レビューの徹底と、シビアなリハーサルが高める研修の質

~約2,900コースを提供、受講者170,000名強を集める定期開催コースのクオリティ・コントロール~


記事公開日:2024年1月5日

 富士通ラーニングメディア(FLM)は1977年創業、45年を超える歴史を持つ人材育成の老舗企業です。国内最大規模の総合人材育成企業として、ITスキルからヒューマンスキルまで約2,900の研修コースを提供しています。研修サービスのほかにも、人材戦略や人材開発のコンサルティング、実務能力や適性を測るアセスメント、学習管理システムなど、人材育成や組織開発を支援する幅広いサービスを展開しています。

 中でも人材育成事業の中心となるのが、豊富な開催日から都合の良い日程を選んで受講できる定期開催コースです。「学んだ内容を、そのまま実務に活用でき、費用対効果が高い」とお客様に評価いただくことも多い研修は、どのように創られ、提供されているのか。人材育成事業を担当するナレッジサービス事業本部の三原、松田、渡邉に研修の質を高めるFLM独自の仕組みについて聞きました。

総合的な人材育成・組織開発支援サービスを提供

──はじめにFLMの事業概要を教えてください。

三原:FLMの事業は、大きく2つに分けられます。1つは、研修サービスやコンサルティングのような、人が直接お客様の人材育成や組織開発に関わる事業であり、もう1つはシステムやプラットフォームを提供して、人材育成や組織開発を支援する事業です。

 私たちが所属するナレッジサービス事業本部は前者にあたり、270名以上が在籍しています。そのほぼ全員が講師として登壇したり、お客様の人材育成プログラムのコーディネイトや企画立案に携わったりしています。

ナレッジサービス事業本部 本部長 三原 乙恵

──ナレッジサービス事業本部は、どのようなチーム編成になっているのでしょうか。

三原:全6チームのうち4チームは、経済産業省によって定められたデジタルスキル標準(DSS:Digital Skill Standard)を参考に構成されています。まず「マインド・スタンスチーム」では、キャリアデザインの支援やヒューマンスキルの醸成、新たな価値を生み出すために必要な意識や姿勢づくりなど、個人や組織が成長するためのベースづくりを担当しています。そのほか、人材戦略策定の支援などを通して、お客様の戦略(Why)実現を支える「戦略チーム」、DXを実現するために必要なツール(What)を教える「デジタルテクノロジーチーム」、ツールの活用方法(How)を指導する「マネジメントチーム」があります。

 加えて、新入社員研修や富士通向け施策を担当する「新入社員育成・富士通全社施策チーム」、研修実施に必要な講師・教材・会場などの調整・管理をはじめ、当本部全体の業務が円滑に進むようサポートする「ビジネス・プロセス・マネジメントチーム」があります。

経済産業省「デジタルスキル標準」を参考に作成

松田:私がシニアディレクターを務める「デジタルテクノロジーチーム」では、デジタルテクノロジーのスキル伝達を目的に約800のコースを提供しています。提供コースの作成時には企画から始めて、教材開発から講師のトレーニング、さらには実習環境の作成や整備まで、きめ細かく作り込んでいきます。

ナレッジサービス事業本部 シニアディレクター 松田 克也

レビューを繰り返して実用性の高いコース内容に

──研修コースの内容はどのようなプロセスで作られるのですか。

松田:コース開発はインストラクショナルデザイン、すなわち教育効果を最大限に高めるための設計手法に基づいて進められます。さらに当社では、インストラクショナルデザインを発展させた企画プロセスを設定しています。具体的には学習者のニーズの評価と分析から始まる「企画」、学習目標などコース全体の「設計」、テキストのライティングなどの「開発」、コースの「実装(実施)」、実施後の「評価」、という5つのプロセスがあります。

 ニーズの評価と分析では、マーケットニーズに常に目を配りながらも、同時に最先端のテクノロジーシーズも押さえておき、両者を起点として企画を立ち上げる。ニーズとシーズのバランスに配慮するのが、私たちの基本的なスタンスです。そのうえで各種標準に準拠する汎用性のある内容を提供し、即戦力となる人材の育成を意識しています。

 たとえばDX人材に求められる役割やスキル、リテラシーについては、まずは経済産業省のDSSに準拠した内容が欠かせません。あるいはデータサイエンティストを対象とするなら、データサイエンティスト協会や日本ディープラーニング協会などが公表している、スキルチェックリストや資格試験のシラバスなどを参考にします。ほかにも各カテゴリーに応じて協会や団体の標準に基づいた企画内容を網羅するよう心がけています。

