FLMトピックス Fujitsu人材育成セミナー2023
人と組織の未来を共に創る。開催レポートvol.3
記事公開日:2023年3月31日
2023年2月8日にオンライン開催され、大きな反響をいただいた「Fujitsu 人材育成セミナー2023」。第1部は、「人材版 伊藤レポート」で注目を集めている一橋大学CFO教育センター長の伊藤邦雄氏に、「企業価値を創造する人的資本経営」についてお話しいただきました。第2部は、現場における人的資本経営の取り組みにフォーカスし、パナソニック コネクト株式会社の鶴切恵美氏、株式会社電通国際情報サービスの今村優之氏とともにパネルディスカッションを行いました。本稿では、第3部をご紹介します。
第3部 特別講演
「音楽のバトンを未来につなぐ」
音楽プロデューサー 亀田 誠治 氏
第3部には人材の価値を最大限に引き出すプロとして、音楽プロデューサーの亀田誠治氏にご登壇いただきました。様々なアーティストの個性を引き出し、多くのヒット作を世に送り出してきた亀田氏。活動は多岐にわたり、ミュージカルや映画の音楽を創ったり、またある時はベーシスト、近年では音楽イベントの実行委員長としても活躍されています。なぜいつも彼のもとには人が集まり、魅力的な作品が生まれるのでしょうか?時には業界の垣根も超えて共創を実現している、その実行力のヒントはどこにあるのでしょうか?
共に創り上げることが大事!
はじめに、亀田さんが本講演のオファーを受けた時の気持ちを熱く語ってくださいました。
「このイベントのテーマ『人と組織の未来を共に創る。』を聞いたときに僕は感動して、ぜひやらせてください!と言いました。共に創り上げることが大事です。音楽も、どんなクリエイティブも、どんなコミュニティも、一人で成立することはあり得ないんです。音楽業界も、一般の社会と同じです。」
今の時代に一番大切なことは、心の平安
今の時代、一番大切にしていることは何かと聞かれたら、亀田さんは必ず「心が穏やかでいられること、心の平安」と答えるそうです。その思いは本講演にも込められていました。
「今日は僕がふだん、音楽プロデューサーとして音楽を創ったり、イベントを創ったりする中で、大切にしているビジョンや経験しているチームビルディングといったことについてお話させていただいて、ちょっとでも皆さんの日常が心の平安につながっていくような、そんなきっかけになるといいなと思っています。」
良かれと思うものを、すべて注ぎ込む
ご自身の仕事のことを、「良かれ産業」と呼んでいるという亀田さん。非常に多岐にわたる仕事に共通しているのは、「良かれ」と思うものをすべて注ぎ込んでいること。そして人々の幸せな毎日を創ることを、目指しているということ。
「きれいごとではなくて、僕は本当に一人ひとりの幸せを願っています。」
初めての扉が、開かれていること
良かれと思うものをひたむきに注ぐ亀田さんが、中でも近年尽力しているのが、実行委員長を務める『日比谷音楽祭』です。2019年から毎年開催されているイベントで、東京の日比谷公園を中心に街全体を使ってコンサートやワークショップなどが行われ、様々な形で音楽に触れられます。参加費は無料。無料にしたのは、小さな子どもから高齢者まで誰もが、「行ってみよう」「体験してみよう」という気持ちになれるきっかけを創りたいから。「初めての扉が開かれていること」が大事だと亀田さんは言います。
「自分の人生を豊かにしてくれるもの、あるいは自分の仕事の基礎となるものと出会えるかもしれないという時に、真っさらな状態、何の障害もない状況の中でスッと入り込めるのが、一番素敵なことだと思います。」
人材は、全力を尽くして自ら集める
「日比谷音楽祭」のコンサートも、無料だからといって絶対に安かろう悪かろうにならないように、演奏だけでなく、音響・照明・運営・配信映像に至るまで、亀田さんがこれまで培ってきた人脈をフルに駆使しています。さらに、亀田さん自身が他のステージを見に行った時に注目した若い世代のスタッフに、直接コンタクトを取って参加をお願いしたり、音楽の未来につながる最新技術を試せる場として気鋭のエンジニアを呼ぶなどして、ドリームチームを結成しています。
「僕が好きなアーティストのコンサートを見に行って感動したら、そのスタッフさんを自分でくまなく調べるんです。自分から声をかけて『一緒にやってもらえませんか、力になってくれませんか』というお話をしに行きました。」
予期せぬ出会いが、人を成長させていく
コンサートは、亀田さんの手がけてきた音楽の幅広さを物語るように、様々なジャンルを代表する豪華アーティストたちが共に同じステージに立ち、ふだん見られないような意外性のあるスペシャル・コラボレーションが創られます。
「ふだん自分が推しているアーティストだけ、いつも聴いている範囲だけのプレイリストでは味わえない、この『予期せぬ出会い』が、人を成長させていく。そういうものを共に創っていくことが重要です。全部予定通りでわかっていたら、何の進化もないんですね。」
共に感じ合えないと、理解し合うことは難しい
そこには例えば、演歌歌手がお目当てで来たご高齢の方が、若いアーティストの曲を聴いて素敵だなと感じたり、若い人が演歌を知って好きになったりする、世代がクロスオーバーする仕掛けがあります。
「共に感じ合うことができないと、やっぱり理解し合うって難しいんです。『日比谷音楽祭』では、共に感じ合うことができるように設計図を創り、様々な施策を立てて実現しています。」
パッションを持って、アクションを起こしていく!
