開発/育成を担当している開発管理部は、社員のキャリア自律を推進するため、富士通ラーニングメディア(FLM)の「キャリアデザイン研修」を重層的に採用。30代を中心とする中堅社員、および、40~50代のミドル・シニア世代の社員には、世代別の課題に合わせた研修を、幹部社員には部下のキャリア支援の考え方や面談ノウハウのレクチャーを行っています。
業界を取り巻く環境が著しく変化し、エンジニアに求められる役割やスキルも変わるなか、FLMのキャリアデザイン研修はどのように機能し、貢献できたのでしょうか。研修の導入と運用をご担当の吉見直也様と臼井あおい様に伺いました。
先行き不透明な今の時代、エンジニアにつきまとう不安と迷い
──マツダ株式会社様におけるR&D部門の所管領域についてお聞かせください。
吉見様:「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」という当社のパーパスを実現するため、R&D部門では人々にいきいきとする体験をお届けするための技術と商品の開発、研究に日々取り組んでいます。
──R&D部門の皆様の仕事への取り組み方に、何か共通する特徴はありますか?
吉見様:R&D部門の社員は基本的にエンジニア集団ということもあって、「確かなエビデンスに基づき、物事をロジカルに考える」という特徴があります。また「あるべき姿」を設定し、そこからバックキャスティングする形でロードマップを描き、課題をクリアしていく風土も定着しています。自動車会社としてはスモールプレイヤーと言える弊社ですので、少ないリソースで最大の効率を発揮するべく、因果関係を解明してモデル化し、それを商品開発と技術開発に適用しています。
──R&D部門で活躍する人材に求められる要件とは何でしょうか?また部門で活躍する人材を育成するうえで、開発管理部にはどういった役割がありますか?
吉見様:R&D部門が求めているのは、自らが前向きに生きる姿を体現しながら、主体的に価値を創造し、社会や組織の期待を超えていけるような人材です。「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」というパーパスを、商品を通してお客様に感じていただくためには、我々自身が常に前向きに生きることに挑戦し続けている必要があります。そのため、日々難題に向き合っているR&D社員を勇気づけ、支援することが、私たち開発管理部 R&D人材開発グループの責任であると思っています。
──業界の大転換期に際して、エンジニア職の社員がキャリアに不安を抱えるケースもあると伺いました。具体的にはどのような悩みを抱えていらっしゃいますでしょうか?
吉見様:例えば電動化シフトへの大きな波など、時代が変化するスピードは想定以上に速く、技術の進歩にも目まぐるしいものがあります。そういった状況下で目の前の課題解決を進めてはいるものの、技術の先行きをはっきりとは見定められないという問題があります。それに伴ってエンジニアたちは、「自身のありたい姿」や「進むべき方向」までもが不透明になっている、と感じているように思います。
臼井様:当社でエンジンやトランスミッションなどの開発を担うパワートレイン開発本部でも、電動化シフトに伴って新しい本部が立ち上がり、そこへの大規模な異動も始まっています。そうなると、例えば内燃機関などを専門としてきたエンジニアの心に「今まで自分がやってきたことは今後どうなっていくのか?」という不安や迷いが生じてしまうのも、当然なのかもしれません。
枝葉末節ではなく「職業人生の本質」が学べる研修を探していた
──そういった状況下で、キャリアデザイン研修を開始した理由を教えてください。
吉見様:近年は、会社が社員の職業人生を将来まで完全に保障することが難しくなっています。これは何もマツダが社員をレイオフするという意味ではなく、どんな企業でも10年後あるいは20年後に存続していることが、必ずしも当たり前ではない、いわゆるVUCA*の時代になった、ということです。
そのような状況と人生100年時代の到来に伴い、現在は「キャリア自律」の必要性が高まっています。そのため、「個々人が主体的にキャリアを考え、職業人生の岐路で自分の方向性を定めるためのスキルを獲得してほしい」との思いから、キャリアデザイン研修の検討を始めました。
*VUCA:Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性という4つの言葉の頭文字をとった造語。社会環境やビジネス環境の複雑性が増大するなかで想定外のことが起きたり、将来の予測が困難だったりする不確実な状態。
──キャリアデザイン研修では、何を目指したかったのでしょうか?
