お客様インタビュー

世代別の発達課題に合わせ、キャリアの自律を促す

~職業人生の後半を実り多きものに変えるキャリア開発研修~

NTTアドバンステクノロジ株式会社
人事部 タレントマネジメント推進室
室長 後藤斉衣子様(左)、担当課長代理 古川明美様(右)

記事公開日:2024年4月2日

 これまで多くの企業では、40代から50代のミドル・シニア世代の社員が実務の中核を担ってきました。一方でこの日々、業務に邁進して来た方々に対しては、キャリアについて考える機会を十分には提供できていなかったようです。そのためこの層の社員の大多数が終身雇用を暗黙の前提として、定年まで無事に過ごせればよいと考えがちです。

 「現状を放置すると、キャリアに自覚的な後進世代との間にギャップが生じかねない」──このような問題意識を背景としてNTTアドバンステクノロジ株式会社では、ミドル・シニア世代の社員を対象とした「キャリア開発研修」を実施しました。研修を主導された人事部タレントマネジメント推進室室長の後藤斉衣子様と担当課長代理の古川明美様に、研修プログラムに込めた思いや実際の内容、研修を受けた方たちの反応などを伺いました。

研究所を母体として事業展開する組織を設立

──はじめに御社の事業概要や社員の方々の特長について教えてください。

後藤様:当社は1976年に、NTT研究所の研究成果を広く一般に技術転用するために設立されました。基本はICT関連となりますが、NTTが中心となって進めている新しいネットワーク構想“IOWN*”を実現する事業から、お客様の課題解決のためのソリューション提供、そのためのネットワークの設計や構築などにも取り組んでおり、事業に関わるキーワードには「セキュリティ」、「クラウド」、「IoT」、「ロボティクス」などが挙げられます。ほかにもグローバル事業や知的財産関連など幅広く展開しているのが特徴です。

 社員については創立時からNTT研究所の試作や受託業務が多かっただけに、エンジニア出身の人が多く、営業職にしても技術営業がメインとなっています。


後藤 斉衣子 様:1995年入社。
入社当初はOA機器のユーザビリティ評価や高齢者のICT利活用に関する調査などに従事。
その後、広報担当や人事部の人材開発担当を経て、現職。国家資格キャリアコンサルタント保有。

──NTT研究所出身の方たちと御社創立後に入社された社員では、キャリアをはじめ、いろいろと考え方が違っていそうです。

古川様:違っているようで、実は似ているともいえそうです。研究職だった人たちは、自ら課題を見つけて解決に取り組むようなタイプが多いですが、こと自分のキャリアについては、課題として意識する人はあまりいません。一方で当社の立ち上げ初期に入ってきた社員たちは、そもそもキャリア教育などなかった時代ですから、キャリアについて考える機会もほとんどありませんでした。

 そのため出自にかかわらず早くからいる人たち、つまり今のミドル・シニア世代の社員の多くは、キャリアなどあまり意識する必要がなかったように思います。

あなたは、これから先のキャリアをどうしたいですか

──そんな中で御社では以前から、社員のキャリア意識を高める取り組みに力を入れていたと伺いました。具体的にはどのような施策だったのでしょうか。

後藤様:技術系だからこそ、自分らしさを発揮しながら働けるよう中長期の視点でキャリアを描いてほしい。そんな思いから「定期的なキャリアコンサルティング」と「キャリア形成シートの作成」、そして「資格取得支援」の3つを実施してきました。

 定期キャリアコンサルティングとは5年に1回のペースで、自分のキャリアについて考える時間をもっていただく場です。キャリアコンサルタントと共に、自分と向き合いながらキャリアを考えていきます。特に相談ごとがなくても「仕事をするうえでどんなことを大切にしていますか?」「仕事のやりがいはどんなときに感じますか?」などキャリアコンサルタントとの対話を通じて自己理解を深め、自分が望む将来像をイメージするための場です。

 キャリア形成シートも自分のキャリアを見つめ直すためのツールで、1年に1回、自分の描くキャリアを考えて上司に表明します。

──上司が相手となると、業務関連のキャリアが前提となるのでしょうか。

古川様:その点は少し幅広く捉えていて、考えてほしいのはプライベートも業務も含めた自分の将来像です。さらに面談の場では上司の対応にも留意してもらっています。上司の方々には、部下が考えたキャリアを聞くのは決して人事考課の参考にするためではなく、また、部下に対する指導の場でもないと念押ししています。この考え方を実践できるよう、上司にも事前に研修を受けてもらい「傾聴に徹する」重要性を伝えています。

 上司からすれば、つい「こうしたらいいんじゃない」などとアドバイスしそうになるのを我慢して「なるほどね、それで……」と話を引き出す。すると部下も「実は将来はこんなことをしたい」と話しやすくなる。上司と部下のそんなやりとりを通じて、誰もがキャリアを自由に考えられる企業風土を作っていきたいのです。