現在はクラウドファンディング、企業からの協賛金、自治体からの助成金の3本柱で成り立っている「日比谷音楽祭」ですが、企画当初は「現実的ではない」と関係者の賛同を得られなかったのだそうです。企業の協賛金も自治体の助成金も集まらなくて、大ピンチ。しかしこのとき亀田さんを奮い立たせたものは、自らのパッションでした。
「僕は、『ミッションよりパッション』という言葉をいつも使うのですが、ミッションをクリアしていきたいというパッションがないと、途中でくじけてしまったり、何か自分の予期できなかった出来事が起きたときに心が折れてしまう。心の平安が失われるようなことが起きてしまうんですよ。」
前例がなくても、未来を創っていくために必要なこと
協賛企業になってもらうため、はじめ代理店に任せていたプレゼンを、自らやろうと亀田さんは決意。50歳を越えて初めて会社訪問用のスーツを新たに3着揃え、訪問前に会社について下調べし、企画書を自分の言葉で説明しました。自治体の助成金を得るためには、夜なべして申請書類の小さな欄と格闘し、思いの丈をミッチリ書き込んだり、説明の場では大事なことを言い終わらないうちに制限時間を知らせるベルが「チーン!」と鳴って悔しい思いをし…そうしていくうちに、今度は不思議なくらい賛同者が現れて、資金がどんどん集まってきました。
「無料開催には賛同できない、やめた方がいいんじゃないの?と皆さんが言ったのは、前例がないからなんですね。前例がないと、皆さんとても慎重になります。そこで僕は『前例がなくても未来を創っていくためにこの音楽祭が必要になる。今そういう時代が来ている。』とお話させていただき、そうする中で次々と扉が開かれていったのです。」
何年もかけて、より良い生活や社会を創っていきたい
なぜ今、音楽祭が必要なのか。それは、マインド・ディスタンスが怖いからだと亀田さんは語ります。物理的な距離が開いていることよりも、人の心と心の距離が開いてしまうことが一番怖い。だからこそ、と講演のラストは次の言葉で力強く締められました。
「音楽やエンターテインメントには、人の心と心の間をつないでくれる力があります。僕はこの音楽の力で、今年1年、そしてこれから何年もかけて、人々のより良い生活、より良い社会を創っていきたいと思っています。」
さらに配信終了後、亀田さんはこんな言葉を残していかれました。
「誰もが無理だと思っていたけれど、何かできることはないかと自分で動いてみたら上手くいったんです。無理だと思うことも、あきらめないで一歩を踏み出す、この繰り返しですね。」
講演の後は、視聴者の方から寄せられたたくさんの質問に対して、時間の許す限り答えてくださいました。その中から三つの質問に対する回答をご紹介します。
Q. 個性豊かなアーティストの音楽をプロデュースされたときに、共に創り上げていくことと、個性をどう活かすか=一人ひとりの幸せを、どう共存させたのでしょうか?
A. 一番時間をかけるのは、そのアーティストさんの話を聞くことです。
「話を聞くことが100%、それが自分の音楽プロデューサーとして、リーダーとしての仕事だと言っても過言ではありません。アーティストが今どういうことをやりたいと思っているのか。その思いを聞き取って、実現させるために(仕事には締め切りがあるので)最短の時間と最高のスタッフ環境を提供していきます。(アーティストの話に対しては)絶対に穿った見方をせずに、このやり方ではどうかなと思っても、まず話を受け入れてやってみる。そしてもし、やっぱり難しいかもねとなった時は、お互いにちゃんと共有した上で、前に進むことを心がけています。」
Q. 誰かと仕事をする上で一番大事にしていることは?
A. 信頼関係を一番大事にしたいです。
「亀田誠治の誠は誠実の誠です。誠実であるということはすごく重要で、そのためには絶対に嘘をつかない。方便の嘘もつかない。ときに沈黙も嘘になったりするので、沈黙を破らなければいけないときはしっかり発言するということはすごく重要です。共に創るためには、たくさんの仲間を大事にします。八方美人になるという意味ではなく、一人ひとりに向き合って、一個一個大事にしていくということが信頼に繋がっていくのだと思います。それから、人の悪口を言わない。これに尽きます。」
Q. 座右の銘は?
A. 笑う門には福来たる。
「笑顔でいると幸せが飛び込んできます。大笑福!」
亀田 誠治
1964年生まれ 音楽プロデューサー・ベーシスト。これまでに椎名林檎、平井堅、スピッツ、GLAY、いきものがかり、JUJU、石川さゆり、ミッキー吉野、Creepy Nuts、アイナ・ジ・エンド、[Alexandros]、FANTASTICS from EXILE TRIBEなど、数多くのアーティストのプロデュース、アレンジを手がける。
2004年に椎名林檎らと東京事変を結成。
2007年と2015年の日本レコード大賞にて編曲賞を受賞。2021年には、日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。同年、森雪之丞氏が手がけたロック・オペラ「ザ・パンデモニアム・ロック・ショー」では舞台音楽を、2022年夏には、ブロードウェイミュージカル「ジャニス」の日本公演総合プロデューサーを担当した。
近年では、J-POPの魅力を説く音楽教養番組「亀田音楽専門学校(Eテレ)」シリーズが大きな話題を呼ぶ。
2019年より開催している、親子孫3世代がジャンルを超えて音楽体験ができるフリーイベント「日比谷音楽祭」の実行委員長を務めるなど、様々な形で音楽の素晴らしさを伝えている。2023年は6月3日(土)、4日(日)に開催。
※ 本記事の登場人物の所属、役職はセミナー開催時のものです。