臼井様:研修導入にあたって考えていたのは、R&D社員それぞれが「自分はどんな価値観を持ち、どう生きたいのか?」ということをしっかりと意識し、それに合った未来を描けるようになる、そういった場を設けたいということでした。この先の変化していく時代を生き抜く「したたかな職業⼈」になってほしかったのです。
企業⾵⼟全体を改⾰する必要性も認識していましたが、規範とすべきカタチがないまま改革を先行させても、決して上手くはいかないだろうとも感じていました。そのため、まずは「自分自身と向き合い、自身のキャリアについて考えることの重要性に気づいてもらう」ための研修を導入し、関心の高い層から徐々にキャリア自律風土の醸成を図っていきたいと考えました。
──そしてFLMが、御社のそういった思いに応える内容を提示したということでしょうか?
臼井様:はい。我々は、まずは30代の中堅社員を対象とする研修から始めようと考えました。キャリアにおける最初の岐路に直面する社員に「この先、自分がどの山に登るかを考えてほしい」と思ったのです。自分はマネジメント系の山を登って上を目指すつもりなのか、あるいはエンジニアとしての道を究めたいのかといった方向性を、30代のうちに見定めてほしいと考えていました。そういった、枝葉末節ではなく「本質」のようなものを学べる研修はないものかと探していたところ、FLMさんが提案している内容が、まさに私の思いに合致していたのです。
──研修を提供する会社には「お客様のニーズに柔軟に応える姿勢」も求めていたと伺いました。
臼井様:はい。検討時に、多くの研修会社様からご提案いただいたのは「2日間コース」でした。しかし技術開発に携わっているエンジニアを丸々2日間拘束するのは、対象社員にも、その上司にも受け容れられにくいことが予想されましたし、こういったマインド系の研修であれば尚更でした。
FLMさんには当社の思いを受け止め、社員の内省を促すために必要な内容は省くことなく、1日で完了する研修としてアレンジ、ご提案いただきました。
開催を積み重ねていくなかで、営業担当者の細かな気配りや、次回開催に向けた改善の取り組みなどが秀逸であると感じています。当社の要望も取り入れながら、どんどん研修がブラッシュアップされており、まさしく「共創」してくださっています。
エンゲージメントが急落する30代社員の研修を皮切りに、全体の底上げを目指す
──FLMが実施した世代別のキャリアデザイン研修は、どのような順番で導入されていったのでしょうか?
吉見様:まずは職業人生の最初の岐路であり、モチベーション維持が難しくなる、30代を中心とする中堅社員をターゲットに少人数の集合研修を実施しました。
吉見様:当社では「ボウリングの1番ピンを狙え」という表現がよく使われます。自動車メーカーとしてはスモールプレイヤーである当社が、少ないリソースで最大の効果を発揮するために、全てを狙うのではなく「全ての課題に通じる根本課題=ボウリングの1番ピンを見つけて集中する」、「1番ピンとなる課題を解決することで、他の多くの課題も連鎖的に解決していく」というやり方が企業文化として根付いているのです。今回は30代の中堅社員を「1番ピン」に見立てました。
マツダは年1回、全社的にエンゲージメントサーベイ(社員意識調査)を行っているのですが、その中にある「成長とキャリア開発」という指標を見てみると、20代は毎年必ず高いスコアを示すのですが、30代になるといきなり15ポイント以上急落するという傾向が続いていました。
──30代というと経験値も増え、より高いモチベーションをもって仕事に臨める世代のようにも思えますが?
吉見様:ただがむしゃらに仕事をしていた20代を終え、30代になって周囲のことも見えるようになってきた途端、成長とキャリア開発の意欲が急低下してしまうのです。そして40代~50代になるとスコアは二極化します。幹部社員になった層は再びモチベーションが上がるのですが、それ以外の社員は年代を追うごとにどんどん下がってしまうという実情がありました。そのため、まずは30代での落ち込みを極力抑えることが、結果として全体の底上げにつながると考えました。
受講半年後の「効果測定」で確かな研修効果を確信
──受講から半年後に、研修を受けた本人ではなく上司に追跡調査を実施したのは、どういった理由からでしょうか?
