お客様インタビュー

開発途上国のICT導入を推進する人材育成

~帰国後のアクションプラン作成までサポートするJICA沖縄~

独立行政法人国際協力機構 沖縄センター(JICA沖縄)
研修業務課 大城洋作様(左)、所長 倉科和子様(右)

記事公開日:2023年11月24日

 開発途上国から受け入れた人材に対して研修を行い、帰国後は行政のデジタル化を推進してもらう。JICA沖縄では、ICT技術者や政策担当者の能力向上を支援する研修により、先進国と開発途上国の間にあるデジタル格差の解消に取り組んでいます。研修内容には演習に加えて政府機関や外部の企業視察も組み込まれ、民間企業の先端技術に触れる機会も設定されるなど、実践に重点が置かれています。

 なかでも力を入れているのが、自国の課題抽出と、それを解決するアクションプランの策定および帰国後の実行に向けた支援です。研修終了後にはJICAの海外事務所を通じたフォローアップなども行い、研修成果を確実に開発途上国の行政サービス等の改善につなげる。そんなJICA沖縄の取り組みを所長の倉科和子様と研修業務課の大城洋作様に伺いました。

始まりはASEANの人造り協力構想から

──はじめにJICAの活動の全体像を教えてください。

倉科様:JICAは、日本の政府開発援助(Official Development Assistance:ODA)を実施する機関として、開発途上国の社会と経済の発展のために活動しています。いま世界には200近くの国があり、人口は80億人を超えていますが、その8割ぐらいの人が開発途上国に暮らしています。貧困や紛争、脆弱な保健医療体制、不十分な教育や雇用などさまざまな問題を抱える国々において、その問題解決と発展を支援するのがJICAの役割であり「信頼で世界をつなぐ」をビジョンに掲げて活動しています。

 日本は食料自給率が30%台にとどまり、エネルギーも9割を輸入に頼る国です。開発途上国を含めて、世界全体の平和な発展は、日本にとって欠かせないものです。

所長 倉科 和子 様:1990年、JICA国際協力事業団入団、研修事業部、地球ひろば立ち上げ、中国事務所勤務
などを経て、2018年より国際協力人材部で計画・調整担当次長を務め、2021年2月より沖縄センター所長。

──そのなかでもJICA沖縄はどのような役割を担っているのでしょうか。

倉科様:JICA沖縄は、国内15拠点の一つとして1985年に設立されました。ちょうど国際的に南北問題に注目が集まっていた時期で、日本にとってはASEAN諸国との関係改善が課題となっていました。そこでJICA沖縄は当初、主にASEANから人材を研修員として受け入れ、その育成を担う場として設立されたのです。

 同時に沖縄振興特別措置法によって、国際貢献を通じて沖縄振興にも寄与する機関とも定められ、さらに沖縄21世紀ビジョンの作成にも関与しています。つまり沖縄県が今後向かうべき方向性を念頭に置きながら、開発途上国のニーズに応えるために活動しているのがJICA沖縄です。

──沖縄の地域性にも配慮した活動を行うのですね。

倉科様:はい。沖縄は日本で唯一、亜熱帯気候に属する地域でかつ島しょ地域でもあり、独自の歴史と文化を持っています。ですから、研修でもその特長を生かすよう意識しています。

 たとえば沖縄では、島しょ地域特有の隔絶された状況を克服するためICT産業振興に取り組んでいたり、台風が通過しやすい地域で再生可能エネルギーを確保する可倒式風力発電が導入され、離島における遠隔医療体制が確立されてきました。こうした活動によって培われた沖縄ならではの経験やノウハウを活用し、開発途上国の人材育成に役立てています。

JICA沖縄センターの施設の一部。各国の文化を尊重し、研修員が過ごしやすいように配慮されつつ、
沖縄の地域性を活かしたおもてなしの心を感じる施設となっている。

ICT格差が引き起こす「格差の連鎖」を断ち切る研修

──沖縄はIT立県によりアジアの国際情報通信ハブをめざしており、こうした事情も踏まえてICT関連の研修に力を入れていると伺いました。

倉科様:沖縄は沖縄県マルチメディアアイランド構想を策定し、IT立県に向けて取り組んでおり、JICA沖縄でも設立当初からICT研修を実施してきました。

 その背景にある問題意識として、開発途上国ではICT格差によって、さらなる格差が引き起こされている現状があります。開発途上国でもスマホを持つ人が増えているとはいえ、未だにインターネットに接続できない人が30億人以上いるといわれています。必要な情報にタイムリーにアクセスできないために生じる情報格差は、ひいては教育や保健サービスの利用機会の格差にもつながります。

