FLMトピックス

デザイン思考は、企業文化に何をもたらしたのか?

~3,000名を超える社内コミュニティの変革力~


記事公開日:2023年7月12日

 産業構造やビジネスモデルがかつてないスピードで変化し、企業も変革しなければ生き残りが難しい時代となっています。変革を推進するため、富士通株式会社では全社DXプロジェクト “Fujitsu Transformation” (以下フジトラ)を2020年7月に立ち上げました。これを受けて富士通デザインセンターでは、デザイン思考をグループ全体に広める活動を開始。続いて社内SNSを活用して企業文化を変える組織横断コミュニティ「やわらかデザイン脳になろう(以下やわデザ)」を立ち上げます。3年間で「やわデザ」には3,000名を超えるメンバーが参加して数多くのコミュニティが生まれ、以前なら知り合うことさえなかった社員たちが共に活動しています。この「やわデザ」の活動を当初からリードしてきた富士通デザインセンターの加藤正義と、その書籍化をサポートした富士通ラーニングメディア(以下FLM)の竹本亜紀子に、コミュニティ運営の取り組みとそれを書籍化した狙いなどについて聞きました。

デザイン思考で富士通を変える

──2020年7月に加藤さんの所属していた富士通デザイン株式会社が、親会社の富士通株式会社のデザインセンターとして統合されました。ちょうどコロナ禍で世の中が騒然とし始めたタイミングでしたね。

加藤:緊急事態宣言が出されて、働き方がテレワークを前提としたオンラインへと急激にシフトしました。そんな状況でフジトラがスタートし、デザイン思考をグループ全体に広めていくのが私のミッションとなったのです。具体的にはデザイン思考のプログラムを、まず営業部門の社員に受けてもらうことからスタートしました。みんな基本的にテレワークですからeラーニング形式です。そのためのコンテンツ作りに加えて、オンラインで学ぶデザイン思考をどうやって実践につなげていくのかが、大きなテーマとなりました。

──デザイン思考を初めて聞く方も多かったと思います。

加藤:考え方自体は以前からありますが、メディアなどで取り上げられるようになったのは、ここ数年でしょう。富士通ではデザイン思考を「人を中心とした視点で問題解決をするためのアプローチ」と定義しています。具体的には、対象となる人々をしっかり観察し、その気持ちに共感することで潜在的なニーズを発見したり、想像する。そのニーズに応える具体的なアイデアを生み出して、プロトタイプをつくってテストを繰り返して課題を解決します。このデザイン思考を学んでもらうためには、メンバー間での対話や情報共有が欠かせません。本来なら対面で行うワークショップを、オンラインで行うためにはどうすればよいか。様々なツールを使いながら試行錯誤を繰り返していきました。

富士通株式会社 デザインセンター 経営デザイン部 加藤正義

──テレワークへの移行そのものが急でしたから、進めていく上で難しい面もあったのではないでしょうか。

加藤:緊急事態宣言以前に、富士通グループに広まりつつあった「創造的な対話の場」がいきなり失われてしまった状況は、個人的に大きな問題だと思っていました。ただピンチはチャンスにもなります。テレワークの普及は新たな「場」づくりのチャンスでもあるのです。なぜならオンラインなら、場所の制約も部門間の制約も一切なくなりますから。そこでデザイン思考を通じた富士通変革の場としてオンラインコミュニティを立ち上げ、そのプラットフォームとしてマイクロソフトが提供している企業向けSNSの “Yammer” (現 “Viva Engage” )を採用しました。

最低2,000人が参加するコミュニティを創る

── “Yammer” は以前から富士通で導入されていましたね。

加藤:ええ。ただし、単なる掲示板のような使い方をしている組織が多かったと思います。そこで「やわデザ」コミュニティを “Yammer” に立ち上げて、コミュニケーションを活性化する場にしようと考えました。その際に何より重視したのが規模感で、最低2,000人を目標としました。これだけ集められれば、 “Yammer” 全体でも(当時は)トップ10に入るコミュニティとなり、社内に大きなインパクトを与えられると考えたからです。

──メンバーを集めるのは簡単ではなかったのでは?