──お客様のニーズや各種の標準を参考にしながらテーマを決めて、具体的なコース内容の検討に入るわけですね。

渡邉:はい。コース内容の検討段階では、まず各チームが個々に企画案を考えます。各カテゴリーのスペシャリストたちが築いてきたノウハウや独自の型などに基づいて、ニーズのリサーチや企画の検討が繰り返されます。各チームで練り上げられた企画案は、半期に一度開かれる全社企画会議に提出されます。全社会議には事業部だけでなく営業部門なども参加して、企画内容を多角的に吟味します。

 全社会議を経て企画が承認された後も、繰り返しレビューや承認プロセスを経て、教材を作り上げていきます。中でもコース開発の肝となるのが、構成設計です。

ナレッジサービス事業本部 マネージャー 渡邉 潤

──構成設計とは、どのようなプロセスなのでしょうか。

松田:構成設計では、コースの目次や章立てといった骨組みを設計します。骨格が決まれば大まかなタイムテーブルも見えてきます。構成設計の肝となるのがレビューで、企画を出したチーム以外、品質保証部門なども含めたメンバーによる徹底的な品質チェックが行われるのです。

 レビューでは学習目標と演習内容の整合性が、妥協なく吟味されます。たとえば想定される受講者の知識レベルを前提として、そこから順を追ってゴールまで到達できる内容となっているか。あるいは、そのテーマについて学びたい受講者からみて「わかりやすく」かつ「知りたい」内容になっているか。コースの構成にあたっては目標設定の明確さに加えて、目標達成のために学ぶべき内容が明らかになっていなければなりません。

 コースの根幹となる内容を、私たちは「企画の心」と呼び、何よりも大切にしています。「企画の心」で設定したことが、きちんと構成設計に反映されているかをしっかり確認しています。

──実務で役に立つコースを提供するために、大事にしていることはあるのでしょうか。

渡邉:私がマネージャーを務めるAI&Analyticsチームには、富士通グループでDX推進専門のコンサルティングファームである Ridgelinezに出向したメンバーもいます。現場経験を積み、その実践知をコースにフィードバックするなど、現場で使えるスキルを伝えられるよう取り組んでいます。

 また、富士通のデータサイエンティストと連携し、実際に現場でやっているデータ分析のプロセスを体験できるコースや、実在する事業者様にデータと課題を提供いただきビジネス提案を疑似体験するプログラムを開発したりしています。

 このように全社会議での徹底したレビューに加えて、チームごとに独自のやり方で内容を精査し、実践的な内容の提供に努めています。

シビアなリハーサルを突破した者だけが講師に

──実際に研修を担当する講師の育成にも独自のシステムがあると聞きました。

三原:育成の第一ステップは、既存のコースに講師として登壇することです。既存のコースを行うために定められている型を、徹底して守らせるのです。ベースとなる型をしっかり身につけた上で、次は講師として登壇したコースのメンテナンスに携わり、自分なりに改善する経験を積みます。この間に新たなトレンドが生まれてそれを肌で感じられるようになったり、お客様の変化なども自分なりに理解できるようになっていきます。この段階まで到達できれば、新たな企画を開発できる力が養われています。

──芸事を学ぶ過程でよく使われる「守破離」のようですね。

渡邉:実はFLMに入ってくる人は、「人に教えることが好き」というモチベーションの強い人が多く、ITへの関心が高い人ばかりではありません。入社後3か月は富士通のSE配属予定の新入社員と共に研修を受け、ITの基礎知識を学び、プログラミング言語やシステム開発のプロセスを経験します。

 続いて4か月後ぐらいから営業実習に取り組みます。営業現場でのヒアリングや提案活動を通じて、お客様の組織開発や人材育成の全体像を知り、お客様やFLMのサービスについて理解を深めることが狙いです。この経験で身につけたお客様起点の考え方や行動は、コースの企画や実施といった講師の活動にも活きてきます。

──営業実習を終えた段階から、実際に講師として登壇するための訓練に入るのですか。

松田:営業実習を終えるのがだいたい11月で、そこからは先輩が1人トレーナーとしてつき、マンツーマンで徹底的な訓練が行われます。まずはトレーナーが講師を務める研修に受講者として参加し、次のステップでは実習補助を務めて、教室での受講者との基本的なやり取りを身につけます。その後に講師として登壇するのですが、その前には何段階ものハードルを超えなければなりません。