 一方では増加するサイバー犯罪により、一国にとどまらない問題が発生してもいます。先進国では当たり前のインフラであるICTを活用するためには、開発途上国ならではの課題解決に取り組む人材が必要ですから、その育成に力を入れているのです。

──研修の主目的は、自国に戻ってICT導入を推進する人材の育成となるのですか。

倉科様:そのとおりで「ICT実践力強化のためのコア人材育成」研修では、ITアーキテクト、CIO補佐、情報セキュリティの3コースを実施しています。研修員の多くが、各国の政府機関で一定のポジションについている方々です。開発途上国でもコンピュータの導入は進められているものの、適切な業務フローが確立されていないため、事務処理の多くがまだ紙ベースで行われているなど、とても非効率です。

研修業務課 専門嘱託 大城 洋作 様:2014年よりNGOにて東南アジアの障がい者支援事業に携わる。
ラオス、ミャンマーでの駐在を経て、2021年からJICA沖縄にて勤務。

──各コースは、どのような人物像を目指して設計されているのでしょうか。

大城様:ITアーキテクトコースでは、行政機関における組織の運営課題や業務課題を解決するIT戦略の立案から、推進・実行にいたる一連のプロセスを担当できる人材の育成をめざしています。CIO補佐コースでめざすのは、情報戦略を統括し、組織内のシステムや情報管理など情報部門を管轄する人材の育成であり、情報セキュリティコースでは組織の知的財産や顧客データを悪意ある第三者によるアクセスから保護する人材の育成をめざしています。

具体的な課題解決のアクションプラン作成までをサポート

──ICT研修の特徴を教えてください。

倉科様:何よりの特徴は実践に重点を置いている点です。座学だけでなく、日本政府の公的機関における電子政府化の取り組みに加えて、民間企業で実用化されている最先端技術などにも触れながら、現場で学ぶ機会が設定されています。そのうえで演習では、情報戦略策定からシステム開発工程までを想定した仮想プロジェクトを体験します。

 座学、見学、実習を踏まえたうえで、最終的には学びの成果を自国の行政機関の課題解決につなげるアクションプランを策定します。

──アクションプランを帰国後に実践してもらうには、ひと工夫が必要なのではないでしょうか。

大城様:もちろん研修でプランを作ったからといって、それをそのまま簡単に実践できるわけではありません。まずプラン作成の前提として、課題の明確化が求められます。そのうえで課題解決のために適切なアプローチを考えて、アクションプランを作成します。一連のプロセスを進める際には研修員各自が、自国で所属する組織の上長とコミュニケーションをとりながら現実的な行動計画に落とし込んでいきます。

倉科様:実現可能性の高いアクションプランを立てるには、ICTの知識やスキルだけでなく、問題解決能力が必要になります。富士通ラーニングメディア(FLM)さんには、問題解決手法のインプットに加えて、研修員それぞれの状況に合わせて的確なコンサルテーションを行うなど、手厚くサポートいただいています。経験豊かなFLMさんのアドバイスが、帰国後の成果に結びつきやすくしてくれていると感じます。

──実践的な取り組みの具体例があれば、教えてください。

倉科様:ICT研修と同時期に、JICA沖縄では母子保健のコースも実施しているのですが、この2つのコースによる共同ワークショップを今年度はじめて試みました。母子保健の課題の中には、ICTの活用により解決できるものがあると考えたのです。JICA沖縄のある浦添市の市役所の方々にもご協力いただき、行政における母子保健サービスについて電子化に向けた取り組みを視察した後、両コースの研修員を集めて、開発途上国における母子保健分野の課題を洗い出し、ICTを利活用した課題解決の可能性について意見交換を行いました。

 このような新しい企画に挑戦するときも、FLMさんはいつも「それはいいですね」と前向きに取り組んでくれます。そんなポジティブな姿勢がとてもありがたいです。

実際のICT研修の様子。研修は英語で実施され、研修員たちは終始真剣な表情で取り組んでいた。

単なる研修を超えたプラスアルファの意義

──アクションプランの実践についても何らかのサポートをされているのでしょうか。

大城様:JICAには世界中に90を超す海外事務所があり、研修員のアクションプランの実践状況は海外事務所を中心にフォローしています。また、FLMさんの方でも研修員とつながっていて情報を拾ってくださっていますし、過去にはFLMさんと一緒にフォローアップ出張を実施し、研修員の国を訪れ、帰国後の活動状況の確認も行いました。