加藤:そのとおりです。とにかく認知度を高める必要がありますから、ありとあらゆる手段を使って、露出していきました。たとえばデザイン思考のeラーニング講座で、おすすめコミュニティとしてリンクを貼る。講座には営業部門8,000名の社員が参加するから、彼らが「やわデザ」を知ります。あるいは開催したオンラインイベントのレポートを書いて社内報に掲載してもらいました。ちょうど社内報も紙媒体からオンラインに移行したタイミングだったので、ユニークなコンテンツが求められていました。

──コミュニティ立ち上げから2年でメンバーが3,000名を超えています。

加藤:確かに今では目標を超えました。とはいえ一直線で伸びていったわけではなく、停滞した時期もありました。それでも心理的安全性があり、オープンに開かれた場であると理解が深まった結果が現状に繋がっています。これだけの人数が従来の組織の壁を超えて集まると、みんな富士通グループの大きさや事業の多様さを実感するようになります。積極的に情報発信するメンバーが増えるに連れて、以前なら知り得なかった情報を手軽に入手できたり、他部署の取り組みがわかるようになる。このコミュニティには、組織のあり方や社員の働き方を変える力があると実感するようになりました。

企画から出版までおよそ6カ月という異例のスピードで上梓された
『社内SNSを活用して企業文化を変える やわらかデザイン』(FOM出版(FLM)刊)。

「やわデザ」活動の成果を広く知らせる

──「やわデザ」活動の書籍化をFLMから持ちかけられたときに、やってみようと判断した理由は何だったのでしょうか。

加藤:大きく2つあります。まずは富士通のDXとは、どのようなものなのか。トップが発信するメッセージだけでは伝わりにくい、社員目線のDX活動を具体的に伝え、その結果として何がどう変わりつつあるのかを書籍でアピールできると思いました。2019年に就任した社長の時田は、就任後の経営方針説明会で「IT企業からDX企業への転換」を表明しています。この方針が、どのように実行・実現されているかを広く知ってもらう絶好の機会だと考えたのです。

 もう一つは、DXについて悩んでいる人たちの力になりたいと思ったからです。「DX、DXというけれど、では具体的に何をどうやればよいのか」と、そんな思いを抱いている人たちに、参考になる事例を紹介できると考えたのです。

──とはいえ、書籍化を前提として活動していたわけではないですよね。

加藤:たまたまFLMの竹本さんを上司に紹介されて「『やわデザ』の活動は本になりますね」といわれたのがきっかけですね。

竹本:加藤さんとオンラインで初めてお会いしたのが2022年の11月初めでした。そこで「やわデザ」の話を聞いて、富士通がどんな風に企業改革に取り組んでいるかを紹介することで、世の中のDXを迫られている人たちにヒントを与えられるかもしれないと思いました。それで書籍にして悩んでいる人たちの手元に届けたかったんです。あと、富士通の社員もテレワークが通常の状態になり、個のワークに馴染んでいる人もいれば、そうでない人もいる。どちらのタイプの人にも元気を与えられる本になるんじゃないかと思いました。

FLM ナレッジプラットフォームサービス事業本部 
ナレッジコミュニケーション&出版事業部 マネージャー 竹本亜紀子

──書籍を出すための第一ステップは企画書ですが……。

竹本:12月上旬に加藤さんから「やわデザ」についての企画書の素案が届きました。この企画書に書籍として世の中に出したい理由やビジネスプランなどを加えて企画書を仕上げました。事業本部長や社長も書籍化する意義を理解し、快諾してくれました。そうと決まればできるだけ早く世の中に届けたい。読者層がビジネスパーソンであるから、その人たちが落ち着いて本を読めるタイミングといえば、長期休暇です。余裕を見ればお盆休みがターゲットになりますが、急げばゴールデンウィークに間に合わないこともない。ぜひとも、それまでに書店に並べたいなと強く思いました。ただ、加藤さんとしては、書籍づくりを楽しみたいという気持ちもあったようで……(笑)。

加藤:出版の時期を竹本さんからお聞きした時、正直驚きました。と同時に、私としては本づくりのプロセス自体も変革したいと考えていました。「やわデザ」コミュニティの活動としてプロジェクト化し、オープンなディスカッションを通じてみんなで本を出せれば、これも明らかに富士通DXの成果です。コミュニティメンバーに声をかければ100人ぐらいは参加してくれると思っていたのですが、約160名が集まってくれました。

──マニュアル系の書籍制作が多かったFLMにとっても、新たな取り組みだったのではないでしょうか。

竹本:160人で、しかも短期間で本をつくるなんて考えたこともなかったです(笑)。だからこそ、個人的にもやりがいを強く感じました。実は私のパーパスは「人と社会が成長するしかけを作ることを楽しむ」なんです。企業文化を変えつつある活動を紹介する本を出版することは、まさに、人や組織、社会が成長するしかけだなと思いました。なので、この仕事は私に与えられた使命だと受け止めました。