 将来について考えた結果、何らかの資格取得が必要だと分かれば、キャリア形成シートに資格取得についての計画を書いて、上司から承認を得る。この場合、資格取得に必要な費用の会社負担はもとより、勤務時間内の研修受講も認められます。

古川 明美 様:2000年に契約社員として北海道支店に入社。
事業本部でシステム導入担当などを経験し、その後、広報部、人事部での階層別研修を担当し、
2020年6月よりキャリア形成支援施策を担当。

意外に描けていないキャリアビジョン

──キャリアを考えるため手厚い支援が行われている状況が、よくわかります。

後藤様:キャリアコンサルティングを始めてから7年ぐらい経ち、ようやくキャリアとは自分自身で描くものだという意識ができつつあります。いわゆるキャリア自律についても、社内のアンケート調査によると一般職で6割、管理職で7割以上が必要性を認識しています。

 ただし、自分のキャリアを描けていると自信をもって答えられる人は、まだ全体の2割ぐらいしかいません。頭ではわかっているけれども実態は伴っていない。特にミドル・シニア層社員の多くは、キャリアは会社が示すものという意識が残っており「キャリア=仕事」という認識から抜け出せていないからと思われます。

──キャリアについての世代間ギャップは多くの企業で問題となっています。

古川様:当社でも同様で、今の30代以下、つまり学生時代からキャリア教育を受けてきた世代と40代以上では、キャリアの捉え方に違いがあります。ミドル・シニア層の社員はどうしても、入社当時の時代背景から、キャリアは会社が示すものという意識が根底に残っています。「会社のために」自分に与えられたた役割を果たすための最大限の努力は惜しまない。けれども「人生含めてキャリアです。あなたはどんなキャリアを描きますか?」などといきなりいわれると戸惑ってしまうと思います。

 しかし、人生100年時代を迎え、急速に変化する状況に柔軟に対応していく必要がありますし、なにより、シニアになってもみなさんに活躍していただきたいし、そのために必要な学びの場を作りたい。今回、富士通ラーニングメディア(FLM)さんにお願いした研修には、そんな思いを込めました。

──「キャリア開発研修~実践編~」は2021年度に30代の中堅社員を対象としてスタートし、2022年度に40代の一般社員、そして2023年度には50代の一般社員と40代の管理職を対象に、領域を拡げながら実施されています。

後藤様:意外だったのが、管理職の反応でした。管理職は昇格の面談などの節目で、自分の将来像をある程度考えていると思っていたのです。ところが多くの管理職は、まずは部下のマネジメントや育成を最優先していて、自分のことは後回しになっている。だから「あなたは、自分のキャリアをどうしたいと思っているのですか」と正面切って尋ねられると答えに詰まってしまう。管理職としての役割とは部下の育成であると考える人が多く、「私が、私が」というタイプはほとんどいません。これは当社らしい傾向だと改めて思いました。

──研修内容には、40代向けでは「職業生活を支える資源を確認する」、50代向けには「中長期の必要資金を試算する」という項目が入っています。

古川様:単純に年代で区切るつもりはありませんが、世代ごとに関心や課題は異なる前提で、あえてかなり思いきった項目を入れてみました。何よりの狙いは、自分で判断し決めて進んでいく力の大切さに気づいてもらうためです。とはいえこれからの資金計画や定年後について考えてもらうのは、私たちにとっても勇気のいる取り組みでした。下手をすると終活のための研修だなどと受け止められかねませんから。

当初のネガティブな受け止めが、受講後はポジティブな評価へ

──実際に40代、50代の受講者の方たちは、研修をどのように受け止められたのでしょうか。

後藤様:受け止め方については、終了後に実施したアンケートの中に「最初はどういう心持ちで、この研修を受けましたか」との質問を入れました。この問いに対する回答は、一様にネガティブでした。研修を前に、自分たちは一体何をやらされるのだろうと不安に思ったり、ついに自分もこんな研修に呼ばれる世代になってしまったのか、などと後ろ向きのコメントが多かったのです。

 ところが受講後の評価は、驚くほど高かった。2022年度、23年度ともに「研修はすごく有益だった」という回答が、全体の7割を超えています。受講後の気持ちの変化について尋ねると「大いに変化した」「変化した」という好意的な評価が、一般職で84%、管理職では91%となりました。

 受講前の後ろ向きな気持ちが、受講後には明らかに前向きに変わっています。この気持ちの変化には驚きました。

古川様:具体的なコメントとして「今まさに悩んでいるテーマでした」「もっと早くやってほしかった」「つい後回しにしていたけれど、やはりキャリアとしっかり向き合う必要があると改めて思った」などのほかに「若い人たちにも受けさせてあげたい」「部下にも伝えたい」などの意見も多く寄せられました。

 キャリアコンサルティングを受けるときや、キャリア形成シートを書くときでも、どうしても目の前の業務の延長線上で考えがちでしたが、もっと先を考える、例えば50代で定年後のマネープランを作ってみるなどの課題への取り組みが、発想の転換を促したようです。