 研修員はこうしたサポートを受けながら、税金の納入システムを従来の紙ベースから電子化し、窓口まで行く必要を無くして市民の不満解消につなげる等、それぞれの組織の課題解決にむけた取り組みを実施しています。

──海外から来た研修員の方々と沖縄県民の交流も価値がありそうです。

倉科様:ICT研修は4カ月と長めのコースなので、沖縄滞在中に研修員の方々に近隣の学校に訪問してもらい、子どもたちと交流する機会を設けています。海外の人とのふれあいは、子どもたちにとって多文化共生の意識を育むよいきっかけとなっています。

 また県内にはICT関連の企業も多くあるので、研修終了時のアクションプラン発表会にこうした企業を招待する取り組みも行っています。報告会開催はホームページで告知し、企業を含む幅広い方々の聴講を募ることで、企業と研修員が出会い、海外へ目を向けたり、海外進出を考えるきっかけを提供しています。

──最後に研修を提供しているFLMに対する評価をお聞かせください。

倉科様:FLMさんに限らず富士通グループには、1985年のJICA沖縄設立以来ずっと、変化し続けるICT環境を踏まえたうえで、開発途上国のニーズの変化に適応した研修を提供していただいています。またFLM独自の情報収集に基づいて、各国の実情に即した知識提供などの対応がとられています。

 万全のサポート体制で、JICA担当とのコミュニケーションも密に取っていただいているのでお任せできる安心感を強く感じます。研修終了後に提出される報告書を見ても、研修員一人ひとりに対してきめ細かく指導していただいている様子が伝わってきます。その一人も取り残さないサポートは、とてもありがたく思います。

大城様:研修期間中は、全体統括の方だけでなくコースリーダー、サブコースリーダーもJICA沖縄に常駐の上で、研修員に親身に対応していただいています。また研修の進捗状況をJICA沖縄の研修担当職員と共有していただいているので、研修員へのサポートも充実したものとなっています。長年にわたる誠実な対応がベースとなり、任せて安心できる信頼感を強く感じています。

ICT研修を受講している研修員の方々のコメント

  • 沖縄は非常に美しい都市で、たくさんの観光地があり、景色に心を打たれます。JICA沖縄の環境は非常に良く、スタッフはとても協力的で親切です。【パキスタン・Aftab Ahmedさん、類似意見複数】
  • JICA沖縄は異なる国の人々と気軽に出会えて交流できる素晴らしい場所です。ワークショップやツアーなどの様々な活動を通じて、より多くの知識とスキルを習得し、世界の他の地域の人々とのネットワークが築けます。【匿名希望、類似意見複数】
  • 年齢に関係なく、すべての講師がとても親切で対応が良く、各分野のプロフェッショナルです。研修員がしっかりと理解できるよう、理論を教え、実践で示してくれます。私はICT研修を通して、問題を正しく特定し、解決策を見つける方法を学びました。得た知識をすべて自国での仕事に活かしたいです。【キルギス・Begaiym Polotovaさん】
  • 私はエチオピアのICTディレクターです。私の立場では、職場やエチオピア全体のICT関連の問題に対して包括的なアプローチが必要です。ICT研修では、問題を体系的に解決するスキルが得られました。リーダーとしてのコミュニケーションスキル、プロジェクトマネジメントスキル、ICTのトレンド技術も向上させることができました。また、異なる国の参加者と知識やスキルを共有しています。【エチオピア・Denber Getahun Fatulさん】
  • 帰国後はまず、ICT研修のアクションプランで掲げた、ICTサービスの管理に関する問題の解決に取り組みます。次に、ICT研修で学んだ知識とスキルを同僚と共有し、自組織で発生するICTの問題の特定と解決に役立てたいです。【インドネシア・Agung Widodoさん】

富士通ラーニングメディア担当者からのメッセージ

ビジネスプロデュース本部 主任
山鹿 友嗣

 本事業は1985年から続く長期プロジェクトです。研修員同士のつながりもできているようで、研修員の方々が現地に帰って同窓会を開いていたり、出身国が違ってもSNSなどでつながっているとの話も聞きます。さらに、他のコースでは帰国後に異なる国の研修員が共同でオンライン研修報告会を行い、アクションプランの実施に向けて互いに協力し合っているという事例も伺っています。このようにJICA沖縄様の研修を通して、世界の国々が繋がり、より良い世界の実現に向けて協力しているという話を聞くとやりがいを感じます。

 各国のICTへの取り組み状況は様々で抱える課題も多様であり、研修に求められる要件はより高度かつ複雑なものとなってきています。弊社が今後も研修員の皆様とJICA沖縄様のご期待に応え続けられる存在でありたいと思っています。


※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。