 まずは自分でリハーサルを繰り返しテキストの一字一句までを覚えこんだ段階で、トレーナーを前にリハーサルを行います。これをクリアできれば次がマネージャーに対して、最後が我々シニアディレクターに対するリハーサルです。いずれも研修内容については細部まで熟知している相手へのリハーサルですから、一瞬たりとも気を抜けません。しかもリハーサルを受ける側は、あえて答えにくい質問を繰り出します。いずれ現場で遭遇する、さまざまな受講者への対応のコツを身につけさせるためです。

渡邉:講師として登壇するまでに3か月ほどかかるリハーサルを通じて、コース内容の知識やスキルはもちろんのこと、プレゼンテーションやファシリテーションなど、講師として必要な要素を身につけていきます。リハーサルでは登壇予定のコースだけでなく、あえて上位コースの内容についても質問します。そういった質問にも答えられるように準備することで、自信を持って研修当日を迎えられます。そのレベルにまで達しているからこそ、講師として登壇する頃には受講者の皆さんに余裕を持って接することができるようになります。

 そうして講師として教えているうちに、伝わりにくい部分に気づいたり、改善できる部分が見えてきたりします。そこから改版の提案へと至るわけです。講師としてのキャリアを積んだ段階で富士通に出向する者もいます。実際にSEとして現場を経験して実践的な知恵を身につけて、FLM復帰後に講師として活かすのです。

徹底して手を動かせる実習環境を用意

──研修を実施する環境にはどのような特徴があるのでしょうか。

渡邉:従来から教室での対面形式やオンデマンドのeラーニング形式など様々な実施形態でコースを提供してきましたが、コロナ禍をきっかけに、お客様が求める受講スタイルが多様化しており、それにこたえて主要コースについては集合、オンライン、実習付きeラーニングを選んでいただけるようラインナップしています。実習付きeラーニングではお客様が様々なソフトをインストールせずに、ブラウザさえあればプログラミングできる実習環境を用意しています。

松田:実習環境の象徴ともいえるのが、セキュリティ訓練の演習場「CYBERIUM(サイベリウム) /Shinagawa」です。ここには仮想空間上に実際の業務データの流れを構築し、攻撃側と防御側に分かれて疑似体験できる設備とコンテンツが用意されています。

「CYBERIUM(サイベリウム)/Shinagawa」での実際の研修風景。
多数のプロジェクターを同時に投影できるなど、研修に必要な最新設備を多数備えている。

──パソコンやネットワーク機器などを実際に操作しながらの研修であれば、業務でも活用しやすくなりそうです。

松田:そのとおりで受講者の皆さんからは「手を動かす演習」を高く評価いただいています。講義と演習の比率は基本的に半々ぐらいで、特にテクニカル系のコースはすべて、実習を重視しています。「CYBERIUM(サイベリウム)/Shinagawa」など環境が整っているからこそ、こういった実践的な演習が実現できるのです。

──受講者からの研修に対する評価は、どのように確認しているのでしょうか。

三原:研修の品質マネジメントに関しては、クオリティーを担保するために受講された方からのアンケートを重視しています。回答内容によっては、コース終了後直ちにマネージャーに対してアラートが入り、担当講師に状況レポートと改善施策を求める仕組みとなっています。

 研修のコース企画から始まり、講師の質を高める仕組み、さらには実習の場の仕掛けなど各種取り組みの成果が蓄積され、総合力として質の高さにつながっているものと受け止めています。


プロフィール

 ナレッジサービス事業本部 本部長
三原 乙恵

 学生時代に統計学を専攻する中で、プログラミングの楽しさに触れ、SEを目指して富士通株式会社に入社。 社内SEなどの人材育成に従事後、FLMにてWebアプリケーションエンジニアを育成する講師を務める。
 新入社員研修の運営事務局リーダー経験をきっかけに15年ほど新入社員育成に携わり、育成支援した新入社員は富士通と顧客企業を合わせて300社以上、10万人を超える。


 ナレッジサービス事業本部 シニアディレクター
松田 克也

 学生時代に触れたコンピュータに魅せられ、その関連の仕事に就きたいと入社。入社後は汎用機関連の研修で講師を務め、以降20数年にわたりITインフラ分野の人材育成に携わる。一番好きなカテゴリはデータベース。


 ナレッジサービス事業本部 マネージャー
渡邉 潤

 クラウド、モバイル、アジャイル、AIなど、各時代のトレンドに関する研修カテゴリを立ち上げ、Salesforce認定講師として6年連続でBest Instructor賞を受賞した実績を持つ。
 現在は社内のデータ利活用推進や生成AIを活用したサービス実装にチームで取り組んでいる。


※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。