──確かに「キャリア」をより長いスパンで捉えると、これまでとは異なる前提が見えてきます。

後藤様:キャリアコンサルティングの場でも50代の社員が「今後の年金状況や雇用延長の流れを踏まえるなら、もしかすると75歳ぐらいまで働くようになるかもしれませんね」などと仰っていました。仮に50歳の社員が75歳まで働くのなら、残りは25年もあるわけで、これまでの会社人生に匹敵します。研修を受けて「確かに今のままというわけにはいかないんだな」と気づいてもらえたようです。

──とはいえ研修プログラムにマネープランを入れるのは、かなり思いきったチャレンジではなかったのでしょうか。

古川様:もちろんです。退職金についての疑問ぐらいならまだしも、もしも不満が噴出したらどう対応すればいいかと心配はしました。とはいえ実際に不満があるなら何らかの対処が必要であり、人事部では制度変更などを考える必要があります。

 ところがふたを開けてみると、真摯に受け止めてくれた人が圧倒的多数でした。「わかっているけど、ちょっと目を背けていたな」「もちろん生きていくうえでお金は大切だよね」といった気づきを通して、これから自分は本当にどうしたいのか、これからも働いていくなら健康でいなければ、などと肯定的に捉えてくれる人が多くいました。

エビデンスベースが強い説得力につながる

──受講された方々が、なんとなく問題意識として持っていながら、あえて直視してこなかったテーマに向き合う機会となったわけですね。

後藤様:まさにその通りで、みんな薄々気づいてはいた。けれども「忙しいし、まだ時間はあるし」を言い訳に薄目でしかみてこなかった課題を、改めて考える機会となったようです。

 また研修の中で圧倒的に強く印象に残ったと評価されていたのが「自分の能力要素を分析する」項目でした。能力に関する評価を行い、強み・弱みなど結果を客観的なデータで示す。このあたりは論理的に考える技術職が多いだけに、データに基づく「エビデンス」によって納得感が高まったようです。

──今回の「キャリア開発研修」のタイトルには「実践編」が付け加えられています。結果的にその意図も踏まえた内容となったのでしょうか。

古川様:これまで社内にeラーニングで提供してきた「キャリア開発研修」があり、位置づけとしては基礎知識を身に付けるものでした。ただ、これだけでは実際に自分が描くキャリアをアウトプットするというところまでは身に付けることができないため、「実践編」として研修を企画することになりました。

 もともとFLMさんが持っている既存コンテンツでしたが、そのまま提供いただくのではなく、企画の前段階として「なにをしたいのですか」と徹底的にヒアリングしてもらい、私たちが過去に提供してきた社内向けeラーニングの教材にもすべて目を通していただきました。

 ですから、これまでeラーニングで使ってきた社内用語が研修テキストにも反映されていて、受講者にとってプログラムの連携が感じられる構成となり、こちらの要望にしっかり応えていただけたと感じています。お任せにしない分、私たちも考える作業が増えましたが、だからこそ社員に届き、社員を動かす内容になったと思います。

──総合的に評価していただくと、どのようになるのでしょう。

後藤様:最後の研修を終えたときに、私たちとFLMご担当の皆さんが揃って「終わったぁ、良かったぁ」と声を出して喜びましたよね。この関係性の中でつくり上げ、伴走して来られたからこそ実現できた研修だと思っています。当社の特性を理解したうえで、研修を受ける社員に根拠を示しながら論理的に説明してもらえた。ですから最終的に、受講した社員の意識変化を促す研修になったのだと受け止めています。

富士通ラーニングメディア担当者からのメッセージ

ナレッジサービス事業本部
(左から)村島 敦子、鈴木 昌和、藤田 るり子

 企画当初から後藤様や古川様の想いを元に、既存研修との連動や会社風土を加味し、当日の運営を含め一緒につくりあげた研修だからこそ、有意義な学びの場に繋がったと思います。受講された方々の変化が嬉しいです。(村島)

 厚生労働省「グッドキャリア企業アワード」を受賞されながらも「施策をより定着・浸透させたい」と弊社にご用命いただきました。各世代の社員の皆様に寄り添う事務局メンバーの方々と、良き「学びの場」を共に創りあげているところです。(鈴木)

 初めてのキャリア研修に最初は少し戸惑っていらっしゃるように見えた方々も、研修が進むにつれ、演習やグループワークにより真剣に取り組まれるようになりました。本研修を通じてご自身のキャリアと真摯に向き合われた皆様に感謝いたします。(藤田)

ビジネスプロデュース本部
出井 英恵

 当社でご提供するキャリアに関する研修について、お客様が「基本的に富士通と同じ考え方・内容ですよね」とおっしゃることもありますが、人事制度やキャリアの考え方はお客様ごとに異なります。そのためお客様とともに一から企画・設計し、お客様の人材育成施策の一つとしてふさわしい研修を創ることが望ましいと考えています。
 今回の研修が、参加された方にとってご自身のキャリアを拓くきっかけとなり、NTTアドバンステクノロジ様の人材づくりの一助となりましたら幸いです。


※ 本記事の登場人物の所属、役職は記事公開時のものです。