吉見様:よく行われる「研修直後の事後アンケート」も重要な指標ではあるのですが、研修は一過性のイベントであっては何の意味もありません。研修とは、あくまでも「気づきを与えるきっかけ」でしかないのです。そしてその気づきが成長につながっているかどうかを冷静に、客観的に見るためには、本人の行動を日々見ている上司に問うのがもっとも正確であろうと考えました。しかもそれが「半年後」であれば、研修での気づきや学びが、実際の行動や考え方の変化に結びついているかどうかがよくわかるはずです。
それもあって実施した追跡調査ですが、約8割の上司が「意識・⾏動両⾯から部下の変化を実感している」という結果でした。今回導入した研修は「非常に効果的だった」ということだと思います。
──その一方で「幹部社員版」と「40~50代社員版」の研修効果はどうだったでしょうか?
吉見様:幹部社員向けには、フルカスタマイズした内容で3時間のウェビナーを実施いただきました。幹部社員層は自身がキャリア支援を受けたことがないため、「部下のキャリア支援は上司の役割」という意識も希薄です。組織全体でキャリア自律を促していくためには、部下のキャリアを支援する重要性や具体的な支援方法を一気に伝播させる必要がありました。短い時間でしたが、受講者が肚落ちできるところまで持っていってくださり、期待した効果が出せたと考えています。
吉見様:40~50代社員向けのキャリアデザイン研修では、受講希望者が集まらないのではという懸念もありました。しかし実際は想定をはるかに超える、定員の2.5倍に上る数の応募があり、ニーズの高さを感じました。その結果を受け、今期からは開催回数を増やして受講希望に応えています。
──研修を受講した社員の方々の反応はいかがだったでしょうか?
吉見様:「置かれている環境の厳しさを実感した」という声や「自分の価値観や自分らしさを、お客様に価値として提供できるよう磨いていくことの重要性を学ぶことができた」、「価値観に基づいたキャリア形成が、やる気と業務効率の最大化につながると理解できた」などの声が上がっています。開発管理部としては、当初設定した狙いが確実に達成できている実感があります。
──研修を担当したFLMに対する評価をお聞かせください。
臼井様:研修開始当初は、コロナ禍の影響でオンライン研修にせざるを得ず、正直な所、受講者が十分な気づきを得られるか不安もありました。しかし実際には、FLMさんの実績にもとづくノウハウを存分に発揮していただき、効果的な研修をすることができました。オンライン研修は、遠隔地在住の社員や時短勤務の社員にも受講機会が提供できることも大きなメリットに感じています。
吉見様:先ほども申し上げた「前向きに今日を生きる人の輪を広げる」というパーパスは、R&D部門で働く我々社員自身が前向きに、日々歓びを感じながら仕事をしていない限り、決してお客様には伝わらないと考えています。逆にいえば我々社員が変わりさえすれば、マツダの理念は、商品を通じて必ずやお客様に伝わるはずです。
臼井様:私個人としても、生き生きと働いている社員を増やしたいと思っています。まずは私たち自身がやりたい仕事をやって生き生きと働き、企業理念を体現していきたい。前向きに今日を生きる人の輪が広がった「より良い組織」を実現するためにも、FLMさんには今後もより一層のお力添えをいただきたいと思っています。
富士通ラーニングメディア担当者からのメッセージ
今回のような研修は、お客様の全面的なご協力なしには成り立たないものです。社員様の「内から出てくるもの」を肚落ちさせるという研修におけるマツダ様のご準備は毎回大変であるはずですが、マツダ様は高いレベルを目指し、積極的に取り組んでいらっしゃいます。マツダ様の熱意と、社員の成長を願う姿勢に我々も刺激を受けつつ、マツダ様のご尽力に応えるべくこれからも試行錯誤を重ねながら、研修内容をブラッシュアップしてまいりたいと考えています。(山脇)
キャリア自律の考え方は、日々進化しています。昔の「キャリア開発」とは異なり、今の「キャリア自律」は、社員一人一人が自分の将来を見つめて、未来をよりよくするために取り組んでいくものです。
マツダ様でも年代別のキャリアデザイン研修を通して、自身の取り巻く環境やライフイベントを鑑みた上で、キャリア形成していくことの大切さを再認識いただいているのではないかと思います。また同じ世代間で研修を実施することで、悩みや価値観が共有でき、新たな気づきが得られたり、ビジョンが明確になったりもします。
「年齢や勤務年数に応じた活躍」から「あらゆる世代の活躍」へ。マツダ様の生き生きと働く人を増やしたい思いに共感し、微力ながら伴走していきたいと思います。(藤原)
※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。