本づくりでもデザイン思考を実践

──本の制作スタートが2023年1月からで4月末の出版というのは、普通ならありえない短期間での作業になりませんか。

加藤:これもデザイン思考の実践だと捉えれば、なんとかなると思いました。ポイントは「集合知」をいかに活用するかです。「やわデザ」におけるコミュニティづくりの過程で、コミュニティがもつ多様性をビジネスに活かすにはどうすればよいかと様々な実験をしていました。そうした実験を通じて得られた知見やマインドセットを、勝手に「コミュニティ思考」「コミュニティファースト」などと自分では呼んでいます。今回の本づくりのプロセスは、そうした試行錯誤がなければ実現できなかったと思いますし、コミュニティのもつ力をビジネスに活かすよいチャンスだと捉えていました。

竹本:「やわデザ」内の出版チャットグループで、みんながすごい勢いでコメントを付けてくれたのには本当に驚きました。最初に1章分の原稿をアップしたら、その文章量の倍以上のコメントが寄せられたのです。参加メンバーが揃ってこれだけの熱量で前向きに動き出す、そんなコミュニティの力を実感しました。制作期間中、後ろ向きの発言や否定的な発言はひとつも見当たらなかったように思います。

──まさにコミュニティ活動の一つの集大成となったわけですね。

加藤:富士通社員が社内カルチャーを感じられる場の一つとして「やわデザ」が認知された実感はありますね。「やわデザ」の中にいくつものサブコミュニティができて、みんなが自由に活動しています。以前なら知り合う機会などまったくなかった社員同士が、一緒になって一つのテーマに取り組んでいる。その効果は絶大で、活動を通じて富士通には面白いカルチャーがあるんだと、みんなが気づいてくれた。さらにデザイン思考についても理解が深まり、その必要性も認識されつつあると感じています。そもそもデザイン思考とは、人間が本来持っているクリエイティビティを発揮して、仕事に活かすための手段です。それを組織全体で実践していけば、自然と組織は変わっていく。富士通がどのようにして、ここまで変わってきたのか。変革に対するチャレンジのプロセスと成果を、ぜひこの一冊で知っていただければと思います。

竹本:今日のインタビューを通して、この書籍づくり自体がデザイン思考に基づいていることをお分かりいただけたと思います。デザイン思考もDXも考えているだけでは進みませんし、まずは動いてみるのが大切だと実感しました。出版業界も古い業界ですし、雑誌系を除けば、これほど短期間で書籍化するというのはあまり先例がないのでは?と思います。30数年、出版活動を続けていますが、みんな手探りで失敗を繰り返しながら自分たちの得意なやり方を見つけてきた。ただ、まだこれがゴールとは思っていません。もっといろんなやり方にチャレンジしてみたいし、楽しみたいと思っています。

 DXといわれても実際には何をどうすればよいのかわからずに、悩んでいる方にとっては、一歩踏み出すためのヒントがこの書籍にはたくさん詰まっていると思います。また、私たちFLMでも、従来の人材育成に加えて、組織開発支援によって変革のお手伝いをするようになっています。人から組織、社会へと内から外へ向けて急速に変革が求められる……そんな企業の組織開発のひとつとしてこの書籍が役立てばいいなと思っています。



  • 富士通株式会社
    デザインセンター 経営デザイン部

    加藤 正義
    新卒で富士通株式会社に入社後、開発部門、コーポレート部門を経てエンジニアからデザイナーへ転身。ワークショップデザイナーとして、創造的な対話の場づくりを10年以上経験。2020年から企業変革を目的とした社内コミュニティづくりに挑戦するなど、アタマと組織を楽しくクリエイティブにする方法を日々研究・実践中。
  • FLM
    ナレッジプラットフォームサービス事業本部
    ナレッジコミュニケーション&出版事業部
    マネージャー

    竹本 亜紀子
    富士通オフィス機器株式会社入社。ショールームやセミナーの講師を担当したのち、出版事業部門に配属。商品企画から執筆、顧客サポートなど出版事業全体をマネジメント。2020年4月より株式会社富士通ラーニングメディアに所属。仕事のモットーは「楽しく」「明るく」「元気よく」。

※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。